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21話 優しさが辛い。

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さて、これからどうしようかとミライが悩んでいたらチャイムが鳴った。なんだかんだでお昼になっていたみたいだ。

「お昼だね、ミライ、ツバサ。昼食は食堂へ行くのかい?」

ユアンがそうミライへ問いかける。空気を変えるのに丁度良いと思いミライは頷く。

(あ………よし、ナイスタイミング。何とかもう少しイメージを良い方に変えないと………、常識人のライアン・エアーとは良好な関係になっておきたいし。)

「あ、うん。そうするつもりだよ」

「そうか、なら僕と一緒に行こう。 こっちの食堂を案内するよ?」

(え、………ユアンと?………うーん、でも、ここまで絡まれてるならもう仕方ないかな?)

「あー、じゃあお願い。」

渋々そう答えるとユアンは満面の笑顔になった。王子様スマイルが眩しい。

(う。………イケメンだな………、推しじゃ無かったけど、これは女の子が騒ぐのも分かるな………、何で私に好意的なの?謎すぎる………。)

「任せて、ミライ」

ユアンは嬉しそうだ。

「あ、私もっ!!私も行くわ‼︎」

エリカが声をあげる。

「ライアンはどうするの?お弁当?」

エリカがライアンに尋ねるとライアンは数秒悩んでからニコリと笑った。

「んー、私も今日は食堂いこかなぁ。」

「じゃあ皆で行こうか」

ユアンの言葉に全員が頷く。ツバサも特に異論は無いようで頷いている。

「あ、もう一人大丈夫?」

ミライはにゃん子の事を思い出した。

(お昼も奢る約束だし………、起こしてって言ってたしな………)

「うん、大丈夫だよ。何人でも大歓迎さ」

ユアンが答える。

教室の中には今も微かなイビキが聞こえている。にゃん子はあの騒ぎの中でも爆睡してたようだ。

「あ、起こしてくるから少し待っててもらって良いかな?」

にゃん子を起こしに行こうとするミライにライアンが待ったをかける。

「ちょぉ待ち。にゃん子ちゃんやろ?私が起こして連れて行くから、皆は先に行っててええよぉ」

「え?でも………」

「大丈夫、にゃん子ちゃんとはお友達やしぃ」

「あー、そうなんですか?」

(へー?アニメにはにゃん子さん出てこないけど。………仲良いのかな?)

「うん、そうやねん。任せてぇ」

ほなら後で行くわぁ。

そう言うライアンと別れて、ユアン、ツバサ、ミライ、エリカの四人で一先ず先に食堂へ向かう事になった。





◇◇◇◇◇◇








ライアンは四人を見送ってからため息を吐いた。

(なんや、けったいな子らやったなぁ………、大丈夫かなぁ?ユアンちゃん。知らへんかったわ、………ああ言う子が好きなん?………それにツバサ・ブラウン、あの子もちょっと気をつけて見ておかへんと、心配やわぁ………、エリカちゃん。)

ツバサの方はさらりとボディタッチを繰り出していた。

(大人しそうな顔して意外とプレイボーイなんかなぁ?………)

ライアンはエリカとユアンには幸せになって欲しいのだ。それを邪魔するような者達なら排除も辞さないと思っている。でもだからと言ってあんな嬉しそうな顔見せられたら、直接的には何も出来ない。

ライアンは優しかった。なので少しの間お邪魔虫は退散しておく事にした。

(とりあえずにゃん子ちゃん起こして、………はあ………、暫くはどっちにも目え光らせて置かへんとなぁ………)








◇◇◇◇◇◇




四人で食堂へ向かっている時。エリカがこっそりミライへ近づく。

「ねぇ………」

小声で話しかけられてミライはエリカへ目を向ける。

「あ、あのね、さっきのミライの趣味の話なんだけどね………」

言いにくそうにエリカは目を泳がせている。

「わ、私には良くわからないけど、そう言う男の人同士って言うのが好きな人も居るって知ってるわ、だから、えっと、ね、私は、気にしないわ………、これからも友達よ‼︎」

理解ありますみたいな顔で言いきるとスッキリとした顔をしてエリカは先頭へ駆けて行った。

(え?)

誤解なのだがその誤解を解くわけにも行かず変態でも気にしてないよ、と優しくされてミライは大ダメージを受けた。クリティカルヒットである。優しさが辛い。

(ち、ちが………ご、誤解なのにぃ………)

一部始終を見ていたツバサは慰めようかと思ったが、ミライの自業自得であり先程巻き込まれた事も思い出してやめておいた。





◇◇◇◇◇◇





「こっちの渡り廊下を過ぎたらすぐ食堂よっ」

エリカは張り切って案内してくれている、そのすぐ後ろでユアンはニコニコしている。平和だ。

誤解されて心に傷を追ってトボトボ歩くミライとの温度差が酷い。

「ほら、園田さん。もう着くよ?………元気出しなよ?」

案内された食堂は高級ホテルのバイキング会場の様だった。

「はー、豪華ー」

「凄いね、園田さん!!」

呆けてるミライと喜ぶツバサを見てユアンとエリカはクスクス笑っている。


白を貴重にした食堂内には真ん中にでっかい噴水が有りその周りには観葉植物も飾られている。壁沿いには色々な食事がケースの中に並べられており洋食和食とその種類も豊富だ。

奥の方にはスイーツもあった。


「説明するわね?まずこれがメニューよ」

入り口壁際にかけられたメニューを広げるエリカ、ツバサとミライは覗きこむ。

コース料理や単品の品物もあるようだ。どれもお高い。

そして一番高いのはバイキングコースでなんとお値段5000円である。学生の昼食に出せる値段じゃない。

ツバサとミライは息を飲んだ。

「た、高いね?うわ………」

ミライが引き攣った笑顔を向けるとユアンは困ったように笑う。

「………そうだね。二人はまだ任務を受けていないから、此処の食堂で食事するとなると少しお財布に厳しいかも知れないね?」

「任務を受けると、回数に応じたパスチケットがもらえるのよ‼︎」

「お食事券だよ」

エリカが割り込んで来てゴソゴソとポケットから数枚の券を取り出す。これが【お食事券】らしい。

続けてユアンが言う。

「これ一枚で、どのメニューでも頼めるよ。今後任務に行けば必ずミライ達も貰えるよ」

「………どうする?園田さん?」

ツバサがミライにコソコソと聞く。

「んー、せっかくだけど高すぎてここで食べるの無理だよね私達、お財布が空になっちゃうよ」

折角案内して貰ったけど、ミライ達には特別食堂で昼食を取るのは無理そうだ。エリカ達にどう断ろうかと考えていると後ろから声がした。

「おまたせぇ、あら?まだ何も決めてへんのぉ?」

「やぁっとごはんやー‼︎お腹空いたしー」

背中ににゃん子をおぶったライアンが食堂へと入って来た。ぴょんっと背中から降りたにゃん子はミライへと詰め寄る。

「じゃあ昨日の報酬、此処のバイキングコースで払ってもらえるやんなー?」

にゃん子はギラギラした目をミライへ向ける。ガチの目だ。断ったら殺られる。

「いやー、ちょっとここでは高すぎると言うか………」

視線をそらして冷や汗を流すミライ。だがにゃん子は下からガンをつける。

「はぁーん?なに言ってるのかなー?高い?
あれだけの汚部屋を片付けてあげたのにぃー?昨日の夜のコンビニ弁当と、普通のお昼じゃ、割にあわんよー?」

「…汚部屋?」

後ろでライアンが呟く。目が怖い。またライアンのミライへ対する好感度が下がった。




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