4 / 30
4話 『悪銭身に付かず』だってよ。なんそれ?
しおりを挟むショウタは、事務所の前に立っていた。
チラシを見て来てみたは良いが、入る決心がつかずにいた…………
ええい!考えていても始まらない。中に入ろう。
……どうやら二階みたいだな。
カツ……カツ……カツ………………
少し緊張した足取りで階段を登っていった。登っていくにつれて足元がフラつく。これは緊張なのか単に空腹からくるものなのか。自分でもよく分からなかった。
二階に上がるとすぐに可愛らしい木製の扉が視界に入ってきた。細かな彫刻が施された扉だ。
「プリティ……ファイナンス……なんとまぁ……オシャレな屋号だこと……」
…………まぁどうでもいい。
ショウタは扉をノックした。
コン……コン……
「すみませ~ん。面接希望で来ましたトガシ ショウタといいます」
少し緊張した声で話す。
「……………………」
ん?返答が無い。留守か?
もう一度言ってみるか。
「すみません~」
さっきよりも少し大きな声で言ってみた。
すると………………
ドダ……ドダ……ドダ……
誰かが近づいてくる足音がする。
ガチャ……
ドアが開いた。
ショウタの目線の下に女の子がいた。
フリフリの服を着た10歳くらいの見た目の女の子。
………………何で子供が?
「なんじゃ?うるさいのぅ……今忙しいんじゃ!」
女の子は不機嫌そうな顔で不審者を見るかの様な目でショウタを睨んでいる。
「いや……その……面接で来たんです……」
なんで女の子相手にオドオドしてるんだ俺は……。
「面接?…………あぁ……そう言えば昔に求人出してたかのう?忘れてたわ……」
「えっ?」
焦るショウタ。今は募集してないの?
「今立て込んでるからな…………うーーーん……まぁ良い……入れ!!」
良かった……一瞬、面接してもらえないかと思った。
「ここに座って待っていろ!」
女の子は近くの椅子を指差した。
ゆっくり座るショウタ……ふと何かに気付いた……
「あっハイ……………………ってうわ!!!」
なんと!!
床に男性が土下座の体勢でじっとしているでは無いか……………………
見た事無いぐらいキレイな土下座だ。
何?この人?
「あぁ……こいつか?気にするでない」
いや……気になるだろ。普通。
近くの椅子に座って待っているよう案内された為、座って待つことになった。
それにしてもこの人なんで土下座なんかしてるんだろう。
冒険者かな?格好が冒険者風だ。
……まぁこんな所に来て土下座してるんだから借金してる人だろうな。
事務所の中を見渡す。
事務所と言っても普通の民家の様だ。
真ん中に大きなテーブルがある。椅子が4つある。
奥にも部屋がある様だが、暗くてよくわからない
入り口付近に椅子があり、ショウタはここに座っている。
ショウタは、ある事に気付いた。
至るところに武器やら鎧やらが飾られているのだ。
しかも……かなり高そう……
なんか紫色のオーラが出た禍々しい武器もある……
あれ…………絶対ヤバいやつだ……
なんだここ?金貸しだよな?
何で武器がいっぱいあるんだ?………………
その辺の武器屋より沢山あるぞ。
そんなことを考えていると………………
ドガンッ!!!!!!!!
突如、響く大きな音。
「ヒィッ!!」
男性が叫ぶ。
ビクッ!!!
な……なんだ?ビックリした!
金属に何かがぶつかったかの様な激しい音だ。
あまりにビックリして椅子から落ちそうになった。
ふと男性と女の子の方を見てみる……
すると………………
女の子の近くの巨大で分厚い大盾の中央に穴が空いている……
女の子の手からは、煙が出ている。漫画みたいだ。
「(エッ!?…………この子がやったのか?…………ウソだろ…………)」
開いた口が塞がらないショウタ。
目の前で起きた状況が理解出来なかった。
すると……
「早くしろ!!さっきから何回も言ってるように、今すぐ金貨50枚用意するか、ダンジョンの下層で魔石掘りの仕事やるか、お前に残された道は二つじゃ。さっさと好きな方を選べ!!」
女の子が男性の顔を覗き込む様にして静かにキレている……
非常に気まずい空気だ……重い……重すぎる…………
男性は土下座のままの体勢で床に向かって話し始めた。
「お願いします!!!あと二日だけ!!!あと二日だけ待ってください………………この通り今は、銅貨一枚だってありません。空っぽです。今は食べるものにも困っていて、もうどうしようも無いんです。払えるお金があればとっくに払っています。クルスさんもご存知の通り弱小冒険者は仕事が無くて大変です……ただ、この前デカい依頼を達成したので、二日後にはギルドから報酬が支払われるんです!!それで利息分は必ずお支払いします!それでも払えないなら煮るなり焼くなり好きにしてくれて構いませんから………………ぅぅ……えぐッ……うぐ……」
男の人は弱々しく泣きながら女の子に必死に訴える。
男性の横には空のバッグが置いてある……
あーあ……
大の大人が小さな女の子に罵声を浴びせられ泣いてるよ……
…………なんか可哀想だな。この人……
食うものにも困り、借金もある。なんて悲惨だ……
俺は借金が無いだけ、マシだな……
ショウタは目の前の男性と自分自身の境遇を重ね合わせていた。
男性の境遇が痛い程分かるだけに自業自得だとは
思えなかった。
ショウタも似たような境遇の為、仕事が無い大変さは痛い程理解出来たのだ。
それにギルドからの報酬の支払いが遅れる事は、よくある事だ。
すると………………
女の子は男性の話しを黙って聞き終えると、顔をじーっと見て話し始めた。
そして……男性の横に置いてある空のカバンを見て言った。
「そっか…………そりゃ大変だったな……その話本当だよな?本当なら可哀想だから待ってやるよ」
何か言いたげな顔をしている……
「ハイ!!本当です!」
自信満々に答える男性。
「ふーーーん」
すると……………………
「……これ見して!!」
そう言うと女の子は男性の横にあるバッグを横取りした。
ガシッ!!
「あっ!!ちょっと!!」
男性が抵抗するがバッグは女の子に奪われた。
女の子はバッグを漁る。
おいおい。バッグは何も入って無かっただろ?
さっき見たじゃないか?
女の子はバッグを念入りに調べ始めた。
すると…………
「………………!!やっぱり!!みーーーッけ!」
そう言うと女の子は男性の方を見てニヤっ笑った。
「あれれ~~??金が無くて食べる物にも困ってたんじゃ無かったっけ~??」
女の子はわざとらしく男性を見てニヤニヤ笑っている。
すると……
女の子は空の筈のバッグを床に置いた。
ドンッ!!!
ずっしりとした音がした。
えっ??ドンッ?
空のバッグから聞こえる筈のない音だ。
バッグの中身が見えた………………
なんと!!!
バッグの中敷きの下に大量の金貨が入っているではないか!!
「え………………いや…………その…………なんで?!バレる筈無いのに……………………この金で、これから『ゴブリンファイト』で一儲けしようと思ってたのに!クソッ……」
慌てふためく男性。
え?
めちゃくちゃ金貨入ってんじゃーーん!!
見た感じ……ちょうど50枚くらいだろうか。
それで払えばいいじゃん?何故ウソをつく?
とショウタは心の中で思った。
「…………おかしいと思ったんじゃよ。事務所に入って来る時は、バッグに何か入っていると思っていた。だっておぬしがバッグを持っている時、肩が下がっていた。その下がり方からして何か重い物を持っている感じじゃった。しかし、おぬしがバッグを開けた時はバッグは空じゃった。怪しかったが、最初はそこまで気に止めて無かったが、おぬしが言い訳を必死に語る時に確信したよ。バッグに何か入ってるのを隠してるなコイツって…………調べてみたら案の定じゃよ。まさかこんな原始的な方法だったなんてな……まぁ金があれば問題無い」
「ヒッ!…………すみません……」
女の子に見破られ観念したのかすんなり金貨を支払う男性……
※ちなみに『ゴブリンファイト』とはパラディソスで流行しているギャンブルだ。
闘技場でゴブリンを一対一で闘わせ、どちらが勝つか賭けるものだ。
熱狂的なファンが多数いる。富豪の中にはゴブリンオーナーになってゴブリンを育成し豪華な装備を与え競わせるのが流行っているらしい……
まぁ馬主みたいな感覚だろうか……知らんけど。
「まったく……手間かけさせおって……」
女の子は金貨を数えている。
「…………」
男性は無言で下を向いている。
「……48……49……50!はい!ちょうど50枚じゃな!まいどあり!」
机の上に金貨を並べている。
「………………」
男性は無言で肩を落とし、事務所を去っていった。
「金貸して欲しかったら言えよ~……あいつは良いカモだよ。悪銭身に付かずとはよく言ったもんだ」
女の子は事務所を後にした男性の後ろ姿にヒラヒラ手を振りながら言った。
…………それにしても全然気付かなかった。
バッグの下に隠してたんだな……
あるならさっさと出せば良かったのに。
なんか……男性に同情していた自分が情け無い。
ギャンブル中毒は怖いな……
まぁいいや……
さっ!終わったから早く面接して欲しいな……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる