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―目覚め、そして…―

387話 私の勇者

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「竜崎さん…!!!」


無事に目覚めていた竜崎を見て、感極まってしまったのだろう。さくらはバッグを落とすようにタマへ預けるやいなや、前のめりになるように彼の元へ駆け出す。


そして、それは竜崎も同じであった。さくらの無事をその目で確認できた彼はふらりと立ち上がり、よろめきながらも前へと。そして―。



「「よかった……!」」



大切な人へ縋るように。愛娘を抱きしめるように。 相手を労わり、されど深く。 互いに想いが詰まった抱擁を交わした。









――と、さくらが口を開く。その声は…涙で濡れていた。



「ごめんなさい竜崎さん…! 私があんなことお願いしなければ…全部無事だったのに…! 全部……全部私が……!」


竜崎の新品白ローブに泣き跡が残るほどにひたすら詫び、自らを責める彼女。竜崎はそれを、一層強く抱き留めることでめさせる。



「さくらさんは悪くないさ。寧ろ、よくここまで耐えてくれたよ」


そのまま先程アリシャへとしたように、彼はさくらの頭を優しく撫でる。そして彼女を離し、面と向き合うような形に。


…しかし目は合わせられぬまま、声の調子を誠意と贖罪あるものへと整えた。




「謝るべきは私の方。…怖がっちゃって帰れる可能性のある手段を隠していたし、さくらさんがそれを知っても実行の決意を上手く固めきれなかった。 故郷が恋しい気持ちは、何よりもわかっていたはずなのに…」


「そんな……」


何か言いたげなさくら。竜崎はそれを口にさせぬように首を振り、自らの述懐を続ける。


「いざ装置にたどり着いても、困らせることを色々言ってしまった。 …そして、あの魔術士達との戦いで、さくらさん達を守り切ることができなかった。 『英雄』なんて言われているのに、情けないくてごめんね…」


忸怩と悲嘆にくれるかのような彼。 ―と…。



「――っ…! そんなこと…ありませんっ!」



さくらが、叫んだ。








その剣幕に驚き、竜崎は彼女の顔を見やる。するとさくらは顔を伏せ、両手でぎゅうっと自らの胸を掴んだ。


「竜崎さんこそ、悪くありません…! 私の我が儘をどんな時も聞いてくれて、体を張って守ってくれて……! 私、散々迷惑かけてるのに…いつも笑って許してくれて…!!」


竜崎が口にした自責を吹き払うように、自らの行いを省みるように、言葉を紡ぐ彼女。


そして涙でいっぱいになった瞳で、彼の目を見つめながら、想いを伝えた。



「竜崎さんは、間違いなく私の『英雄』です…! ううん…!『勇者』なんです! 格好良くて優しくて、勇敢で強くて、そして、頼もしい…! 私の、勇者なんです!!」



涙の向こうに真っ直ぐ見える彼女の双眸に、竜崎は自分を呵責する台詞を口に出来なくなる。


さくらは溢れ出した雫を拭いつつ、嗚咽混じりに続けた。



「だから…だから…。竜崎さんは謝らないでください…! 悪いのは、私なんですから…」


そして今度は彼女が、竜崎にそれ以上口にさせぬように、深々と頭を下げた。



「ありがとう…ございます…―! 私を、たすけてくれて…―!」



そんなさくらに竜崎は言葉を返さず…否、返せず、代わりに彼女を再度抱きしめる。それをニアロンとタマ、勇者アリシャは、微笑み見守っていた。











―さて。感動の再開は一旦そこで切り上げとけ―


「皆、来たよ」



ふとニアロンはそう切り出し、アリシャは空を見上げる。タマもまたピクリと耳を動かした。


「おや、皆さんお早いご到着で」


さくらから預かっていたバッグを咥え、場所を開けるタマ。するとそこへ――。




「リュウザキ先生! おっはようございまーす!」


最初にスタンと降り立ったのは、エルフのイケメン…ただし黙っていればな彼、オズヴァルド。続いて―。



「「「「リュウザキ先生!!!」」」」


歓喜の声を揃え、風の上位精霊二体に乗って来たのは、エルフリーデとナディ、そしてシベルとマーサ。




「あら♡ かなり元気そうじゃなぁい!」

「ほっ…。よかったです…!」

「やっぱり強いわね、リュウザキ先生は♪」


召喚した霊獣『白鳥』に乗ったグレミリオとメルティ―ソン、そして竜崎から貰った空飛ぶ箒に腰かけたイヴも、ふわりと舞い降りてきた。




加えて最後には――。



「全く……! 心配かけさせて…!!」


「ふぉっふぉっふぉっ。 ―ソフィアや、目元拭っとけい」



賢者ミルスパールに連れられ、発明家ソフィアが。 先程まで静かであった中庭には、一気に心弛こころゆるびの息が溢れたのである。










「随分と長い居眠りでしたね~! お目覚めの気分は如何ですかぁ?」


「このっ…! オズヴァルド! お前帰らせるぞ!」

「そうですよ! さっきも勝手に飛び出していって!」


やはり本人にとっては一切裏の無い純粋無垢な問いかけである、煽り台詞のような言葉を満面の笑みで口にするオズヴァルド。


それに憤り、やっぱり彼を叱り飛ばすエルフリーデとナディ。竜崎はそんな三人を嬉しそうに眺めつつ、微笑んだ。



「良い感じだよ、オズヴァルド。 エルフリーデ、ナディ。三人で私を守ってくれて有難う」


彼のその言葉に、ぎゃいぎゃい揉み合っていた三人はピタリと動きを止める。オズヴァルドは目を輝かせるように喜び、エルフリーデ達は堪えていたものが弾けたのか、目を潤ませてしまっていた。





「リュウザキ先生、ご無事に目覚められて何よりです…!」

「お身体の調子は如何ですか…? どこか具合の悪い箇所は…?」


次に、治療担当者であるシベルとマーサがそう迫る。…2人共、既に瞳が濡れている。 そんな彼らへアピールするように、竜崎は大振りに腕をぐるんぐるん。


「うん、2人のおかげでこんなに元気になれたよ。命の恩人だ…あたたた…」


が、残っていた痛みが鎌首をもたげてしまい、顔を顰める彼。 直後にシベル達に慌てて簡易検査をされたのは言うまでもない。







「リュウザキ先生…! 良かったです…! 微力ですが…お力添えさせて頂きました…!」


「私達にとっても大切な人だもの、ね。 じゃあ…お礼に、何して貰おうかしら?」


次いでメルティ―ソンが安堵の言葉を、イヴが妖艶なる笑みで冗談を。竜崎は彼女達へしっかりと頷き、口を開いた。


「勿論お礼はするよ。けど、その前に一つ。 ―有難う。優しい君達と友になることができて、本当に良かった」



「―…ぁぅ…! …こ、こちらこそ…です……!」


「あらメルティちゃん、泣いちゃって…。 …私もちょっと嬉し涙が出てきちゃったじゃない…」



竜崎の篤実なる言葉に、目を潤ませる2人。 するとその様子をニコニコ見ていたグレミリオが、いつもの如く体をやわりとくねらせ、おどけた調子で首を竦めた。


「女の子全員泣かせちゃって…。罪な男ねぇ、リュウザキちゃん♡」


アリシャやニアロン、さくらの涙痕をも見極め放ったであろうその台詞に、竜崎は苦笑いを浮かべてしまうのであった。








―そして、ソフィアなのだが…。


「キヨト」

「は、はい?」


ズンズンズンと力強く歩み寄ってきたソフィアの気迫に、少しビビる竜崎。すると彼女は片手を上げ、デコピンの準備を。


「一発、叩かせなさい」


「あー…。 わかった。何発でも受けるよ」


勝手に転移装置を起動しにいった仕置きと受け取った竜崎は、ソフィアが叩きやすいように身を下げ、おでこを差し出す。



――と、彼女は用意していたデコピン手を解き、それどころか両手を以て竜崎の頭を押さえ…。


「―…んっ」


…彼の額に、キスをぶつけた。




「…ふぅ。 これで勘弁したげる」


呆ける竜崎へそう残し、踵を返すソフィア。周囲の目を気にしてか、はたまた竜崎に見られるのを避けるためか、顔をぷいっと背けた。


と、そんな彼女にミルスパールが一言。


「素直じゃないのぅ」


「うっさい、爺様…!」







ソフィアの返答にふぉっふぉっと笑ったミルスパール。彼は孫に語り掛けるように、竜崎へ向いた。


「さ、や。〆てくれい」


「しめ…―。 ―えぇ。」



彼が何を言いたいのかを理解した竜崎は、その場の全員を見渡す。そして深々と、丁寧に、一礼をした。



「改めて―。皆、私を、そしてニアロンとさくらさんを、たすけてくれて…本当に、本当に、ありがとう―!」



彼の、心よりの感謝の言葉。それに続き、ニアロンとさくらも最敬礼を。



それを受け皆は、穏やかな笑みを浮かべるのであった。


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