七つの星の英雄~僕は罪人~

ミシェロ

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第1章 「始まりの日」

第1話

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――変現。

それは僕、シオン・ユズキが覚えていた、僕を形作るたった1つの言葉だった。


 その言葉を口にすると、僕は光輝き空を自由に飛び回り、20mはあるであろう敵を勢いだけで吹き飛ばし斬り刻むことができる。

 制限時間は存在するものの、それが僕たちの戦い方であり、クエスターとしての存在意義だ。

 今日も僕は大小2つの刃のある特殊な武器、鉾を使用しクエストに励んでいる。

 武器を使用するだけの戦い方は一変し、みんなが星を使用するようになった、と言われている。

 そして僕は失ってしまった過去の記憶を取り戻すために、クエストで資金を集めつつも僕が過去に存在していた場所の情報を回収したり、見たことのない景色のある場所へと行き、何か記憶の架け橋となる場所がないかどうか探すことにしたりしている

 とはいえ、今日も収穫ゼロなのは僕だけの秘密だ。そんなことを言うと僕の隣にいる恩人さんが困ってしまうから言わないでおく。僕は人には優しくする派だ。なによりあまり人には甘えたくない。

 
☆☆☆
 

「ふぅー。やっぱり蒸し風呂は気持ちいい~! シオンがいてくれてホント良かったよ」


「そ、そう......ですか?」


 僕と恩人はニワトリの卵の形をした不思議なお風呂に入っている。お風呂といってもお湯が張っているわけじゃない。感覚としては寝ていられるサウナ、という感じだろうか。

 蒸気を身体にいっぱい取り込み傷んだ肌を修復する。その目的がある。ただ1つ、気になってしまうことがある。

 そう、僕の恩人は女性だ。しかも僕の考える限りでは普通の女性ではない。

 思わず横目で本能的にその形を見たくなってしまう、はちきれんばかりの手に収まりきりそうにない胸、柔らかそうな白い肌、運動のおかげで滑らかに動く腰つき、そして毎日ケアをし艶やかな触り心地のしそうな珍しい銀色の長髪。

 まだそれなら美少女だ。と言葉1つで終わらせられるのだけれど、今回は少し違う。会って2日で混浴をさせてくれる女性を僕は絶対に信じはしない。

 彼女の名前はミカロ・タミア。僕が“変現”という言葉に悩み、考え事をしているところに突然話しかけてきて、話を聞くなり僕を無理やり病院へと連れていこうとした女性だ。

 そのおかげで、僕が記憶喪失であることが判明したわけだけれど、そんなことは今どうでもいい。

 彼女はいったい何なんだ。いくら美容のためとはいえ、思春期の僕と一緒にお風呂に入ろうなんて、絶対に何かを企んでいる。そうに違いない。

 そうでなければそうとう能天気者だ。きっと彼女は自分が寝ても何も起こらないとまで思っているだろう。

 そう考えていた瞬間、彼女の指が僕の頬に触れる。僕は頬をガードし彼女に指先を向ける。


「な、なにしてるんですか!?」

「いやーシオンの肌って触ってみたら意外と柔らかいなーって思って。
 化粧水使ってるの?」

「知りませんよ、そんなこと!」


 まったく困ったもんだ。僕に好意があるのかもしれないけれど、僕に今そんな時間はない。早いところ記憶を戻してあの約束を......

 あれ、何だ約束って?


「シオン......?」

「なんですか?」

「もう、限界......」


 はぁ。なんて面倒なんだこの銀髪さんは。本当なら放ってそのままにしておきたいところだけど、そういう訳にもいかない。僕は彼女をお姫様抱っこして彼女をベンチに連れて座らせる。

 水を飲ませるなり彼女は復活し、今フルーツ牛乳の3本目を飲み干した。


「ぷはぁ~! おいし~!」


 できればもう少しだけまともな人に救われたかった。きっと全世界の人が僕と同じ意見だろう。たとえどんなに綺麗な女性でも、ここまで心を開いてしまっていると、新鮮味に欠けてしまう。

……まぁ別に彼女に興味があるわけでは決してないけれど。

僕は彼女の衝撃に大きく揺れる胸に興奮を覚えながらもそう思う。別に嫌いではないけれど好きでもない。そんなところだ。


「それじゃあホテルに戻ろっか!」

「そんなに大声出さないでくださいよ! 変な意味に聞こえますから!」


 はぁ。これで何度目かわからない息を吐き僕たちはホテルへと戻ることにした。といっても大人だけがいけるピンク色に光るものとは全然違う。

 ただの茶色いレンガでできた、お金のかかっていないクエスターたちの集合住宅みたいなものだ。

 ベッドやお風呂はあるけれど、家のような感覚にはならない。できることならここは寝るためだけの場所にしたい。といっても時折ミカロがタオルを巻いた状態で暴れまわるから、そんな簡単にはいかないかな。


「お、今日も2人で行ってきたのかよ。やっぱシオンはただ者じゃねぇな」


 ホテルの入り口のロビーで服を着ていても体中に筋肉が見える僕たちと年齢の変わらない若い赤髪の男性が僕たちの歩こうとする道をふさぐ。

 けれど悪い気はしていない。ちょうどここらへんで冷静な判断がほしいところだったんだ。

 ミカロはクエスターである人物たちとチームを組んでいた。そしてそのリーダーが目の前にいる赤髪、ファイスというわけだ。正直なところ判断能力には欠けるけれど、メンバーを動かそうと努力していることは認めている。

 今後も彼らの戦略にはいろいろとお世話になるのだから、ここはちゃんと挨拶しておこう。


「ファイス、これからよろしくお願いします。お役に立てるかどうかはわからないですけど」

「何言ってんだ、20mの敵を一撃で倒せる奴なんてそんな簡単に見つからねぇよ。
ミカロが懐いているのもうなづけるしな」

「懐いているわけないでしょっ! 私はシオンのために......」


 これは声を大にして言ってしまいたい。けれど恩人に恥をかかせるわけにもいかない。ここは心の中で言おう。――何歳だと思ってんだよ!――自慢ではないにしても18歳だぞ! 行く時も帰る時も手を握られて、周りには良い意味の勘違いをされているかもしれないけど、彼女は間違いなく僕を子供としてしか見ていない。

 同じ年ぐらいに見えるのに、なんてことだ。

 僕はその言葉を身体の中で押し堪えて、2人が恒例のケンカを始める前に部屋に戻ることにした。ミカロは基本的には誰に対しても友好的な関係を築こうとしているのだけれど、自分の悪口とかは好きでないらしい。そのせいで少し品がなく見えてしまうのはたまにキズだ。

 今日のクエストは僕が敵を一撃で倒してしまった影響か、昼頃にはクエストが終了してしまい、チームのみんなもすることがなくなってしまった。とはいえ僕は記憶の道しるべとなる何かを探し出すために、全国の情報が一手に集められている“正星議院”と呼ばれる場所へと向かうことにした。

 ちなみにクエストはここから発行されているものだ。まぁ距離は歩くには遠いけれど、お金の少ない僕には仕方ないところだろう。

 正星議院のロビーを歩いていると、僕の記憶にある唯一の5人のうちの1人、中背の僕よりも身長の高い白く柔らかそうな素材でできた衣を着た男性が姿を見せた。
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