【第二部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―治療の後に―

409話 現場に急行

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「シベル、もっと飛ばしなさい!」

「わかってる! しっかりさくらを支えとけ!」


白亜の聖都市直上を、突風の如き豪速を誇る竜が翔ける。その上に跨るは、3人。手綱を握るはシベル、一番後ろにはマーサ。その間に挟まれ守られるように、さくらが。


彼らは魔神メサイアに用意してもらった特急竜に乗り込み、一目散に獣群襲い来る村の一つへと向かっているのである。






「こういう襲撃って、よくあるんですか…?」


落ちないように必死に捕まりながら、さくらは後ろに居るマーサに問う。すると彼女は眉に皺を作りながら首を横に振った。


「いいえ。滅多にありません。 メサイア様の聖なる光が及ぶ範囲下では、どの動物も基本温厚なのです。 最も、光が届きにくい境界付近に棲む子ならばそれも当てはまらなくはないのですけど……」


流石は聖なる魔神メサイアの威光。彼女の放つ輝きは獣達の心をも落ち着かせる効果もあるらしい。だがしかし、マーサの口ぶりから察するに限界がある様子であり、今回に限っては――


「……今向かっている村は、境界と聖都の丁度中間付近。聖なる光の効力が充分なこともあって、聖騎士達の配備は手薄なのです。 なのに魔獣が暴れ出し、しかも他の場所にも同時多発でということは……――」


「十中八九、何者かがけしかけたということだろうよ」




マーサの説明の最後の台詞を奪い取るように口にしたのはシベル。マーサは彼をキッと睨み、咳払いをひとつした。



「……ここ最近、各国各所でこれと似たような事態が散発しているらしいのです。急に獣達が暴れ出すという―。そしてそれに乗じて、以前さくらさん達が『界境都市レドルブ』で解決したという、家畜盗難事件と似た事例も幾つか起きています」


「え…!」


その話に驚愕するさくら。 しかしそれは仕方のないことであった。竜崎が昏睡状態になってから、さくらはずっと桜を咲かせる魔術を修行に没頭していたのだ。


そんな状況且つ、一市民である彼女が各地での小さな事件群を知る訳がないのも当然。マーサもそのようにさくらを宥め、話を続けた。


「一部では犯人が捕らえられていますが…やはり何者かに『動物を生きたまま捕まえてくれば報酬を渡す』とそそのかされたならず者達ばかり。 捕獲のため魔獣達の縄張りで暴れた影響や、混乱に乗じて強奪を行うために事態を引き起こしたと証言しているのですよ」


そこで一呼吸置くマーサ。そして、さくら達が関わった家畜盗難事件から話を伸ばした。


「レドルブでの一件は、『追悼式』での旧魔王軍兵達による反乱に関係していると聞き及んでいますが…。もしかしたら、今回も同じように…――」



「何か大きな陰謀が蠢きだしている。 一部ではそう囁かれ始めている訳だ」





…再度台詞を奪ってきたシベルへ、マーサは先程より強くギッと睨む。そして大きめに咳払いを。



「……あの旧魔王軍兵達の首魁は間違いなく、例のナナシ謎の魔術士達。ただ彼らは、病室で賢者様がリュウザキ先生に伝えた通り、動きを見せていません。 ならず者達の証言にも、彼らの人物像と被る黒幕はいませんでしたが…―」


「とはいえ彼らの実力はお前が見た通り。そして目的が明確な以上、もし奴らが復帰した場合、大騒動を引き起こすのはわかり切っている。 だから各国はその準備に追われてもいるってな」



「―――シベルっ!!!」







再三の台詞強奪に、とうとうマーサは声を荒げる。シベルはそれを肩で笑いながら、付け加えた。


「それが理由で兵が上手く回らず、この国でも少しばかり問題になっているらしい。なにせその魔獣暴走は、計画性も何もなく、いつでもどこでも引き起こされてしまう面倒事だ。 だが、逆手に取れば――」


「それが起きている限りは、未だ相手も準備段階の可能性が高いということ。 更に犯人さえ捕まえることができれば、侵入経路や依頼元等の情報を入手できるのです。 組織だってない以上捕えやすく、告解自白もすぐにしてくださるのですよ」



……今度はマーサがシベルの台詞の先を奪った。背後を睨んでくるシベルに、マーサは鼻をフフンと。相変わらずの二人である。










――と、そんな折。シベルの獣耳がピクっと動く。 少し遅れて、さくら達の耳にも喧騒が飛び込んできた。


「到着したか…!」


竜にブレーキをかけながら、シベルは下を見る。さくら達もそれに続くと――。



「怯むな! 盾を構え押し返せ!」

「村民の避難が最優先だ! 焦るな! ここで抑えきれる!」

「逃げ遅れていた者は確保したか!? よし、すぐに治療担当の元へ!」



既に到着、対応に移っている聖騎士部隊が。 しかし魔獣の数はかなりのもの。キメラや人獣という狂暴な種も多く交じっているせいもあって、魔神メサイアの懸念通り村付近での対処となっていてしまっていた。


「防衛はできているが、すぐには攻勢に転じ切れない、といった様子か。 なら…マーサ、手綱を頼むぞ」


戦況を軽く分析したシベルはそう頼み、突如詠唱。自分の顔、喉、手足に複数の魔術を付与していく。更に、竜の顔にも。 それで戦術を察したらしく、マーサは溜息交じりに頷いた。


「無茶し過ぎないようにしなさいよ。 あと、リュウザキ先生の言い付けを守りなさい」


「言われなく…ともっ!」



「……えっ!?」


瞬間、さくらは目を見開く。 何故なら……シベルはマーサに返事をしながら、竜より…高所より勢いよくのだから。










およそ飛び降りるには高すぎる、常人であれば地面に叩きつけられるような高度。 だというのにシベルは平然と。マーサも驚くことなく。


「えっ、えっ!?」


困惑するさくらを宥めるようにしつつ、マーサはシベルより任された竜の手綱を握る。そして竜の向きを変え、下を見やすくしてくれた。


「安心してください、さくらさん。あれシベル、頑丈ですから」


いや頑丈の一言で済むような代物では…! あわあわしつつさくらがシベルを注視していると、彼はそのままの落下速度で地上に……!



 
 ズゥンッ――!




……見事に着地した。ヒーローのように。 どうやら足に付与していた魔術は、落下耐性をつける魔術らしい。


突然の落下物、否、落下獣人に、一部魔獣達は気を取られる。だが、シベルの狙いはそれではなかった。彼は大きく口を開け、息をこれでもかと吸い込み…――。


「さくらさん、耳を塞いでくださいね」


「へ?」


竜の上のさくらは、マーサの突然の指示に従い手を耳に。 ――すると、その直後であった。





『グゥルァオ゛オ゛オオオオオオオオオォオッッッ!!!!!』






――突如場を震わし響き渡ったのは、猛獣の咆哮。 いや、違う…! この咆哮の主は…!


「シベルさん…!?」


驚愕を露わにするさくら。間違いなかった。およそ人のものとは思えぬ咆哮には彼の声を感じるし、何より……。


「魔獣達に向かって…叫んでる!」



そう。シベルは牙を鳴らし、暴れている魔獣達へ盛大に吼え立てたのである。すると――。


「グル……」
「ガルル……!」
「ギャゥッギャッ!」


驚くことに、そこかしこで暴れていた多数の魔獣達が一斉に彼の元へ向かい出したではないか! まるで、売られた喧嘩を買うかのように猛り狂って!


「あれって……?」


「『ウォークライ』と言いましょうか。シベルの獣人としての力と、誘導魔術や拡声魔術等の合わせ技です。 要は…囮になっているのですよ」


「囮……!」


マーサの言葉をそう反芻し、改めてさくらは下を見やる。なるほど確かに、聖騎士達の前からは大分魔獣は減った様子。


だがしかし、その分シベルへと突撃していってるだけに過ぎない。1人対大量、いくら竜崎の教え子の1人とは言え、流石に多勢に無勢……


「フン! そのままこっちに来い!」






「えっ!? シベルさん…どこに!?」


更に驚くべき事態が起こり、さくらは目を白黒。シベルは得物であるトンファーを構えはしたものの、即座に転進。村から離れるように走り出したのだ。


強化魔術を施したであろうその脚力は凄まじく、追いかけてくる魔獣達と一定の距離を保つことのできる速度。彼はそのまま遠くへ行き、急カーブや突進を駆使して魔獣達を翻弄しはじめたのである。



襲い来る敵を自らへ呼び寄せ、拠点より引き離す。見事なる囮である。……だが、多勢に無勢に変わりはない。


それどころか、何故かシベルは逃げ続けるのみ。彼の実力であれば隙を見て一匹づつ屠れるはずなのに……。それにさくらが首を捻っていると、マーサは竜を動かしながら教えてくれた。


「この国ではメサイア様の啓示に従い、無暗な殺生を減らすように心がけているのですよ。聖なる光を注ぎ込めば、あのように暴れていても大人しくすることができますから」


人を襲うのを好む獣ならいざ知らず、恐らくあの子達はならず者に身を脅かされただけですから。 そう説明しつつ、マーサは村の内側…防衛する聖騎士達の後ろに竜を着陸させる。


彼女はさくらより先に降りると、盾を構える聖騎士達に駆け寄り何か話を。そして、追いついてきたさくらへ指示を出した。


「さくらさん、私はシベルの元へ向かいます。 さくらさんは彼らに守ってもらいながら、精霊でシベルのウォークライにかからなかった魔獣達を少しずつここへ誘き寄せてください」


「は、はい!」


杖を握りしめ、頷くさくら。マーサはそれに優しく微笑むと、足に強化魔術を付与。着ているシスター服を翻しながら、最短距離でシベルの元へ駆け出していったのであった。


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