七つの星の英雄~僕は罪人~

ミシェロ

文字の大きさ
8 / 76
第2章 「正星騎士団」

第8話

しおりを挟む
 体の力が抜け、まるで魂が抜けるときのような空に上る感覚。魂が抜けたことは無いけれど、そんな気がする。


「どうしました? ぼーっとしていると、気がついたら明日になってしまいますよ」

「す、すみません」


 思わず出てきてしまった意味のない言葉に、僕は導かれるようにリラーシアさんの元へと向かう。

 僕は改めてミカロを尊敬した。僕にはリラーシアさんの考えが全く読めない。けれどミカロは僕と同じようにミスをしてもリラーシアさんは決して怒りはしない。それは人として彼女を認めている、ということだ。そう考えると彼女の積極的な姿勢を僕も学ばないわけにはいかない。

 まずはリラーシアさんに睨まれないよう努力しよう。今回の騒動の謝罪も含めて。

 リラーシアさんは僕たちをセレサリアさんの管轄下の入り口で待たせ、資料を取りに1人消えた。ロビーの静かな雰囲気と違いいくつもの紙が宙を舞い行き交っていた。便利だけれど誰一人として話をしていないと考えると少し恐ろしい。正星議院の裏側を知ってしまったような感覚だ。

ミカロは見慣れているのか待つと分かったなり、自分の髪の毛をいじくり何かを探している。きっと女性にとっては必要な事なのだろう。けれどそんな彼女の仕草を見ているとなんだか見惚れずにはいられない。彼女の魅力が僕の目線を支配してしまっている。悪くない感覚だ。


「すごいですねミカロは。よくリラーシアさんとあそこまで仲良くなれましたね。僕にはどうすれば彼女にとって正解なのか、さっぱりですよ」

「シオンもそう思うんだ? みんなによく言われるけど、リラはそんなにシオンが思ってるよりずっとソフトな女の子なの。私も最初はシオンの時みたいにズバズバ正しい事を言ってきてたけど、友達になってからは結構話すようになってくれたんだ。というよりはスキを見せられない、って感じだったかな。要は素直になるのが苦手なだけなんだよ。きっと」


 なぜだろう。彼女はリラーシアさんの考えていることを口にした。そのはずなのに彼女の心がそう言っている感覚がした。聞くべきだろうか。いや今はその時じゃない。彼女の温かみの消えたような目からはそんな予感がした。

 リラーシアさんは僕たちに再び姿を見せると、茶色い封筒を僕に見せつけるように掲げて渡してきた。彼女が何を言いたいのか嫌でも理解できたような気がした。


「ありがとうございますリラーシアさん。おかげで助かりました」

「……」

「どうかしましたか?」

「い、いえなんでもありません。仕事には関係のないことですから」


 僕は彼女が目を逸らしつつも、頬に熱が入ったのを見逃さなかった。もしかするとミカロとまだ話をしたい、けれどそんな甘いことは言っていられないということか。ここは僕が彼女をリードしてあげよう。

 僕はリラーシアさんが動くよりも早く手を差し出し、口を開いた。


「まだミカロと話がしたいんじゃないですか、リラーシアさん?」

「何か勘違いをなされているようですが、それは日常茶飯事です。焦がずとも私たちはデバイスでいつでも会話が可能です。勝手な妄想で話を進めないでください」


 僕の心に彼女の剣が突き刺さる。なんだこれ、僕が悪いのか? まぁ仕方ない。僕が悪いんだ。僕が悪いんだ。


「す、すみません! 勝手事を口走ってしまって! でもその......リラーシアさん、なんだかソワソワしてませんか?」

「そんなことはありません。ただ殿下の友達と聞けばたいていは異性でしたので、あなたのことを少し珍しいと思っただけです。社会的に距離を置きたくなる事態においても私は殿下の元を離れるつもりはありません」


 なるほど......え? 距離を置きたくなる? 彼女の頭の中では何が起こっているんだ?

 僕は彼女に具体的に教えてくれるよう頼んだが、答えてくれずむしろなぜか貶(けな)された。ミカロに仲介を依頼して彼女は僕に聞こえないところでリラーシアさんの考えに耳を傾けた。

 彼女はそれを聞くなり耳を赤くして僕から目を逸らして戻ってきた。明らかに様子がおかしい。


「教えてもらっても?」

「え、えと......しっシオンの自由だと思うよ! 私がどうこう言える立場じゃないし!
 でもみんなには内緒にした方がいいかもだね。変に思うかもしれないし......」


 内緒......記憶を探すことに関して協力してもらっていることかな? いや、これはミカロもリラーシアさんにもバレていないはずだ。じゃあもしかしてセレサリアさんの机に何かしらのメモがあったのかな。

 どちらにしても答えを聞かないと納得がいかない。僕は彼女の肩を両手で押さえ目線を合わせる。


「ハッキリ言ってください! リラーシアさんはなんといっていたんですか?」


 彼女も頬を真っ赤に染めて少しずつ口からこぼすように言葉を放った。“付き合ってるの?”と。

 ……どうなったらそうなるんだこりゃぁ!?

 おちつけ落ち着け! 僕はそう考え彼女の体を揺らす。なんて考えをしているんだ。思わず僕の顔まで熱くなってきてしまったじゃないか。


「リラーシアさん! 何を考えているんですか! 僕とセレサリアさんはそんな関係ではないですよ!」

「そ、そうなのですか。前段階でしたか。失礼しました」


 いやいや違う違う! どうしてその考えが間違いだと気づいてくれないんだ! それとも彼はそういう印象で見られているのだろうか?

 僕は何度も何度も彼女の言葉を修正させようとしたが、埒が明かないので僕の方から彼に恋愛感情がないことを嫌々言った。それを聞くと2人は顔を真っ赤にして反省して互いに気持ちを落ち着け僕に謝罪した。

 もしかしてリラーシアさんはそういうのが好きなのか? いや考えないようにしよう。これ以上考えると感化されてしまいそうだ。

 彼女の話では、セレサリアさんの近くに騎士団を除く男性がいたのは僕が久しぶりなのだという。彼は一般人では恋愛関係の人物しか近寄らせないらしく、そういう意味で僕のことを勘違いしたようだ。僕は2人が目を合わせてくれないことを残念に思いつつも、僕は深呼吸をして彼女に述べたいと思っていた言葉を考察した。


「リラーシアさん、僕の師匠になってくれませんか?」


 ミカロは僕の言葉に体を固まらせたが、リラーシアさんはその言葉を聞くなり顔から無駄な熱が引いて真剣な表情に変わった。そして何より僕は本気だ。間違いなく彼女は僕よりも強い。変な勘違いのせいで色あせるなんて思ってはいない。手を伸ばし彼女が握るのを待つ。

彼女は僕の手を弾き飛ばし僕への目線を一直線にした。その顔はさっき戦った時と同じ一筋に研ぎ澄まされ圧倒されるような顔だった。


「お断りします。私は弟子を求めてはいませんし、何より騎士団としての仕事をないがしろにするわけにもいきませんので。お引き取りを」


 初めから通用するなんて思っていない。初対面ならなおさらだ。ならば彼女の心に憎しみを灯すほかない。


「自信がないんですか? あなたには僕1人すら成長させられないと?」

「……初めてです。私の実力を少し理解した者から挑発を受けたのは。あなたを試してみましょう。そこまで言うのですから生半可な覚悟ではないでしょうから」


 彼女の目から無駄な力が消えた。その姿に僕の身体は思わずガードの姿勢を取っていた。――少しでも気を許せばやられる。僕の感覚に間違いはないだろう。彼女の顔は敵のように蔑みに近いものを浮かべていたのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...