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第07章 チームエイジ

第23話 初の商談

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 ヨウムが森の中を移動させてくれた事は隠せたが、俺が転移魔法を使える偉大なる魔法使いになってしまった。ま、実際はそうじゃないし、魔族四人とバーンズさんの中でだけでだけど。
 魔族達には輸送をしてもらう予定だから、今後もヨウムに頼んで送ってもらいたい。この思い込まれたままだとマズイんで、魔族の四人には後でヨウムと顔合わせをして説明すれば誤解もすぐに解けるだろう。
 第一回目のエルダードワーフとの商談が終わるまでこのままだから、このあと更に魔族が鬱陶しくなるんだけどな。

 簡易小屋シンプル・バンガローを片付け街道に出た。
 野営をしていた場所からはすぐ近くだ。いや、ヨウムに送ってもらった場所だけど、やはり街道から近くだった。

 街道に出てみると正面にお地蔵さんが確認できた。
 すると、魔族達が一斉にお地蔵さんに駆け寄り、片膝を付き掌を組みお地蔵さんに祈りを捧げ始めた。
 魔族って、そんなに信仰深い種族だったの?

 遅れて俺とバーンズさんが近づき、お地蔵さんを確認すると…俺だった。お地蔵さんに顔は俺だったのだ。
 バーンズさんは笑いを堪えて、俺とお地蔵さんを何度も見直してるし、魔族達は懸命にお祈りしている。
 何に何をお祈りしてんだよ! 意味分かんねー。
 だいたい、お地蔵さんの顔はユーにしてって衛星に頼んだじゃん! なんで俺の顔になってんだよ!

『タマちゃん! どういう事だよ! なんで俺の顔になってんだ! ユーの顔に変更してって言ったよね!』
『それは、向こうの入り口の件ですね。こちら側は伺っていません』
『いや、普通ワンセットじゃん! 向こうを変えてくれたらこっちも変えてくれると思うじゃん!』
『では、変えますか?』
『うん! すぐ変えて!』
『誰に変えますか?』
 え? ユーでいいんじゃないの? いや、ちょっと待てよ、凄く笑ってるから腹立つし、バーンズさんにしてやれ。

『バーンズさんにして』

『Sir, yes, sir』

 お地蔵さんの顔が、パッと俺の顔からバーンズさんの顔に変わった。
 だが、まだ誰も気付かない。

「おい、君達は何に祈りを捧げてるんだい?」
 俺の言葉に、えっ? っという顔で俺を向く四人の魔族とバーンズさん。
 ニヤニヤ笑ってる俺を見て、お地蔵さんに顔を向ける五人。

「「「え――――!?」」」と声を上げて驚いている。
 魔族は、お地蔵さん⇒バーンズさん⇒お地蔵さん⇒俺⇒お地蔵さん⇒バーンズさんを繰り返して驚いている。
 バーンズさんはお地蔵さんしか見ていない。近寄ってお地蔵さんの顔をペタペタ触って確認したりもしている。

「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」

 まだ混乱してる五人にそのまま説明を始めた。

「ここが入り口ね。覚えといてよ。ここで合言葉を言えば道を示してくれるんだ」
 うん、まだ戸惑ってるね。帰りも同じ事をやるし、ここはさっさと抜けてしまおう。入り口でごちゃごちゃやってたら、何のために秘密にしてるのか分かんないからな。

「ア・シークレット・パッセジ」

 俺が合言葉を言うと、ゴゴゴゴと、バーンズさん地蔵が横にズレ、衛星の言うゴーレムが裏返って通路が出来ていく。畳返しのようにバタンバタンと地面がひっくり返って道が出来て行く様は見ていて圧巻だ。

「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」

 更に戸惑い狼狽える五人。

「はい、馬に乗って。ここは秘密なんだから人に見られない内にさっさと行くよ」
 まだ理解ができていない五人を促し急がせた。
 国境近くとはいえ、人の姿は無い。俺達のいるジュラキュール王国とエルダードワーフの里があるベルガンド王国の仲は悪いらしいから、国境を越えて行き交う人は元々少ない。商人が偶にいるぐらいではないだろうか。
 ジュラキュール王国と仲のいい国があるとは聞いた事も無いんだけどね。
 南のミュージャメン王国とも戦争してたしね。

 だからと言って、誰も通らないわけもないので、入り口は早々に隠したい。
 『リバース』って言っちゃうと道が元に戻ってしまうから、五分待たないとバーンズ地蔵が元に戻らない。
 それは困るので、バーンズ地蔵だけ戻す方法を聞いたら『クローズ』って言えばいいんだと。日本語でいいじゃんって思ってしまうが、この世界だと日本語も英語も分からないから、どっちでも秘密の言葉にはなるんだよな。
 俺が忘れたら、またタマちゃんに聞けばいいだけだからね。

 『クローズ』と唱えて先に進む。なぜか魔族は警戒しながら進んでいる。
 ランクで言うと、ノーマル、アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、オメガの六段階の三番目のブラボーぐらい。結構警戒している。

 先頭をヘリアレスが行き、殿をビランデルが閉める。中央に俺とバーンズさんを置き、前後を後の二人の魔族が固める。
 全く警戒する必要は無いのに、なぜか警戒している。

 その理由はターミナルに着くと分かった。
 エルダードワーフと共に、クラマとマイアがいたのだ。それも超不機嫌な顔をして。
 二人ともオーラ全開で俺達を待ち受けていた。クラマは赤、マイアは緑のオーラを強烈に発している。
 どうやら二人の圧力を魔人達が察して警戒していたようだ。
 凄いもんだね、そんなのが分かるんだ。俺には全く分からないんだけどさ。

「エイジー!」
「エ・イ・ジ・」
 俺を見つけると二人が俺を呼んだ。やはりいつもと雰囲気が違う、怒ってるのは間違いない。
 発してるオーラはそのままに、俺達の方に向かって来る。と、魔人達が警戒を強める。五番目のデルタぐらい警戒している。ほぼMAXだ。魔族の四人が馬から飛び降り俺とバーンズさんを前に集まった。全員武器を出して身構えた。完全な臨戦態勢を取っている。
 魔族が四人、相手はクラマとマイア。地形が変わるほどの大乱闘になるかもしれない。
 もう、一触即発のピリピリした緊張感が漂う。

 が、相手はクラマとマイアだし、いくら怒ってても俺に攻撃はしないだろ。普通に挨拶してやればいいよ。
 他じゃビビりの俺だけど、クラマとマイアには平常心でいられるのだ。なんせいつも苦労させられてるからね。

「どうしたの、クラマもマイアも久し振りだね。なんで今までこっちにいたの? すぐに帰ってくると思ってたんだけど」
「「へ?」」

 俺の言葉が予想外だったのか、呆気に取られる二人。纏っていたオーラも一気に萎んだ。
 それを見た魔族達の警戒も緩み、構えてた武器を下ろした。俺が普通に声を掛けたのも大きかったかもしれない。

「ななななにを言っておるのじゃ。エイジがここに残れと言ったのであろう」
「そ、そうです。これから取り引きが始まるので、その橋渡し役として任命されたと聞きました」
 えー? そんな事言ったかなぁ。言ってない気がするけど、言ったかもしれないか? いや、言ってないよなぁ。

「俺はそんなお願いしてないと思うけどなぁ。コウホウさんに誰か用意してとは言ったと思うけど」
 ターミナルの建屋の入り口は一つだ。俺達の正面にある。俺がそういう風に作ってくれって頼んだのだから間違いない。
 その入り口から、こそ~っと出て行こうとする影が一つ。

「どこに行こうとしてるのです? 今から商談ですよ」
 影の行く手を遮るようにパッと一瞬で移動したマイア。

「そうじゃ、どこに行くのじゃ? お主が責任者じゃろう。今から商談が始まるというに、責任者がどこに行こうというのじゃ」
 影の後を塞ぐようにクラマが立つ。

「い、いや、はは、忘れ物が無かったか…なんて…」
わらわも一緒に確認したのじゃ、忘れ物など無い」
「そうです。もし、あったとしても、次の時に出せばいいのです」

 二人に挟まれてタジタジになってるのは、広報担当の長老コウホウさんだった。
 クラマとマイアの態度から、もう内容は大体分かった。
 コウホウさんがクラマとマイアに何か言って誑かしたんだろうな。何を言ったかは分からないけど、何日も引き止められる言葉があったんだろうね。
 意外と策士だな、コウホウさんって。
 でも、それが今バレたのか。どうするんだろうね、コウホウさん。でも、バレそうなら一緒に来なきゃいいのに。

「リ、リーダー殿ー!」
 俺を目掛けて猛ダッシュしたコウホウさん。意表をついたようだけど、二人には通用しなかった。
 なんなくクラマに首根っこを後ろから掴まれ、吊り上げられて足をバタバタさせている。まるでノラ猫を摘んでるようだ。

「どこへ行こうというのじゃ? まずはわらわ達への説明が先じゃろ」
「ええ、橋渡し役ですとか、泉の見張りですとか、倉庫の管理ですとか、里の見回りですとか、周辺の魔物の排除など、色々とエイジの名前を語ってこき使ってくれたようですね。今のエイジの言葉とあなたの態度で分かってしまいましたよ?」

 えー、コウホウさん、この二人にそんな事させてたの? 俺が言っても絶対そんな事やってくれないよ? どうやって言いくるめたの、その手法を教えてもらいたいね。

「リ、リーダー殿! た、た、助けてー!」
「で? どうなのじゃ? エイジが言ったのか?」
「一つぐらい本当に事があるのですよね?」
「う……すみません!」
 大ピンチの中、言い訳を何も思い浮かばなかったのだろう、コウホウさんは言い訳せずに謝った。

「エイジ、わらわはこの者と少し散歩をしてくるのじゃ」
「私もお供いたしましょう」
「い、いや…ちょ…待って…ホント…ちょ…リーダー…たす…助けてー!」
「喧しいのじゃ!」

 ビシッ!

 クラマの手刀が吊られたままのコウホウさんの首筋に決まり、コウホウさんがグタッとなった。
「静かになりましたね。では行きましょう」

 森に消えて行くクラマとマイアを見送り、コウホウさんの冥福を祈るのだった。あ、まだ死んでないか。
 状況はハッキリ分からなかったけど、コウホウさんがクラマとマイアを騙してこの地に縛り付けたんだろう。
 方法までは分からないけど、あの二人を騙すぐらいだ。信憑性のある言葉だったんだろうな。その代償は非常に大きそうだけど。
 何て言ったのか、後で確認しないとね。


 そんなやり取りを呆気に取られて見ていたバーンズさんと魔族達に声を掛けて、建屋の中に入って行く。
 中には五名のエルダードワーフがいた。ブルブル震えて隠れていたけど、机と椅子ぐらいしかない部屋だから、全然隠れ切れてない。
 椅子や机を盾にしてこっちを見てるけど、俺達が入ったとたんに五人とも蹲って床に丸まってしまった。

「あのー」

 ビク―――――ッ!

 俺の声で全員が飛び上がった!

 面白れー。

「あのー」

 ビク―――――ッ!

 また飛び上がる。

 面白れーな、この人達。

「あの、エイジですけど」

 一気に脱力する五人の青い髪のエルダードワーフ。

「お久し振りです。えーと、誰が交渉してくれるんですか?」
「わ、儂だ」
 えーと……だれ? みんな同じにしか見えないから誰だか分かんないんだよ。
 でも、エルダードワーフでまともに話せるのはコウホウさんと王様しか……王様か!?

「…王様?」
「そうじゃ、リーダー殿、久し振りだな」
「お久し振りです、王様。王様が交渉してくれるんですか?」
「せん!」
「せんって……じゃあ、誰がやってくれるんですか?」
「リーダー殿だ」

 お、俺!? いや、俺は交渉相手だから。
「いや、俺はこっち側ですから、そっちは誰か立ててくれないと」
「まかす!」
「まかすって、どういう事ですか?」
「全部まかす」
「……」

 …元々、お金も知らない人達だったか……交渉なんて無理なんだな。

「分かりました。では、欲しいものを用意します。酒と素材と食べ物でいいですか?」
「いい」
「分かりました。前回の分は酒代として貰いましたので、今回は別で武具を用意してくれてますか?」
「これだ」

 王様は収納バッグを差し出した。俺が渡してたものだ。これに入ってるんだろうな。
 収納バッグを受け取り出す前に中身を確認した。
 前回分ぐらいの量は入ってるみたいだ。
 バーンズさんと魔族を呼んで、一本一本剣と槍を出して行く。

「バーンズさん、武器の目利きはバーンズさんもお手の物でしょうが、ビランデルとヘリアレスも得意なんで相談してくれますか。それで、それに見合った酒と素材と食料をどれぐらい出せばいいか計算してくれませんか」
「わかりましたぞ、エイジ様。しかし、見事な剣ですな。『七月剣』が霞みますな」
「す、凄い……」
「手…手が……」

 バーンズさんは一本一本丁寧に鑑定を始めた。その横で魔族の二人が一本ずつ持ったまま武器に魅入ってしまって動かなくなってしまった。

「ビランデル? ヘリアレス?」
「……」
「……」

「ガレンダ? これってどうしたの?」
「はい、恐らくビランデルは純粋に槍に魅入られてるのでしょう。ヘリアレスは欲しくて欲しくて葛藤してるのでしょう」

 ビランデルはあまりの逸品に惚れてしまって見惚れてるのか。で、ヘリアレスはどうやったら自分の物にできるのか、脳内作戦会議中なんだな。

「それ、あげるからさ、さっさと査定しちゃってよ」
「「えっ!」」
「だって、このままじゃ仕事にならないだろ。その持ってるやつ自分の物にしていいからさ、さっさと仕事してよ。あ、その持ってる分もちゃんと査定はしてよ」
「「えっ!」」
「えっ、じゃないから。それをあげるから、さっさと仕事をしてって言ってんの」

「「え――――――――!」」

「ガレンダとタレランも気に入ったのがあったら取っていいからね」
「「はっ! 有り難き幸せ!」」

 深々とお辞儀をする魔族の横で、ジーっと物欲しそうに見てくるバーンズさん。
 あんたもか! あんたには『七月剣』あげたじゃん!

「バーンズさんもですか? でも『七月剣』をあげたじゃないですか」

 その言葉で泣きそうになるバーンズさん。
 あんたは子供か! もう仕方が無いなぁ。

「わかりました。バーンズさんも一つ選んでください」
「ありがとうございます!」

 それから二時間ほどで査定も終わり、その査定金額の集計をガレンダとタレランの二人が大急ぎでやってくれた。
 その査定金額の合計から、酒、素材、食料がどのぐらいになるか、バーンズさんが想定してくれた。
 見返りの酒、素材、食料は、バーンズさんが考えつく一番高いもので計算してもらった。
 たぶん、俺が用意するものは、それより高いものになるだろうから、どっちも得するんだけどね。
 だって、酒は『龍王の杯』だし、素材はミスリルライドとロンズデーライトだし、食料は衛星に料理を作ってもらうつもりだ。普通には仕入れられないものばかりだから金額が付けにくい。だからバーンズさんが出したものをこれらに置き換えて渡そうと考えてるんだ。

 結果、剣が一三四本、槍が六四本を仕入れて、『龍王の杯』を五〇樽、ミスリルライドとロンズデーライトをそれぞれ倉庫半分ずつ、料理を千食分。
 エルダードワーフ側に渡すものを、衛星に頼んで空の収納バッグに入れてもらって王様に確認してもらった。
 いい笑顔でサムズアップしてくれたから満足してくれたんだろう。

 第一回目はこれでいいとして次からどうするかだな。
 コウホウさんはいないが、一応顔合わせは終わったし、次からはこの六人のうち、誰かが来るからと王様には伝えた。エルダードワーフ側は、ここにいる者が担当するそうだ。俺には全く見分けは付かないけどね。

 次からも査定はこちら任せになるだろうから、同じ分だけ衛星に用意してもらって、差額が出ればその次の回で調整するようにした。
 その内、エルダードワーフに渡す分も、なんとか仕入れできるようにしないと、ずっと衛星頼みってわけにもいかないよな。
 素材回収班と酒の仕入れ班を考えないとな。
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