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13.北王国に到着です
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エドウィナ皇女の婚礼馬車隊は、オルドネージュの国境を越えると、北街道をひたすらサイラスとの中継地である北王国を目指して急ぎ進んだ。
オルドネージュの皇都から北王国の王都まで早駆け獣のラックルで3日の距離だが、今回は馬車5台と荷馬車10台の一大馬車隊列だ。北王国まで7日の余裕をもった日程が組まれた。
皇女の乗る御用馬車は揺れをほとんど感じさせない造りで快適だ。座席は夜はベッドになる。紗奈はこの世界で目覚めてから、今回が実に初めての遠出で、皇宮と皇都しか知らなかった紗奈にとって旅は新鮮だった。
スニシャもミルヤも、紗奈が窓の外を興味深そうに飽かずに眺める様子を、嬉しそうに見守った。北王国までの道中、紗奈は日ごとに表情豊かになっていった。
国境を越えて最初の4日間は野営、5日目は北王国の北の国境から入国して北部領主の館に、6日目は中央領主の館に宿泊した。
北王国に入国してからの道中、エドウィナ皇女の婚礼の馬車隊は大歓迎を受けながら進んだ。
通過する村々では、人々が口々に「ご結婚、おめでとうございます!」と手を振る。中には「おかえりなさい!」と叫ぶ人たちもいた。
みな、エドウィナ皇女が北王国国王の孫だと知っているのだ。北王国の人々にとっては、皇后アリシアの娘が母に代わって里帰りしたように感じるのだろう。
紗奈は窓から手を振りながら、胸が熱くなった。まさか、こんなに歓迎されるとは思っていなかったから。
サイラスでも、こんな風に歓迎してもらえるだろうか。結婚が決まってもサイラスは遠い国でしかなかった紗奈は、初めてサイラスに興味を覚えた。
そんな歓迎モードの中、小さな事件が起きた。
5日目の夜に北王国の北部領主の館で手厚いもてなしを受けた次の日。出発前の忙しない空気の中、突然かん高い声が響いた。
「おまえごとき平民が、皇女殿下に近づこうなんて。無礼者、下がりなさい!!」
北部領主の館の使用人の子供なのだろう10歳前後の女の子が、領主から挨拶を受けていた紗奈に近づこうとした。それに気づいたスミル・デメテリス伯爵夫人が、少女を怒鳴り付けたのだ。
あたりの空気は一瞬で凍った。
スミルはオルドネージュの王宮を出発した時から、怒っていた。なにもかも全てが気に入らなかった。
ここまでの道中、休憩時や野営の時に皇女に現状を訴えようと試みた。平民の侍女と馬車を共有するなんて耐えられない、と。
それを、ことごとくスニシャに邪魔された。ずっと溜まっていく不満と怒り。自分は皇女に近づこうとするたびにスニシャかミルヤに邪魔されたのに、少女は遮られることなく皇女に近づいていく。
それを見たら、怒りを抑えきれずに爆発した。
少女は後ろ手に野で積んできたらしい花を持っていた。1年の半分以上が冬の北王国で、晩春に咲く花を見つけるのは至難の業だ。一生懸命に探して積んできた花なのだろう。
スミルに怒鳴られて、固まって声も出ない少女。北部領主が慌てて紗奈に許しを乞うた。
「まだ年端もいかぬ少女にございます。殿下、なにとぞお許しを。礼儀を早急に躾けます。」
頭を下げてオロオロする領主夫妻に、紗奈は「かまわぬ。」と短く答えた。
そして、まだ固まったままの少女のもとにゆっくりと近づくと、
「その花はわたくしにですか?」とやさしく話しかけた。少女は声も出ないのか、ただ頭を上下にコクコクと振る。
「北王国の晩春はまだ雪が残っているのに、よく花が見つかりましたね。」やさしく話しかけ続ける紗奈に、ようやく少女は落ち着いた。
「さがしたの。おうじょさまが来るって母さんが言ったから、ずっと探したの。」
「そう、ありがとう。」紗奈が微笑むと、少女は顔を赤らめて積んできた花で作った花束を差し出した。それを紗奈が受け取ると、少女は使用人たちが並んで立っている場所に駆けていった。わあっと使用人たちから歓声があがる。
少女の母親らしい女性が、少女を抱きしめてから領主と紗奈の方に向かって深々と頭を下げた。
その様子をスミルが唇を嚙みながら見つめていた。『面白くない。なぜ、皇女は伯爵夫人のわたしをここまでないがしろにするの?』
その時、スミルの視界にスニシャが入った。
あの女だ。いつも邪魔をするあの女。許さない、許さない、許さない。スミルの目はスニシャへの憎悪に暗く燃え上がった。
そしてオルドネージュを出発してから7日目、紗奈たち一行は北王国の王都に到着した。
オルドネージュの皇都から北王国の王都まで早駆け獣のラックルで3日の距離だが、今回は馬車5台と荷馬車10台の一大馬車隊列だ。北王国まで7日の余裕をもった日程が組まれた。
皇女の乗る御用馬車は揺れをほとんど感じさせない造りで快適だ。座席は夜はベッドになる。紗奈はこの世界で目覚めてから、今回が実に初めての遠出で、皇宮と皇都しか知らなかった紗奈にとって旅は新鮮だった。
スニシャもミルヤも、紗奈が窓の外を興味深そうに飽かずに眺める様子を、嬉しそうに見守った。北王国までの道中、紗奈は日ごとに表情豊かになっていった。
国境を越えて最初の4日間は野営、5日目は北王国の北の国境から入国して北部領主の館に、6日目は中央領主の館に宿泊した。
北王国に入国してからの道中、エドウィナ皇女の婚礼の馬車隊は大歓迎を受けながら進んだ。
通過する村々では、人々が口々に「ご結婚、おめでとうございます!」と手を振る。中には「おかえりなさい!」と叫ぶ人たちもいた。
みな、エドウィナ皇女が北王国国王の孫だと知っているのだ。北王国の人々にとっては、皇后アリシアの娘が母に代わって里帰りしたように感じるのだろう。
紗奈は窓から手を振りながら、胸が熱くなった。まさか、こんなに歓迎されるとは思っていなかったから。
サイラスでも、こんな風に歓迎してもらえるだろうか。結婚が決まってもサイラスは遠い国でしかなかった紗奈は、初めてサイラスに興味を覚えた。
そんな歓迎モードの中、小さな事件が起きた。
5日目の夜に北王国の北部領主の館で手厚いもてなしを受けた次の日。出発前の忙しない空気の中、突然かん高い声が響いた。
「おまえごとき平民が、皇女殿下に近づこうなんて。無礼者、下がりなさい!!」
北部領主の館の使用人の子供なのだろう10歳前後の女の子が、領主から挨拶を受けていた紗奈に近づこうとした。それに気づいたスミル・デメテリス伯爵夫人が、少女を怒鳴り付けたのだ。
あたりの空気は一瞬で凍った。
スミルはオルドネージュの王宮を出発した時から、怒っていた。なにもかも全てが気に入らなかった。
ここまでの道中、休憩時や野営の時に皇女に現状を訴えようと試みた。平民の侍女と馬車を共有するなんて耐えられない、と。
それを、ことごとくスニシャに邪魔された。ずっと溜まっていく不満と怒り。自分は皇女に近づこうとするたびにスニシャかミルヤに邪魔されたのに、少女は遮られることなく皇女に近づいていく。
それを見たら、怒りを抑えきれずに爆発した。
少女は後ろ手に野で積んできたらしい花を持っていた。1年の半分以上が冬の北王国で、晩春に咲く花を見つけるのは至難の業だ。一生懸命に探して積んできた花なのだろう。
スミルに怒鳴られて、固まって声も出ない少女。北部領主が慌てて紗奈に許しを乞うた。
「まだ年端もいかぬ少女にございます。殿下、なにとぞお許しを。礼儀を早急に躾けます。」
頭を下げてオロオロする領主夫妻に、紗奈は「かまわぬ。」と短く答えた。
そして、まだ固まったままの少女のもとにゆっくりと近づくと、
「その花はわたくしにですか?」とやさしく話しかけた。少女は声も出ないのか、ただ頭を上下にコクコクと振る。
「北王国の晩春はまだ雪が残っているのに、よく花が見つかりましたね。」やさしく話しかけ続ける紗奈に、ようやく少女は落ち着いた。
「さがしたの。おうじょさまが来るって母さんが言ったから、ずっと探したの。」
「そう、ありがとう。」紗奈が微笑むと、少女は顔を赤らめて積んできた花で作った花束を差し出した。それを紗奈が受け取ると、少女は使用人たちが並んで立っている場所に駆けていった。わあっと使用人たちから歓声があがる。
少女の母親らしい女性が、少女を抱きしめてから領主と紗奈の方に向かって深々と頭を下げた。
その様子をスミルが唇を嚙みながら見つめていた。『面白くない。なぜ、皇女は伯爵夫人のわたしをここまでないがしろにするの?』
その時、スミルの視界にスニシャが入った。
あの女だ。いつも邪魔をするあの女。許さない、許さない、許さない。スミルの目はスニシャへの憎悪に暗く燃え上がった。
そしてオルドネージュを出発してから7日目、紗奈たち一行は北王国の王都に到着した。
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