変わった形の石

藤原葉月

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第1話 別れ

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俺の名前は栗原敬太。
将来の夢は、シンガー・ソングライターか、学校の音楽の先生。
そのどちらかになれれば、いいと思ってた。
自分の夢に向かって、勉強も、頑張ったし、ピアノが得意やったから、ピアノを引きながら、もしくは、作曲もしながら、高校生活を、満喫させていた。
幼なじみに、亜利砂が、いて、彼女も、学校の先生を、めざしていた。
残念ながら、俺たちは、別々の大学に行くことになったし、お互い受験勉強で忙しくなってしまった。
「敬太と、同じ大学行きたかったな。」
「仕方ないやん。」
「ふふっ。でも、敬太なら、小学生の先生に、なってそうだな。」
「なってそうやな・・・じゃなくてなるんや。担当は、音楽やな。でも、小学生の先生って、難しいらしいな。」
「敬太が、音楽の先生は、わかるよ。ピアノ上手だし、歌も歌えるし。」
「・・・ありがと。」
俺がちょっと照れると、

「なにより、敬太が、子供だから、きっとなれるよ」
「なんやそれ~!」
そう言って、笑いあった日々。
隣には、亜利砂がいるのが当たり前で、とても充実した日々やった。
残り少ない高校生活。
亜利砂とは、もうこれで会えなくなるんやなって。
「なぁ、亜利砂。」
「ん?なに?」
「俺な・・・・」
言えやんかった。
俺は、1週間後、引っ越すことを。
「なに?どうしたの?」
「いや、なんでもないわ。受験勉強、お互い頑張ろうな。」
「うん!」
「そういえば、こないだ見つけた石あったやん?」
「えっ?石?」
そう、俺と亜利砂は、いつも川原で、腰かけて、休憩したりしていた。
「知り合いに頼んで、ネックレスにしたんや。これ、亜利砂に、やるよ」
「えっ?あの石で?」
「そうや。あの石、清めてもらって、半分にわって、ネックレスと、ブレスレットにしてもらったんや。」
「半分にしちゃって、大丈夫なの?石ってそのままの方が、ご利益ありそうだけど?」
「ええのええの。俺と亜利砂、二人で見つけたものやから。」
俺は、ネックレスを迷うことなく、亜利砂に付けると。
「うん。よく似合ってる。卒業のプレゼントや。お守りやで?大事にしてな?」
「うん!ありがとう!絶対大切にする!」
「俺は、ブレスレットや。」
「ほんとだ。」
これが、俺たちを、繋ぐたったひとつの宝物になった。

    俺が、引っ越しをする当日だった。
学校から帰って、すぐ出発する予定でいた。
だけど、
「敬太くん!あなたんちのマンション燃えてるわよ?」
「えっ!」
「早く!急いで!」
その日は、ピアノレッスンもしないですぐ帰宅した俺は、目の前の風景に、唖然とした。
父さんは、俺を見つけると、
「敬太!忘れ物はないな。もう、へやには、戻れないぞ。」
「あっ!ブレスレット」
「ブレスレット?そんなもの、いつでも買える。とにかく、もう行くぞ」
「・・・・だけど、あれは」
「敬太!死にたいのか!」
「すぐ、戻るわ!」
俺は、自分の部屋に戻ろうとした。
「あー、ちょっとお兄さん。ここから、先は、行けないよ?」
「いや、でも、俺の部屋は、まだ、燃えてへんやん。」
「君んちの部屋のとなりが、一番燃えてるんだ。これ以上は、危険だ。」
と、消防士さんに止められてしまった。
「あのブレスレット・・・・だけはもっていかなあかんのに。」
俺の呟きも、聞かれないままだった。
俺は、ショボンとしながら、エレベーターを、降りた。
と、同時に、エレベーターに乗った人物がいる。
亜利砂だ。
亜利砂も、同じマンションに、住んでいて、自分の部屋に帰るところだった。
そとで騒いでるのも、知らないのか、疲れきっていた。
「あれ?誰もいない?」
「ちょっと、君!」
「えっ?どうして?」
「もう、ここは、危険です。降りますよ?」
「待って!だって、わたし、部屋に・・・・」
「だめです。燃えかたがひどくてこれ以上は、行けません。」
亜利砂んちは、俺んちの真横だった。
「一緒に、来てください。」
「えっ?どこが火の元なの?」
「507号室です。」
「敬太は?」
「敬太?」
「敬太がまだ、いるんじゃないの?」
「もう、いませんよ。先程も、戻ってきた高校生はいますが、」
「敬太に、連絡しなきゃ」
だけど、亜利砂は、手が震えて、うまく、携帯番号を、押せないでいる。
「敬太!どうしてでないの?」
「お嬢さん、急ぎますよ?」
「敬太!敬太!無事だよね?」
その頃俺は、このマンションの、逃げた人と、見にきた野次馬たちの、人混みに紛れながら、その場所から離れようとしていた。
「すまん。亜利砂。」
ちゃんと、引っ越すことを、伝えないまま俺は、歩いていた。
「まだ、敬太が、いるかもしれないのに・・・・・」
そのころ、おれが、すでにマンションから、出ていることを知らない亜利砂は、おれが、マンションに取り残されていると思い込んでいたんや。
「敬太!どうして、電話にでないの?」
おれは、亜利砂からの、携帯に気づかずにいた。
そして、マンションは、かなり燃え広がっていく。
「敬太ー!!」
亜利砂が、泣き叫んでいることも知らずに、俺は、住み慣れた土地を離れたんや。
    
亜利砂に、連絡先も教えないまま、音信不通になっていた。
あのあと、俺は、改めてマンションを、訪れたんや。
あるものを、取りに行くために・・・・・。
俺の部屋は、壁が燃えているだけやった。
そして、あるものは、燃えずに残ってくれていた。
「良かったぁ~、燃えてなかったわ。」

そして、亜利砂が、くるかと思っていたけど、
「岡元さんちも、引っ越したわよ?」
「えっ?そうなんですか?」
「このマンション、取り壊されるらしいわよ。あなたんちは、良かったわねー」
話しかけてきたのは、隣の隣の家のおばさんだった。
「そうですかね。」
「引っ越しの準備、終わっていたんだろ?もう、このマンションには、忘れ物なんてなかったんだろ?」
「いや、忘れ物、取りに来たんです」
「そうなのかい?とにかく、ここにいた人たちは、もうみんな引っ越ししていく予定だよ。」
「そっか。そうやんな。」

俺は、ブレスレットだけ、握るとマンションを、あとにした。
そう、このあとまた、亜利砂が、母親と訪れていたなんて。
「あれ?亜利砂ちゃん?」
「こんにちは。みなさん、どうしてます?」
「みんな、ここに荷物を取りに来るんだね。さっきもきていたよ。ほら、亜利砂ちゃんと、幼なじみの。」
「もしかして、敬太君?」
「そうそう。亜利砂ちゃん、どうしたんだい?」
「・・・・・」
「連れてくるの迷ったの。あれから、此処に来るの拒んじゃって。」
「・・・・ここには、きたくない」
「・・・亜利砂ちゃん。」
「・・・・・わたし、帰る!」
そんな、やりとりが、あったとは思わず、俺は電車に乗っていた。
そんなすれ違いから、8年の月日が経っていた。
俺は、念願の小学校の先生になり、3年目を迎えていた。
この度、異動が決まり、今日は、送別会を開いてくれていた。
「敬太が、いなくなるの寂しいな~」
俺は、親友ができた。
同僚の、亮平だ。
「まぁさ、寂しくなったらいつでも連絡くれよな」
「ここからは、遠くなるけどな」
「いつでも、待ってるぜ!」
「敬太先生、ひどいです。わたしのこと、振るなんて。」
「おれ、あなたと付き合ってましたっけ?」
「違いました?」
「ちゃいますね~あきらかに~」
「あはは。おまえらのコント見れなくなるのかー」
「コントって。」
「元気でな」
「そっちもな」
「どこかで、あったら、また、飲みに行きましょう!」
「あぁ、そんときは、よろしく。」
3人は、改めて乾杯をした。
「そういえば、敬太、幼なじみとは、連絡とれたの?」
「連絡先交換してへんからな。いまだに、わからんわ。」
「そっか。もう、3年も経つのにな。」
「仕方ないわ。住んでたマンションが、火事になってしもて、俺は、そこから、早々といなくなったわけやし。」
「火事!?」
「そうや。隣の家から、出火してな。でも、俺んちは、引っ越す当日やったから、部屋にはもうなにもなかったんや」
「へぇー、よかったじゃん、」
「この、ブレスレット、そんとき、部屋にわすれてしまったんやけど、燃えやんかったんや。」
「取りに行ったのか?火事なのに。」
「どうしても、これだけは、なくしたくなくてな」
「お前らしいよ。たったひとつの宝物って訳か」
「そうなんや。亜利砂、元気にしとるかな。」
ふと漏れた独り言に、
「好きやったんやなぁー」
と、関西弁で、返した亮平。
「・・・・・・」
図星だったから、なにも返さずにいた。
「ずっと、その彼女を想ってるなんて、敬太らしいな。新しい恋しようとか、思わないところ」
「するかもしれやんやろ?」
「そうだよな。そのときは、連絡くれよ?」
「あはは。おおきに。」
「敬太、そのブレスレットは、お守りなん?」
「そう。これな、家事の時に燃えやんかったから、知り合いに頼んでパワーストーンにしてもろたんや。」
「それが、彼女を、つなぐお守りってわけやな?」
その店の人が、言うてくれたんや。
「この石は、あなたにとって、分身みたいなものよ。必ず、身に付けていてね。パワーがなくなったら、また、磨いてあげるから。」
俺は、占いとか信じるから、この石のパワーを、少し信じてみようと思った。
「きっと、見つけてくれるわよ。だって、この石の分身だもの。見つかるといいわね」
”「はい、ありがとうございます。」
「ふーん。分身かぁー。」
「じゃあ、亮平、元気でな。」
「うん。近いから、俺も、自転車で旅をしたら遊びに行くわ。」
「(笑)亮平って、関西やったっけ?」
「お前の関西弁が、うつってしもたわ。」
「なんや、それ」
「あはは。じゃあな!」


その夜、俺はピアノの前に座り、弾き始めた。
「敬太、明日早いんでしょう?もう、寝なさいね」
「あっ、すまん。うるさかったか?」
「ううん。あなたのピアノの音は、優しいから大丈夫。」
「おやすみ、母さん」
「ふふっ、おやすみ」
俺は、ピアノの音を消して、また、弾き始めた。


そして、月明かりを見ながら、眠りについた。
まさか、赴任先の小学校で、彼女と・・・・亜利砂と再会することになるやなんて、このときは、思っていなかったんや。
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