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異世界召喚されたった

002、異世界召喚。

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それは、ある日突然やってきた。

瞼を閉じていても、瞼越しに感じるほどの光の洪水が、襲ってきたと同時に頭の中で声がした。
「我が召喚に答えてくれるだろうか、異世界の方」
「えっ、あ、はい」
考えもせずに応と答えたのは、なぜだろう。
「うおっ……と」

グンっと体が浮き上がるような感覚があったがすぐに収まり、同時に眩しさも消えたので、ゆっくり瞼を開ける。
目の前には、いくつもの作品で背景画として描かれている光景。

ザワザワと周りを囲むのは、漫画やゲームの中でしか見たことない服装。
様々な色のザ魔法使いのローブを着た、明らかに日本人ではない顔立ちの方々。
中には耳の尖ったエルフのような方、背の低いゴツい感じのドワーフのような方も、あ、顔の色が違う人もいる。
そして召喚の間だろうここは、なぜか前にバイトで出た結婚式の会場のように見えた。
足元には星……六芒星を中心にした陣の廻りに円や呪文が描かれた、これぞ魔方陣の中心部に立っているのは、俺一人だけ。

立花 幸多(たちばな こうた)。
年は今年で31、しがない下請け工場勤務。
彼女はいない。

先日、町で彼女みたいなやつのデート現場を見た。
彼女も俺に気が付いたらしく、相手に何か云って離れると、堂々と俺の前に来た。
『本命の彼なの。あなたは恋人3なんだから、ややこしいことしないでね、えっ!?そろそろ終わらせたかった。何よ、それなら早く云ってよ、3にピッタリな子を見付けてて、4に入れておいたの、次の会うときにあなたを解消して4を、3にしたかったのよ。連絡するのも面倒で延ばしてたのはこちらだけどね、ほら、スマホ出して、ライ○の友達リストから私を消して………そうそれ。………これで私とは別れたわ。じゃあね』
そう言って踵を返した。

ホテルでしか会わない。
特定の着音のときだけ、すぐに帰る。
極めつけは、会える日は選択制で、彼女から日付だけが何個か書かれたメッセージが届いたら、日付のみで返信。
メッセージは一切書いてはダメ、本名も知らない。
まあ出会いが、コンビニですれ違ったときに呼び止められて、『あなた3にいいわね、このあと空いてるでしょ、代金はこちらで持つからホテル行きましょ』だからなー。
ホイホイ付いて行って、なんだかなーっと思いながらも楽過ぎる恋人関係に乗っかってた自分もいるから、なんとも言えない。
ちなみに、最後に3とは何かと聞いてみたら、モブなのだと。
1は、肉体派。
2は、アーティスティック。
3は、モブ。
4と5は、時点枠。
で、本命の彼氏は、金持ちそうな、イケメンだったよ。


……じゃなくて、えーっと今考えることは。
俺が召喚されて、気にする奴をピックアップだ。
あー、でも親は高校卒業日に家出てから、何年も連絡を取っていない上に引っ越ししてるし。
異世界召喚……で、いなくなって心配してくれるのは毎日顔を会わせる仕事場のおっちゃん達くらい?
でも、あの人たちもそう心配まではしないか。
夜逃げかーっとかで笑ってそうだ。
ってことは、あーゼロかー。
○○の為にも帰らないと……的なのがないなー。
あーあ、今月の給料まであと少しだったなー。
異世界と言えば、昨日ダウンロードした異世界勇者放浪記の3巻、また面白かったなー。
続き……ここ圏外だよなー。
あ、勇者召喚だったら、俺は魔王を倒すぞとかのタイプじゃないんだけどなー。
おーっと、ヤバイ方向の召喚だったら逃げなくては。
一番好きな異世界ものは、王様達の様子でヤバイと気付き、お金貰ってその国から離れてたな。
あっけど、あの作品と違って召喚者は俺一人だ、逃げれない。

などと、かなりのんびり頭では考えるが、いつまで経っても誰も近寄らず遠巻きに見ているこの状況に、いざ口からでた言葉は。


「……あのー……」
ザワザワしていた周りが更に大きくざわついたせいで、ビクリと肩を揺らしてしまったのは不可抗力だろう。
その時、ザワザワの人垣に切れ目が入り、某有名魔法学校から出てきたかのような白い長髪に長い白髭。
違うのは白いローブをまとったエメラルド色の目力強めの老人が俺の前に立った。
「お待たせした上に、挨拶が遅くなり失礼いたしました。ようこそ、お越しくださいました、聖女様」
「……えっ?」
思わず回りを見渡したが、陣の中には俺一人。
俺、男!!!
聞き違えかと老人を見るが、目力強めの瞳を和らげて微笑んだ。
「困惑されるのも無理はない。だが、我らは聖女をこの世界に召喚し成功した。貴殿が正式な聖女だと大聖霊の水晶もこのように示している」
老人の手には、大きめな水晶玉。
その中心には、見たことのない文字のような紋様のようなものが映っているが、それが聖女の証なのだろうか?
「でも俺、男ですけど」
「ああ、心得ている。我が名はアンゼルフ リスフナー、この国の大賢者の肩書きを持つ。貴殿の名を聞いても良いだろうか?」
「えーと、立花 幸多です。あ、コウタの方が名前です」
「コウタであるな。では、コウタ殿。まずは場所を移そう」
大賢者は和らげていた瞳を最初のキリッとした強い目力に戻し、周りに向かって声をあげた。
「召喚の儀は滞りなく成功した。各自異論はあろうが、今は我が顔を立て、陛下の言葉を待つように」
さすがの大賢者の言葉だからか、その場にいた魔法使い風な方々が潮が引くように部屋を出ていく。
「さて、コウタ殿も部屋を用意しておる、まずはその場に行こう、話はそれからに」
「あ、はい」
こちらへとばかりに前に手を差し出されたので、後ろを付いて進むと部屋を出遅れた人達が足を止めて先に俺らを通した。
頭を軽く下げているので表情は見えないが、どことなく安心した雰囲気を感じたのはなぜだろう。

男の俺が聖女なのに。
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