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―はじまり―
6話 お風呂
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「美味しいです~」
満面の笑みを浮かべながらデザートを頬張るナディ。ゆっくり食べて、と竜崎は優しく見守る。
王都大通りから少し外れた裏路地。喧騒から外れ、賑やかではあるが落ち着いた雰囲気が漂う。竜崎一押しだというカフェで一行はくつろいでいた。
―どうした?さくら。美味しくないのか?―
ニアロンに促され、手が止まっていたさくらは弁解する。
「いや、美味しいんですけど…タマさんが」
お洒落なカフェテラスの前では、タマが巨大化し、待ちかねた骨付き肉を貪っている。まるでサファリパークのような絵面にちょっと食欲が無くなってしまう。
「そうか、向こうの世界ではこんなこと無かったものな。使役獣とか御供竜が居るこの世界だと日常茶飯事なんだ。タマ、悪いけど別の場所で食べてもらっていいかい?」
コクンと頷き、肉を咥えどこかに飛び去るタマ。つい気になることを聞くさくら。
「使役獣はタマさんだとして、御供竜ってなんですか?」
「さっき、竜を使役しているエルフの子がいたろう?あれとか。移動用に飼われている竜もいるね、大抵エルフだけど。噂をすれば、ほら」
竜崎が指さした先には、丁度竜に乗って降りてきたエルフが一人、店内に入る前に鞄から出した干し肉を与えていた。
「あ、先生。そういえばこれを」
堪能しつくしたのか、思い出したように紙袋を竜崎に渡すナディ。中には女性ものの服一式が入っていた。
「ありがとう。もっと食べる?」
「いただきます!」
追加注文をしているナディを横目にさくらは竜崎に問う。
「この服ってなんですか?」
「着替えだよ、さくらさんの。とりあえずの部屋着とかをナディに頼んで買ってきてもらったんだ」
「あ…ありがとうございます」
―ほら、やっぱり服選びも本人いたほうが良かっただろう―
呆れた感じで二アロンは言う。竜崎はこめかみを掻きながら謝罪する。
「疲れているだろうからあんまり振り回しちゃいけないかなって…ごめんね。さくらさん。明日、外着とか制服買いに行こう」
と、タマが戻ってくる。そして主人を待つ竜とじゃれ合い始めた。
「さて、あの子も戻ってきたし早いけど寮に戻るか。荷物もあるしね」
それを聞き、今来たばかりの注文品を慌てて頬張るナディ。竜崎は苦笑いする。
「待つからゆっくり食べてくれ」
城下町から学園の付近にまで戻ると、そこには石造りのホテルのような建物があった。
「ここが教師寮。全員が使っているわけではないんだけどね」
案内されたのは1階、その端の部屋。
「ここを使ってくれ。空き部屋だけど掃除はしてもらっているから綺麗なはず」
中はクレアの客間ほどお洒落ではないが、小綺麗に片付けられた部屋だった。ベッドや家具類が備え付けられており、生活に不足はなさそうだった。
「二アロンとタマ用の部屋として借りてたんだ。荷物と服、ここに置いておくよ」
荷物を机に置き、手慣れた動きでベッドメイキングをしていく竜崎とナディ。瞬く間に寝れる準備が整う。
「これでよし。疲れたでしょう。寝ても大丈夫だよ」
にこやかに就寝を勧める竜崎には悪いが、このままでは眠れない。存在するかどうかもわからないが恐る恐る聞いてみる。
「あ、あの…お風呂入りたい…です…」
消え入りそうな声で言ったがしっかりと聞こえていたらしく、彼は額をぴしゃり。
「そうだよね。こっち来てから入ってないよね。あるよ、備え付けの温泉が」
建物地下1階。階段を下りた先にあったのは、
「銭湯…?」
見た目こそ違うが、男湯女湯の各入口が色分けされた暖簾で仕切られている様は古き懐かしの銭湯を彷彿とさせた。
「んじゃナディ。さくらさんを宜しく」
「はい、任されました!」
ナディに手を引かれ、脱衣場に案内されるさくら。
「さ、ここで脱いでください。はいタオル」
妹が出来たかのように甲斐甲斐しく世話をするナディ。ふとこんなことを聞いてきた。
「へぇー、その服ってそんな風になっているんですねー。そちらの普段着なんですか?」
答えようにも言葉が出ずどう答えようか迷っていると、それに気づいたようで
「あ、そうでした!まだ話せなかったんですよね!ささ、入りましょう入りましょう」
と失態をごまかすようにさくらの背中を押し中に連れ込む。
「ふぅ~生き返りますねぇ」
露天でこそないものの、充分に気持ちいい。存分に手足を放り出し浸かるナディを見て、さくらも体を伸ばしてみる。
「あ、そうだ。さくらさんに気持ちいいことしてあげます」
そういうと何かを詠唱するナディ。目の前のお湯が泡立ち、いくつかの水の塊となって浮かぶ。
「精霊さん。いつもの、お願いしてもらっていいですか?この子に」
指示を聞き、水の塊はお湯の中に入りさくらに近づく。そして、体中をまさぐり始めた。
「へっ!?あはははは!」
思わず笑ってしまう。胸に背中に腹に足に、縦横無尽に駆け巡る水の塊は止まらない。その笑いを喜びと解釈したのか、ナディは自信満々に胸を張る。
「先生から聞きました!そちらの世界には水流を当てて全身を揉んでもらう装置があるって。私なりに真似してみたんです!どうですか?」
感想をワクワク顔で待つナディに、なにか違うと伝えたいが、言葉がわからず、全身くすぐったくて上手く首も触れない。ナディも自分の分を呼び出して身を任せ始めた。これいつ止まるんですか?とも聞けないまま水精霊によるマッサージは続いた。
やっと終わったのか水精霊が1つ2つと離れて水の中に溶けていく。笑いすぎて半分のぼせ気味となっているさくらに気づき、慌てて風呂端に腰掛けさせるナディ。
「ずいぶん楽しそうな笑い声が聞こえてくると思ったら…ナディちゃん達だったのね」
新たに2人の女性が入ってくる。内一人は昼間紹介されたゴーレム魔術教師のイヴだった。
「さくらちゃん、大丈夫?狂ったように笑ってたけど?」
心配そうに聞くイヴ。思わず頷くさくら。
「そう?ならいいんだけど…ちょっと待っててね、体洗っちゃうから」
「お待たせ、待ってないか」
フフっと笑い入ってくるイヴ。さくらも湯冷めしてきたのを感じ、もう一度浸かる。しかし…
「ん?どうかした?さくらちゃん」
大きい。胸が。海外のモデルにもこんな巨乳はいないだろう。先ほどからたゆんたゆんと揺れ、今はお湯の上に浮くそれについ目がいってしまう。同年代の子の中ではそれなりにある方だったのに、と急に慎ましく感じた胸を押さえてしまう。
そんなさくらの心情は知る由もなく、イヴは続けて入ってきた女性の紹介をする。
「さくらちゃん。この子は召喚術講師のメルティーソンちゃん。ちょっと恥ずかしがり屋だけど良い子よ」
ペコリと頭を下げるメルティーソン。さくらも頭を下げ返す。
「さくらさんはまだ言葉が不慣れなので私が変わりに。ゆきたにさくらさん、と仰る子です。リュウザキ先生と同じく異世界から来たそうなんですよ」
「「えぇっ!!?」」
突如明かされた衝撃の事実に2人とも思わず声をあげる。と、メルティ―ソンがさくらにずいと近寄り、まくしたてる。
「まさか預言があったのですか!?リュウザキ先生と何か共通点が!?あなたも精霊を使えるのですか!?魔界侵攻の前兆だったり%”!($!」
先程の紹介はなんだったのか。あまりの早口に後半の質問に至っては聞き取れない。友であるイヴにとっても異常だったのか、「ちょっと、落ち着いてメルティちゃん!」と羽交い締めで引き留められる。
―まあそう驚いてやるな、メルティ。さくらは昨日来たばかりだ。こちらの事情は何も知らない―
騒ぎを聞きつけたのか、上からニアロンがふわふわと降りてくる。
「一体どこから…」
思わず聞いてしまうと、平然と上を指さしつつ
―普通に男湯から来た。脱衣所寄る必要ないからな―
と、答えた。どうやら仕切り壁の上穴から乗り越えてきたらしい。マナーもへったくれもない。
「二アロンちゃん、服を着ての入浴は駄目よ」
メルティ―ソンをどうどう、と抑えつつイヴは注意をする。
―イヴの前だと私もちゃんづけにされるな…もちろん脱ぐさ―
そういい、二アロンは光に包まれる。光が消えたとき、一糸纏わぬ姿になっていた。さくらはポカンと呆けてしまう。
―どうした?そんな驚いた顔をして。私は霊体だからな、見た目なんて魔力の形成具合で変えられるのさ―
「えっじゃあお風呂に入る必要はないんじゃ…」
―いいや?いくら霊体でも死んでいるわけではない。食べることも呑むことも私はできる。温かい風呂に浸かれば気持ちいいのは変わらない―
そういって童女の見た目をしているニアロンはおっさんのような声を出しながら湯船に沈む。
「あれ、先生もいらっしゃるのですか?」
ナディが今更ながら聞くと、ニアロンは笑う。
―あぁいるとも。さくらの笑い声に狼狽えてたぞ―
「リュウザキ先生ぃ!早風呂ですかぁ!おや、風呂場独占中ですか!」
やけに元気の良い声が男湯から木霊する。
思わず体を竦ませるさくら。ナディは呆れた声を出した。
「オズヴァルド先生も来たんですか…」
声はさらに響き渡る。
「今日は良い日ですねぇ!授業も上手くいきましたし、昼食もお気に入りのメニューでしたし!なにより、リュウザキ先生のお力も見れましたし!最高です!」
あまりの騒がしさに辟易していると、二アロンが服を纏い男湯の方に飛ぶ。そして怒る。
―うるさいぞ!風呂場だ。もっと声を抑えろ!―
続いて竜崎の声
「そうだなぁ。俺は良くても女性陣がいるからな。苦情も入ったし静かに入ろう、オズヴァルト先生」
「おっと。これは失礼いたしました!」
そう言い、声を抑えるオズヴァルド。二アロンはやれやれといった感じで戻ってくる。
―面白い奴ではあるが、場をわきまえないな。あいつは―
「でも案外いいコンビじゃないかしら?元気なオズヴァルド先生と大人しいリュウザキ先生。デコボコ二人組で見てて楽しいわ」
そう微笑まし気に言うイヴにいやいやいや、と手を振るナディ。と、無理やり鎮められ、蚊帳の外だったメルティ―ソンがさくらの異常を発見する。
「ナディさん…あの…さくらさんの様子が…」
「え?あれ?さくらさん?のぼせちゃったんですか!?早く出ないと!」
満面の笑みを浮かべながらデザートを頬張るナディ。ゆっくり食べて、と竜崎は優しく見守る。
王都大通りから少し外れた裏路地。喧騒から外れ、賑やかではあるが落ち着いた雰囲気が漂う。竜崎一押しだというカフェで一行はくつろいでいた。
―どうした?さくら。美味しくないのか?―
ニアロンに促され、手が止まっていたさくらは弁解する。
「いや、美味しいんですけど…タマさんが」
お洒落なカフェテラスの前では、タマが巨大化し、待ちかねた骨付き肉を貪っている。まるでサファリパークのような絵面にちょっと食欲が無くなってしまう。
「そうか、向こうの世界ではこんなこと無かったものな。使役獣とか御供竜が居るこの世界だと日常茶飯事なんだ。タマ、悪いけど別の場所で食べてもらっていいかい?」
コクンと頷き、肉を咥えどこかに飛び去るタマ。つい気になることを聞くさくら。
「使役獣はタマさんだとして、御供竜ってなんですか?」
「さっき、竜を使役しているエルフの子がいたろう?あれとか。移動用に飼われている竜もいるね、大抵エルフだけど。噂をすれば、ほら」
竜崎が指さした先には、丁度竜に乗って降りてきたエルフが一人、店内に入る前に鞄から出した干し肉を与えていた。
「あ、先生。そういえばこれを」
堪能しつくしたのか、思い出したように紙袋を竜崎に渡すナディ。中には女性ものの服一式が入っていた。
「ありがとう。もっと食べる?」
「いただきます!」
追加注文をしているナディを横目にさくらは竜崎に問う。
「この服ってなんですか?」
「着替えだよ、さくらさんの。とりあえずの部屋着とかをナディに頼んで買ってきてもらったんだ」
「あ…ありがとうございます」
―ほら、やっぱり服選びも本人いたほうが良かっただろう―
呆れた感じで二アロンは言う。竜崎はこめかみを掻きながら謝罪する。
「疲れているだろうからあんまり振り回しちゃいけないかなって…ごめんね。さくらさん。明日、外着とか制服買いに行こう」
と、タマが戻ってくる。そして主人を待つ竜とじゃれ合い始めた。
「さて、あの子も戻ってきたし早いけど寮に戻るか。荷物もあるしね」
それを聞き、今来たばかりの注文品を慌てて頬張るナディ。竜崎は苦笑いする。
「待つからゆっくり食べてくれ」
城下町から学園の付近にまで戻ると、そこには石造りのホテルのような建物があった。
「ここが教師寮。全員が使っているわけではないんだけどね」
案内されたのは1階、その端の部屋。
「ここを使ってくれ。空き部屋だけど掃除はしてもらっているから綺麗なはず」
中はクレアの客間ほどお洒落ではないが、小綺麗に片付けられた部屋だった。ベッドや家具類が備え付けられており、生活に不足はなさそうだった。
「二アロンとタマ用の部屋として借りてたんだ。荷物と服、ここに置いておくよ」
荷物を机に置き、手慣れた動きでベッドメイキングをしていく竜崎とナディ。瞬く間に寝れる準備が整う。
「これでよし。疲れたでしょう。寝ても大丈夫だよ」
にこやかに就寝を勧める竜崎には悪いが、このままでは眠れない。存在するかどうかもわからないが恐る恐る聞いてみる。
「あ、あの…お風呂入りたい…です…」
消え入りそうな声で言ったがしっかりと聞こえていたらしく、彼は額をぴしゃり。
「そうだよね。こっち来てから入ってないよね。あるよ、備え付けの温泉が」
建物地下1階。階段を下りた先にあったのは、
「銭湯…?」
見た目こそ違うが、男湯女湯の各入口が色分けされた暖簾で仕切られている様は古き懐かしの銭湯を彷彿とさせた。
「んじゃナディ。さくらさんを宜しく」
「はい、任されました!」
ナディに手を引かれ、脱衣場に案内されるさくら。
「さ、ここで脱いでください。はいタオル」
妹が出来たかのように甲斐甲斐しく世話をするナディ。ふとこんなことを聞いてきた。
「へぇー、その服ってそんな風になっているんですねー。そちらの普段着なんですか?」
答えようにも言葉が出ずどう答えようか迷っていると、それに気づいたようで
「あ、そうでした!まだ話せなかったんですよね!ささ、入りましょう入りましょう」
と失態をごまかすようにさくらの背中を押し中に連れ込む。
「ふぅ~生き返りますねぇ」
露天でこそないものの、充分に気持ちいい。存分に手足を放り出し浸かるナディを見て、さくらも体を伸ばしてみる。
「あ、そうだ。さくらさんに気持ちいいことしてあげます」
そういうと何かを詠唱するナディ。目の前のお湯が泡立ち、いくつかの水の塊となって浮かぶ。
「精霊さん。いつもの、お願いしてもらっていいですか?この子に」
指示を聞き、水の塊はお湯の中に入りさくらに近づく。そして、体中をまさぐり始めた。
「へっ!?あはははは!」
思わず笑ってしまう。胸に背中に腹に足に、縦横無尽に駆け巡る水の塊は止まらない。その笑いを喜びと解釈したのか、ナディは自信満々に胸を張る。
「先生から聞きました!そちらの世界には水流を当てて全身を揉んでもらう装置があるって。私なりに真似してみたんです!どうですか?」
感想をワクワク顔で待つナディに、なにか違うと伝えたいが、言葉がわからず、全身くすぐったくて上手く首も触れない。ナディも自分の分を呼び出して身を任せ始めた。これいつ止まるんですか?とも聞けないまま水精霊によるマッサージは続いた。
やっと終わったのか水精霊が1つ2つと離れて水の中に溶けていく。笑いすぎて半分のぼせ気味となっているさくらに気づき、慌てて風呂端に腰掛けさせるナディ。
「ずいぶん楽しそうな笑い声が聞こえてくると思ったら…ナディちゃん達だったのね」
新たに2人の女性が入ってくる。内一人は昼間紹介されたゴーレム魔術教師のイヴだった。
「さくらちゃん、大丈夫?狂ったように笑ってたけど?」
心配そうに聞くイヴ。思わず頷くさくら。
「そう?ならいいんだけど…ちょっと待っててね、体洗っちゃうから」
「お待たせ、待ってないか」
フフっと笑い入ってくるイヴ。さくらも湯冷めしてきたのを感じ、もう一度浸かる。しかし…
「ん?どうかした?さくらちゃん」
大きい。胸が。海外のモデルにもこんな巨乳はいないだろう。先ほどからたゆんたゆんと揺れ、今はお湯の上に浮くそれについ目がいってしまう。同年代の子の中ではそれなりにある方だったのに、と急に慎ましく感じた胸を押さえてしまう。
そんなさくらの心情は知る由もなく、イヴは続けて入ってきた女性の紹介をする。
「さくらちゃん。この子は召喚術講師のメルティーソンちゃん。ちょっと恥ずかしがり屋だけど良い子よ」
ペコリと頭を下げるメルティーソン。さくらも頭を下げ返す。
「さくらさんはまだ言葉が不慣れなので私が変わりに。ゆきたにさくらさん、と仰る子です。リュウザキ先生と同じく異世界から来たそうなんですよ」
「「えぇっ!!?」」
突如明かされた衝撃の事実に2人とも思わず声をあげる。と、メルティ―ソンがさくらにずいと近寄り、まくしたてる。
「まさか預言があったのですか!?リュウザキ先生と何か共通点が!?あなたも精霊を使えるのですか!?魔界侵攻の前兆だったり%”!($!」
先程の紹介はなんだったのか。あまりの早口に後半の質問に至っては聞き取れない。友であるイヴにとっても異常だったのか、「ちょっと、落ち着いてメルティちゃん!」と羽交い締めで引き留められる。
―まあそう驚いてやるな、メルティ。さくらは昨日来たばかりだ。こちらの事情は何も知らない―
騒ぎを聞きつけたのか、上からニアロンがふわふわと降りてくる。
「一体どこから…」
思わず聞いてしまうと、平然と上を指さしつつ
―普通に男湯から来た。脱衣所寄る必要ないからな―
と、答えた。どうやら仕切り壁の上穴から乗り越えてきたらしい。マナーもへったくれもない。
「二アロンちゃん、服を着ての入浴は駄目よ」
メルティ―ソンをどうどう、と抑えつつイヴは注意をする。
―イヴの前だと私もちゃんづけにされるな…もちろん脱ぐさ―
そういい、二アロンは光に包まれる。光が消えたとき、一糸纏わぬ姿になっていた。さくらはポカンと呆けてしまう。
―どうした?そんな驚いた顔をして。私は霊体だからな、見た目なんて魔力の形成具合で変えられるのさ―
「えっじゃあお風呂に入る必要はないんじゃ…」
―いいや?いくら霊体でも死んでいるわけではない。食べることも呑むことも私はできる。温かい風呂に浸かれば気持ちいいのは変わらない―
そういって童女の見た目をしているニアロンはおっさんのような声を出しながら湯船に沈む。
「あれ、先生もいらっしゃるのですか?」
ナディが今更ながら聞くと、ニアロンは笑う。
―あぁいるとも。さくらの笑い声に狼狽えてたぞ―
「リュウザキ先生ぃ!早風呂ですかぁ!おや、風呂場独占中ですか!」
やけに元気の良い声が男湯から木霊する。
思わず体を竦ませるさくら。ナディは呆れた声を出した。
「オズヴァルド先生も来たんですか…」
声はさらに響き渡る。
「今日は良い日ですねぇ!授業も上手くいきましたし、昼食もお気に入りのメニューでしたし!なにより、リュウザキ先生のお力も見れましたし!最高です!」
あまりの騒がしさに辟易していると、二アロンが服を纏い男湯の方に飛ぶ。そして怒る。
―うるさいぞ!風呂場だ。もっと声を抑えろ!―
続いて竜崎の声
「そうだなぁ。俺は良くても女性陣がいるからな。苦情も入ったし静かに入ろう、オズヴァルト先生」
「おっと。これは失礼いたしました!」
そう言い、声を抑えるオズヴァルド。二アロンはやれやれといった感じで戻ってくる。
―面白い奴ではあるが、場をわきまえないな。あいつは―
「でも案外いいコンビじゃないかしら?元気なオズヴァルド先生と大人しいリュウザキ先生。デコボコ二人組で見てて楽しいわ」
そう微笑まし気に言うイヴにいやいやいや、と手を振るナディ。と、無理やり鎮められ、蚊帳の外だったメルティ―ソンがさくらの異常を発見する。
「ナディさん…あの…さくらさんの様子が…」
「え?あれ?さくらさん?のぼせちゃったんですか!?早く出ないと!」
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