【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
81 / 391
―先生達の関係―

80話 お茶会

しおりを挟む
召喚術講師用にあてがわれた研究室。部屋の中心に置かれた丸テーブルには白いレースのテーブルクロスが敷かれ、装飾が施されたお洒落な皿が並べられてゆく。

机の中央に置かれたケーキスタンドにはイヴが買ってきたお菓子類が見栄えよく載せられており、目の前に置かれた淹れたての紅茶からはふわりと心が安らぐ香りが鼻をくすぐる。

まさに優雅なティータイム。貴族のお茶会と言った風体だ。ただし参加者は貴族ではない。ゴーレム術講師のイヴ、召喚術・使役術講師のオカマ先生グレミリオ、同じく召喚術講師のメルティ―ソン、そしてさくらの4人である。

「リュウザキ先生が参加できないのが残念ねぇ」
「仕方ないですよグレミリオ先生。彼、丁度生徒から質問を受けたんですもの」

誘われたもう一人、竜崎は質問してきた生徒に教えるため残念ながらお茶会不参加。よって残されたさくらは彼女達のお茶会に単独参加をすることに。今回はニアロンもいないため少し緊張をしているが、この場の全員がさくらが異世界から来たことを知っており、イヴとメルティ―ソンに至ってはお風呂を共にする仲である。流石に男性の体であるグレミリオとは風呂場での付き合いはないが。

「これが今話題のお菓子ね。頂きまーす…うん!美味しいわ。中のクリームが甘すぎなくていいわね」

「紅茶に合いますね」

「ほんとね。ついつい手が伸びちゃうわ」

いつもこうして楽しんでいるのか、仲睦まじい様子の3教師である。そういえばどのような関係なのだろう。ただの教師仲間というだけなのだろうか。

「どうしたのさくらちゃん? どんどん食べていいのよ」
イヴに促され、さくらも一つとる。確かに美味しい。だが、ご馳走してもらう一方なのが少々心苦しい。先程もセッティングを手伝おうとしたら辞退され、あれよあれよと座らされた。せめて何か…

「あ。そういえばこんなお菓子があるんですけど…」
思いつき取り出したのはマイクから買った金太郎飴。小皿にとりわけ差し出してみる。

「いやん可愛いわこの飴。ニアロンちゃんね」

「こっちはリュウザキ先生ですね。食べるのちょっと忍びないですが…」

「あら美味しい!どこのお店の?エアスト村?取り寄せようかしら」

好評のようだ。買っておいてよかった。



それからは緊張は解け、さくらは会話にすんなりと入ることができた。

「あの店の化粧品は良いわよ。隠れた名店ね」
「グレミリオ先生がそう仰るなら期待大ですね。今度買いに行きましょう」

「私もそろそろ化粧とかしたほうがいいんでしょうか?」
「さくらちゃんはまだそのままでいいわよ、若いうちからやると肌が荒れちゃうわ」

「そうよ。イヴちゃんもメルティちゃんも軽くしているだけだし、厚化粧が要るのは私だけよぉ。やだ、笑って笑って」

和やかな雰囲気の中、楽しいティータイムは進んでいった。



宴もたけなわ。さくらはここがチャンスと、少し気になっていたとある事を聞いてみる。
「そういえばこの間盗賊を退治してくださった時に、皆さん二つ名みたいな呼ばれ方をされていましたけど、あれって…」

「あらま、聞こえてたの。恥ずかしい」
「そう面と向かって聞かれると少しこそばゆいわね」
身をくねらせるグレミリオと頬に手を当て微笑むイヴ。かといって嫌がる素振りではない。寧ろ誇りに思っているようだ。グレミリオが代表して答える。

「あれは昔暴れまくったからつけられたあだ名よ。私とイヴちゃんのはかつての戦争時のものね」

「20年前のことって聞きましたけど、参加していたんですか?」

「してたわよ、3人共ね。イヴちゃんとメルティちゃんはまだ子供だったけど」



イヴが紅茶を注ぎながら口を切る。
「私の『ゴーレム軍団長』は魔王軍が人海戦術をしかけてきた際にゴーレムを沢山作って追い払った時が最初かしら。…自分で言うとちょっと怖いわねこの二つ名」

「どのくらい作ったんですか?」
さくらの問いに彼女はポットを置き、背をもたれ思い出す仕草をとる。

「えーと…たしか前にサラマンド用の案山子にした大きさのを、千体ぐらい。あと人並みの大きさのをできるだけ沢山。一万体は作ったかしら…。龍脈から魔力を補充していたとはいえ、流石に身体が保たなくて数日間は寝たきりになったわね。命令もただ『暴れろ』としか出せなかったし」

「すごい…!」
確かあの時のゴーレムは優に7、8mはあった。それが千体に加え、歩兵ゴーレムが一万。想像しただけでも圧巻である。グレミリオも懐かしそうに頷いた。

「あれは壮観だったわ。突然地面が盛り上がって、巨兵が現れたと思ったら一斉に襲い掛かってくるのですもの。雑兵程度じゃ簡単に薙ぎ払われて成す術なかったわ。あれがまだ齢12の子が一人で出したと聞いた時は耳を疑ったわよ」


「…あれ?」
今のグレミリオの発言に違和感を感じるさくら。

「襲い掛かってくる、ということはグレミリオ先生って…」

「あらよく気づいたわね。私は魔王軍にいたのよ」

「えっ!?」
さくらはその戦争について詳しくは知らない。だが、魔王軍が悪だということは聞き及んでいる。それに今、イヴとグレミリオは仲良くお茶を楽しんでいるではないか。

事情がよくわからない。こういう時は直接聞いてみるに限る。
「裏切りの悪魔って…?」

「そのままの意よ。裏切ったの」
紅茶を一口飲み、さも平然と答える彼、もとい彼女。

「人界側を、ですか?」
ごくりとつばを飲み込みながらグレミリオの答えを待つ。返ってきたのは…指で作られた×マークとウインクだった。

「残念、逆よ逆。魔王軍を裏切ったの。私、これでも元魔王軍幹部なのよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...