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8話 生存券
しおりを挟む「此処はゲーム、俺たちはプレイヤー、だけどこの世界には都合の良いレベルアップやスキルなんて無い。必要なのは、生まれ持った才能と経験とお金、それから試練報酬と言う名の生存券だ。」
「生存権?生きる権利?」
そう誰かが呟いた。
「まあね、確かに権利と言っても良いかもね。だけど試練報酬は、この世界で生存するための券、……知識が有るだろう?必ず月に一度は試練をクリアしなければならないって。試練にクリアすると試練報酬が貰える。今君達の見ている画面。そこには試練報酬が1になっている筈です。それは初心者ボーナスのようなもので、最初の一ヶ月はそれが有るから生きて居られる。だけど此処に来てから一ヶ月経つと、消滅してしまうんだ。そうなったら、……このゲームから退場、ゲームオーバーさ」
直樹の言葉が途切れると、美咲が手を挙げた。
「……いいよ。何かな?」
「あ、あの、ゲームから退場って……、何も死ぬとは限らないんじゃないですか?……元の世界に帰れるとか……」
「過去にはそー言う考えの奴も居たよ~、んで、試してたし、毎月何人かは試練をクリア出来なくて消えるしで、俺らも見た事はあるけど、……スって消えるんじゃ無いんだよな~、足元から炎が噴き出して、苦しんで焼かれて塵も残さないで消える。……、まあ、その後、絶対に元の世界に戻れて無いとは、俺らも言えないけどさ、でも、あれ見ちゃったら、試そうとは思えないけど?どうしても、したいって言うなら止めないけど~」
和也がヘラヘラとそう言う。
「うーわ、カズチー、鬼畜ー」
香夜はケラケラと笑っている。美咲は顔を顰めて黙った。
(スキルもレベルアップも無い?……なら、私の勇者の能力の事は絶対に黙っておかないと。もう誰にも利用なんかされてたまるか。)
一連の流れを黙って眺めて、萌香は眉を寄せて手のひらをぎゅうと握りしめた。弱い奴らは強い者が、無条件で救ってくれると勘違いする。そんな奴らに、もう利用されたく無い。力は自分の為だけに使う。
「まあ、今リーダーが言った通り。試練を受けずに消えるのも一つの選択だね。止めはしないから自己責任でお願いします。……では、話を続けますね?試練クリアの報酬は、生存権だけでは無くて、お金と言う形でも貰えます。それがこのゴールド。今は5000Gと表示されてるでしょ?これはゲーム難易度で貰える額が変わります、簡単な試練なら500から1000Gの間くらいかな、あ、一応補足しておくと、そこの女子高生ちゃんが、ほうばってるパン、それ一つで500Gだよ。」
「んぐぅ」
急に話を振られた比奈はパンを喉に詰まらせて、美咲から渡されたジュースをゴクゴクと飲んでいた。
「その、ジュースは1000Gだよ~、巨乳ちゃん良い飲みっぷりだね~」
「んぶぅ!!」
「比奈、落ち着きなって……、ほら」
美咲に背中を撫でられて比奈はケホケホ咽せて居た。何とも和やかな光景だ。だが、何人かの大人の女性は顔を強張らせて食べる手を止めた。流石に気づいた様だ。
(漸く気づいたんだ?……遅…)
真面目そうな女性が今度は手を挙げた、すると直樹は手でどうぞと発言を許可した。
「あ、あの、もしかしてこの料理、お金を払えなんて言わないですよね?」
女性の発言を聞いて、今の状況に気づいて居なかった他の女性もハッとした顔をする。
「……、もし、組織に入らないって言うなら、……払って貰う事にはなるかな~。情報料の5000Gと食事代の5000Gで併せて10000G。」
和也がそう答える、それに周囲はざわついた。
「ちょ、ちょっと待ってください!!そんなの詐欺じゃないですか?!だって、タダだって言って……」
「歓迎会って言ったよね?入らないのにタダで食事も情報も貰おうなんて、虫が良すぎませんか?この食材はうちの組織のメンバーが命懸けで手に入れて来てくれたお金で買ったものだよ?……勿論組織に入ってくれるなら仲間だからタダだし、今後の生活の保証もされます。試練報酬も分配されるので試練を受けなくても死ぬ事も無い。悪い話じゃないと思うけど?ねえ?ミミ?」
直樹が金髪の女、ミミに声をかけるとミミはニッコリと微笑んだ。
「うん♡……こわーい試練も、男の人達がクリアしてくれるし、ミミは今は組織に入れて幸せ♡……お仕事はしないと駄目だけど、気持ち良いし最高だよ」
「え?それって……」
「そんなの話が違うわ!!」
二人の女性が立ち上がって、扉に向かうが、いつの間にか居た屈強な男が3人、立ち塞がっている。
(本性表すの意外と早かったな……、でも此処に誘い込んだ時点で、こいつらの勝ちってわけね。)
レベルもスキルの無い世界。そこで男女を分けて、女だけにした時点でこちらに勝ち目は無い。萌香以外じゃ扉の前に居る男一人にだって力で勝つ事は出来ないだろう。
萌香は画面の試練報酬【1】と書かれた所をタップした。すると
《他プレイヤーに譲渡しますか?》
【yes】【no】
文字と選択肢が現れた。
(なるほど、他人に譲渡も可能。)
今度は所持金の【5000G】をタップする。すると通販サイトの様に品物が表示された。水やパン、だが種類は少ない。ジュースや肉類は売っていない。パンは確かに500Gだった。
(この画面で購入出来るのは、最低限の食料だけ?そう言えば、さっきあの直樹とか言う人が買いに行くとか言ってたっけ?……店もあるって事?後で色々探索して見よっと。)
萌香が一人考えていると、美咲が叫んだ。
「ふざけないで下さい!!後出しで卑怯です!!お金払えって言うなら払います!!その試練とか言うのをクリアすれば稼げるんですよね?なら、クリアしてきます!!ゲームなら、こう見えても結構得意なんで、……それなら良いですよね?」
「み、美咲ちゃん……」
「あはははは、やべー、かっこいね君~、でもさ、無理無理、君さ、素手で熊とか倒せる系女子?出来るんなら、稼げるだろうけど……、それでも5体倒して、数千Gって所かな?」
「は?私は今、真剣に話してるんです!!ふざけんな!!」
「うわー、最近の女子高生って、こわー、んでもさ、俺嘘とか言ってねえし、ふざけてもいないよ?……正確には熊じゃ無いけどさ、モンスター。生身で倒したりするんだよ。試練って」
和也はヘラヘラとそう言う。ヘラヘラしているのに目は笑って居なかった。
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