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―治療の後に―
411話 竜崎教え子の戦い方
しおりを挟む残念なことに距離がある故、さくらの元にマーサ達の詠唱祝詞は届いてはいなかった。だが…彼女は二人それぞれに降り注ぐ聖なる光で、それを察することができた。
「えっ…!? ええっ!? シベルさんが…聖魔術!?」
困惑するさくらを余所に、マーサとシベルの武器に変化が起きる。マーサの光剣ロザリオは形を変え、今度は大盾に。 シベルが手にしたトンファーロザリオは、彼が使いやすいサイズへと大きさを変えた。
間違いない。2人共聖魔術を使用したのだ。その確信と共に、さくらは更に戸惑いを深める。聖魔術を用いぬ回復魔術講師であるシベルが、聖魔術を……いがみ合い相手の得意分野を使ったと言う事に。
最も、第三者視点からすれば別段おかしなことではない。ひとつの魔術に精通している者が、他の魔術を使えないということはない。竜崎達だってそうだし、シベルは先程から様々な魔術を詠唱し用いている。
更に言えば彼は治癒魔術という領域に身を置いている。ならば、そのカテゴリの一つである聖魔術を把握しない訳はないのである。……だがしかし――。
「あのシベルさんが……ええぇ……。 マーサさんも平然としてるし……!」
目を擦りつつ、さくらは呟く。 なにせ、あれは顔を合わせるたびに喧嘩する二人なのだ。相手の技なんて死んでも使わないと思っていたが……シベルは普通に使い、マーサはそれに対し嫌悪感もドヤ顔も浮かべていない。
「あ…そういえば……!」
ふと、さくらは今までの二人のことを思い出す。普段づきあいはどうであれ、双方、相手の技には敬意を払っていた。辻癒し勝負の時や、竜崎の治療をした際に。
だからこそ、こういった必要な時には一切の躊躇なく用いるのだろう。…もっと言えば、魔術なんて諍いには関係なく、相手の人となりだけがムカつくポイントということなのかもしれない。
仲が良いんだか悪いんだかな二人に苦笑するさくら。――しかし、彼女は予測していなかった。
そんなさくらの顔が……いや、シベル達の動きを注視していた聖騎士達もが口をあんぐりとさせる、三度目の衝撃的な出来事が起こるということに。
「――――――。」
「―――。―――。―――。」
武器の準備を終えたはずのシベルとマーサだが、またもや別の術式を紡いでいた。するとマーサが、トンファーを一時持ち替え、懐を探り……。
「……ん? あれって……聖水の瓶?」
さくらは目を凝らし、その正体を見極める。どうやら取り出したのは聖水入りの瓶。マーサはその封をポンと切ると――。
「「「――――!!!」」」
「わっ!? 水精霊!?」
なんと、聖水は幾体もの精霊に姿を変え飛び出してきたのだ。 下位や中位が入り混じる彼らは聖なる輝きを含んでいるようで、仄かに輝きを放っている。と――。
「あれは…!!」
「隊長が使っている『聖水精霊』…!!」
驚愕の声をあげたのは、さくらと共に防衛していた聖騎士達。どうやら見覚えがあるらしいが…。隊長…?
この部隊の指揮役であった副長の言葉曰く、その隊長も学園出身だという。…精霊を使う魔術士なんて幾らでもいるだろうし、繋がりはないかもだけど…。『精霊』…。
この世界最高峰の精霊術士を師に持つさくらは、少し憶測を膨らませる。――が、それは小さな赤い光群が目に入ってきたことで打ち切られた。
「今度は火の精霊…!」
ハッとさくらが気づいた通り、マーサ達の元では火の下位精霊中位精霊が召喚されていた。 だが今度の召喚主はマーサではなくシベル。どうやら先程合図を送ってくれた精霊も、彼が召喚していたらしい。
水と火、相反する精霊召喚はある意味マーサとシベルらしい。彼女がそんなことを思っていたら……――。
「へっ!?!?」
「「なっ!?!?」」
―――その、さくらや聖騎士達の口をあんぐりとさせる、我が目を疑う事態が発生した。なんと……!
「シベルさん……!!!」
「「「自分に火をつけた!!!?」」」」
そう―。恐ろしいことに、何を血迷ったのかシベルが自らの身体に火を灯したのである。
さくらは少し前に、ビルグドアがナナシによって着火されたのを目撃したことがある。だがそれは、氷の高位精霊フリムスカの攻撃を無効化するためであった。
だが…今目の前の光景は違う。シベルが、自分の意思で自分に火をつけたのだ。精霊を用いて。……精霊を……――。
「……あっ! 違う…!」
ふと気づくさくら。よく見ると、シベルは火をつけたのではない。自らの身体に生える獣毛を精霊達に掴ませ、纏わりつかせていたのだ。故に、服から露出した頭や腕、足だけが燃えている。
全身に毛が生えている、比較的獣寄りの見た目をしている獣人種ならではの技、いや荒業と言うべきか。 先程彼が全身にかけていたのは耐火魔術だったのであろうが…正気の沙汰とは思えない。自殺行為に等しい…!
そう戦々恐々とするさくら達だが…マーサは違った。燃え盛るシベルの傍に居るというのに、これまた平然としているではないか。
というか、呆れた表情を浮かべている。今しがた召喚した聖水精霊でシベルから流れてくる熱気を抑えつつ。
光の大盾とトンファーを装備し、聖水精霊を従えるマーサ。人間松明と化し、光のトンファーをも構えるシベル。その特殊過ぎる戦況に、さくら達は救援に入るか入るまいか混乱。すると――。
「はぁッ!!」
気合一つ、シベルが動き出した。文字通り身に宿した業炎を揺らめかし、怯えることなく魔獣へ肉薄して――。
「ふんッ!」
「ギャッ…!」
「ガ、ガウッ! キャンッ!」
「キュゥ……」
光刃トンファーを振り回し、相手を次々と切りつけ沈静化させていく。その速度は、先程までのマーサを上回るほど。だが、それには理由があった。
「魔獣達が…動かない…!? 怯えてる…!?」
遠くから見ていたさくらはそれをしっかり捉えていた。猛り唸っていた獣達が、総じて動けなくなっているのだ。
獣達はシベルのウォークライによって引き付けられたまま。 だが今、そのシベルが炎を纏った化物となったことで、恐怖に包まれている様子。
噛みつきたいが、逃げ出したい――。獣達はその狭間に追い込まれ、立ち往生してしまっているのである。
その反応を利用して、ほとんどの相手を引き受けるシベル。しかし中には火への恐怖が薄かったり、賢しい獣もいる。そういった連中は標的を変更し――。
「「「ガウゥッ!」」」
「! マーサさん!」
とうとう凶牙が、マーサへと向けられた。さくらは思わず叫んだが、当の彼女は落ち着き払い―。
「はっ!」
大盾を駆使し、シールドバッシュ。そして獣達が怯んだ隙を突き……。
「精霊よ、彼らに平穏を!」
「「「―――――!!」」」
聖水精霊が、彼らの顔に水を噴射。突然の事態に悶える獣達だが、すぐに目は落ち着き、大人しくなったではないか。
その名と原材料通り、聖水の効能を備えた…即ち、聖魔術の効果増幅をもたらす精霊なのだろう。彼女達は次々と迫る獣達を顔を撃ち、鎮めていくが……――。
「グルゥッ!」
ふと一匹、その攻撃をすり抜けマーサに迫る獣が。 するとマーサは慌てることなくトンファーを棍棒のように持ち替え…。
「平穏あれっ!」
「ギャゥッ!?」
実に思い切りのよいメイスアタック。悲鳴を上げた獣へ追撃するように、聖水精霊が散水。見事に沈静化を完了させた。
「「「すごい……」」」
学園教師二人の戦いぶりにさくら達はそう口にするしかなくなってしまう。治癒魔術担当だというのにこの暴れっぷり。流石竜崎の教え子と言うべきか。
先程の合図通り、手助けなんて必要なし。あれだけ居た暴走魔獣も残り少なく―――。
「「「グァオ゛オオッッツ!!」」」
「―!? なに…!?」
瞬間、獣達とは更に違う咆哮が。さくらは心臓をビクンと跳ねさせつつ、その正体を窺うと――。
「あ、あれを!」
聖騎士の1人がある場所を指さす。そこはさくら達からも、シベル達からも離れた森。獣達が飛び出してきたであろうそこの木々が揺れ、空高く何かが。
「竜…!!」
それは、ワイバーンのような姿の竜。しかも複数体。更に他の魔獣達とは違い、明確に意識を洗脳されているらしい。シベル達を見定めると、仇敵を見つけたかの如く勢いで接近を始めたのだ。
「マズい…!」
「くっ…!!」
防衛聖騎士達は焦りつつ光の弓矢を作り出そうとするが、竜の速度は速く、間に合わない。さくらも精霊を向かわせるが、同じく。
こうなってしまった以上、シベル達に祈るしかない。彼らもその接近に気づき構え―――。
―――――その時であった。
「感謝する! マーサ!シベル!」
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