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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!

冒険者の悩みを聞くのもお仕事なのです―その4

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 現在の状況の解説をいたしますです。

 わたしはいま、依頼告知板の前で直立して、赤面して、汗顔アンド全身汗だく大盛りなのです。
 脇から変な汗が出てます。
 なぜか、ですか。
 現在わたしは下半身にふんどし装着の状態で依頼を受ける冒険者の募集を行っているから、と申しましたら状況をご理解いただけますでしょうか。

 ミチオさんにふんどしの「着方きかた」を聞こうとしたら「あら、依頼を待ってる人がいるんでしょ。先にギルドで告知すべきじゃない?」って言われて「それもそうですね」と返して、それからミチオさんからふんどしの「付け方」のレクチャーを受けたのですが。
 どうしてミチオさんは先に告知をさせたのか、なんとなく理由はわかりましたのです。

 そしていま、わたしは……。

 オリジナルふんどしが故郷にあったヒューマンはともかく、ほかの種族の異世界ニホンにはふんどしがない、ということなので「みほん」として立っております。
 あ。そうでした。
 ウンディーネの住んでいたニホンにはふんどしがあったんだそうです。
 つまり、ふんどしを初めて見たのはコロポックル、ドワーフ、サキュバス、エルフ、虎人ということになります。

「あの……ティアさん。なんというか……」
 マリアさんが全身赤面で暖房器具みたいになっているわたしの前で「この度はゴシューショー様です」みたいな顔をしてます。

 あう、まりあさん。そんな顔をしないで下さい。
 これもギルド職員のつとめですから。

 ……たぶん「こんな依頼を受けたのはわたしだけ」ってことはないと思います。
 ないと、思いたいな、なのです……。

 でもこの公開シューチぷれい状態でさえなければ、このふんどし、という下着は画期的ですね。
 むしろこの世界になぜなかったのか問い詰めたいです。

 え? 「ぶらとしょーつは買えるんだろ?」と聞いてきますかですか?
 それらの下着類はこの世界に異世界人が来るまで存在していなかったんです。
 「ならそれまではどうしていたの?」ですか?
 繰り返しますが下着類はこの世界に「なかった」のです。
 あとはご想像にお任せいたしますです。

 あ、正確には貴族さんたちには下着に類するものがありました。
 わたしのような庶民が実物をナマに見る機会がないので伝聞なのですけど。
 女性用はウエストを絞めスカートを広げるもの、です。
 男性のは……。ええと。男性のは……。
 あれは「お菓子入れ」なんだと、聞いてます……。

 え、よくわからない、ですか。
 あの、ほんとにわからない。のですよね?
 わざとわたしに聞いているわけじゃない。のですよね?

 ……あの、ですね。貴族の男の人は、こここ、股間に。
 いえ、股間の前に、ですね。

 お菓子入れを装着するのが流行っていた、んです。
 異世界人のファッションが貴族さんの中でも流行る前までは。
 コッドピース、と呼ぶらしいのですが。
 そりゃあもう、とにかくもっこりしてるんです。
 もっこりと。
 貴族さん、いつもぴったりしたタイツを履いていたので。
 コッドピース装着中ですとタイツが常時もっこりさん、だったのです。

 え? 「その絵面は『こいつをどう思う?』で理解されるから、次からはそう言うといい」ですか。
 ありがとうございます。正直わたしも、アレを見るのはもちろん語るのも恥ずかしいのです。
 次からはそうします、なのです。
 とにかく、異世界から来た皆さんのおかげで。
 異世界のファッションが流入したおかげで。
 目のやり場に困る事態は随分……。

 あれ?
 異世界人が来てからむしろ露出ってあがっていませんか?
 それに。
 それなら、わたしの、いまの状況は?
 あれ?

 わたしがテツガク的な思考にふけっていると。

「ティアさんひとりを戦場に送らないわ!」
 まりあさんががしっと、わたしの肩を掴んできたんでびっくりです。
 でもまりあさん。手がぶるぶると振動してます。
「もちろん、わたしはヒューマンだからふんどしが何かを知ってるけど。わたしのために依頼をとってきたティアさんには感謝しかないから。義を見てせざるは勇なきなりよ」

 見よ。まりあさんは熱く燃えている、という感じです。
 実際肩の上にある手は熱いです。あちちですよ、まりあさん。
 この熱量。ほんとは魔法、使えるんじゃないでしょうか?

 それにしても先ほどのまりあさんの言い回し、カッコいい感じでしたね。
 ギを見てセザリーはユー泣きなり、でしたっけ。
 今度会話で使えるよう、メモしておきますです。

「それにわたし、魔法はダメですけど脱いだらすごいですよ。胸は大きくないけどおしりは大きいし……。しかし、このぷよぷよ感こそがマニアックな層には大受けじゃないかと。多分スライム好きとかには!」
 マリアさんはぶつぶつと「元の世界だったら、これからスライムはトレンドになっていたはずなのに」と言ってます。

 魔獣でしかないスライム好きがいるのかはともかく。
 スライム好きのハートをキャッチできると思う、その自信は一体どこから出てくるのかわかりません。
 こんな感じの一直線さが、まりあさんのスキルビルドまほうがつかえないまほうつかいを誕生させたのでしょうか、なのです。
 
 ところで。
 ここで冒険者ギルドに依頼として持ち込まれた依頼がどうなるのかについて説明をさせてください。

 受けた依頼を冒険者に斡旋しても「最低必要人数に達していない」場合があります。
 その場合、ギルドは冒険者の安全を考えて依頼を依頼人に差し戻します。
 これを依頼の不成立と言います。
 成功の条件が厳しい、依頼に対して報酬が見合っていない、依頼自体に魅力がない。
 そんな場合に不成立が生じます。

 通例では冒険者の応募が必要人員の半数未満で不成立になります。
 8人を必要、という場合は4人未満、つまり3人以下なら不成立ということです。

 ところが。
 イベント系依頼は必要人員の最大数がありません。
 ないのです。
 イベント系依頼は「一名でも参加したら成立」になるんです。

 つまり。

 ……。

 あー。成立しちゃったながれなかった、な。

 ……あ。いえ、いまのはなんでもないですっ!
 決して「こんな依頼、誰も受けないだろうから不成立確定。安心安心ですよ、ティア」なんてミジンコも、これっぽっちも、思ってませんのですなのです!

 とにかく。

 まりあさんは参加を表明してくれました。
 これで依頼は成立、なの、です……。
 はあ……衆人環視の中でふんどしになるのですね、わたしって、なのです。

「おーやー。なーにやーら、おもしろそうなぁ、依頼がー、来ているみたいぃ?」

 わたしが不退転の決意を固めているときうしろから声がしました。
 その声の主は……。
 え?
 「言わなくてもわかる」ですか。
 そうですか。

 では次回。
 おそらく「予想通りの展開」でお待ちしてます。
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