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第6章 「鬼人」
第56話
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ミカロが僕たちのチームに復帰した翌日。念のために病院で検査を受けることになり、彼女はかなり無理をしていたために3日間はまたチームとして活動禁止を宣告された。きっとミファさんを呼び出したからだろうけど、どうにも彼女は自分の意見を押し通そうと無理をする癖がある。
悩みどころではあるけれどこれからは一緒に行動できる。できるだけ彼女に聖霊を呼ばせない戦い方をする必要があるな。
とはいえ僕たちにとっては少し好都合だった。ファイスがいない間のリーダー(仮)の決定や僕の記憶探しの補正の準備をするための時間にはぴったりだった。
僕とエイビスはアイテムの調達ついでに昨日の招集命令に集合していた。エイビスはリラーシアさんのことを知らないけれど、ちょうど紹介するいい機会だ。これから失言しても彼女も理解がある。おそらく問題ないだろう。
それより困ったことが1つ。エイビスのいたずらが炎上し始めたことだ。朝起きれば同じベッドに忍び込んでいる。髪を整えようとすれば彼女が手伝おうとする。どこかに行こうとすれば一緒に行こうとする。もう日常茶飯事になってしまった。ミカロになんて言えば納得してもらえるだろう。何より彼女がやけに自分から話をしなくなってしまっていることに恐れを感じている。
「シオンさま、リラーシアさんとは一体どんな方なのでしょうか? シルヴィルタのときに顔合わせはいたしましたが、わたくしとは被る機会がありませんでしたので」
「いい人ですよ。僕に攻撃方法や防御、足の動かし方についてなんか教えてくれるんです。けれど冷徹で容赦のない人ですけどね」
「そうでしたか。シオンさまはどちらかというとぐいぐい来られる方の方がお好きだということですわね!」
「ま、まぁそういうことに......」
「ずいぶんと素直に言うのですね。てっきりあなたは印象の悪い人でも言葉でごまかしてくれると期待していたのですが、どうやら思い違いだったようです」
「そんなことはないですよ。リラーシアさんの教えが僕の行動に反映されているんです。いい人なのか悪い人なのか、それは僕が体現することで理解されることだと思ってますから」
どうだ。我ながらうまくまとまっている。確かにリラーシアさんの鍛錬には遠慮がなく、必要最大限の訓練を行っている。それが全員に合っているかと思えば不安だ。けれど彼女が僕にまったく合わない訓練を外してくれたことも事実だ。冷徹の文字は時に温和に変わりつつあるのかもしれない。
隣には白衣を着た茶短髪の女性。見た目からして僕たちの1つ上ぐらい。彼女はいったい誰なのか。なんとなく検討がついているものの、言い出せなかった。
リラーシアさんはミカロの戦闘明けの僕たちに気を遣って、正星議院内部関係者のみが使用できる喫茶店で飲み物をおごってくれた。エイビスには少なくとも彼女がただの人間関係に冷たい人でないことだけは理解できたはずだ。
そして何より彼女は紅茶を欲していた。そしてちゃっかりミルクティードーナツもそばにある。今度リラーシアさんにいっぱい買ってもらおう。“私はあなたの配達屋(デリバリー)ではないのですが”そう言われそうだから1度だけにしよう。それでエイビスの機嫌も直ってくれるはずだ。
どうにも彼女が尖っていると変に意識が傾いてしまう。
リラーシアさんは隣にいる茶髪の人物を紹介した。名前はシェトランテ・エリシア。正星議院では科学者として活動しているらしく、毎日様々な発明品を制作している。有効なものからそうでないものまで、想像の限りを尽くしているそうだ。僕たちでいえばクエストで使用している連絡伝達用のデバイス。あれは彼女が自分で試作品まで作り上げたらしい。つまり生みの親だ。
僕はそれを彼女が作ったことに驚きを隠せなかった、けれどそれよりも彼女の身なりの違和感の方が大きい。何かを詳しく見るための頭に乗った緑色のゴーグル。そしてパンパンに詰まっている茶色の横開きのバッグ。いったい何が出るやらと少し不安になる。
「あんたがシオン・ユズキだね。思ってたより普通の顔してるね。最初は驚いたよ、悪魔と知り合いがいて実は秘密の召喚をしていたとか、リラが君の師匠を引き受けたとか、味方の家を更地にしたとか」
関係のなさすぎる尾ひればっかり付いている。悪魔召喚なんてそもそもできるわけがない。ミカロならもしかして......ないな。まともな事実が伝わってやしない。理解は誤解から始まるってことかな。
「それで隣にいるのがエイビス・ラターシャちゃん。前は静かな様子で見かける人を睨みつけてたって噂だけど、改心したみたいだね。隣の彼のおかげかな?」
「ええ。シオンさまのおかげでわたくしは何もかも救われました。彼には感謝しかありませんの」
きっとそれはエイビスさんのせいだ。そう言いたかったけれど彼女の無言の圧力がこちらに伝わって来る。僕は納得して首を縦に振った。
「気をつけてくださいシェトランテ。彼はあなたが思っている以上に、とっかえひっかえに隣の女性を入れ替える女たらし、というやつなのです」
なんだそれは。師匠といえど見逃してはおけない。どんな尾ひれが付いていても僕はエイビスのように自分で話してみて判断する、と信じているけれど、シェトランテさんは見る限り納得している様子だ。
「どうしてそんなことになるんですか! エイビスに失礼ですよ!」
「失礼も何も、実際そうしてるところをリラに見られてるわけでしょ? それなら嫌でも理解するしかないでしょ。原理の追及よりも、現象が起きている事実を見るべきだ、ってね!」
一理ある。やっぱりだてに年を取ってはいない、ということか。彼女に口喧嘩を振るのはよそう。僕の敗北が見える。とはいえミカロにとっても失言だ。そこを修正してもらわないことには始まらない。
「どうしてそう思うんですか?」
「あなたは記憶喪失を良いことにミカロに側にいてもらい、次第に隣にいる彼女に惚れ込んでいる。けれどミカロが入院中の今、あなたはエイビス・ラターシャの隣で青春を満喫している、というように見受けられます。何か違うでしょうか?」
ならば言ってしまおう。素直に言えば彼女たちも納得してくれるはずだ。
「そんなわけないじゃないですか! 僕は......」
「シオンさまはそんな方ではありません! 例えリラーシアさんより魅力のある実力を持つ方が現れたとしても、シオンさまはそれをお断りするはずですわ。何よりわたくしはシオンさまに救われた恩を返すために隣にいるのです」
彼女の言葉に2人は言葉を失った。彼女の言葉は素晴らしい。はっきりと物怖じすることなく突き付け、例を出して誠実性を引き上げる。彼女らしい戦法だ。さすが天真の星屑(スターダスター)の戦法担当だ。しばらくは安泰だ。
彼女の肩を感じる。気にしない。これで2人も納得......
「けれど最近わたくしも少し困っているのです。一緒のベッドで寝ようと誘ってこられるのです。確かにシオンさまがわたくしの肌にいつどきも触れていたいのは理解できるのですが、みなさまに迷惑がかかってしまいますし......」
訂正しよう。思っていたよりも彼女は悪魔だった。原因はきっと僕があんなことをしたからだろうが、彼女は僕を全身油まみれにしておきながらなぜか火をつけた。これは炎上どころではない。ただの事故だ。
現に2人は僕のことを睨んで今にも戦闘態勢になろうとしている。
「ほほぅ~? それがシオン・ユズキ流の恩返しってやつかい? ならいいよ、ちょうど私も協力してほしいやつがあったんだ。身体に装着してもらうやつなんだけどさ......」
「ちょちょっ! そのアームみたいなやつ閉まってくださいよ! ここは喫茶店ですよ!?」
シェトランテさんが機械の腕からロケット砲を出した瞬間、リラーシアさんは彼女を睨んだ。いや......あなたも原因ですよ? そう言いたいけれど未熟な僕は言うことができなかった。やっぱりミカロのようにはいかない。
2杯目の飲み物を共にリラーシアさんは咳払いした。彼女の咳払いとともに、シェトランテさんの目も張り詰めたものに変わり、シオンとエイビスは体を硬直したような感覚を得ていた。
悩みどころではあるけれどこれからは一緒に行動できる。できるだけ彼女に聖霊を呼ばせない戦い方をする必要があるな。
とはいえ僕たちにとっては少し好都合だった。ファイスがいない間のリーダー(仮)の決定や僕の記憶探しの補正の準備をするための時間にはぴったりだった。
僕とエイビスはアイテムの調達ついでに昨日の招集命令に集合していた。エイビスはリラーシアさんのことを知らないけれど、ちょうど紹介するいい機会だ。これから失言しても彼女も理解がある。おそらく問題ないだろう。
それより困ったことが1つ。エイビスのいたずらが炎上し始めたことだ。朝起きれば同じベッドに忍び込んでいる。髪を整えようとすれば彼女が手伝おうとする。どこかに行こうとすれば一緒に行こうとする。もう日常茶飯事になってしまった。ミカロになんて言えば納得してもらえるだろう。何より彼女がやけに自分から話をしなくなってしまっていることに恐れを感じている。
「シオンさま、リラーシアさんとは一体どんな方なのでしょうか? シルヴィルタのときに顔合わせはいたしましたが、わたくしとは被る機会がありませんでしたので」
「いい人ですよ。僕に攻撃方法や防御、足の動かし方についてなんか教えてくれるんです。けれど冷徹で容赦のない人ですけどね」
「そうでしたか。シオンさまはどちらかというとぐいぐい来られる方の方がお好きだということですわね!」
「ま、まぁそういうことに......」
「ずいぶんと素直に言うのですね。てっきりあなたは印象の悪い人でも言葉でごまかしてくれると期待していたのですが、どうやら思い違いだったようです」
「そんなことはないですよ。リラーシアさんの教えが僕の行動に反映されているんです。いい人なのか悪い人なのか、それは僕が体現することで理解されることだと思ってますから」
どうだ。我ながらうまくまとまっている。確かにリラーシアさんの鍛錬には遠慮がなく、必要最大限の訓練を行っている。それが全員に合っているかと思えば不安だ。けれど彼女が僕にまったく合わない訓練を外してくれたことも事実だ。冷徹の文字は時に温和に変わりつつあるのかもしれない。
隣には白衣を着た茶短髪の女性。見た目からして僕たちの1つ上ぐらい。彼女はいったい誰なのか。なんとなく検討がついているものの、言い出せなかった。
リラーシアさんはミカロの戦闘明けの僕たちに気を遣って、正星議院内部関係者のみが使用できる喫茶店で飲み物をおごってくれた。エイビスには少なくとも彼女がただの人間関係に冷たい人でないことだけは理解できたはずだ。
そして何より彼女は紅茶を欲していた。そしてちゃっかりミルクティードーナツもそばにある。今度リラーシアさんにいっぱい買ってもらおう。“私はあなたの配達屋(デリバリー)ではないのですが”そう言われそうだから1度だけにしよう。それでエイビスの機嫌も直ってくれるはずだ。
どうにも彼女が尖っていると変に意識が傾いてしまう。
リラーシアさんは隣にいる茶髪の人物を紹介した。名前はシェトランテ・エリシア。正星議院では科学者として活動しているらしく、毎日様々な発明品を制作している。有効なものからそうでないものまで、想像の限りを尽くしているそうだ。僕たちでいえばクエストで使用している連絡伝達用のデバイス。あれは彼女が自分で試作品まで作り上げたらしい。つまり生みの親だ。
僕はそれを彼女が作ったことに驚きを隠せなかった、けれどそれよりも彼女の身なりの違和感の方が大きい。何かを詳しく見るための頭に乗った緑色のゴーグル。そしてパンパンに詰まっている茶色の横開きのバッグ。いったい何が出るやらと少し不安になる。
「あんたがシオン・ユズキだね。思ってたより普通の顔してるね。最初は驚いたよ、悪魔と知り合いがいて実は秘密の召喚をしていたとか、リラが君の師匠を引き受けたとか、味方の家を更地にしたとか」
関係のなさすぎる尾ひればっかり付いている。悪魔召喚なんてそもそもできるわけがない。ミカロならもしかして......ないな。まともな事実が伝わってやしない。理解は誤解から始まるってことかな。
「それで隣にいるのがエイビス・ラターシャちゃん。前は静かな様子で見かける人を睨みつけてたって噂だけど、改心したみたいだね。隣の彼のおかげかな?」
「ええ。シオンさまのおかげでわたくしは何もかも救われました。彼には感謝しかありませんの」
きっとそれはエイビスさんのせいだ。そう言いたかったけれど彼女の無言の圧力がこちらに伝わって来る。僕は納得して首を縦に振った。
「気をつけてくださいシェトランテ。彼はあなたが思っている以上に、とっかえひっかえに隣の女性を入れ替える女たらし、というやつなのです」
なんだそれは。師匠といえど見逃してはおけない。どんな尾ひれが付いていても僕はエイビスのように自分で話してみて判断する、と信じているけれど、シェトランテさんは見る限り納得している様子だ。
「どうしてそんなことになるんですか! エイビスに失礼ですよ!」
「失礼も何も、実際そうしてるところをリラに見られてるわけでしょ? それなら嫌でも理解するしかないでしょ。原理の追及よりも、現象が起きている事実を見るべきだ、ってね!」
一理ある。やっぱりだてに年を取ってはいない、ということか。彼女に口喧嘩を振るのはよそう。僕の敗北が見える。とはいえミカロにとっても失言だ。そこを修正してもらわないことには始まらない。
「どうしてそう思うんですか?」
「あなたは記憶喪失を良いことにミカロに側にいてもらい、次第に隣にいる彼女に惚れ込んでいる。けれどミカロが入院中の今、あなたはエイビス・ラターシャの隣で青春を満喫している、というように見受けられます。何か違うでしょうか?」
ならば言ってしまおう。素直に言えば彼女たちも納得してくれるはずだ。
「そんなわけないじゃないですか! 僕は......」
「シオンさまはそんな方ではありません! 例えリラーシアさんより魅力のある実力を持つ方が現れたとしても、シオンさまはそれをお断りするはずですわ。何よりわたくしはシオンさまに救われた恩を返すために隣にいるのです」
彼女の言葉に2人は言葉を失った。彼女の言葉は素晴らしい。はっきりと物怖じすることなく突き付け、例を出して誠実性を引き上げる。彼女らしい戦法だ。さすが天真の星屑(スターダスター)の戦法担当だ。しばらくは安泰だ。
彼女の肩を感じる。気にしない。これで2人も納得......
「けれど最近わたくしも少し困っているのです。一緒のベッドで寝ようと誘ってこられるのです。確かにシオンさまがわたくしの肌にいつどきも触れていたいのは理解できるのですが、みなさまに迷惑がかかってしまいますし......」
訂正しよう。思っていたよりも彼女は悪魔だった。原因はきっと僕があんなことをしたからだろうが、彼女は僕を全身油まみれにしておきながらなぜか火をつけた。これは炎上どころではない。ただの事故だ。
現に2人は僕のことを睨んで今にも戦闘態勢になろうとしている。
「ほほぅ~? それがシオン・ユズキ流の恩返しってやつかい? ならいいよ、ちょうど私も協力してほしいやつがあったんだ。身体に装着してもらうやつなんだけどさ......」
「ちょちょっ! そのアームみたいなやつ閉まってくださいよ! ここは喫茶店ですよ!?」
シェトランテさんが機械の腕からロケット砲を出した瞬間、リラーシアさんは彼女を睨んだ。いや......あなたも原因ですよ? そう言いたいけれど未熟な僕は言うことができなかった。やっぱりミカロのようにはいかない。
2杯目の飲み物を共にリラーシアさんは咳払いした。彼女の咳払いとともに、シェトランテさんの目も張り詰めたものに変わり、シオンとエイビスは体を硬直したような感覚を得ていた。
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