冒険者ギルドの契約職員だけど、聞きたいことある?

谷山灯夜

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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!

冒険者の悩みを聞くのもお仕事なのです―その17

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 センキューさんの貫手ぬきてが、わたしのシャツを通り抜けていき。センキューさんが手を戻した時にはわたしのシャツははぎ取られていました。

 つまりいまのわたしって。
 上は赤のリボンびきに水着で、下はウサギ柄のふんどしだけの姿なのですね。

 こういうことになるのが。大勢の人の前で肌をさらすことになるのが恥ずかしくて、怖くて。嫌だったのですが……。

 なんででしょう。いまわたし、怖くてたまりません。
 でも怖いのは、水着にふんどし姿が恥ずかしい、という話じゃなくて。

 これが実戦でしたら、わたしは死んでいた……。

 こんなに強いのに、センキューさんや百花繚乱の首脳陣でさえ重傷を負って帰還するときがあります。
 それならば。それならば。冒険者初心者のまりあさんの足下にも及ばないわたしって、いくさ場に出たら……どうなっちゃうのでしょう?

 どれくらいの間わたしが考え込んでいたかはわかりません。
 1秒かもしれませんし1分かもしれません。
 ぽん、と背中に手を添えられるまでわたしは考え込んでいたようです。
 わたしの背中に手を置いたのは『セフト』のミサさんでした。

 というか、ミサさんってその破れ方はわざとですよね?
 上衣しか狙っちゃだめ、というルールで行われたのになぜふんどしまで破損されてるのですか?
 投石機スリングショット水着の上からふんどしを締めた時点で不思議だなあとは思っていたのですけど、なんでいま「ほぼ投石機スリングショット水着だけ」になっているのです!?
 絶対、見せる気で被弾してますよね!

 というか見回せば『合法』のサチコさんのシャツも、大きく張り出したお胸の部分だけ被弾しているとか、非常にけしからん被弾をしているわけで……。

 まったくけしからんのです。
 けしからんのです、が。これもまた、実力差という話なのでしょう。
 わたしと同じようにぼろ布と化したまりあさんも、ぺたんと床に座り込んでます。ちょっと落ち込んでいるようにも見えます。

「落ち込むのはあとでもできる。契約職員にはギルド職員にしかできない仕事があるはず」
 サチコさんがわたしに声をかけてきます。
 え、わたしにできること?
 ギルド職員にしかできないことってなんでしょうか?

 わたしを見ているセンキューさんも何か言いたげです。
 見かねたのか、ミサさんがわたしの背中に手を添えたままでわたしの顔をのぞき込んできました。
「ティアさん。あなたは契約職員であってもギルドの職員。ギルドの職員は、冒険者と市井の人とを繋ぐがお仕事、と存じますが?」

 ミサさんの言葉に、センキューさんもサチコさんも頷いています。
 でもわたしには、すぐに言葉の意味がわかりませんでした。
 わたしは冒険者じゃない、冒険者のように強くもなれないのです。いまは、まだ。

 そんなわたしができること?
 冒険者と市井のひととを繋ぐこと?

 ……あ。

 たったひとつだけ、思いつくことがありました。
 これが正解なのかはわかりませんが。
 わたしはヘッドマイクの位置を直すと、場内に集まってくれているこの世界の。わたしたちの世界の人たちに向けて言いました。

「以上、ミチオ氏の、新作衣料の発表になります」

 わたしの仕事は、冒険者の力が必要としている人を探してきて、依頼を受け冒険者にあっせんすることです。
 でも。そのほかにも大切な仕事があったのです。
 
「ご覧いただけましたでしょうか。白組紅組に分かれてのご紹介を。いろんな場面で使えることは白組が紹介しました。そして機能性については紅組が、『日常だけではなく戦時でも使える』ことを証明して見せました」

 そうでした。そうなのです。
 冒険者がどんなに活躍したとしても、その功績を伝える人がいなければ。それ仕事を評価する人がいなければ。
 冒険者は、市井の人に認められないのです。

「機能性のみならず華も色香もあったかと思います。何より履き心地についてはわたしも保障します、なのです!」

 冒険者ギルドの職員は、冒険者と共にあり。……その意味は、冒険者のようにいくさ場で命を賭けるのとは別なのでしょうけど。

 ギルド職員は、いえ、わたしは、冒険者の皆さんと一緒にありたいのです。
 わたしの目が見たすべてを。
 冒険者の皆さんって、こんなにすごいのですなのです、と伝えるために。

 それに命を賭けるのです。

「たった今、主催者のミチオ氏が舞台中央に現れました。カーテンコールです」

 おっと、サプライズです! 
 最後は『大漁旗』のジョータさんを中心に大漁祈願のヨサコイ踊りがはじまりました。
 壇上では赤白のふんどし姿の縁者による華麗な舞が披露されてます。
 きょうは一日、いろんなことが起こりましたし起きました。
 はじまる前は不安しかなかったのですけど……。
 いま思えば、わたしが一番、依頼に対してふまじめだったと思います。

 冒険者さんって、素敵ですね。
 みんな、ほんとうにかっこういいです。

「ラジオをお聞きの皆さんは、お聞こえでしょうか、この割れんばかりの拍手喝采が。わたしは、感謝の言葉を言わせてください、なのです。こんなにも、きれいなものを見ることができました。きょうここに集まってくれた冒険者の皆さんに会場の皆さん。それにラジオをお聞きの皆さんに感謝を込めて、なのです!」
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