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第7章 「新世界」
第70話
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「ありがとうございます、ヒラユギ。助かりました」
「それを言いたいのは実のところ余の方じゃ。まぁその前にいろいろと邪魔が入ってしまったからの。この罪、いかほどにしてはらすべきかの」
彼女の剣に黒いもやのようなものがかかり始めた。同時に彼女の力量も伝わって来る。彼女なら彼、ジークを......
いや、何でもない。僕がやるしかないんだ。先に進むために、全てを終わらせるために。
「黄色和服は任せい。二度とあんな手段は取らせん」
「了解です」
彼女は消えたかと思えば、黒い豆粒のように遠い場所に現れた。黄和服の女性は彼女から距離を取っていく。しまった。また油断を......
彼の姿はない。
立ち上がった彼女は僕に液体を振りまいた。彼女は謝りを見せたが少し不快だ。
「しょうがないじゃん! ベトベトしたまんまじゃ戦えないし!」
「それならタオルで吹いてくださいよ! やり方があるでしょうが!」
僕たちはある意味で互いに睨みあった。せっかく助けたっていうのになんていう言われようだ。彼女が素直を人に見せようとしないのはわからなくもないけれど、お礼くらいは言ってほしいものだ。
これは決して僕が傲慢だからではないはずだ。
「痴話喧嘩とはずいぶん余裕だなぁ!」
地中から姿を見せた黒マントの彼は僕を狼さんから押し出そうと、剣越しに勢いを加える。
彼から距離を取ると僕が弱くなるのが読まれているのか。明らかに僕より何枚も上手だ。けれど押されたままでもいられないさ。彼が僕に襲い掛かって来るように、僕にも守りたいものの1つや2つ。ある。
「シオン!」
竜巻が僕たちを覆う。耳鳴りが......しない。内側だから風が流れていないのか。とはいえ僕の耳は警戒の様子を示していた。
『螺旋空間、シオンに託すよ』
『らせんくうかん、ですか?』
『そう。常に体が浮くことのできる空間。一番重要なのは風を操ること。足場にもできるし、端まで追いやれば背中に傷を与えられる。私はシオンのこと、信じてるから』
ここまでくると、なんだか僕が馬鹿みたいだ。こんなときに喧嘩して、場を切り替えようとして。本当ならミカロが使った方がいい。いや、彼女の方が利がある。
けれど冷静な判断がそれを遠ざけた。仲間である僕に譲ってくれた。言葉にしなくとも、それをどんな気持ちで彼女がしてくれたのかは、嫌でも理解できた。
『……わかりました。それと約束、追加していいですか?』
『な、なに? ちょっと怖いんだけど......』
『帰ったら......』
『ええっ!?』
「ジークっ!」
「この空間ごと貴様を斬り刻んでやろう。今日は狼鍋だな」
剣と鉾が交わった瞬間、空間に小さな風が生まれた。強制的な流れが新たな隙、攻撃を生む。敵を端に追いやり鉾を押しやる。
今残っている全ての力をここに賭け......
「こんなことで終わる俺だと思うかっ!」
分裂した剣が彼の体を内側に逃がし僕たちを押し通そうとする。
やることすべてが非情。何より予測がつかない。僕は彼に高揚を覚えていた。
「お前の実力はそんなものかぁ!」
横投げ、正面攻撃、右薙ぎ払い。分裂した剣とはいえ今までよりも威力は増していた。風で後退し剣の隙を作らせる。端に追いやっても仕方がない。
彼の剣ごとやるほかないか。ちょうどその算段はついている。けれど、1つ悩みの種を残して。
『狼さん、そのまま突っ込んでください』
『わかった』
風に勢い付け彼の体すべてを端に追いやる。当然のごとく彼は僕のことを押し返してきた。
「凝りもせず同じ策とは。それでも貴様、戦士なのか?」
「地を散らしし伝家の宝鉾よ。騒乱の風纏い、我に力を託せよ! 瞭嵐の狼牙!」
ミカロの風を取りこんだ鉾が彼の剣と交わる。剣は風の波を受け空へと飛び上がり、形を小さなものへと変えてゆく。風を吸い込みきった鉾を彼にたたきつけた瞬間、彼は消えたように地面にたたきつけられた。
「ミカロ、やりま......」
「シオ......」
彼女の腹に剣の一部が......いったいどうなって......
「まさか、それで終わりではないだろう? 王者の......」
僕の背中が恐怖を伝えた。けれどそれは黒マントではなく、戦いに飢えを見せ始めた紫髪の彼女の姿だった。
「輪廻・襲蘭!」
僕の足は止まらない。彼をたたきつけ風が空へと放たれる。僕の震えが収まることはなかった。
「例え卑怯と呼ばわれても構わん。それでも勝利せねば変えられるものも変わらん」
彼女のすぐ後に現れた黄和服の彼女は両手を挙げた。そこに黒緑髪の彼女が現れた。
「アスタロトさん!」
「事態を収集するわ。こいつらを拘束するから、これを......」
その瞬間地面が輝いた。僕たちの考えよりも早く、彼らは姿を消していた。
「っ! ゴーグルを外してなかったら......」
彼女は後悔している様子だったが、あきらめも肝心だ。僕たちはミカロの元へと向かい、彼女に治療を施した。剣の傷は薬で消えたが、僕の心の傷が消える兆しは見えなかった。
その瞬間、僕は地面に立っていた。力が入......る。星を使用していないからか。僕は右肩に子供の狼が乗っていることを見逃さなかった。
『いったい何が起こったんですか?』
『化けただけだ。大きいと動きにくいことこの上ないからな』
『でもそれ、他の動物にしかできないはずじゃ......』
『教われば誰でもできる。お前でもな』
彼の言い分ももっともだ。正星議院には入れてもらえないだろうし、何より一般人には警戒のまなざしにさらされてしまう。そんなことではクエストの依頼にも支障が起きる。
かわいらしさで年上な要素が消えてしまっているような気がしなくもないけど、僕はそれに納得し、彼女を持ち上げた。
「シオンさまー!」
「エイビス! 大丈夫ですか!」
「ええ! シオンさま、最後まで戦うことができず申し訳ありませんでした」
彼女は僕に頭を下げた。彼女は星の制限時間が来てしまったようで、ヒラユギによって逃がしてもらい事の顛末を見ていたのだという。
けれどだからといって彼女が悪いわけでも僕たちがすごいわけでもない。彼女の頭を上げようと努力し、僕はミカロが起きた瞬間にようやく彼女に納得してもらえた。なぜか彼女は涙を目に溜めて僕の言葉に感謝を送っていた。
「シオン!? これ、どういう状況!?」
「全部終わったんですよ。ミカロのおかげで助かりました」
そのときの彼女の火照った顔を僕は忘れることはないだろう。なぜなら彼女はそれほど印象に残るほどに赤くうれしさを灯った笑顔を見せてくれたのだから。
僕の傷が癒えたような気がした。
「シオンさま!? 大丈夫ですか!?」
「シオン! しっかりして! しお......」
☆★★
夕日の見える谷。植物が風にたなびき、心地よさを感じる。ここは何度も来た場所だ。
「よかったね。みんなを守れて」
金髪の少女が僕を褒める。言葉を放とうとしても、何も起きない。口が動かない。
「今はたっぷり休んで、また私を探し出すんでしょ? 絶対に約束は守ってね。私はいつでもシオン君のこと、待ってるから」
彼女はその言葉を放った瞬間、暗闇の空間に消えていった。手を伸ばしても届かない。僕はまた彼女を失った......
★☆☆
「それを言いたいのは実のところ余の方じゃ。まぁその前にいろいろと邪魔が入ってしまったからの。この罪、いかほどにしてはらすべきかの」
彼女の剣に黒いもやのようなものがかかり始めた。同時に彼女の力量も伝わって来る。彼女なら彼、ジークを......
いや、何でもない。僕がやるしかないんだ。先に進むために、全てを終わらせるために。
「黄色和服は任せい。二度とあんな手段は取らせん」
「了解です」
彼女は消えたかと思えば、黒い豆粒のように遠い場所に現れた。黄和服の女性は彼女から距離を取っていく。しまった。また油断を......
彼の姿はない。
立ち上がった彼女は僕に液体を振りまいた。彼女は謝りを見せたが少し不快だ。
「しょうがないじゃん! ベトベトしたまんまじゃ戦えないし!」
「それならタオルで吹いてくださいよ! やり方があるでしょうが!」
僕たちはある意味で互いに睨みあった。せっかく助けたっていうのになんていう言われようだ。彼女が素直を人に見せようとしないのはわからなくもないけれど、お礼くらいは言ってほしいものだ。
これは決して僕が傲慢だからではないはずだ。
「痴話喧嘩とはずいぶん余裕だなぁ!」
地中から姿を見せた黒マントの彼は僕を狼さんから押し出そうと、剣越しに勢いを加える。
彼から距離を取ると僕が弱くなるのが読まれているのか。明らかに僕より何枚も上手だ。けれど押されたままでもいられないさ。彼が僕に襲い掛かって来るように、僕にも守りたいものの1つや2つ。ある。
「シオン!」
竜巻が僕たちを覆う。耳鳴りが......しない。内側だから風が流れていないのか。とはいえ僕の耳は警戒の様子を示していた。
『螺旋空間、シオンに託すよ』
『らせんくうかん、ですか?』
『そう。常に体が浮くことのできる空間。一番重要なのは風を操ること。足場にもできるし、端まで追いやれば背中に傷を与えられる。私はシオンのこと、信じてるから』
ここまでくると、なんだか僕が馬鹿みたいだ。こんなときに喧嘩して、場を切り替えようとして。本当ならミカロが使った方がいい。いや、彼女の方が利がある。
けれど冷静な判断がそれを遠ざけた。仲間である僕に譲ってくれた。言葉にしなくとも、それをどんな気持ちで彼女がしてくれたのかは、嫌でも理解できた。
『……わかりました。それと約束、追加していいですか?』
『な、なに? ちょっと怖いんだけど......』
『帰ったら......』
『ええっ!?』
「ジークっ!」
「この空間ごと貴様を斬り刻んでやろう。今日は狼鍋だな」
剣と鉾が交わった瞬間、空間に小さな風が生まれた。強制的な流れが新たな隙、攻撃を生む。敵を端に追いやり鉾を押しやる。
今残っている全ての力をここに賭け......
「こんなことで終わる俺だと思うかっ!」
分裂した剣が彼の体を内側に逃がし僕たちを押し通そうとする。
やることすべてが非情。何より予測がつかない。僕は彼に高揚を覚えていた。
「お前の実力はそんなものかぁ!」
横投げ、正面攻撃、右薙ぎ払い。分裂した剣とはいえ今までよりも威力は増していた。風で後退し剣の隙を作らせる。端に追いやっても仕方がない。
彼の剣ごとやるほかないか。ちょうどその算段はついている。けれど、1つ悩みの種を残して。
『狼さん、そのまま突っ込んでください』
『わかった』
風に勢い付け彼の体すべてを端に追いやる。当然のごとく彼は僕のことを押し返してきた。
「凝りもせず同じ策とは。それでも貴様、戦士なのか?」
「地を散らしし伝家の宝鉾よ。騒乱の風纏い、我に力を託せよ! 瞭嵐の狼牙!」
ミカロの風を取りこんだ鉾が彼の剣と交わる。剣は風の波を受け空へと飛び上がり、形を小さなものへと変えてゆく。風を吸い込みきった鉾を彼にたたきつけた瞬間、彼は消えたように地面にたたきつけられた。
「ミカロ、やりま......」
「シオ......」
彼女の腹に剣の一部が......いったいどうなって......
「まさか、それで終わりではないだろう? 王者の......」
僕の背中が恐怖を伝えた。けれどそれは黒マントではなく、戦いに飢えを見せ始めた紫髪の彼女の姿だった。
「輪廻・襲蘭!」
僕の足は止まらない。彼をたたきつけ風が空へと放たれる。僕の震えが収まることはなかった。
「例え卑怯と呼ばわれても構わん。それでも勝利せねば変えられるものも変わらん」
彼女のすぐ後に現れた黄和服の彼女は両手を挙げた。そこに黒緑髪の彼女が現れた。
「アスタロトさん!」
「事態を収集するわ。こいつらを拘束するから、これを......」
その瞬間地面が輝いた。僕たちの考えよりも早く、彼らは姿を消していた。
「っ! ゴーグルを外してなかったら......」
彼女は後悔している様子だったが、あきらめも肝心だ。僕たちはミカロの元へと向かい、彼女に治療を施した。剣の傷は薬で消えたが、僕の心の傷が消える兆しは見えなかった。
その瞬間、僕は地面に立っていた。力が入......る。星を使用していないからか。僕は右肩に子供の狼が乗っていることを見逃さなかった。
『いったい何が起こったんですか?』
『化けただけだ。大きいと動きにくいことこの上ないからな』
『でもそれ、他の動物にしかできないはずじゃ......』
『教われば誰でもできる。お前でもな』
彼の言い分ももっともだ。正星議院には入れてもらえないだろうし、何より一般人には警戒のまなざしにさらされてしまう。そんなことではクエストの依頼にも支障が起きる。
かわいらしさで年上な要素が消えてしまっているような気がしなくもないけど、僕はそれに納得し、彼女を持ち上げた。
「シオンさまー!」
「エイビス! 大丈夫ですか!」
「ええ! シオンさま、最後まで戦うことができず申し訳ありませんでした」
彼女は僕に頭を下げた。彼女は星の制限時間が来てしまったようで、ヒラユギによって逃がしてもらい事の顛末を見ていたのだという。
けれどだからといって彼女が悪いわけでも僕たちがすごいわけでもない。彼女の頭を上げようと努力し、僕はミカロが起きた瞬間にようやく彼女に納得してもらえた。なぜか彼女は涙を目に溜めて僕の言葉に感謝を送っていた。
「シオン!? これ、どういう状況!?」
「全部終わったんですよ。ミカロのおかげで助かりました」
そのときの彼女の火照った顔を僕は忘れることはないだろう。なぜなら彼女はそれほど印象に残るほどに赤くうれしさを灯った笑顔を見せてくれたのだから。
僕の傷が癒えたような気がした。
「シオンさま!? 大丈夫ですか!?」
「シオン! しっかりして! しお......」
☆★★
夕日の見える谷。植物が風にたなびき、心地よさを感じる。ここは何度も来た場所だ。
「よかったね。みんなを守れて」
金髪の少女が僕を褒める。言葉を放とうとしても、何も起きない。口が動かない。
「今はたっぷり休んで、また私を探し出すんでしょ? 絶対に約束は守ってね。私はいつでもシオン君のこと、待ってるから」
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