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のんびり高速移動旅

128、テンプレ先の令嬢 8(左目)

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場所をテーブルに移動し、先程まで四人で座っていたソファーに令嬢を挟み、二人の婚約者が座った。
座る場所がなくなり、従者二人はソファーに座らず立っているの、仕方がないと目を瞑った。
お茶を飲みながら、しばらく令嬢が落ち着くのを待っていると、違和感がふつふつと湧き出てくる。
令嬢の婚約者を半分にした犯人に触れないからと、泣くか?
そう思ったら、リンに相談するよりも口から出てしまった。
「なー、本当にそいつ犯人?」
令嬢の少し腫れた目がギロリっとこちらを見た。
「……なっ、なぜそう思われるですか?」
「あんたが泣くから、犯人相手に泣かないっしょ」
すると、令嬢の目が少し泳いだ。
何かを隠す感じてはなく、困惑している感じ。
「ライライナ、俺もそう思う。ツンディーレがとは思えない。常に誠心誠意、君に尽くしていた。そんなツンディーレが君を悲しませることをする訳がない」
リンが、断言すると令嬢は、一度カップを両手で掴み、一口飲み息を吐くとゆっくりとカップを置いた。
「……やはりディーの淹れたお茶が一番ね。ごめんなさいね」
「いえ、そうおしゃって頂けること、祖父として喜びの言葉にございます」
そんなやり取りを聞きながら見えた光景。
手入れの行き届いた豪奢な部屋にみすぼらしいベッド、それこそが答えでもあったのだ。
「ってことは、アレが犯人っぽいけど。アレが犯人とは思ってない、けど疑心暗鬼もあるから触れないってことか!」
探偵並に働いた頭で導き出した答えに令嬢を見ると、令嬢はコクンっと頷いた。
「……アレ呼ばわりは不適当ですが、流石ですわ。ディーが……失礼。確かにツンディーレがこのようなことをするとは思えませんの。アティモアが何かを覚えていたら良かったのだけれど、当時のことは何も覚えてないようなの、でも……」
半分づつの婚約者の手を握り、言葉を詰まらせる令嬢に、婚約者は視線を下げて、申し訳無さそうにしている。
「ライライナ。そうすると、最初に君が言った話は、憶測を誇張した話になる。なら、事実のみの情報を教えてくれないか?」
リンが、そう提案すると令嬢は、ハッと今気付いたかのように驚いた顔になった。
「えっ。あっ、そう……そうね。えっ?私、リンスラン様に憶測の話を……敬愛するリンスラン様に……なんてことを……あらっ?でも……」
おーっと、これは、あれではないか。
これは第三者による、令嬢への暗示系な。
隣のリンにコソコソと伺うとリンも気付いた様子。
「こんなにもつもん?」
「状況によるが、もしかしたら重ね掛けもあり得るな」
「だと、身近っじゃん?」
「どうだろう」
「索敵可?」
「やってみ、……」
言葉を切ったリンの視線につられ、前を見る。
すると先程までとは少しだけ違う、左右反転の間違い探しな光景になっていた。
「んっ?……おおっ!いたっ的な?」
令嬢の婚約者の右目の方は変わらず令嬢を見ているが、反対の左目の方は目だけこちらを見ている。
だが、令嬢を気遣う行動は変わらずそのまま。
「これーはー。どういうこった?」
「確かめてみないと分からないな」
リンはそう言うと、指だけをクルリと小さな円を書くように回した。
すると、半球体が突如現れ、中にいるのは五人のみ。
実際には四人だが、肉体としては五人なので、五人計算。
半球体に入らなかった家令と近侍は、いきなり目の前に魔法が展開され驚く。
「俺の魔法です。少しだけ確認したいことがあるので、待っていて下さい」
「……畏まりました。ミニシッド様、よろしくお願い致します」
カリーはそう言って腰を折り、心配そうなミレアに、ミニシッド様なら心配ない、お任せようと告げていた。
その言葉に、リンの信頼度の厚さに感服しながら、周りを見渡している俺。
そして、婚約者の左目だけが忙しなく動いていた。
「これはー、バリアシールド?」
「隔離させた方がいいだろう」
早速、手を伸ばしバリアに触ろうとするが、俺の手はするりとバリアを通り抜けた。
「えっーっ、これもー、触りたいのに」
「……無効効果のせいなのかもしれないな……さて、どうするかな」
「うーん、これって分散隔離可能?」
「どういうことだ?」
頭の中に浮かんで来たのは、結婚式のサクラバイトで見たあの飾り、初めて見た時はへぇーっと唸った。
大きめな風船の中に入った小さな色とりどりの小さな風船達、バルーンアートというやつだ。
「このシールドはそのままに、アレだけ別の小さなシールド張れるかってこと」
「シールド内にシールドというのは、やったことないが……出来たな」
流石はチート勇者、難なく俺のイメージ通りにやってのけた。
シールドINシールドに阻まれた左目の婚約者は、令嬢に触れなくなり、目だけが更にキョロキョロ動いている。
「えっ?……アティモア……」
突然真横に出来たシールドにより、令嬢の困惑していた意識が戻ったのか、今の状況を瞬時に理解する。
阻まれてすぐに覚醒したということは、左目婚約者が何らかの影響を及ぼしていたということの表れでもある。
「これは……まさか、アティモアが?」
「ライライナ、離れることは出来るかい?」
「はい……」
もう一人の婚約者は、自分の片割れの異常な目の動きに恐怖し、令嬢の袖口を掴み震えていた。
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