灰色の冒険者

水室二人

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第1章

召喚されて殺されるまでの1年間(表) その5

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 気がつけば、あたり一面火の海だった。

 画期的な技術。大幅な戦力向上を果たせる魔法の道具。

 そうなるはずだった。

「なぜ?」

 異世界人につけた監視者から、受け取った魔方陣。そのメイドは、見た物を一瞬で記憶する能力がある。

 少し時間がかかったが、それを複製させ、検証した。

 それを、研究所の人員を使って量産した。単体で発動はしない。何か、鍵となる別の物が必要と言うところまでは、解析できた。

 鍵となる道具を用意して、札を使う事で魔法を使う。おそらく、札の魔方陣を変えることで、色々な魔法が使えるはずだ。

 その鍵となる道具を、メイドに命令して探させている。それが手に入れば、この準備した札は役に立つ。魔方陣は、作るのに時間がかかるので、早目の準備が必要だ。

「なぜ?」

 もう一度同じ事をつぶやく。あたり一面は火の海。

 突然、札が燃え出したのだ。一瞬で火は広がり、もう逃げることは出来ないだろう。火を消そうと、水魔法を使ってみたが、消すことは出来なかった。

「俺たちに、恨みがあるのか?」




 それが、この男の最後の言葉となった。

 この日、賢者の国の研究機関のひとつが消滅した。




「恨みが無い分けないだろう?」

「どうかされました?」

「なんでもない」

 部屋でくつろぎながら、今まで作った道具の点検をしている。

「正義様、よろしいでしょうか?」

「ん?」

「この札、なぜこんなに広がっておいてあるのでしょうか?」

 テーブルの上いっぱいに、広げてにおいてある札。5種類の札があり、重なることなく50枚おいてある。

「これ、盗難防止で専用のケースいいれずに重ねると、罠が発動するようになっているんだよ」

「罠ですか?」

「この前使った火の札なら、半径10メートルは火の海になるかな」

「・・・」

「どうかした?」

 アイさんの顔は、真っ青だった。

「な、何でもありません」

「そう?」

 と言っても、俺は知っていた。アイさんがなぜそんな顔をしているのか。

 間接的に、人を殺したことになるが、もう既にこの手は血まみれだ。

 出来れば、勇気にはこんな思いをさせたくない。

 彼女を守るために、できることやろう。

 そう強く思っていたが、恐れていたことがおきてしまった。




 異世界にきて2ヶ月目。勇気が果て無き迷宮から帰ってこなかった。

 いつも一緒に言っていた、騎士たちも戻ってこない。

 迷宮の、かなり深いところまでその日は行くと言っていた。

 準備は万端。戦力的にも大丈夫なはずだった。

 俺も、一緒に行けばよかったのだが、その数日前に無理をして倒れてしまった。

 魔道具の製作で、必要以上の魔力を要求され、欲に負けてつぎ込んでしまった。

 それが完成すれば、色々と楽になる。勇気のことは心配だったが、賢者の国の連中には、まだまだ使い道があるから、何も手を出さないと思っていた。

 だけど、戻ってこなかった。

 迷宮は、危険が多い。少しのミスで命を落とすこともある。

 わかっていたつもりだったのに、順調な日々で、危機感が薄れていたのかもしれない。

 何もかも、手遅れだ。

 しかし、何もしないと言う選択肢は無い。

 この世界は、魔法で色々とできる世界だ。

 可能性は、ゼロではない。

 何を作ればいいのか、何が出来るのか、そして何をすればいいのか。

 後は考えて実行するしかない。

 俺は気合を入れて、研究室への扉を開いた、


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 小説家になろうでも投稿しています。
 1章は、毎日更新予定です。

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