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「十三の城」

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 大のオセロ好きである叔父の十六夜透に連れられた僕、白馬小路三世は、ローマ空港発、アリタリア航空511便でフランクフルトへ向かっていた。
 叔父が、国際オセロ大会に出場するので同行しているのだ。
 フランクフルト空港到着後、ターミナルを出て、観光バスへと乗り込む。
 どこまでも続くアウトバーン。
 車窓から見える壮大な景色に圧倒されそうになった僕は、酔い止めを握りしめた。
「どうだい三世、ドイツの景色は百万ドル、いや百三万ドルの見応えがあるだろう」
 叔父の透は、自慢の髭を撫ぜる。
「うん、でも叔父さん、その三万ドルって、初の消費税導入から変わらないギャグなんだよね。なら今は、10万ドルにした方が?」
「手厳しいな。それはさておき、三世。叔父さんと、ゲームをしてみないか」
「うん、面白そうだね」
「じゃあ、交渉成立だな。
では、物語の設定を教える」
「始めて」

「その昔、このドイツの一角に、四つの白い城があった。
そして、その四つの城と城の間にも、さらに城を設けた王がいたという。
全て白い城を」
「それは、実話なの」
「いや、半分は、物語だよ」
「そうだね、ゲームって、言ってたよね」
「あぁ、続けてよいかい」
「続けて」
「その城は、このように並んでいたんだ。
あぁ、説明するより、図にしよう。
図にすると、こうだ」


・・ ・・
・   ・
  ・
・   ・
・・ ・・


「計十三個だね」
「あぁ、城は全部で十三あった。
さて、この十三の城を観て、
お前が、城を落とす将軍、いや騎士団長なら、どこの城から落とす?」
「ヒントとかないの?」

「あぁ、強く、軍勢の多い城は、右側一番中央の城と、左側一番中央の城じゃ」
「じゃあ、右斜め上からにしようかな。でも軍隊は、小分けしてよいの?」
「駄目じゃ。軍隊は、一隊だけしか動かせない。
そして、ルールをもう少し、説明しよう。
まず、この十三の城は、ある城を取ると、城主は、色を塗り替えることが出来て、自分の好きなカラーで城を彩れるというルールを設ける。
そして、色を塗り替えると、そこからあと三つ城を落とすまでは、落とした城は攻められないまま保守されるというルールも伝えておこう。
つまり、一つ城を落とせば、二つ目、三つ目、四つ目までの城まで落として、そこまで落とした城は、攻められない。
ゆえに四つ目の城までは、城に兵を残さずに、軍を他の城まで進められるんだ。
また、城へ行けば、旗を立てるだけで良いとし、四つ目までは特に戦闘をせずに、城に行けば勝てるルールも、設定されている。
しかし、五つ目の城に攻め込むと、どこか一つの城は、攻められて、おそらくは取られる。しかし、この城取りゲームは、四つの城を、落とすことで、
ゴールできることも出来る。しかし、ただ四つ城を落とすだけでは、ゴールは出来ない。
…その意味は、教えることが出来ないため、そこは、想像してくれ。でも、四つの城を落とすだけでも勝利できることは、なくはない」
「そうなの」
「あぁ。では、どうだ、この城取りゲームで、勝てる方法はあると思うか?
そう、最後まで城を死守しながら戦う方法。全ての城を落とす方法が、あると」
「……」
「もう一度、言う。城を落とすのには、良い順番があり、何故かその順番でやると、スムーズに勝ち進めるんだ」
「叔父さん、だけど、四つの城を取れても、その順番が悪いと、ゴールできずに、その状態で、五つ目の城に向かえば、必ず一つの城は奪われるとするならば、
答えは、四つの城を落とすしか、ゴール出来ないということなのでは?」
「そうだ、実はそのとおりなのだ」
「……順番。何かの暗号なのかな」

 しばらく、考える。

「あぁ、ところで、地下とかを掘ってもよいの?」
「駄目だ。飛行機とかを飛ばすのも駄目。だが、答えは、この問題の中の条件からは、必ず導きだすことはできるんだ」
「本当だね?」
「あぁ、本当だ」

 叔父の目を見て、そして、僕は、またしばらく考え込んだ。

 そして、ふとある閃きが!

「あぁ、もしかして叔父さん、このゲーム。叔父さんの趣味と関係ないかな?」
「んっ?何か感付いたのか?」
「うん、ひょっとして、この城取りゲーム。
常識で考えるんじゃなくて、あるゲームのルールが、この世界には適用されるんじゃない?」
「おおっ、面白いことを言うな。続けてくれ」
「再度、確認するけど、この城取りゲームでは、数個の城を落とすだけでもゴール出来るんだよね?
今、言っていた四個だけでも」
「そうだ」
 その返答を聞いて、僕はもう一度、自分の考えを整理する。
「どうかな、答えはまとまったかな? まとまったなら、考えを述べてくれ。
まずは、君はどこの城へ向かう?」
「うん、まずね、この左側の一番左上の城に向かうよ」
「なるほど、それは、悪くない」
「やっぱり」
「あぁ」
「で、一つ目の城に入城して旗を立てたらね、次は、右側一番右下の城へ向かうよ」
「悪くない」
「よかった」
「では、次はどの城へ向かうんだ?」
「次は、左側の一番左下の城かな」
「よし。では次は」
「右側一番右上の城を取りにいくよ」
「なるほど!
では、次は」
「次はない。それでゴールだから。そうだよね? あぁ、そうなるためには、もう一つやらなきゃならないことがあった」
「それは、何だ」
「それは、落とした城を全て黒く塗り替えること!」
「はっはっはっ」
「正解?」
「正解だ! よくわかったな。いい閃きだ!」
 叔父は手を叩いた。
「では、何故、その四つの城を落として、さらに色を塗ればゴールなのか、説明をしてくれ」
「うん、この城取りゲームは、四方の城だけを落とすことが順番だね。
四方の四城さえ取れればいいから、順番は、どこからでもよく、しかし、その四方の四城以外の城を取ると、
負け。というか、ゴールできない。
そして、城は全て白い城だから、その四方の四つの城を黒く塗ることで、こうなるよね?


○○   ○○
○     ○
   ○
○     ○
○○   ○○
 

   ↓



●○   ○●
○     ○
   ○
○     ○
●○   ○●


四方が黒い城に。

そして、そうなると、四方四隅の四つの城は、その縦と横の白い城を、黒く染められる。

それによって、他の城も黒い城の騎士団の城となるというのが答えだよね。

それは、黒い城と黒い城の間にある城は全て白い城だけで、黒い城同士が挟むことで、

その間の白い城は全て黒い城へと変わっていったから。

オセロのように。

 ↓


●●   ●●
●     ●
   ●
●     ●
●●   ●●


そう、だから、さっき口にした、

~常識で考えるんじゃなくて、あるゲームのルールが、この世界には適用されるんじゃない?~

その返答に叔父さんは、そうだと返答してくれた。

だからこの世界は、オセロの世界の考えが適応できる世界だと考えたんだ。

そして、すべての城は黒い城となった」

「さすがだ!
発想力が素晴らしいぞ!」

「よかった。正解できて」
「よし、何か褒美をやろう。何がいいかな?」
「うう~ん、何がいいだろぅ? あっ、失われた三種の神器の秘密の地図がいい」
「あ、あぁ、もうそのことを知っていたのか?」
「うん」
「そ、それは、ちょっと…だけど、面白い歴史書をあげよう、一般には出ていないから、価値はあるからな」
「うん、わかった。うちの書と、それぞれに小分けされた、暗号の書だよね」
「そうだ、うちには、子がないから、お前に、託すことにしよう」
「それって、僕が将来、その謎を解く役目ってこと?」
「そ、そうなるな」
「う~ん」
 僕が腕組をすると、叔父は、バスの外を指さした。
 目の前に、目的地であるオセロの国際大会の会場が見えてきたと言う。
 だけど、そんな建物は、目の前にないのだけれど?
「会場はね、あの地下にあるんだよ」
 叔父は、ニコリとした。
「そうなの?」
「そして、その会場の地こそ、さっきクイズに出した、城の跡地なんだぞ。今は地下一階が博物館、地下二階は、大ホールとなっているんだがね」
「へぇ~、そうなんだ!」
「よし、今期の大会こそ、結果を出すぞ」
「叔父さん、頑張って。あっ、もしや、ここの城の跡地。そこにまだ城があり、今は透明に塗られて見えないとか?」

「いや、それは面白い」
「それはないよね、それだと幽霊城だよ。あっ、今、一瞬、城がおぼろげに見えたよ」
「まさか?」
「見る角度かな?」
「いや、城なんて、ないはずだ」
「じゃあ、目の錯覚?」
「そういえば、何故かその跡地は、立ち入り禁止になっていて、入口は、その城の跡地の一番隅にある」
「まさか、城がそこにあるの?透明な?」
「透明に見えるペンキなど、現代にはないぞ」
「じゃあ、やっぱり、幽霊城?」
 しかし、その謎は、答えを教えてくれるものは、そのオセロ会場にはいなかった。
 やっぱり、目の錯覚だろう。
 そして、叔父のオセロ大会の結果は。
 残念、この度も、予選敗退であった。

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