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― 奪われる』―
333話 嘲弄が示す宣告
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魔術士の思わぬ反応に、竜崎達はおろか獣人までもが警戒を強める。全身を苦痛が襲っているはずの彼が嘲笑を浮かべるという事は、間違いなく何か裏がある。
新たなる攻撃か、それとも…。しかし、全員の予想を裏切り、魔術士は仕掛けてこようとはしなかった。
彼は首をゆっくり横に動かし、溜息ながらに侮蔑の声を発する。その相手は…獣人であった。
「お前…やっぱり知能もケモノだなぁ…それが通るわけねえだろうが…!」
「あん…? なんでだ?」
眉を潜める獣人。すると、魔術士はまたもクツクツと笑い始めた。
「それすらわからないのか? ハッ…やっぱりお前は昔から変わらない…粗暴で臭いままか」
詳細を語ろうとしない彼に、獣人は肩を竦める。またいつものか、無視で良いだろと言わんばかりである。
だが、そんな魔術士の言葉に、一際強く反応した者がいた。竜崎である。
「…どういう…意味だ…」
彼は、魔術士を睨み問う。…嫌な予感がしたのだ。
「それが通るわけない」…つまり、『取引が成立しない』ということを示している。それはわかる。だが、魔術士は何故そこまで確信めいた台詞を口にしたのだろうか。
確かに先程、魔術士と竜崎は取引…もとい脅迫合戦を行った。片や転移装置を、片や魔導書を人質として。その結果は、魔術士の根負けであった。
その出来事から、魔術士はそう言ったのであろうか。勿論その可能性もあるだろう。だが、あの時とは状況が違う。
あの時は魔術士が1人だったのに対し、竜崎、ニアロン、さくら、そして神具ラケットがあった。しかし今、魔術士サイドには強力な助っ人である獣人がいるし、ラケットも奪ってある。
もし、またも脅迫合戦が行われようと、獣人が動き竜崎を制するであろう。それこそ、いとも容易く。
正直、獣人が殺る気さえ出せば、竜崎達を皆殺しにしたのちにゆっくりと魔導書を奪うことも可能。それほどまでに、魔術士サイドは有利なのだ。
…だが、それならば「取引なぞする必要はない」とでも言えばいいはず。それなのに、あんな言葉を吐いたのは、何か意味がある。
特にあの口ぶり。まるで、あの転移装置は取引材料に値しない…『価値がないガラクタ』と言うような…。
(…!! ま…さか……)
竜崎の頭の中には、最悪の想像が浮かぶ。普通の魔術士ならば絶対に出来ない、それを。装置の術式を知っている彼だから出来る、それを。既に実行されているはずの、それを。
そんな竜崎の内心には気づかないまま、魔術士は拍子抜けと言いたげな声をあげた。
「アァ…? まさかお前らも…わからねえのか…?」
その言葉に、さくらは困惑の表情を浮かべる。が、ニアロンは竜崎と同じ推測に至ったらしく、ハッと装置へと視線を飛ばした。
―もしかして、お前…!―
信じられないという口調の彼女。それを聞いた魔術士は…
「クックッ…そうか…そうか…! 今まで気づいてなかったのか…!フッフッ…アッハッハ! ゲホッ…ハッハッハ!!」
血を漏らしつつも、堪えきれぬ笑いを弾けさせる。それはまるで、勝利を確信した…復讐を成功させたかのように。
「お前…あの時…装置の術式を…!」
確証を得た竜崎は、ギリッと歯を鳴らし呟く。魔術士は、それに頷くように意気揚々と衝撃の事実を宣告した。
「あぁそうさ…! あの時…そこのガキを転移させるため、ガラクタの術式を書き換えた! だから…もう既に、お前らが必要としていた転移魔術の設定は、粉々に破壊済みなんだよ!」
「……え」
さくらは思わず竜崎を治療する手を止めてしまう。魔術士の言葉が何を示しているか、分かってしまったからだ。それは……
「帰れ…ない…の…?」
急激に全身の力が抜けていく。術式の破壊…つまり、『元の世界に帰れる可能性のある魔術』の消滅。
そう、帰るための唯一の希望は、とうの昔に打ち砕かれていたのだ。
思えば、魔術士は途中から転移装置に一切目をくれず、さくらを狙っていた。それは、既に装置が無意味なものに成り果てたからであったのか。
竜崎が獣人に襲われ、意識が装置から逸れたあの瞬間。その時から既に、守るべき物は、無惨に殺されていた―。
何のために戦っていたのか、何のために竜崎さんに大怪我を負わせてしまったのか、何のために…。
「…嘘…!!」
思わずさくらは叫ぶ。そうしなければ、精神が崩れていきそうだった。だがそれは、更に絶望の結末を見せるだけであった。
「嘘だと思うか? なら、もっと分かりやすくしてやる…!」
魔術士はそう言いながら持っていた魔導書を開く。すると、それはコオオと輝き出した。
「本当は、魔導書を奪った後に見せしめにしてやろうと仕込んでいたが…!」
「待て…や…めろ…!」
―くっ…!―
竜崎が手を伸ばし、ニアロンが止めに走ろうとしたその時。魔術士の魔導書は一際強く光り―。
ビキィ…!
氷牢の中で、転移装置が…砕け落ちた。
新たなる攻撃か、それとも…。しかし、全員の予想を裏切り、魔術士は仕掛けてこようとはしなかった。
彼は首をゆっくり横に動かし、溜息ながらに侮蔑の声を発する。その相手は…獣人であった。
「お前…やっぱり知能もケモノだなぁ…それが通るわけねえだろうが…!」
「あん…? なんでだ?」
眉を潜める獣人。すると、魔術士はまたもクツクツと笑い始めた。
「それすらわからないのか? ハッ…やっぱりお前は昔から変わらない…粗暴で臭いままか」
詳細を語ろうとしない彼に、獣人は肩を竦める。またいつものか、無視で良いだろと言わんばかりである。
だが、そんな魔術士の言葉に、一際強く反応した者がいた。竜崎である。
「…どういう…意味だ…」
彼は、魔術士を睨み問う。…嫌な予感がしたのだ。
「それが通るわけない」…つまり、『取引が成立しない』ということを示している。それはわかる。だが、魔術士は何故そこまで確信めいた台詞を口にしたのだろうか。
確かに先程、魔術士と竜崎は取引…もとい脅迫合戦を行った。片や転移装置を、片や魔導書を人質として。その結果は、魔術士の根負けであった。
その出来事から、魔術士はそう言ったのであろうか。勿論その可能性もあるだろう。だが、あの時とは状況が違う。
あの時は魔術士が1人だったのに対し、竜崎、ニアロン、さくら、そして神具ラケットがあった。しかし今、魔術士サイドには強力な助っ人である獣人がいるし、ラケットも奪ってある。
もし、またも脅迫合戦が行われようと、獣人が動き竜崎を制するであろう。それこそ、いとも容易く。
正直、獣人が殺る気さえ出せば、竜崎達を皆殺しにしたのちにゆっくりと魔導書を奪うことも可能。それほどまでに、魔術士サイドは有利なのだ。
…だが、それならば「取引なぞする必要はない」とでも言えばいいはず。それなのに、あんな言葉を吐いたのは、何か意味がある。
特にあの口ぶり。まるで、あの転移装置は取引材料に値しない…『価値がないガラクタ』と言うような…。
(…!! ま…さか……)
竜崎の頭の中には、最悪の想像が浮かぶ。普通の魔術士ならば絶対に出来ない、それを。装置の術式を知っている彼だから出来る、それを。既に実行されているはずの、それを。
そんな竜崎の内心には気づかないまま、魔術士は拍子抜けと言いたげな声をあげた。
「アァ…? まさかお前らも…わからねえのか…?」
その言葉に、さくらは困惑の表情を浮かべる。が、ニアロンは竜崎と同じ推測に至ったらしく、ハッと装置へと視線を飛ばした。
―もしかして、お前…!―
信じられないという口調の彼女。それを聞いた魔術士は…
「クックッ…そうか…そうか…! 今まで気づいてなかったのか…!フッフッ…アッハッハ! ゲホッ…ハッハッハ!!」
血を漏らしつつも、堪えきれぬ笑いを弾けさせる。それはまるで、勝利を確信した…復讐を成功させたかのように。
「お前…あの時…装置の術式を…!」
確証を得た竜崎は、ギリッと歯を鳴らし呟く。魔術士は、それに頷くように意気揚々と衝撃の事実を宣告した。
「あぁそうさ…! あの時…そこのガキを転移させるため、ガラクタの術式を書き換えた! だから…もう既に、お前らが必要としていた転移魔術の設定は、粉々に破壊済みなんだよ!」
「……え」
さくらは思わず竜崎を治療する手を止めてしまう。魔術士の言葉が何を示しているか、分かってしまったからだ。それは……
「帰れ…ない…の…?」
急激に全身の力が抜けていく。術式の破壊…つまり、『元の世界に帰れる可能性のある魔術』の消滅。
そう、帰るための唯一の希望は、とうの昔に打ち砕かれていたのだ。
思えば、魔術士は途中から転移装置に一切目をくれず、さくらを狙っていた。それは、既に装置が無意味なものに成り果てたからであったのか。
竜崎が獣人に襲われ、意識が装置から逸れたあの瞬間。その時から既に、守るべき物は、無惨に殺されていた―。
何のために戦っていたのか、何のために竜崎さんに大怪我を負わせてしまったのか、何のために…。
「…嘘…!!」
思わずさくらは叫ぶ。そうしなければ、精神が崩れていきそうだった。だがそれは、更に絶望の結末を見せるだけであった。
「嘘だと思うか? なら、もっと分かりやすくしてやる…!」
魔術士はそう言いながら持っていた魔導書を開く。すると、それはコオオと輝き出した。
「本当は、魔導書を奪った後に見せしめにしてやろうと仕込んでいたが…!」
「待て…や…めろ…!」
―くっ…!―
竜崎が手を伸ばし、ニアロンが止めに走ろうとしたその時。魔術士の魔導書は一際強く光り―。
ビキィ…!
氷牢の中で、転移装置が…砕け落ちた。
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