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―予言者な祈祷師―
291話 預言者な祈祷師③
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「予言をしてくれるんですか!?」
一も二もなく飛びつくさくら。元の世界でも予言というものは大なり小なり耳にしていたが、全部胡散臭く、それが叶ったことは知ってる限り一度たりともない。
だが彼女は、『予言者』シビラは違う。本当に予言を降ろした実績があるのだ。ならば信憑性が高い。一体何を聞かせてくれるのか、わくわくしてきた。
と、そこで口を挟んだのはニアロンだった。
―シビラ、お前の予言って確か…―
妙に言いにくそうな彼女。シビラはその先を引き取るかのように頷いた。
「えぇ、ニアロン達は知っているわよね。20年前の『勇者一行』の予言以降、碌に成功していないわ」
衝撃的なシビラの言葉に、さくらは一瞬理解が及ばず呆ける。予言が、成功していない…!? 眉を潜める彼女に、シビラは説明してくれた。
「予言の文言が明確に降りてきたのは、後にも先にも20年前のあの時限り。当時は昼夜問わず一心に祈っていたというのがあるのでしょうけどね」
「えっ…じゃあ…」
言葉をそれしか絞り出せないさくら。シビラは言葉を続けた。
「普段の国事や人を祈祷するときは、何か起きそうだったらそれっぽい反応が見えるだけなの。ぼやっと大まかなオーラが見えるという感じかしら。それに今までの経験を照らし合わせて進言するのよ。勿論、見えない時は何も見えないわ」
ぶっちゃけ『予言者』というのは過大評価に近いわね。そう言い、シビラは小さく溜息をついた。
そうである。彼女は祈祷師であり、予言を生業としている者ではないのだ。さくらは自分をそう戒めるが、ちょっと残念。ふと気になり、普段の仕事を聞いてみると―。
「私の仕事はもっぱら国のために祈ることと、明日の天気予報ね。一応今のとこ99%当てられているわ」
…いやそれ普通に凄いのでは? 気象衛星、気象予報士でも難しいレベルである。と、シビラは思い出したかのように手を打った。
「そうそう、私を信用してくれている貴族の方々が時折ここを訪れるのだけど、たまに『今日の夕食は何を食べれば良いか』みたいなことを本気で聞いてくることがあるのよ」
「それはどうしてるんですか?」
興味を惹かれたさくらは問い返してみる。するとシビラはクスリと笑って答えた。
「そういう時は召使の人達と示し合わせて、厨房の都合の良いように誤魔化しているわ。そしたら、『予言してもらった食事を食べたおかげで体が健康になった!』とか言ってくる人達もいるのよ」
礼を言うべき相手はその料理人たちなのにね。と、彼女は肩を竦めた。
祈祷師シビラの後に続き、上への階段を更に登る。そこは先程いた応接間があるエリアとは違い、どこか厳かな雰囲気を感じ取れる装飾が各所に施されていた。そして極めつけは―。
「わぁ! 凄い…!」
思わず声をあげるさくら。塔の最上階に当たるその部屋の屋根、つまり尖塔部分は全て硝子張りで出来ていたのだ。暮れかけの太陽光が注ぎ込み、床の大理石に反射しているその様子は神々しさすらある。
「そういえば祈祷っておっしゃってましたけど、何に祈るんですか?」
きょろきょろと辺りを見回しながら、さくらはシビラに問う。祈祷するのだから何かしらの神、それこそ高位精霊達のような魔神に祈るのではないかと考えたのだが…。
どこを見ても、それらしいものはない。高位精霊の像や上位精霊の鱗はおろか、『聖なる魔神』メサイアの絵画やステンドグラスすらない。ただ部屋の端、壁のところに幾つものスタンドランプのような燭台が置いてあるだけである。
「そうね…わかりやすく言うと、『この世界全体』って言ったところかしら。特に決まった神を指さず、世界そのものの声を聞き、祈りを捧げるという…あ、ごめんなさい、わかりにくいわよね。まああまり気にしないで! じゃあちょっと準備してくるわね」
シビラはそう言うと、準備室らしき場所にパタパタと駆けていく。さくらは竜崎と共に近くの椅子に腰かけ、シビラの召使達が端に置かれていた燭台を各所に配置していく様子を見ながら待つことに。
「…竜崎さんは予言を信じますか?」
暇つぶしに、さくらは竜崎にそう振ってみる。すると彼はギッと椅子に深く腰掛け、答えた。
「いくら20年前とはいえ、私もさくらさんと同じ『科学による世界』の出身だ。予言なんてウソ臭い、そう思っていたさ。知ってる?『ノストラダムスの大予言』」
「その言葉だけは、ですけど」
自身が産まれる何年も前の話だが、教師や親から聞いたことはあったのだ。さくらのその返答に良かったと微笑んだ竜崎は、そのまま言葉を続けた。
「『1999年7の月、空から恐怖の大王が来るだろう』。それをこの世の終わりと捉え、日本中は騒ぎに騒いだ。勿論、信じない人が大半だったけどね。でも結局、アンゴルモアの大王もマルスも姿を現さなかった」
それはさくらさんが産まれ、無事に成長したことからわかる通りだ。竜崎はそう言い、一旦言葉を区切った。
「でも、彼女…シビラさんの予言はそれとは違う。賢者の爺さんすら気づいていなかった、この世界に来たばかりの私を見つけ出し、戦争を止める者の一人とした。そして、かの予言は見事実現したんだ」
当時を振り返るように、自らの手を見つめる竜崎。なにせ彼はその予言を叶えた当事者、他の人達とは違う思いを持っているだろう。
そんな竜崎の目からは、信者…というほどではないが、シビラの事を信頼していることが充分に窺えた。
「さくらさんには何か予言が降りるかな」
―案外清人と同じく、『世界を救う』とでも出るんじゃないか?―
…そのせいか、竜崎達はさくら以上にわくわくしている様子であった。
一も二もなく飛びつくさくら。元の世界でも予言というものは大なり小なり耳にしていたが、全部胡散臭く、それが叶ったことは知ってる限り一度たりともない。
だが彼女は、『予言者』シビラは違う。本当に予言を降ろした実績があるのだ。ならば信憑性が高い。一体何を聞かせてくれるのか、わくわくしてきた。
と、そこで口を挟んだのはニアロンだった。
―シビラ、お前の予言って確か…―
妙に言いにくそうな彼女。シビラはその先を引き取るかのように頷いた。
「えぇ、ニアロン達は知っているわよね。20年前の『勇者一行』の予言以降、碌に成功していないわ」
衝撃的なシビラの言葉に、さくらは一瞬理解が及ばず呆ける。予言が、成功していない…!? 眉を潜める彼女に、シビラは説明してくれた。
「予言の文言が明確に降りてきたのは、後にも先にも20年前のあの時限り。当時は昼夜問わず一心に祈っていたというのがあるのでしょうけどね」
「えっ…じゃあ…」
言葉をそれしか絞り出せないさくら。シビラは言葉を続けた。
「普段の国事や人を祈祷するときは、何か起きそうだったらそれっぽい反応が見えるだけなの。ぼやっと大まかなオーラが見えるという感じかしら。それに今までの経験を照らし合わせて進言するのよ。勿論、見えない時は何も見えないわ」
ぶっちゃけ『予言者』というのは過大評価に近いわね。そう言い、シビラは小さく溜息をついた。
そうである。彼女は祈祷師であり、予言を生業としている者ではないのだ。さくらは自分をそう戒めるが、ちょっと残念。ふと気になり、普段の仕事を聞いてみると―。
「私の仕事はもっぱら国のために祈ることと、明日の天気予報ね。一応今のとこ99%当てられているわ」
…いやそれ普通に凄いのでは? 気象衛星、気象予報士でも難しいレベルである。と、シビラは思い出したかのように手を打った。
「そうそう、私を信用してくれている貴族の方々が時折ここを訪れるのだけど、たまに『今日の夕食は何を食べれば良いか』みたいなことを本気で聞いてくることがあるのよ」
「それはどうしてるんですか?」
興味を惹かれたさくらは問い返してみる。するとシビラはクスリと笑って答えた。
「そういう時は召使の人達と示し合わせて、厨房の都合の良いように誤魔化しているわ。そしたら、『予言してもらった食事を食べたおかげで体が健康になった!』とか言ってくる人達もいるのよ」
礼を言うべき相手はその料理人たちなのにね。と、彼女は肩を竦めた。
祈祷師シビラの後に続き、上への階段を更に登る。そこは先程いた応接間があるエリアとは違い、どこか厳かな雰囲気を感じ取れる装飾が各所に施されていた。そして極めつけは―。
「わぁ! 凄い…!」
思わず声をあげるさくら。塔の最上階に当たるその部屋の屋根、つまり尖塔部分は全て硝子張りで出来ていたのだ。暮れかけの太陽光が注ぎ込み、床の大理石に反射しているその様子は神々しさすらある。
「そういえば祈祷っておっしゃってましたけど、何に祈るんですか?」
きょろきょろと辺りを見回しながら、さくらはシビラに問う。祈祷するのだから何かしらの神、それこそ高位精霊達のような魔神に祈るのではないかと考えたのだが…。
どこを見ても、それらしいものはない。高位精霊の像や上位精霊の鱗はおろか、『聖なる魔神』メサイアの絵画やステンドグラスすらない。ただ部屋の端、壁のところに幾つものスタンドランプのような燭台が置いてあるだけである。
「そうね…わかりやすく言うと、『この世界全体』って言ったところかしら。特に決まった神を指さず、世界そのものの声を聞き、祈りを捧げるという…あ、ごめんなさい、わかりにくいわよね。まああまり気にしないで! じゃあちょっと準備してくるわね」
シビラはそう言うと、準備室らしき場所にパタパタと駆けていく。さくらは竜崎と共に近くの椅子に腰かけ、シビラの召使達が端に置かれていた燭台を各所に配置していく様子を見ながら待つことに。
「…竜崎さんは予言を信じますか?」
暇つぶしに、さくらは竜崎にそう振ってみる。すると彼はギッと椅子に深く腰掛け、答えた。
「いくら20年前とはいえ、私もさくらさんと同じ『科学による世界』の出身だ。予言なんてウソ臭い、そう思っていたさ。知ってる?『ノストラダムスの大予言』」
「その言葉だけは、ですけど」
自身が産まれる何年も前の話だが、教師や親から聞いたことはあったのだ。さくらのその返答に良かったと微笑んだ竜崎は、そのまま言葉を続けた。
「『1999年7の月、空から恐怖の大王が来るだろう』。それをこの世の終わりと捉え、日本中は騒ぎに騒いだ。勿論、信じない人が大半だったけどね。でも結局、アンゴルモアの大王もマルスも姿を現さなかった」
それはさくらさんが産まれ、無事に成長したことからわかる通りだ。竜崎はそう言い、一旦言葉を区切った。
「でも、彼女…シビラさんの予言はそれとは違う。賢者の爺さんすら気づいていなかった、この世界に来たばかりの私を見つけ出し、戦争を止める者の一人とした。そして、かの予言は見事実現したんだ」
当時を振り返るように、自らの手を見つめる竜崎。なにせ彼はその予言を叶えた当事者、他の人達とは違う思いを持っているだろう。
そんな竜崎の目からは、信者…というほどではないが、シビラの事を信頼していることが充分に窺えた。
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