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第12章 二つ目の地域制覇へ

第04話 商業ギルドへ

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『牙も持たぬ駄馬がっ! 我は魔狼の中でも最上位の白狼。その長である我を愚弄する気か!』
『小さき森しか知らぬ白犬風情が。我の主君であるエイジ様に比べればかわずよ。とっとと森に帰るがいい』

 ノワールと白狼が一触即発の様相を呈していた。

「ちょちょちょっとノワール、落ち着いて。なんで喧嘩みたいになってんの」
「白狼の長殿も落ち着いてくだされ」

 俺とエランさんが二体を止めに入った。
 今から町に行こうって時に、なんで喧嘩になっちゃうんだよ。

『この白犬はエイジ様を愚弄しました。しかも我を駄馬扱い、流石に捨て置けませぬ』

 なるほど、俺の事をバカにされたと思ったのか。今まで話す魔物が少なかったから驚いただけなんだけど、それが白狼の気に障ったんだろうか。
 白狼の言い方も悪かったんだろうけど、原因を作ったのは俺か。
 だったらここは一つ、俺の寛大な心を見せてやるか。

「ノワール、俺の態度で白狼さんが気を悪くしたんだと思う。あの、白狼さんも。さっきの態度で気を悪くしたんなら申し訳ありませんでした」
『たかが人間風情が黙っておれ!』
「ひっ!」

 ゴンッ! ゴンッ! ドスッ!

 ドサッ ドサッ

 白狼の一喝でビビッて尻餅をついてしまった。と同時に白狼もその場で倒れた。

『エイジ様、この白犬は言葉の通じぬ駄犬。我に……お任せを?』

 あ……

「白狼の長殿? どうしましたか? 白狼の長殿?」

 急に倒れた白狼に声を掛けるエランさん。
 やっちゃった。さっきの白狼の一喝が衛星に攻撃認定されちゃったんだろうな。反撃しちゃったよ。
 久々の三点攻撃。
 眉間、アッパーカット、鳩尾。
 鳩尾攻撃は見えなかったけど、ちょっと白狼の身体が浮いたからね、間違いないと思う。

 咆哮って攻撃が魔物にあるよね、たぶんそれをされたんだと思うよ。
 そうじゃなければ俺が尻餅をつくわけないしね。うん、絶対にそうだ。うん、強烈だった。
 衛星バリアで微風も感じなかったけど、あの白狼の顔は怖かったしね。

『エイジ様、これは……?』
「えーと…カウンター攻撃? かな?」

 ノワールにしか聞こえないように小声で答える。

『おお! さすがはエイジ様。この身の程知らずに制裁を与えたわけですな。これでこの白犬も大人しくなるでしょう』

 声が大きいよ! でも、ノワールの声に反応を示さないとこを見ると、エルフ達には聞こえてないのかな?
 しかし制裁って……そんな気は全然無かったんだけど、結果だけ見るとそう見えるか。
 そのままにはしておけないので、HP回復薬を白狼に振り掛ける。振り掛けると言っても10cc程度の小瓶だ、眉間辺りに掛けるとそのまま顔を伝って流れて雫の筋ができたが、すぐに吸収されていった。

『ん…んんー……はっ!』
「白狼の長殿?」
『わ、我は一体……』
「急に倒れられたのでどうされたのかと。体調が悪いのでしたら、今日は別の者と代わりましょうか」
『い、いや、問題ない。体調は万全だ』

 自分の身に何が起こったのか、白狼は分かってるのだろう。エランさんには問題ないと答えてた。

『身の程を知ったか』
 だからノワールは焚き付けるなって! 収まりそうだったのに。

『……』
 白狼からの反論は無い。

 あれ? 耳がペタンとなってる。ノワールに言い負かされた?
 大人しくしてくれてるんなら今の内に、と。

「ちょっと騒がしくなっちゃったけど、再確認しますね。本当にいいんですね?」
 三人のエルフに対して緑の丸薬を見せて問い掛けた。

「え? ああ…そうでした。もちろん意思は変わりません」
「……そうでしたね、私も飲みます」
「ええ、忘れかけてました。女王様の作ったものなら例え毒でも飲みますよ」

 なんとも締まらない返事だったが、三人とも飲むと宣言した。
 でも、毒でも飲むって……

「毒薬では無いと思いますよ。ただ、効果がどれぐらいあるのかが分からないだけです」
「もちろん女王様が私共に毒など飲まさないのは分かってますから。あくまでも比喩ですよ」
「そ、そうですよね。もちろん分かってましたとも。はは…」

 乾いた笑いで誤魔化した。

 「では」と三人とも俺の手から緑の丸薬を取って飲み干した。
 三人が飲んだのを確認して手に残る丸薬を確認する。残りは何かの機会のために収納バッグにでも入れておこう。

 あれ? 一個しか残ってないぞ?
 あっ! エランさんも飲んでる!

「エランさん……」
「はい、これは凄い薬ですね! 力が漲って来る!」
「ええ! 凄いです!」
「凄い凄い! なんだこれは!」
「これなら行けるぞ!」

 凄いしか言わないんだね。何が凄いのか分かんないけど、最後のカンさんは何処に行くつもりなんだよ。

『そんなに凄いものなのか』
 シュンとしていた白狼も、エルフの変わりようが気になったのか興味深そうに尋ねていた。

「それはもう! 力が漲るというか溢れ出すというか、今なら空でも飛べそうです!」
「ええ、ええ。たぶん飛べます!」
「では私が飛んで見せましょう!」

 いや、飛べないから! ヤバい薬みたいに飛ぶ飛ぶって言わないでくれよ! 渡した俺が、怪しいブローカー扱いされるじゃないか!

 カンさんが本当に飛びそうな構えをしてたので、慌てて止めたのに、横でエランさんが御者台から飛んでベチャってなってたよ。
 だから飛べないっての!

 オチがカンさんで、大オチがエランさんなのか? そんな役割いらないからね!


 ちょっとした騒動の後、予定通りヘルファンの町に向かった。
 白狼も、今は大人しく馬車を牽いている。その馬車の先導をするように俺を乗せたノワールが走っている。
 だが、徐々にスピードが上がってるんだ。後ろの白狼との差もあまり無い。
 白狼が詰める、ノワールが差を広げる。白狼が詰める、ノワールが差を広げる。白狼が詰める、ノワールが差を広げる。を繰り返した結果、町に到着した時には馬車に乗ってた三人のエルフがグダグダになってしまっていた。

 この二人は、なんでそんなに張り合うんだろ。元々仲が悪い種族なのか? 馬と犬、馬と狼……仲が悪い話は聞いた事がないけどな。アニメや映画なんかのシーンを思い出しても、逆に仲が良さそうなんだけど。

 必死でタズナを握ってただろうエランさんも汗だくで肩で息をしてる。すぐには行動できないな。
 馬車は町を入った所で待たせて、俺は商業ギルドへ向かった。
 このヘルファンの町は、まぁまぁ大きな町だから各種ギルドは存在する。もちろん冒険者ギルドもあるが、今回は商談だから商業ギルドで相談がいいだろう。
 俺は商業ギルドでもAランクだからね。


 商業ギルドでカードを出す。フィッツバーグの領主様の城で発行してもらった金色のカードだ。

「すいません、商談があるんですが少々事情が込み入ってまして、相談できる方はいませんか?」
「あっ! あなたは……失礼しました。イージ卿でございますね? 私は受付窓口のカミラと申します。今後とも我が商業ギルドをご贔屓に願います。イージ卿におかれましては、多岐に渡るご活躍を伺っております。商談でございましたね、すぐに担当を連れて来ますので、少々お待ち下さい」

 初っ端こそ驚きの声を上げたが、取り直してからは淡々と対応してくれた。
 このカミラさんは俺の顔を知ってたみたいだ。すいません、俺はあなたのような知的美人な女性を知りませんでした。
 一度でも会ってれば絶対覚えてると断言できる。が、覚えてないという事はそういう事なんだろう。
 一番、予想できるのがベイビーズ解放の時に民衆の中にいたとういう線が濃いだろうな。商業ギルドだから呼ばれた可能性は高いし、そんな民衆に紛れていれば俺には分からない。

 あまり詮索しても無意味なんだけど、嫁候補が二十人いるとはいえ、こっちに来てからはご無沙汰なのだ。
 あの【星菓子】メンバーとの日替わりデートのハードなスケジュールが恋しいよ。
 少し妄想を堪能していると、さっきのカミラさんと年配の男性と若い女性の三人が現れた。
 そんな三人を代表してカミラさんから声を掛けられた。

「イージ卿、お待たせしました。別室を用意しましたので、そちらまでご足労願えますか?」

 わかりました、と同意すると、カミラさんが先頭に立って案内してくれた。
 やっぱりそうなるんだろうな。フィッツバーグの町でも金色のカードだったから別室に行かされたっけ。その後の相談も別室が多かったな。

 同行メンバーはカミラさんと年配の男性と俺の三人だ。若い女性はカミラさんの代わりに受け付け業務をするために残った。
 別室と言われたが、そこは豪華な広い応接室で、ソファなんかの家具もそうだけど調度品も高そうなものが飾られていた。

 凄い……フィッツバーグの領主城の部屋ぐらい豪華だよ。

 お互いに自己紹介をし、それぞれ着席した。
 女性はさっき受付にいたカミラさん。年配男性の方は、予想通りここのギルマスで、ラングレイ・ハイドと名乗った。

「しかし、イージ卿のご活躍は素晴らしいですな。ジュラキュール王国でも爵位も勲章も授受されておられるのは伊達ではないようですな。これからもご活躍を期待しております」
「そうですわね、既にこの地でも素晴らしい功績を残されておられますものね。ところで、イージ卿は既にご結婚をされていらっしゃるのですか?」

 なんだろ、ただの社交辞令だと思ってたけど、目力が普通じゃない気がするんだけど。

「え、ええ、お褒め頂き恐縮です。結婚の方はまだですが、婚約はしています。ジュラキュール王国で待っててくれてますよ」
「そうでしたか……チッ」

 舌打ち? 聞こえてんだけど。

「いや、はは……ところで本日は商談と伺いましたが、どのようなお話でしょうか」

 あからさまに誤魔化したね。俺もその方がよかったんだけどね。

「はい、昨日のイベントで出した食料についての相談なんです」
「おお! 昨日は私共の商業ギルドからも何名かボランティアとして参加しておりまして、参加した者から報告を受けたのですが、その者達が興奮していて話がよく掴めないのです。よろしければ、マヨネーズ、唐揚げ、ウィンナーについてお話くださいませんか」

 興奮してるという事は好評だったという事でいいよね。だったら話は早そうだ。

「まずは食べてもらった方が早いですね」

 衛星に頼んで、唐揚げ、ウィンナー、野菜スティックを出してもらった。マヨネーズは収納バッグから少量のものを出した。

「唐揚げについてはボランティアの人達に作るのを手伝ってもらいましたので、その方達が分かってると思います。ウィンナーはレシピを差し上げますね。それで、マヨネーズですが、これはエルフに作ってもらっています」
「「エルフですか!?」」

 二人とも一心不乱に食べてたけど、エルフと聞いて驚いていた。うん、結構口の中のものがこっちに飛んできたよ。
 収納バッグからタオルを出して顔を拭く。

「「失礼致しました!」」
 そう言ってタオルを持って来させようとするが、もう拭いたあとだからと断った。
 まぁ、これで引け目を持ってくれたら交渉しやすくなるね。このまま憮然とした感じで行こうと心に決めたのであった。
 怒ってるけど、口に出して怒れない言い訳では無い、と付け足しておこう。

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