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3話 誰だお前?
しおりを挟む結局、昼休み中にツバサを見つける事は出来なかった。そうこうしている内に、昼休みが終わったので先生に言われた通りにジャージに着替えて校庭に来た。既にほとんどの生徒が集まっていて、その中にサラサラの黒髪が見えた。ツバサだ。その姿を視界に入れてミライはホッと息を吐いた。それから周りを見渡して感心する。
(この世界って、アニメだけあって、カラフルだよねー)
クラスメイト達の髪を眺めてそう思う。黒髪黒目は特別珍しいわけではないけど、うちのクラスには少ない。皆頭髪がカラフルで、目がチカチカする。だがミライは焦げ茶のボブヘアーだ。地味だ。やはりモブぅ。
(うーむ、なんでさっき来なかったんだろ?もしかして、ここは私の知ってるオワセカでは無いのかな?パラレルワールドとか?………いや、でも………)
でもエリカを助けた相手は違うけど、ヒロインイベントは起きた。全部が全部違う訳でも無さそうだ。また、別の日にツバサにも同じようなイベントが起こるんだろうか?そうミライが、ぐるぐると頭を悩ませていると、いつの間にかやって来て居た先生が手を叩く。
「あー、全員揃ったか?委員長!点呼!」
「はーい!」
◇◇◇◇◇◇
委員長の点呼が終わると二人組を作るように言われた。
(よしっ、これはチャンスでは?)
ツバサを近くで観察する為にペアになるのは良いアイデアだと思って、声をかけることにする。
「あのー、ツバサ君?私と組まない?」
「え?」
振り向いてキョトンと目を開いた彼は間抜けな顔に見える。
(うわ、アニメでは見たことない顔…。凄いマヌケに見えるなぁ……)
ツバサはキョロキョロとあたりを見回して、自分の顔に指を差した。
「えと、……僕に言ってるんですよね?えへへ……」
(ん?)
へニャリと眉を下げて困ったような顔をするツバサに、ミライはピシリと固まってしまう。
(ぼ、ぼくぅ!?え?ツバサって一人称、俺だよね??!今、こいつ僕って言った?!しかも何この情けない顔‼︎)
ミライの知っているツバサと全然違うその反応に困惑する。だが、ミライから声を掛けた手前このまま固まっても居られない。
「えっと、……うん。ツバサ君に言ってる。あの、駄目ならいいんだけど、無理にとは言わないけど?」
「あー、いや駄目とかじゃないけど、あのー、そのー、えーと君……」
「あ、私、園田、園田ミライ」
「あーあはは、ごめん。園田さん、僕達って、話すの初めてだよね?」
記憶を探って見たが、ミライとツバサの絡みは今日が初めてだ。
「う、うん。そうだよ」
「だよねー?なんで僕と?」
「え?いやー、なんとなく?」
まだ困惑から立ち直れて居なくて、まともな返しが出来なかった。そんなミライに少し怪訝な視線を向けたツバサだったが、結局は了承してくれた。
「うーん。まあいいけどね、よろしく園田さん」
そうこうしている間に周りも着々とペアを作っているみたいだ。全てのペアが決まるのをとりあえず座って待つことにして、ちらりと横のツバサを盗み見る。
(なんか、おかしい……。演技?アニメでも落ちこぼれのフリしてたわけだし、でもこんなに演技上手いキャラだっけ?)
アニメのツバサは、一人称は俺だし、もっとぶっきらぼうな感じだ。例を上げるとすると、ミライの知っているツバサなら、ペアに誘ったならきっと
『はぁ?なんでアンタと俺がペア組まなきゃならないわけ?まあ、どーしてもってんなら考えないでもないけど、……で?どうすんの?』
こうなる筈なのである。或いは……
『はぁ……。めんどくさ、仕方ないからペア、アンタとでいいよ』
こうなる筈。
「あ、あの、何かな?」
思わず、じーっと見つめているとツバサはかすかに頬を染めて照れくさそうにこちらに声をかけて来た。
(誰だ、お前っ?!)
ミライは内心で大絶叫だ。
「あ、ごめん。なんでもない」
なんとか動揺を顔に出さないように抑えて、スッと視線をツバサから外す。暫く横顔にツバサの視線を感じて居たが、ミライはそっちを見れなかった。
◇◇◇◇◇◇
ようやく全てのペアが揃ったみたいで先生がハチマキを配る。
「お互いペアの相手の名前書いて、それから頭に巻いてくれ」
言われた通りツバサ・ブラウンとマジックで書いてハチマキを頭に巻く。
「園田さん。園田さんのミライって漢字ある?」
「ンー?いや、カタカナでミライだよ」
「オッケ、了解です」
ツバサもハチマキを巻き終わる。やっぱりツバサの様子はおかしい。これじゃ、ただのその辺に居るモブ男子の様だ。
「あーじゃあ、今からペア組んだお前らは敵同士だ!自分の名前の書いてある相手のハチマキを奪った方の勝ち、魔法は身体強化以外は無しな。使ったら即失格だからなー‼︎よし、時間は今から2時間だ。では始めっ!!」
ヒュウっと先生が打ち上げた閃光を合図に、敵同士になったペア達はお互いから離れ、散り散りになっていく。
即ハチマキを取り合う者達は居ないようだ。
(おっと、まずは、私もツバサ君から隠れて、暫くは様子見かな?)
校庭には色々な訓練に使う為の壁や、アスレチックのような遊具が有り、身を隠す遮蔽物には困らない。とりあえず敵はペアの相手一人だけだ、他の生徒の事は余り気にせずに手頃な壁の陰に隠れる。
(うーん、私がチート主人公に勝てるのかな?まあ、別に勝たなくてもいいっちゃいいんだけど。……なんか様子おかしいし)
しゃがみ込みながら、ここ一ヶ月と少しのミライの記憶を探る。今は入学式から大体それくらいだろう。その間のツバサ・ブラウンの事を考えてみても、特にこれと言って特筆した所は無かった。実力を隠しているのだから、当然と言えばそうなのだが、なんだかそう言う感じがしない。
(今回みたいな実技の授業でも、全然目立ったりはしてなかったみたいだし)
隠していたからだと言われれば、それまでなのだが、違和感がある。
(なんか、あまりにも普通の男子って感じ?)
ふとある考えが浮かんでくる。
(もしかして彼も憑依者?または転生者とか?)
小説でよくあるお決まりのパターンであれば、大体主人公に転生、または憑依している事が多い筈だ。そして現代知識&原作知識で、チートである。
(うーん?モブの私が憑依者だし、主人公も同じでもおかしくは無い?……、うん、あり得るなぁ、でもそれなら、なんでイベント発生しないの?)
原作知識有りなら、とりあえずストーリー通りに動くものでは無いのかな?と考える。それか、他に何か狙いがあっての事なのか?わざとストーリーの改変を企んでいるのか?
(ストーリー通りに進むはずだって思ってたから、安心してたけど。もし違うなら、この世界って結構ヤバいんだけどなぁ……)
魔物や魔獣が存在して、尚かつ軍なども存在している。しかも、その学校に自分は通っているのだ。元いた日本と比べたら、本当にいつ死ぬかわからない。実際小さな街や村などが被害にあっている。かなり危険な世界である、原作知識があればなんとか生きていけると思っていたけど、もし全く違うストーリーになっていったら?そうなればミライには何もなす術が無い。その自分の考えにゾッとして、ミライは自分の体を抱きしめた。
(安全な所から傍観しようと思っていたけど……これは、ちゃんと確かめて見るべきか?)
ツバサに直接聞いてみても良いかもしれない。貴方は元日本人ですか?と、万が一違ったとしても、ミライが頭の可哀想な女だと思われるだけだろうし、最悪、もし、この世界がアニメと違うストーリーになるのなら、なんとか死なないように立ちまわらなければならないのだから。事は早い方が良いだろう。
(よしっ!……あっ……)
ふと気配を感じて、顔を上げるとツバサとバッチリ目が合った。伸ばされた手がハチマキへと近づいてくる。
(しまった‼︎考え込みすぎて、周り見えてなかった‼︎)
条件反射でその腕を掴んで、ぐるりと引っ張る。
「うっわ!!」
ドカッと言う音を立てて、ツバサが壁に顔から激突して、そのまま倒れた。
「ひゃあ!!え?ちょっ!?ごめっ‼︎」
ピクリともしないツバサを抱え起こすと、鼻血を出してのびていた。
「えー?!ちょ……、マジで?」
「あー?怪我人か?保健室行って来い」
慌てていると先生が駆けつけて来て、保健室へと行くように言われる。
「終わったやつ。誰か手伝ってやれ!」
その声に二人の男子が近づいて来て、ツバサを抱えてくれる。その内の一人がツバサのハチマキを取るとミライに差し出して来た。
「はい、君の勝ちでしょ。てか、ツバサ君。ダサっ。女の子に負けて鼻血とか……ププっ……」
男子はププっと笑うとそのまま保健室へと向かって行った。
「あ、待って、私も行きます‼︎」
慌ててその背中を追う。
◇◇◇◇◇◇
ベットに寝かされたツバサの寝顔を眺めながら、ミライは頭を抱えていた。
(あー、どうしてこうなった?)
あの後、男子達はツバサをベットに降ろすと、そのまま校庭に戻って行った。
「あれ?先生、留守だね。……んじゃ、とりあえず俺達は行くから、園田さんはツバサ君に付いててあげてよ。君、ペアなわけだし」
一人はひらひらと手を振り。ツバサを抱えて来た、もう一人は黙って小さく会釈をして、その場を去る。残されたミライはとりあえずツバサの鼻の穴にティッシュを詰め込んで彼が目覚めるのを待つのであった。鼻血は既に止まっているが一応だ。
(鼻にティッシュって……マヌケな姿だなぁ……)
鼻にティッシュを詰めたのはミライなのだが、その間抜けな姿にミライは、ため息を吐く。
(これ、やっぱ中身主人公じゃないよねー。あんまりにも残念過ぎるわ)
暫くツバサを眺めていると、男にしては長い睫毛が、かすかに震えてゆっくりと目が開く、意識が戻った様だ。薄く開かれた瞼から覗いた黒い瞳は未だ意思を持たず虚ろに見える。
「ん?……あれ?何これ?」
ツバサは鼻の違和感に眉を寄せて、それから手をティッシュの詰まった鼻の穴に沿わせた。
「ティッシュ?なんで?あ、鼻血……?」
「ツバサ君、大丈夫?」
今気づいたと言うように大袈裟にツバサは驚き、目を白黒させていた。
「え?!あ、園田さん……。え?なんで、な!うわ、え?うわ………見た?」
ツバサは哀れなくらいに動揺して、鼻にティッシュが詰められた自身の姿を見られた事に顔を青くしたり赤くしたりしている。
(ごめんね、見ただけじゃなくてティッシュ詰めたのは私です)
心の中でツバサに謝りながら、ミライは一つ呼吸をして話し始める。
「えーと、とりあえず落ち着いて?まず今の状況なんだけど。ツバサ君が壁に顔から突っ込んで気絶しちゃったので保健室に運んでもらったんだけど、それはわかるかな?」
「あー、うん。わかる。ごめんね、迷惑かけちゃって……、あー、ハチマキ。僕の負けだよね?」
「あ、うん。私の勝ちかな。」
サイドテーブルに置かれたハチマキに目をやると、ツバサはしょんぼりとして頷いた。
「あーだよね、えっと……授業は?」
「あ、もう終わったはず。なんか保健室の先生が留守だったから、私がツバサ君起きるまで側に付いてて……」
時計は16時を指していた。授業が終わって一時間と少し経っている。
「そっかぁ……、ありがとね。重ね重ねごめんね。とりあえず、先生に声かけに行ったほうが良いのかな?」
「あ、待って、ツバサ君」
ベッドから立ち上がろうとするツバサを手で制して、ミライは緊張しながら口を開く。
「えっと、あー。戻る前に単刀直入に聞くけど……、ツバサ・ブラウン。貴方は元日本人ですね?」
目の前でまんまるく開かれた黒い瞳を見ながらミライは確信した。
(やっぱりそうなのね)
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