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第21話

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ピンポーン

呼び鈴がなったから、榊さんが帰ってきたと思い、東さんが出た。
「おかえりなさ・・・・」
「こんにちは・・」
尋ねてきたのは・・・・
「凛子ちゃん・・・・・」
「大地君・・・・」
そう、凛子さんだった。
「あの・・・・榊さんは?」
「もうすぐ帰ってくるよ。入って?」
と、招き入れた。
「引越し?」
「そう、榊さんが、本格的に一緒に住もうって言ってくれて・・・・」
紅茶を出しながら話す東さん。
「そっか・・・・。でも、よかったね。」
「でも・・・まだ迷ってるんだ」
「えっ、どうして?せっかくの厚意なのに・・・」
「凛子ちゃんこそ、榊さんに用事あるんだよね?」
「そうなの。服が完成したの」
「・・・・服?あっ、この前の?」
「そう。その、お披露目会があるから招待状を渡しに来たの」
「そっか!じゃあ、凛子ちゃんは夢叶えんだね!」
「えっ?知っていてくれたの?って言うか覚えていてくれたんだ」
「当たり前じゃん。ほら、屋上で夢、語り合ったの覚えてる?」
「・・・・うん・・・覚えてるよ」


「僕は、世界一のダンサーになる!」
「わたしは、デザイナーになりたい!」
「凛子ちゃんなら、叶うよ、きっと」
「大地君こそ、頑張ってね!約束!夢叶えたら、報告してね!」
そう、約束したっけ?


「・・・・そう言えばもうひとつ言ってたよね?」
「えっ?」
「デザイナーになったら、自分がデザインした服を大切な人に着てもらいたいって」
「えっ?待って・・・・」
「それってもしかして・・・・・」

榊さん?と言いかけたところで

ピンポーン
また、呼び鈴がなる。
「帰ってきたみたい。僕と違って静かに帰ってくるから」
「・・・・・・・・」
《凛子さん。いらっしゃい》
ニコリと笑う榊さん。
「あ、あの《お邪魔してます》」
《ゆっくりしていってくださいね?》

「・・・・・・」

そう言って着替えに部屋に入った榊さん。
「・・・・・何かあったのかな?」
「えっ?」
「だって・・・・・」

すごく悲しそうな顔・・・・していたから・・・・・

【ウルトラマンさん、私はある人に付き合ってくださいと言われました。】

《知ってます。さっき見ましたから》

(あなたはどこの誰だかわからないのに・・・)
どうして私は、この人に報告してしまうのだろう。
暁美さんもまた、悩んでいた。

部屋から出てきた榊さんは、
《凛子さん、良かったら夕飯でも食べていきませんか?待たせてしまいましたし・・・》

「《いいえ。今日は、招待状を渡しに来ただけなので・・・・》」
と、遠慮をしたが・・・
「そんなことを言わずに食べていきなよ。」
と、東さんが言った。
「えっ?」
「っていうかさー。夕食の買い出しに行ってくる!誘っておいてまだ、夕飯の支度出来てないから。
その間に、2人でゆっくり話せば?ねっ?凛子ちゃん」
と、凛子さんにウィンクする東さん。
「えっ?大地君?」
「よし、ラッキーおいで」
「ワンワン🐶」
パタン

「・・・・・・」
「《な、何言ってるんだろうね・・・大地君ってば・・・・・》」

そして・・・走り出していた東さんは・・・

「良かったね・・・凛子ちゃん・・・・」

と、呟いていた。

2人がいるマンションを見つめながら・・・・。

それぞれの恋はまた、切ない形で動き出していた。



「よし!行こうかラッキー!夕飯何にしようかなぁ」
と、また走り出した東さん。

そして向こう側からは・・・
「あれから3日以上莉佐の声聞いてないなぁー」

一樹さんが歩いてきていた。

「うわぁ」

桜並木・・・

「あれ?東さん?」
「あっ!一樹さんだ」

2人は、やはり出くわした。

「桜、やっぱり日本は綺麗ですね」

「ああ、そうだな」

と、2人は桜並木を見上げた。

「そう言えば以前、東條さんが理子ちゃんに言ってたんだって」
「えっ?理子ちゃんが?」
「《僕が死んだら、この桜並木の下に、僕の一部を埋めて欲しい》って・・・・」
「・・・・・・」
「それって、どういう意味かな?」

「それはきっと、天国に行っても僕たちの事が心配だから帰って来れる場所がほしかったんだよ」
「えー?理子ちゃんちじゃなくて?」
「そう。みんなと会える場所にね」
「なるほど!みんなの成長した姿を見るためでもあるんだよね!きっと・・・・」
「東さんの中にも、東條さんの一部が入ってるんだよな?どう?なんか見えたり、感じたりする?」
「・・・・・それと関係あるかはわからないけど・・・」
「うんうん」
期待しているのか?
「ねぇ?一樹さんは、誰かに心を動かされたことってある?」
「えっ?Σ(゚д゚;)」
なぜか驚く一樹さん。
心当たりあるのか?
「何その反応。あっ!そっか・・・・
一樹さんは、莉佐さんに心を動かされたんだね!」
「な、なんでだよー・・・。話そうと思ったのに、なんでバレるかな」
「・・・・人を好きになるのって、色んなきっかけあるよね・・・・。例えば・・・キスされたり・・・抱きしめられたりとか急にされたりして?」
「ドキリ」
「やっぱり、そうなんだ」
「ど、どうしたんだよ・・・。東さんこそ何かあったの?気になる人がいるとか?」
「えっ?(・д・。)」
「なに?図星?」
今の東さんのひょうじからはそう見て取れるけど・・・
「いや、僕は別にそんなんじゃ・・・・」
「・・・・・?」
「あっ!そうそう。榊さんたち、お腹すかせて待ってるからまたね!」
「・・・・・たち?」
慌てて帰る東さん・・・・。
もしかして・・・・

「東さんも恋でもしてるのかな?」
と、一樹さんは呟いた。

「ただいまー」
明るく玄関をあけ、いつも通りに振る舞う。


その日僕は、なにかを吹っ切るように明るく振る舞っていた。

でも僕はこの後知ることになる・・・・

いいや、気づいてしまうんだ。


本当の気持ちに・・・・・。
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