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第36話「本気のぶつかり合い!達樹vsアイドル因子!」

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「行きますよ!!」

「ちょっ!」

 有無を言わせず少女は達樹へ全力で襲いかかる。
 俊敏に打ち出される打撃をギリギリでいなしていくが達樹の反射神経よりも少女の攻撃スピードが勝り手痛い一撃をくらってしまう。

「がぁっ!!?」

 その可愛らしい見た目とは反した重く絶大な威力によろめく。
 続け様に繰り出された飛び回し蹴りは顔面を直撃し激しく蹴り飛ばす。

「まだ本気で戦えていませんね。女の人と戦う度にこのくだりやる気ですか?」

 口から流れ出る血を拭き取りつつも立ち上がる。

「……お前こそこんな煽るタイプの人だったっけ?」

「久しぶりに全力で戦えるって思うと嬉しくて。それに本気で来て欲しいですから!」

 再び猛攻が達樹へ襲いかかる。素早く連続で繰り出される強烈な一撃を捌き切る事は困難でダメージが蓄積されていく。

「…………っ!」

 少女の拳が伝えてくる。彼女は本気で輝世達樹という人間と一対一で向かい合おうとしている。
 一人の戦士として。パートナーとして。
 傷つくことが怖いとか痛い思いをしたくないといった女の子らしい思考はしていない。
 強い意志が伝わってくる。真に心を通じ合う為にもお互い戦士として今本気でぶつかり合わなければならないと。

 達樹は繰り出された拳にこちらも拳をぶつける事で相殺。
 両者距離を取る。

 (俺はずっとこの子の気持ちに寄り添えてなかった。守ってやらなきゃダメだって思ってた……でも違うよな。
 こんな本気で立ち向かう意志を示してる相手に戦わせねぇなんてのはそんなもんは俺のエゴだ)

「わりぃな。ウォーミングアップは済んだ…………こっからはマジで行くぜ!」

「是非そうしてください。行きますよ!!」

 ――――――――――
東京 某結婚式場 16:00

「ここよね……」

 謙也に呼び出された京子はDelightを抜け出し待ち合わせ場所の結婚式場へ辿り着いていた。
 着いた事をダイレクトメッセージで伝えると中まで入って来て欲しいと返信が来る。
 指示通り入り口の扉を開けて中の様子を見ると人影は一切無く閑古鳥が鳴いていた。
 営業自体はしているはずなのにこの人気の無さ。違和感を感じながらも進んでいく。
 指定された挙式会場の扉を開けるとそこで待ったいたのは長年思い続けた最推し。金塚謙也の姿があった。

「やっと来てくれた。会いたかったよ京子」

「でぃ……ディブ君!!私もよぉ!!ぎゅうしてぇん!!」

 優しく微笑みかけてくる謙也の元へハグしてもらおうと駆け出す京子。だが辺り一体から漂う異臭に強烈な違和感を感じその足を止める。
 会場自体にあまり明るさがない事から気付きにくかったがあらゆる箇所に血が飛び散った後がある。
 その異様な有様につい後退りする京子であったがその際に何かに脚が当たってしまう。

「えっ……なに?」

 目線を下に落とす。すると京子の視界に飛び込んできたのはスプラッタ映画に出て来るような見るに耐えない死体が複数体転がっていた。

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「京子大丈夫だよ。なんか口答えしてきてウザかったからさ。殺してあげたの」

「……でぃ、ディブ君がやったの……?これ全部……?」

「そうだよ。だって俺達の愛を邪魔しようとしたんだから当然だよね。だって俺京子の事大好きなんだもん」

 前後の文の繋がりと脈絡のない発言。そして完全に瞳孔が開き切った狂気の面に身慄いする京子。
 思い焦がれていた推しの変わり果てた姿を受け入れることができない彼女は目の前の現実から目を逸らす事に必死になる。

(きっとこうしなきゃ行けなかった訳があるのよ。正当防衛なのよきっと。
 早くディブきゅんにぎゅうして貰わなきゃ……愛しの彼が待ってるわ京子。早く行ってあげなきゃ)

 京子は吸い寄せられるように謙也の元へ歩み寄っていく。
 目前まで迫った彼女の背中を包み込むように謙也が正面から優しく抱きしめる。

「目、瞑って」

「うん……」

 京子は謙也を信じてその瞳を瞑る。
 だが非情にも口付けを待ち望む盲目な少女の眼前に迫る物は長年自分を想い続けて来た少女を5年の歳月を経て容赦なく殺せることへの興奮と殺意に満ち溢れた拳であった。

「ありがとう。そしてさよなら」

 ドガァァ!!

 勢いよく振り抜かれた拳は京子を捉える事はなかった。
 謙也の目の前から消えた京子は黒鴉こくうを展開し刃を構える未萌奈により抱き抱えられていた。

「あなたは昨日の……」

「こんなに早く会えると思ってなかったよ。お前達二人とも殺せば……俺はより驚異的な力を付けることが出来るだろう」

「殺す……?ディブ君何言ってるの?私の事殺したらもうぎゅうもちゅうも出来ないんだよ?愛し合う事も出来ないんだよ!?」

「違うよ京子。俺に殺されてようやく愛ってのは成就する。お前だって口ではそう言いつつ俺に殺されたいんだ。
 俺にボコボコにされながらも貢ぐお前の姿は滑稽だが美しかった。愛おしさもそこには微ながらもあっただろう。
 だが今の俺はそんな低い次元に立っていない。俺を想い慕い続けたお前の想いを踏み躙り無様に殺す事で俺はより高貴な存在となる!!」
 
 京子はかける言葉を見失った。幻想が打ち砕かれた感覚。今まで魅せて来てくれたものは仮初だった?私だけは特別だと言ってくれたあの言葉も?その現実に京子のメンタルは限界を迎え涙が頬を伝っていた。
 いっその事推しの言うままに殺されてあげてもいいと思えた。

「わ、わかったわぁ……それがディブ君の愛だって言うなら私……この命捧げる」
 
 命を投げ出そうとする京子に対して未萌奈の怒りのビンタが炸裂し胸ぐらを強く掴む。

「いたっ!!なにすんのよぉ!!」

「屈すんなぁ!!!」

「……は?」

「あんなこの世の底辺みたいな男の言いなりになるな!!あんたみたいな男の尻に敷かれて言いように使われてカス男に媚び売ってる奴見てると腹立ってしょうがないの!!」

「そ、そんなの知らないわよ!!」

「世界は広い。あなたの事を本当に想って愛してくれる人が絶対にいる。だからここであんな奴に殺されちゃダメ。あなたはもっと幸せに生きることが出来るはずだから」

 未萌奈は京子の背中を押して今すぐここから出ていくよう促す。

「遠くまで逃げて。今はとにかく私の言う通りにして」

 京子は溢れ出る感情をなんとか振り切り全力で会場を飛び出し駆け出していく。
 そんな京子を逃すまいと謙也が飛躍。容赦なく彼女の頭蓋を打ち砕こうと襲いかかろうとするも未萌奈の黒鴉により阻まれた事で京子は脱出に成功する。

「必死にがっつく男は見苦しいんだって教わらなかった?」

「……まずはこっちから殺すとするか」
 
――――to be continued――――

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