22 / 42
一つ後ろに居たい
しおりを挟む
「話があるんだけど、いい?」
バイトを切り上げて更衣室を出た蟹江は、神妙な顔をした弥冨にそう呼び止められて、断る理由もなく帰り道を連れ添うことにした。
ファミレスを後にしてしばらくすると、弥冨が疑問めいた視線を投げる。
「ねえ陽太、なんでバイトなんかしようと思ったの?」
「単純な話だよ、お金が必要になったんだ」
さも当然という顔で蟹江は答えた。
それは知ってる、と弥冨は継いで質問を重ねる。
「私が気になってるのはどうしてお金が入用になったのか、よ。大きな買い物をしたわけでもなさそうなのに、どうして?」
「パソコンを買うんだよ」
「パソコン? あんた一台持ってるでしょ?」
「俺のじゃないよ」
含んみを持たせるように微笑んだ蟹江の返答で、弥冨の脳裏に鼻持ちならない女子中学生の姿が浮かび上がる。
途端に弥冨は訝るように目を細めた。
「まさか、生意気なあんたの弟子のため?」
「あいつ、パソコン持ってないらしくて。中学生だからバイトも出来ず買うお金がないだろうから、俺が買ってあげようと思ってな」
優しい口調で言う蟹江に、弥冨が不服そうに口を出す。
「私、あんたからお返し意外にプレゼント貰った事ないんだけど?」
「プレゼントって訳じゃないよ。小牧がMGCに出たいけど持参のパソコンがないと出られないから、師匠として希望を叶えてやろうと思ってるだけだ」
「師匠としてねぇ。その気持ちに、こう、なんというか、恋愛的なものは入ってないのね?」
自分で訊いておいて恥ずかしくなって弥富は視線を外した。
「ないな」
迷いのない声で蟹江は即答した。
ほんとに異性として意識してないんだ。
蟹江の返事に、弥冨は内心で安堵する。
「あの子に蟹江がほだされたかと思ったわ。恋愛の気がないなら、それでいいんだけど」
「前も言ったが、師匠と弟子だぞ。恋愛感情が混ざったら良好な関係が崩れちゃうだろ」
「そうね、崩れるわね」
蟹江の変わらない意思が聞けて、ちょっとした嬉しさを隠して同意した。
色恋事情を避けて、弥冨は話題をMGCに移すことにした。
「それでMGCのことだけど、陽太は今年出場するの?」
「当然だ。国内予選一位は頂くぞ?」
自信たっぷりに言う。
承知している顔で弥冨は続ける。
「国内予選はあんたが一位なのは間違いないだろうけど、その下二名よ。ちなみに私も出場するつもりだけど、誰が通過すると思う?」
蟹江はなんでそんな決まりきった質問をするんだ、という面持ちになる。
「そりゃ、弥冨と小牧に決まってんだろ」
冗談はやめてと言いたげに、弥冨が苦笑する。
「別に決まってないわよ。現に三嶋さんがいるし……」
「三嶋さんか。あの人も結構強いが、二人の敵じゃない。実力を見てればわかる」
「そんな、やる前から……」
「それだけお前と小牧のレベルが高いってことだ。二位、三位はお前と小牧だ」
未来予知者のように蟹江は断言する。
揺るぎない蟹江の口調に、弥富は毒気を抜かれた。
だけど、ほんとに知りたいのは。
「そこまで言うならあんたを信じてみるけど……それなら」
訊くべきか訊かないべきか迷って、言葉を切った。
「それなら、なんだ?」
蟹江は言葉の続きを促す。
「正直に答えてくれる?」
確かめるように尋ねると、蟹江は頷いた。
弥冨は真剣な眼差しで問う。
「私とあんたの弟子なら、どっちが勝つと思う?」
「お前だな」
「弟子を応援しなくていいの?」
「俺はお前に勝って欲しい」
弥冨は蟹江の真意を測りかねた。
どうして、と問う目に、蟹江は信頼した笑みを浮かべる。
「今まで国内の大会で一位を取った時には、必ず二位の席にはお前がいただろ。だから二位がお前じゃないと、なんか落ち着かないからな」
「ふふっ、そんな風に思ってたのね」
意外そうな口ぶりで弥冨は笑みを漏らす。
世界一位に手が届きそうな蟹江が、子どもっぽい我が儘を言っているみたいで、面白かった。
「何で笑うんだ?」
蟹江は自分が何か笑われるようなことを言ったのか、と疑う。
別に、と弥冨は返して笑みを引っ込める。
「あんたの為って訳じゃないけど、私はあの子を二位にはさせない」
SCCの時のように失敗したくない。そして蟹江の隣である、あの子に二位の座は明け渡さない。弥富の対抗心は燃え盛っている。
陽が沈んだ空の下、次の交差点で二人は別れた。
バイトを切り上げて更衣室を出た蟹江は、神妙な顔をした弥冨にそう呼び止められて、断る理由もなく帰り道を連れ添うことにした。
ファミレスを後にしてしばらくすると、弥冨が疑問めいた視線を投げる。
「ねえ陽太、なんでバイトなんかしようと思ったの?」
「単純な話だよ、お金が必要になったんだ」
さも当然という顔で蟹江は答えた。
それは知ってる、と弥冨は継いで質問を重ねる。
「私が気になってるのはどうしてお金が入用になったのか、よ。大きな買い物をしたわけでもなさそうなのに、どうして?」
「パソコンを買うんだよ」
「パソコン? あんた一台持ってるでしょ?」
「俺のじゃないよ」
含んみを持たせるように微笑んだ蟹江の返答で、弥冨の脳裏に鼻持ちならない女子中学生の姿が浮かび上がる。
途端に弥冨は訝るように目を細めた。
「まさか、生意気なあんたの弟子のため?」
「あいつ、パソコン持ってないらしくて。中学生だからバイトも出来ず買うお金がないだろうから、俺が買ってあげようと思ってな」
優しい口調で言う蟹江に、弥冨が不服そうに口を出す。
「私、あんたからお返し意外にプレゼント貰った事ないんだけど?」
「プレゼントって訳じゃないよ。小牧がMGCに出たいけど持参のパソコンがないと出られないから、師匠として希望を叶えてやろうと思ってるだけだ」
「師匠としてねぇ。その気持ちに、こう、なんというか、恋愛的なものは入ってないのね?」
自分で訊いておいて恥ずかしくなって弥富は視線を外した。
「ないな」
迷いのない声で蟹江は即答した。
ほんとに異性として意識してないんだ。
蟹江の返事に、弥冨は内心で安堵する。
「あの子に蟹江がほだされたかと思ったわ。恋愛の気がないなら、それでいいんだけど」
「前も言ったが、師匠と弟子だぞ。恋愛感情が混ざったら良好な関係が崩れちゃうだろ」
「そうね、崩れるわね」
蟹江の変わらない意思が聞けて、ちょっとした嬉しさを隠して同意した。
色恋事情を避けて、弥冨は話題をMGCに移すことにした。
「それでMGCのことだけど、陽太は今年出場するの?」
「当然だ。国内予選一位は頂くぞ?」
自信たっぷりに言う。
承知している顔で弥冨は続ける。
「国内予選はあんたが一位なのは間違いないだろうけど、その下二名よ。ちなみに私も出場するつもりだけど、誰が通過すると思う?」
蟹江はなんでそんな決まりきった質問をするんだ、という面持ちになる。
「そりゃ、弥冨と小牧に決まってんだろ」
冗談はやめてと言いたげに、弥冨が苦笑する。
「別に決まってないわよ。現に三嶋さんがいるし……」
「三嶋さんか。あの人も結構強いが、二人の敵じゃない。実力を見てればわかる」
「そんな、やる前から……」
「それだけお前と小牧のレベルが高いってことだ。二位、三位はお前と小牧だ」
未来予知者のように蟹江は断言する。
揺るぎない蟹江の口調に、弥富は毒気を抜かれた。
だけど、ほんとに知りたいのは。
「そこまで言うならあんたを信じてみるけど……それなら」
訊くべきか訊かないべきか迷って、言葉を切った。
「それなら、なんだ?」
蟹江は言葉の続きを促す。
「正直に答えてくれる?」
確かめるように尋ねると、蟹江は頷いた。
弥冨は真剣な眼差しで問う。
「私とあんたの弟子なら、どっちが勝つと思う?」
「お前だな」
「弟子を応援しなくていいの?」
「俺はお前に勝って欲しい」
弥冨は蟹江の真意を測りかねた。
どうして、と問う目に、蟹江は信頼した笑みを浮かべる。
「今まで国内の大会で一位を取った時には、必ず二位の席にはお前がいただろ。だから二位がお前じゃないと、なんか落ち着かないからな」
「ふふっ、そんな風に思ってたのね」
意外そうな口ぶりで弥冨は笑みを漏らす。
世界一位に手が届きそうな蟹江が、子どもっぽい我が儘を言っているみたいで、面白かった。
「何で笑うんだ?」
蟹江は自分が何か笑われるようなことを言ったのか、と疑う。
別に、と弥冨は返して笑みを引っ込める。
「あんたの為って訳じゃないけど、私はあの子を二位にはさせない」
SCCの時のように失敗したくない。そして蟹江の隣である、あの子に二位の座は明け渡さない。弥富の対抗心は燃え盛っている。
陽が沈んだ空の下、次の交差点で二人は別れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について
沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。
クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。
**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密
まさき
青春
俺は今、東大院生の実験対象になっている。
ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。
「家庭教師です。住まわせてください」
突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。
桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。
偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。
咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。
距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。
「データじゃなくて、私がそう思っています」
嘘をついているような顔じゃなかった。
偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。
不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる