【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
132 / 391
―竜の魔神の元へ―

131話 御神体

しおりを挟む
「人…?」

さくらが捉えたのは、豪勢なマントを着こんだ人の後ろ姿。

―それはただの謁見客だ。もっと上だ―

ニアロンにそう言われ、視点を上げる。次に捉えたのは―。

「綺麗…!水晶ですか?」

霧の中、微かに入ってくる日の光を浴びてキラキラと輝いている鉱物を見て、さくらはそう感想を漏らす。だが竜崎は否定するかのように指示を加えた。

「更に上かな」

もっと上?そこまでいくと山の頂上しか映らないんじゃ…。そう思いながらも上げると…。

「―!!!」

巨大な眼が、こちらを見つめていた。


「ひっ!」

思わず望遠鏡から目を離すさくら。一方の姫様とバルスタインは齧りつくように眺めている。

「あれは…!」
「まさか…!」

一体何だったんだ。さくらがもう一度覗こうとしたその時だった。

ゴウッ!

突如、暴風が彼女達を襲…わなかった。正確には確かに吹き荒れた音がしたのだ。その勢い凄まじく、目の前の霧は全て晴らされた。だが、風はさくら達の髪や服を揺らすことすらせず、まるで霧散するかのように消え去った。

「あ、気づかれたか。余計な手間をかけさせちゃったな…」

―なに、気を利かせてくれたんだ。有難く拝ませてもらおうとしよう―

そんなことを言う竜崎達。だが、さくら達は霧は晴れたことにより映し出された景色に釘付けになっていた。


彼方に望むは、霧がかる霊峰の数々。だがその中に唯一、山肌全てが透明な鉱物で覆われた…いや、その全てがダイヤモンドやクリスタルのような美しい宝石で出来ている山があった。空から注ぐ仄かな日光を浴びて七色に輝く箇所もあれば、地面から立ち昇る魔力が飲み込まれ内部で脈動しているように見える箇所もある。

これは山なのか。否、山ではない。それを示すかのように、中腹部から生えているのは広げたら周囲の山を叩き崩しそうなほどの超巨大な翼。硝子のように滑らかな被膜が折りたたまれて閉じられているのはどこか幻想的である。

奥から伸びている美麗なる尾は真横にある山にくるりと巻き付けられているほどに長い。一層天上に近いため強い輝きを放つその様子は山に天使の輪がかかったようにも見える。

正面から伸びるのは太く、長い首。ここにもまた一流の宝石職人によってカッティングされたかのような鱗がきっちりとついている。

その先についているのはさくら達ほど離れていてもその太さ鋭さがわかるほどの角。王城など簡単にかみ潰せるかのような、しかしながら美しいあぎと。そして、長く眺めていると飲み込まれ溺れてしまいそうなほどの深い蒼を湛えた大きな目。

そう。そこにいたのは山ほどの大きさがある、一匹の弩級なる竜だった。

「あちらが竜の魔神、『神竜ニルザルル』その姿です」



遠くともわかる、その崇高なる姿にさくら達は目を離せない。だがその存在のあり得なさについ作り物を疑ってしまう。そんな考えを打ち破るかのように、竜は首を動かす。生きている。かつてさくらは『万水の地』で巨大な水の高位精霊であるエナリアスの姿を見たが、それを凌ぐではないか。

「あれが…ニルザルル様…」
姫様はその光景に圧倒され、ほうっと息をつく。

「竜の魔神殿の全貌、初めて見ました…」
バルスタインもかなり驚いた様子である。


と、ニルザルルの巨大なる顔が天を向く。腹の内から首へ、そして口元まで何か光の結晶体が昇ってきているのが見て取れた。次の瞬間―。

キュンッ!

眩い輝きと共に、撃ちだされたるはレーザービームの如き一撃。霧を割り、雲を割り、空高く発射されたそれは命を持ったかのようにカーブを描き、無数の細い線へと変化しキラリとどこかへと飛んでいった。その様子、まるで流星群。

「あれはいったい…!」

思わず興奮した様子で姫様は竜崎に問う。すると彼は自らの杖先についた望遠機能を使い様子を窺う。さくらもそれに続き覗いてみる。


神竜ニルザルルの足元。先程見たマントの人物が連れてきたお供と一緒に地面を頭に擦りつけお礼をしている。その横には沢山の金銀財宝。恐らくお礼の品なのだろう。だがニルザルル自身は動かず、代わりに近くに控えていた案内人がそれを貰い受けた。

「うーん。多分あの方々の領地で竜が暴れていたのでしょうね。それでニルザルルに頼んでお仕置きをしてもらった、ってところだと思われます」

「あのお礼の品って…」
続くさくらの質問にも彼は軽く答えた。

「あぁ。ニルザルルは別にあんなものに興味はない。竜だしね。あのお金は案内人が持ち帰って竜達のご飯を作る牧場や農場の資金、街の運営金になるんだ」

―あいつが好むものは別にあるんだが…。まあ普通はわからんだろうな―

ニアロンの謎の笑いが気になるが、答えてくれそうもない。



と、幕が降りるようにスルスルと霧が閉じていく。

「あ、どうやら終わりのようです」

―あいつ、恥ずかしくなったな―

竜崎の言葉を聞いて、もっと見ていたかった姫様は少し口惜しそうに望遠鏡を畳む。かくいうさくらも同じ気持ちである。あの美しさ、この世界でも滅多にないだろう。一日中でも見ていられる。

「では向かいましょう」

号令をかける竜崎に、姫様は寂しそうに質問をする。

「あの方の足元までですか?…もう終わりが近いのですね…」

目的地が見え、旅の終焉を予感したのだろう。だが、竜崎は予想外の一言を返した。

「いえ、更に奥地に向かいます。姫様、ご安心ください。まだまだ冒険は続きますよ。寧ろこれからといったところです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...