私の愛した召喚獣

Azanasi

文字の大きさ
上 下
106 / 116
第五章 救出に向けて

【自衛隊異世界へ行く3】

しおりを挟む
【自衛隊異世界へ行く3】

 ファンテーヌ領、アルバハ高原
 
 奈津が森に入る点で注意を説明していた。
 隊員達は先程まで奈津にボコボコにされていたのでしっかりと聞いている、よそ見をしたりしている隊員が全くいないのは好感が持てる。
 
 「今から森に入りますが、今回の森へ入る趣旨は討伐が目的ではなく魔物になれて貰うって事が主体で、でも反撃しないと殺されますのできちんと反撃して下さい。
 今回はいる森はゴブリンと一角兎、オークが主体です。一角兎はこの平原で森にはあまりいないです。馴れて貰うのが主体なので今日はいる森にはあまり強力な魔物はいません。」
 「先程も行ったように馴れるのが目的なのでチームでの連携や討伐での作戦も行わない。以上!!」
 「今から森へ入る、チャンバー内に装填、セフティー解除」
 隊員達が一斉にコッキングレバーを引く音が響く!
 
 森に向かって歩き出した。
 日本の森と違って気の大きさが全く違うのだ。
 幹の根などが行軍を邪魔して非常に歩きにくい。
 
 ポイントマン先頭を奈津が勤め後に隊員が続き最後尾を副団長のレナートが勤める。
 5km程、森を進んだ時だった。
 「前方800mに魔物が北西方向に5体移動中、先回りする、遅れないように」
 奈津はそう言うと急ぎだした。奈津の移動速度は速い、これでも隊員達の事を考えて押さえて歩いているつもりだ。
 
 「げっ、マジかよ、森の中をこの早さで移動なんて有りかぁ」
 隊員達のぼやきが上がっている...
 
 10分ほど移動して奈津は止まった。
 「散開!!、射線上に味方の居ない事を確認するのを忘れるな!!、発砲許可を出すまで撃つなよ!!」
 隊員達は物陰に隠れて息を懲らしてじっと魔物が視認出来るまでじっと待つ。
 隊員のうち2名ほどは木に登っていた。
 (クッ!、心臓が早鐘のようにばくばくと行っているのがわかる、緊張で胃が口まで上がってきそうなのをじっとこらえてひたすら待つ。)
 
 「ガサ、グェッ、ウゴボ、」
 数分ほど待っただろうか、枝が折れるような音と変な鳴き声が聞こえてきた。相手側はまだ、こちらに気付いてないみたいだ、接近するゴブリンは6体だった。
 
 奈津は隊員の方を見ながら、腕を上げる。「ヨーイ」
 腕を振り下ろすと同時に「テッ!」と指示を飛ばす。
 
 「ダーン、ダダダーン」
 隊員は一斉に発砲した。。。64式の発砲音が森に響く...
 立っているゴブリンは一体もいなかった。
 
 「集合!!」
 奈津が号令を掛け、隊員達を集めて倒したゴブリンの所へ隊員達を連れて行く。
 「ウ、ウェッ」
 何名かの隊員がゴブリンの死体を見て吐いている。腹部に数発くらったゴブリンは内蔵をはみ出していて見た目が非常にグロイ...
 それでも半数以上の隊員は平気なようで恐らく実戦経験があるのだろう。
 経験はあるのか?との問い合わせにはノーコメントと返って来た。
 
 「魔物は大抵、体内に魔石を持っている、見ていろ!!」
 奈津は倒れたゴブリンの横に腰を下ろすとゴブリンの心臓付近にナイフを突き立てそのまま10センチほど切り開く・・・切り開いた傷口に手を入れて魔石を探す。
 それを見ていた隊員は皆、一様に顔を歪ませて背けている。
 確かに異様な光景である、倒した魔物、それも人型の魔物の体を切り開き手を突っ込んで魔石をまさぐり取り出すのだから余程馴れてないと精神的な負担が大きいのは明らかだ...
 
 「さて、皆さんが倒したゴブリンから魔石を取り出して下さい。」
 奈津の言葉を聞いて皆、一様に嫌な顔をしている、まあ、わからないではないが・・・得体の知れない魔物の中に手を入れるのは抵抗が有るのは十分にわかる。
 
 「ちょっと待って下さい。我々は救助が目的です、その過程で魔物に対抗する必要があるのはわかりますが魔石を取る必要は無いと思いますが...」
 自衛隊側の隊長、香川1佐が意見を言ってきた。
 (あんなグロイ事はしたくないぞ!、そもそも救出が最優先なのになんで気色悪い思いしてまで魔石を取る必要はないだろう。)
 
 「ま、嫌なら別に構いませんよ、私は日本政府側の意向に沿っただけですから・・・」
 「日本政府の意向って...どう言うことでしょうか?」
 
 「あぁ、それね、訓練過程で隊員が倒した魔石の所有権は日本政府にあるって事になってる、まあ、1週間は魔物相手にするからそれなりの量の魔石のが取れるだろうと期待はしてるみたいだけど・・取らないなら所有権放棄って事でうちで頂いて日本側に売って上げるわ。」
 
 「・・・・・」
 隊長の香川は考えていた・・・
 そんな事になったら後でなんと上層部に言われるか?
 俺たちの本来の目的は失踪者の救助にあるとそれは間違いない、が政府はこの世界の資源にも重点を置いているのもまた、事実だ、訓練の過程で得られた物は出来るだけ持ち帰ること、持ち帰れない場合は調査だけでも行うように指示を受けているのもまた、事実だった。
 (くそぉ、政府は何を考えてる?、俺たちにこんな事までやれって言うのか?)
 
 「隊長、我々の目的は救出活動であって魔石集めではありません、魔物と戦ってるのはあくまでも救出活動の為に必要な一環で魔物とは言え死者の尊厳を踏みにじってまでする事ないんじゃないんじゃないですか?」
 
 住田隊員:救出活動に関係ないあんなグロイ事なんかやってらえるかってんだ、そんな事に時間を掛けるぐらいなら次に進むべきだ。そんな事を考えながら目の前に広がる光景を見ていた。
 
 彼が見るその前にはゴブリンのグロイ参上が広がっていた。
 木に囲まれたちょっとした空間があった。そこには5体のいや、正確には元5体のゴブリンの残骸があった。
 飛び散った内蔵、一面に広がった緑色の血液がそこら辺りに飛び散っている
 
 「各員、倒したゴブリンの魔石を回収を急げ!!」
 「た、隊長、本気ですか?」
 「何度も言わせるな、速やかに回収せよ!!」
 
 「どうでもいいけど、回収するならするでさっさとしないと血の臭いで他の魔物を呼び寄せるわよ、」
 
 「そう言う事らしい、さっさとやるぞ」
 そう言うと隊長の香川はまだ、取り出していないゴブリンの胸をナイフを入れて魔石を取り出し始めた。
 他の隊員達もぼやきながらではあるが「ゲッ」などと呟きながら隊長と同様に魔石の回収を始めた。
 奈津が1体は取り出したので残りは5体、数で言えば四人はあぶれるのだが実際に取り出しを始めたのは隊長を含めて3名の隊員だけだった。
 
 「さっさと移動するぞ!!」
 魔石を取り終えたのを確認すると奈津は隊員に移動を開始するようにかせた。
 
 森は静寂に包まれていた。むしろ静かすぎると言って良いぐらいだ。
 普段は風に揺れて枝のすれる音すらしない、そんな中で奈津だけは魔物の気配を感じ取っていた。
 ”結構な大きさだわ、多分地竜ね、数は3頭”、こんな森の浅い所で出くわすなんて思ってなかったけど、血に誘われたのかしら?、彼らの銃で地竜の鱗を貫通可能なのかしら?ましてや突進してくる地竜を相手に止めるだけのパワーがあるか.50BMG辺りだと大丈夫ってルーカスは行ってたけど、今回のはどうもそうじゃないみたいだし数も3頭...ここは安全の為に避けるべきね。
 地竜の相手をさせるにしてももっと経験を積ませた方が無難だわ...
 
 「東側から地竜が接近しているわ、急いで移動するわよ。」
 こんな開けた場所にいたら格好の餌食だわ、向こうは血の臭いに気がついていても幸いにこちらの存在には気付いていないはず。
 
 「倒さないんですか?」
 隊長の香川は地竜の討伐に積極的なようだ。..
 (そういや竜の鱗も欲しいって言ってたよなぁ~簡単に倒せるのなら倒しておきたい。)
 
 「倒してみる?、恐らく今の銃では地竜の鱗は貫通出来ない可能性が高いわ、考えてみて銃の聞かない像よりも大きな竜が3体それをやれると思う。?」
 それを聞いていた隊長はきびしそうな顔をしながら奈津の話を聞いていた。ただ、それよりもあたりに立ちこめている血の臭いが気になっていた。
 
 「うーん、きびしそうですねぇ、対戦車用のパンツァーファウストでも持ってくればよかったかな?、一応、宿舎には持って来てますが・・」
 
 「貴方たちの目的は別に地竜を倒す事では無いわ、救出の目的地まで如何に戦闘を少なくしてたどり着くかの方がずっと大事って事を覚えて置いてちょうだい。目的と手段を履き違えないようにね。」
 
 「では、ここから一旦、南東方面に移動して、地竜をやり過ごした後に東へと移動するわさぁ、行くわよ。」
 奈津は移動を開始した...
 隊長:皆行くぞ、遅れるな!!
 
 「教官、南東への移動の根拠は何ですか?」
 隊員の一人が聞いてきた。
 
 「地竜は東から来ていると言ったわよね。風は西から吹いているわ、そのまま東へと向かえば地竜に鉢合わせするし、西へ移動すれば鉢合わせせずに早く移動出来る代わりに風上だから我々の存在も察知されるわ、だから一旦、南東方向に移動して地竜をやり過ごしてから東へ向かい地竜の風下に回れる」
 
 「成る程ですねぇ...でも、素直に離脱しないのはどうしてですか?」
 隊長は、戦わないなら素直に離脱すべきなのに回り込むのは何故だか不審に思っていた。
 
 「そうねぇ、可能ならその銃が通用するかどうか試して置いた方が良いと思う。今回は討伐しなくても救出の時に遭遇する可能性もある訳で戦えるかどうか確認して置いた方が無難だろう。」
 奈津としては何処まで銃が通用するかを確認しておきたかった、今日の様子だとおーくあたりまでは行けるだろうがオーガならどうか?、そんな事を考えながら南東方向に移動していた。

 東南方向に移動して地竜をやり過ごした後、東方向に移動した。地竜はゴブリンを貪っている。地竜までの距離は約200m、森の中の為、木々の間からちらほらと見える程度だ。
 
 「ここから狙えますか?」
 奈津は逃げる事も考えるとこれが接近出来る限界の距離と判断して隊員に尋ねてみた。
 「大丈夫です。余裕で狙えますよ。ターゲットも大きいですしね。」
 200m離れても相手は像より大きな相手、体を狙って撃つには十分だろう。
 
 「良いですか?、倒す事が目的ではありません、銃の効果を見たいので1発で構いません、一発撃ったら撤退しますのでそのつもりで射撃して下さい。」
 
 隊長の香川が部下に指示を出した。
 「竹林、お前がやれ!!」
 「ハイ!!」
 竹林2槽は伏 射で地竜を狙って射撃体勢に入っていた。三木2槽がスポッターに入ろうとすると竹林が、的があれだけデカいと問題ないよと笑った。
 
 「ダーーーン」
 銃声が森に響くと同時に地竜が”ビクッ”としてこちらを振り返るがこちらを認識する事は出来なかったみたいで、すぐに何事もなかったようにゴブリンの死体を貪りだした。
 
 「効果は無しだな。..」
 どうやら7.62mmの銃弾は堅い鱗に阻まれて貫通させる事は出来なかった、どうやらちょっと痛いぐらいの感覚だったのだろう。
 
 「よし、離脱するぞ!!、音を立てるな。」
 銃による効果が無いと分かった以上、ここに残る理由は何もなかった。地竜に気付かれないようにその場を後にする。
 
 
しおりを挟む

処理中です...