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―はじまり―
4話 火の精霊サラマンドと高位精霊イブリート
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「さて、みんな集まってるかな?」
昼食を食べ終わり、先程降り立った広場に移動する一行。どうやらあの場所が「練習場」であるらしい。
建物を抜け、広場に出るとそこには数百人の生徒集まっていた。幼い印象の子から、さくらと同じ年齢の子、それよりも年上のような子。様々な年齢、人種が集まっていた。
「参ったな…他先生方まで来てるじゃないか…」
彼の視線の先には、向こうも気づいたのか手を振る3人の教師然とした人物がいる。そちら側に近づき挨拶をかえす。
「リュウザキ先生、ハードル上がったわね。一大興行のような騒ぎようよ」
「ええ、ここまで集まるとは…サラマンドの召喚だけじゃ薄いですかね?」
「充分だと思いますがねぇ。あの上位精霊をこの場に喚び出すだけでもできる人は幾人いるか…できても常人なら暴走させるのが落ちでしょうし」
「うーん、ここまで集まってもらったんだしもっとすごいのみせたいなぁ」
「いっそサラマンドに曲芸でもさせてみますかな?なんて」
ハッハッハと笑い合う教師陣。
「ところで、そちらのお嬢さんは?見慣れぬ服装ですが」
「新しい推薦生徒?」
「まあそんなとこです。雪谷さくらさん、といいます」
促され、ペコリと頭を下げるさくら
「意外とシャイな娘ですのぉ」
話し込む竜崎の代わりにニアロンが各教師の解説を買って出た。
―あの胸がでかくて長髪の女がゴーレム魔術教師のイヴ。八の字髭で鎧を着ているのが剣術指南役の一人、ジョージ。身長が小さいドワーフ族で、白いひげを腹まで伸ばしているのが魔法鉱物学教師のログだ―
「そうだ、イヴ先生。少しお願いが…」
広場に集まった生徒たちは訝しむ。リュウザキ先生が何かを見せてくれると聞いて集まったのだが、先に表れたのはイヴ先生。彼女は地面に手をかざし、何かを詠唱し、札を貼り付ける。すると―。
ゴゴゴゴゴ
大きな音を立て、地面が盛り上がる。そのまま巨人の形を成し、優に7、8mはあるゴーレムが出来上がった。
「おーでっかい…」
突如作り出された巨像を見上げ感嘆の声を上げる生徒達。その間に竜崎は大きな魔法陣を地面に投影させ待機していた。
―すまないなイヴ―
「お安い御用よ、命令を書き込んでいない案山子だもの。期待しているわ、リュウザキ先生」
イヴはにこやかに笑い、先程の場所へ戻っていく。竜崎は彼女が戻りきるのを確認し、話し出す。
「さて、先日はごめんなさい。講義を途中で放り出してしまって。そのお詫びも兼ねて、サラマンドを召喚します」
ザワザワとしだす生徒陣。
「サラマンドって絵でしか見たことないよ…」
「俺見たことあるよ、でもあれって召喚できるの…?火の塊だったけど」
そんな声をよそに詠唱を始める竜崎。
「この場に来てくれ、サラマンド!」
詠唱をそう締めると、魔法陣が強く輝き、炎と共に燃え盛る巨大なトカゲが姿を現した。その体長は優に10mとなるだろうか、長い尾を振り回し、一声叫ぶ。
「これがサラマンドです。普段は火山に生息していますが、時たまに火山外に確認されることがあります。よほど弱っている個体ならば別ですが、基本的に歩くだけで周囲を燃やし尽くします。ほとんどの場合、山火事を調査した結果、犯人がサラマンドだったという発見のされ方をされます。発見次第眠らせ、新しい火山か、魔界の永炎の地に移送されますが、討伐も許可されています。ただ、挑む場合は最大限の準備を、なぜなら―。 サラマンド、あのゴーレム一体に向かって攻撃を仕掛けて」
命令を聞き、口の中に何かを溜めるサラマンド。次の瞬間、ゴーレムに向けて火球を吹き出す。当たったゴーレムには風穴が空き、全身が炎に包まれ、腐ったようにボロボロと崩れ去る。
「このように、単純な火力だけではなく、濃縮された魔力を帯びた攻撃をします。当たれば灰に、掠っただけでも魔力酔いを起こし戦闘不能に陥るでしょう。気を付けて挑んでください」
ワッという歓声が沸き上がる。
「力を貸してくれてありがとう、サラマンド。お疲れ様」
サラマンドはもう一度叫び、魔法陣から消える。続けざまにアンコールコールが行われる。
「んーやっぱりこうなるよな」
仕方ない、と次の召喚の用意を始めると、ニアロンが心配げに聞く。
―本当にやるのか?他上位精霊でも喜ぶと思うが―
「一応火属性精霊の講義だったし、統一したほうがいいだろう」
―まったく…また倒れるぞ? ん、さてはお前、同郷者のさくらが来て浮かれているのか―
「そんなわけないだろう」
―いや、そうだろう。彼女には悪いと思って隠しているんだろうが、私を誤魔化せると思うな?なにせ20年振りの邂逅だ。その気持ちは仕方ないと思うぞ―
「敵わないな…まあそれは置いといて、頼むぞ」
―ああ、任せろ―
二人にしか聞こえない話し合いが終わり、コホンと一つ咳払い。
「では、アンコールにお応えして。イブリートをお見せします」
今度は全員が静まり返る。なんて言ったんだ?聞き違いか?と次の竜崎の一言に集中する。彼は気にせず続ける。
「イブリートは魔界にある、炎の絶えぬ土地、永炎の地の支配者ですね。精霊ではありますが、そのあまりの力から魔神の一柱としても扱われています。彼が現れた場所は全てのものが消えて無くなるとも言われています。今から呼び出すのは彼の一部ですが、それでも強大な力に変わりありません」
詠唱を始める。ニアロンも全力を出し補助を行う。集中している二人の周りに光が集まり、幾重の輪となり旋回をする。やがて詠唱が終わったのか、目を見開き、声を張る。
「我が前に姿を見せ給え、イブリート!」
炎の渦が起こり、周囲に熱風を放散させる。その渦の内部から厳めしく表れたのは、筋骨隆々、赤黒い肌をもつ。人型の精霊だった。その丈は横にいるゴーレムの2倍を越し、顔は恐竜のような出で立ちをしていた。
「我を呼び出したのは…なんだ、お前か」
「来てくれてありがとう。イブリート。実は…」
「みなまでいうな。大方予想はつく。あのゴーレムだな?」
「察しが良くて助かる」
イブリートは軽く手を振る。瞬間、天に届くほどの業火がゴーレムを包む。
「ふんっ!」
振った手を握る。すると業火は収束していき、消える。跡にはゴーレムは存在すらしなかった。
「こんなものか。 研鑽を積む若人よ!精進するが良い。我を打ち倒し、友として認められる者を心待ちにしている。だが礼を欠くな。敵味方問わず礼を欠くものは大成なぞ不可能だ!では、さらばだ」
声高らかに演説を行い、またも炎の渦に包まれ消えるイブリート。それを見送り、竜崎は締める。
「精霊召喚は一部召喚術と同じく、精霊と本人の信頼関係が必要です。もし精霊召喚でお悩みの人は、基礎召喚術を改めて見直すと上手く行くかもしれませんよ」
幾秒かの寂然の後、一斉に拍手が巻き起こる。一礼をする竜崎。
「すげえ!さすが『勇者一行』の1人!」
「伝説として語られるだけはあるんだ!」
興奮した声が生徒間で巻き起こる。他教師にとっても驚きのことらしく、感嘆の声が漏れる。
「まさかイブリートまで呼ぶとは…」
「流石ですのぅ…」
「ん、あれ?さくらちゃんどうしたの?」
声が出なかった。今まで獣人や魔人、巨大な猫は見たが、彼らは自分に敵意はなかった。だが今目の前に現れた精霊は違う。あまりにも異質。強大なエネルギーに満ちており、もし気を損ねたら瞬時に命が消えてなくなるということが直感的に理解できてしまった。
一方はらはらと成り行きを見守っている1人と1匹がいた。ナディとタマである。
散らばったゴーレムを片付けに動く竜崎、だが、その場で跪いてしまう。
「あぁ!やっぱり!」
慌てて駆け寄るナディ。さくら含む教師陣もそれに乗じる。
「大丈夫ですか先生!」
「あ、あぁ…心配しなくて大丈夫…魔力が不足しただけだよ」
「ごめんなさい…私が変な約束したばかりに…」
「そう謝らないでって。ただ、ごめん。医務室まで肩貸してくれる?」
凄いものを見せてもらった、と片付けを引き受けた教師陣にあとを任せ、医務室へ向かう。
「完全に魔力切れですね。」
呆れ顔で宣告をする保健医。竜崎はベッドに横になりながら畏まる。
「面目ない…」
「せめて言ってくだされば魔力補充の飴を差し上げたのに…微力でしょうけど。二アロンさんも止めてくださいよ。ただでさえ二人一組だから人より魔力消費激しいと仰られてたじゃないですか」
―清人の悪い癖だからな…もう止めるのは諦めた―
「そうやって医務室に運ばれてきたの何度目ですか…」
そんなニアロンも力を使い果たしたのか、竜崎の体にほぼ同化している。
突然扉が空き、一人の男性が現れる。眉目秀麗、若々しく、白髪。ただし彼は生来の髪色なのか、美しく整っていた。耳が尖っていることからエルフなのだろう。こんなかっこいい人がいるんだな…とさくらが思っていると、彼は寝ころぶ竜崎を見て、満面の笑みを浮かべる。
「リュウザキ先生、先程の催しお見事でした!ですがその程度でへばっていては、肩書が泣きますよぉ?それとも、もう引退なされるのですかぁ?」
意地の悪い煽りをする男性だったが、竜崎は一切怒らず、
「先生の仰る通りだ…もっと精進していればこんなことにはならなかったな。ご忠言ありがとう」
その言葉を聞き、エルフの男性は笑いながら去っていった。
「…なんですか?あの人」
不満に思い他の人を見やるさくら。するとナディや保健医を含めた全員が苦笑い、または呆れ顔をしている。おかしな状況に首をひねっていると、ナディが説明をしてくれる。
「あの方、オズヴァルド先生は基礎魔術学担当の先生なんですが、いつもリュウザキ先生に絡んでくるんですよね…普段は優秀な方なのに」
―テンション高くて面白い奴だよな―
「彼も心配してくれているんだ。しっかりしなきゃな…」
「と、当の本人方があまり意に介していないので見逃されているんです」
ほんとは怒りたいのに、と言いたそうにナディは口を尖らせた。
「さて、のんびりしているわけにもいかない」
そう言い体を起こす竜崎。
「今日一日は寝ていて欲しいんですけどね…」
と苦々し気に言う保健医に弁明をする。
「曲がりなりにも教師だからね…ここでずっと寝ていると生徒に示しがつかない。それにやることもあるし」
「やること?」
さくらが聞くと、彼は言ってなかったな、と内容を明かす。
「さくらさんの入学手続きだよ」
昼食を食べ終わり、先程降り立った広場に移動する一行。どうやらあの場所が「練習場」であるらしい。
建物を抜け、広場に出るとそこには数百人の生徒集まっていた。幼い印象の子から、さくらと同じ年齢の子、それよりも年上のような子。様々な年齢、人種が集まっていた。
「参ったな…他先生方まで来てるじゃないか…」
彼の視線の先には、向こうも気づいたのか手を振る3人の教師然とした人物がいる。そちら側に近づき挨拶をかえす。
「リュウザキ先生、ハードル上がったわね。一大興行のような騒ぎようよ」
「ええ、ここまで集まるとは…サラマンドの召喚だけじゃ薄いですかね?」
「充分だと思いますがねぇ。あの上位精霊をこの場に喚び出すだけでもできる人は幾人いるか…できても常人なら暴走させるのが落ちでしょうし」
「うーん、ここまで集まってもらったんだしもっとすごいのみせたいなぁ」
「いっそサラマンドに曲芸でもさせてみますかな?なんて」
ハッハッハと笑い合う教師陣。
「ところで、そちらのお嬢さんは?見慣れぬ服装ですが」
「新しい推薦生徒?」
「まあそんなとこです。雪谷さくらさん、といいます」
促され、ペコリと頭を下げるさくら
「意外とシャイな娘ですのぉ」
話し込む竜崎の代わりにニアロンが各教師の解説を買って出た。
―あの胸がでかくて長髪の女がゴーレム魔術教師のイヴ。八の字髭で鎧を着ているのが剣術指南役の一人、ジョージ。身長が小さいドワーフ族で、白いひげを腹まで伸ばしているのが魔法鉱物学教師のログだ―
「そうだ、イヴ先生。少しお願いが…」
広場に集まった生徒たちは訝しむ。リュウザキ先生が何かを見せてくれると聞いて集まったのだが、先に表れたのはイヴ先生。彼女は地面に手をかざし、何かを詠唱し、札を貼り付ける。すると―。
ゴゴゴゴゴ
大きな音を立て、地面が盛り上がる。そのまま巨人の形を成し、優に7、8mはあるゴーレムが出来上がった。
「おーでっかい…」
突如作り出された巨像を見上げ感嘆の声を上げる生徒達。その間に竜崎は大きな魔法陣を地面に投影させ待機していた。
―すまないなイヴ―
「お安い御用よ、命令を書き込んでいない案山子だもの。期待しているわ、リュウザキ先生」
イヴはにこやかに笑い、先程の場所へ戻っていく。竜崎は彼女が戻りきるのを確認し、話し出す。
「さて、先日はごめんなさい。講義を途中で放り出してしまって。そのお詫びも兼ねて、サラマンドを召喚します」
ザワザワとしだす生徒陣。
「サラマンドって絵でしか見たことないよ…」
「俺見たことあるよ、でもあれって召喚できるの…?火の塊だったけど」
そんな声をよそに詠唱を始める竜崎。
「この場に来てくれ、サラマンド!」
詠唱をそう締めると、魔法陣が強く輝き、炎と共に燃え盛る巨大なトカゲが姿を現した。その体長は優に10mとなるだろうか、長い尾を振り回し、一声叫ぶ。
「これがサラマンドです。普段は火山に生息していますが、時たまに火山外に確認されることがあります。よほど弱っている個体ならば別ですが、基本的に歩くだけで周囲を燃やし尽くします。ほとんどの場合、山火事を調査した結果、犯人がサラマンドだったという発見のされ方をされます。発見次第眠らせ、新しい火山か、魔界の永炎の地に移送されますが、討伐も許可されています。ただ、挑む場合は最大限の準備を、なぜなら―。 サラマンド、あのゴーレム一体に向かって攻撃を仕掛けて」
命令を聞き、口の中に何かを溜めるサラマンド。次の瞬間、ゴーレムに向けて火球を吹き出す。当たったゴーレムには風穴が空き、全身が炎に包まれ、腐ったようにボロボロと崩れ去る。
「このように、単純な火力だけではなく、濃縮された魔力を帯びた攻撃をします。当たれば灰に、掠っただけでも魔力酔いを起こし戦闘不能に陥るでしょう。気を付けて挑んでください」
ワッという歓声が沸き上がる。
「力を貸してくれてありがとう、サラマンド。お疲れ様」
サラマンドはもう一度叫び、魔法陣から消える。続けざまにアンコールコールが行われる。
「んーやっぱりこうなるよな」
仕方ない、と次の召喚の用意を始めると、ニアロンが心配げに聞く。
―本当にやるのか?他上位精霊でも喜ぶと思うが―
「一応火属性精霊の講義だったし、統一したほうがいいだろう」
―まったく…また倒れるぞ? ん、さてはお前、同郷者のさくらが来て浮かれているのか―
「そんなわけないだろう」
―いや、そうだろう。彼女には悪いと思って隠しているんだろうが、私を誤魔化せると思うな?なにせ20年振りの邂逅だ。その気持ちは仕方ないと思うぞ―
「敵わないな…まあそれは置いといて、頼むぞ」
―ああ、任せろ―
二人にしか聞こえない話し合いが終わり、コホンと一つ咳払い。
「では、アンコールにお応えして。イブリートをお見せします」
今度は全員が静まり返る。なんて言ったんだ?聞き違いか?と次の竜崎の一言に集中する。彼は気にせず続ける。
「イブリートは魔界にある、炎の絶えぬ土地、永炎の地の支配者ですね。精霊ではありますが、そのあまりの力から魔神の一柱としても扱われています。彼が現れた場所は全てのものが消えて無くなるとも言われています。今から呼び出すのは彼の一部ですが、それでも強大な力に変わりありません」
詠唱を始める。ニアロンも全力を出し補助を行う。集中している二人の周りに光が集まり、幾重の輪となり旋回をする。やがて詠唱が終わったのか、目を見開き、声を張る。
「我が前に姿を見せ給え、イブリート!」
炎の渦が起こり、周囲に熱風を放散させる。その渦の内部から厳めしく表れたのは、筋骨隆々、赤黒い肌をもつ。人型の精霊だった。その丈は横にいるゴーレムの2倍を越し、顔は恐竜のような出で立ちをしていた。
「我を呼び出したのは…なんだ、お前か」
「来てくれてありがとう。イブリート。実は…」
「みなまでいうな。大方予想はつく。あのゴーレムだな?」
「察しが良くて助かる」
イブリートは軽く手を振る。瞬間、天に届くほどの業火がゴーレムを包む。
「ふんっ!」
振った手を握る。すると業火は収束していき、消える。跡にはゴーレムは存在すらしなかった。
「こんなものか。 研鑽を積む若人よ!精進するが良い。我を打ち倒し、友として認められる者を心待ちにしている。だが礼を欠くな。敵味方問わず礼を欠くものは大成なぞ不可能だ!では、さらばだ」
声高らかに演説を行い、またも炎の渦に包まれ消えるイブリート。それを見送り、竜崎は締める。
「精霊召喚は一部召喚術と同じく、精霊と本人の信頼関係が必要です。もし精霊召喚でお悩みの人は、基礎召喚術を改めて見直すと上手く行くかもしれませんよ」
幾秒かの寂然の後、一斉に拍手が巻き起こる。一礼をする竜崎。
「すげえ!さすが『勇者一行』の1人!」
「伝説として語られるだけはあるんだ!」
興奮した声が生徒間で巻き起こる。他教師にとっても驚きのことらしく、感嘆の声が漏れる。
「まさかイブリートまで呼ぶとは…」
「流石ですのぅ…」
「ん、あれ?さくらちゃんどうしたの?」
声が出なかった。今まで獣人や魔人、巨大な猫は見たが、彼らは自分に敵意はなかった。だが今目の前に現れた精霊は違う。あまりにも異質。強大なエネルギーに満ちており、もし気を損ねたら瞬時に命が消えてなくなるということが直感的に理解できてしまった。
一方はらはらと成り行きを見守っている1人と1匹がいた。ナディとタマである。
散らばったゴーレムを片付けに動く竜崎、だが、その場で跪いてしまう。
「あぁ!やっぱり!」
慌てて駆け寄るナディ。さくら含む教師陣もそれに乗じる。
「大丈夫ですか先生!」
「あ、あぁ…心配しなくて大丈夫…魔力が不足しただけだよ」
「ごめんなさい…私が変な約束したばかりに…」
「そう謝らないでって。ただ、ごめん。医務室まで肩貸してくれる?」
凄いものを見せてもらった、と片付けを引き受けた教師陣にあとを任せ、医務室へ向かう。
「完全に魔力切れですね。」
呆れ顔で宣告をする保健医。竜崎はベッドに横になりながら畏まる。
「面目ない…」
「せめて言ってくだされば魔力補充の飴を差し上げたのに…微力でしょうけど。二アロンさんも止めてくださいよ。ただでさえ二人一組だから人より魔力消費激しいと仰られてたじゃないですか」
―清人の悪い癖だからな…もう止めるのは諦めた―
「そうやって医務室に運ばれてきたの何度目ですか…」
そんなニアロンも力を使い果たしたのか、竜崎の体にほぼ同化している。
突然扉が空き、一人の男性が現れる。眉目秀麗、若々しく、白髪。ただし彼は生来の髪色なのか、美しく整っていた。耳が尖っていることからエルフなのだろう。こんなかっこいい人がいるんだな…とさくらが思っていると、彼は寝ころぶ竜崎を見て、満面の笑みを浮かべる。
「リュウザキ先生、先程の催しお見事でした!ですがその程度でへばっていては、肩書が泣きますよぉ?それとも、もう引退なされるのですかぁ?」
意地の悪い煽りをする男性だったが、竜崎は一切怒らず、
「先生の仰る通りだ…もっと精進していればこんなことにはならなかったな。ご忠言ありがとう」
その言葉を聞き、エルフの男性は笑いながら去っていった。
「…なんですか?あの人」
不満に思い他の人を見やるさくら。するとナディや保健医を含めた全員が苦笑い、または呆れ顔をしている。おかしな状況に首をひねっていると、ナディが説明をしてくれる。
「あの方、オズヴァルド先生は基礎魔術学担当の先生なんですが、いつもリュウザキ先生に絡んでくるんですよね…普段は優秀な方なのに」
―テンション高くて面白い奴だよな―
「彼も心配してくれているんだ。しっかりしなきゃな…」
「と、当の本人方があまり意に介していないので見逃されているんです」
ほんとは怒りたいのに、と言いたそうにナディは口を尖らせた。
「さて、のんびりしているわけにもいかない」
そう言い体を起こす竜崎。
「今日一日は寝ていて欲しいんですけどね…」
と苦々し気に言う保健医に弁明をする。
「曲がりなりにも教師だからね…ここでずっと寝ていると生徒に示しがつかない。それにやることもあるし」
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