冒険者ギルドの契約職員だけど、聞きたいことある?

谷山灯夜

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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!

冒険者ギルド、とは。 ――その5

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 ずっと無言のままタロウ会長の話を聞いていたアイコさんが立ち上がりました。
 どんぶりがテーブルから落っこちそうです。あぶないあぶない。
 ですがアイコさんはどんぶりなんて目に入らないみたい。
 タロウ会長を問い詰めます。

「わたしはふつうの高校生なんですよ。部活だって、体育会系じゃないですっ。吹奏楽部です。ほんとに『ふつうに弱い』んです……。そんなわたしが。どうやって、冒険者なんてできるんですか……」

 もっともな質問ですよねー。
 ……とわたしは真剣に、アイコさんの話を聞いていたのですけどアイコさんはわたしの顔をキッ、と見つめます。それに目が完全に怒ってます。

「だいたいなんでわたしたちが、この世界の人たちのために命がけで戦わないといけないんですか!?」

 それもごもっともな話で……。
 いちいち、耳が痛いです。はい……。
 タロウ会長はアイコさんの話を静かに聞いたままでしたが、コップの水をごくんと飲み干してから口を開きました。

「そこら辺の事情ってやつを、ここでくっちゃべってもいいンだけどよ。実際に見たほうが早ェだろうからついてきな」
 言うなりタロウ会長、蕎麦の代金をテーブルにパシン、と置くとスタスタ、店の外に歩き出して行きました。
 アイコさんは呆然としたままでしたが、タロウ会長のあとをついていきます。わたしはさらにその後をついていきます。
 会長は冒険者ギルドの中をずんずんと歩いて行きます。玄関を抜けホールへ。そして職員が常駐するカウンターを横切り。
 奥へと向かう通路を歩いて行きます。

「ここだ。ここに答えがある」
 会長は一呼吸入れます。
「18年前、こいつがこの地に突如現れた、らしい。こいつから出た光は魔獣を近づけさせなかった。次にこいつを中心にして大勢の……俺らみたいなのが現れた、ンだとさ」

 タロウ会長がアイコさんを目線だけで呼び寄せます。
 その目線に促されて、中に入ったアイコさん。
 その目は今日一日、一番の大きさで見開かれていました。

 そこにあるものは――

 部屋の中は光であふれています。
 とても優しく、暖かで、そして力強い光で、あふれかえっています。
 その光は中央にある一枚の石版から発せられています。
 その圧倒的な迫力を前にして怖くなったのか。
 アイコさんはわたしの腕をぎゅっとつかみました。

「ティアさん、あ、あれは、なんなの?」
 聞かれましたが実のところこれがなんなのか。
 わたしにもわからないのです。
 いえ、アルカディアにいる人全員がわからないのです。
 ただ――

「わたしたちは『知識と力の石』と呼んでます。先ほどのアイコさんの疑問への答えがここにあります」
 
「この石に触れたものは自分が積み重ねた経験に比例して『なりたい自分になれる』のです」

 わかりやすく言うと、です。
 わたしもアルカディアに来てから教えてもらったのですが、ヒューマンやエルフ、それにサキュバスの世界には「ロールプレイングゲーム」なるものがある、らしいのです。
 そのあそびの肝は経験を重ねた分強くなれる、らしいです。
 さらに高性能の「スキル」を取得すると無双する、と。

 それと同じことがこの部屋にある石で起こるのです。
 この石版に手を触れた者は体力向上、身体能力強化、武器や魔法の取り扱いかた取得、錬金術、地理方向感覚優良、それに調理、建設、狩猟、踊り、歌唱、魔法文字まで含める言語知識、大道芸、博打などなどなど。
 ぜーぜー。
 そういう基礎能力、技能を、自らの「経験を差し出すこと」と引き替えに身につけることができる、と。

 え?
 なんでアイコさん、戦々恐々としてるのです?
「経験を差し出す……それって、記憶喪失になるってことですか!?」

 ああ、そういうことでしたか。
 それは違います。なりません。

 経験を差し出し技能を得たあとで、また別の技能を身につけようと思ったら、新たに経験を重ねてこなければ技能は得られない。

 これがルールなのです。

「ンで、アイコ。お前ェさんが聞きたがっていた『なぜこの世界の住人が冒険者にならないのか』だけどよ。現実を話すとそこのティアみたいに冒険者になりたがっている奴ァそれなりにいるんだ」

「だがよ。アイコ。お前ェさん、『自分が初めて行ったわけもわからねェ場所で何か』するのと『見知った場所で何か』するんじゃ、どっちのほうが『新しい体験』できると思う?」

 実際にはそんな簡単な話じゃないことは、エルフの研究でわかりつつあるのですが……。
 わたしたち、この世界の「住人の大半」は異世界人と同じ依頼で物を作り上げたり戦闘をしても、得られる経験が、数値として……。
 つまり「経験値として劣る」のです。

 ただ何事にも例外があり――。
 わたしたちの世界の住人でも冒険者として第一線に立てる人がいる、というのがややこやしいところなのですが。

 ですが、まずわたしがやらなきゃいけないことは。
 それをギルドの正規職員でもないわたしが言うのは厚顔無恥だと思います。
 言えば言ったでアイコさんを苦しめるような気もします。
 だから単なる自慰行為だ、と自分自身でも思っちゃいます。
 でも、言わずにはいられない……のです……。

「アイコさん。わたしもいつの日にかわたしたちの世界はわたしたちで守りたい。そして取り戻したいと思ってます。思っているんですが……、現状、わたしたちの力だけでは……いたずらに死者を……増やすだけなのが……」

 この世界に神がいるのなら。
 いえ、この世界を神が作ったのだったら言いたいです。
 わたしは、とっても悔しい、んです。
 自分の力の無さが悔しいのです。
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