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対価1
しおりを挟む「どうして……」
マルクは、ヴィーザル村の生き残った数少ない仲間で幼馴染だ。
アンヌやヨハンも、子供の頃は兄のように慕っていた。
私はふらつく足でマルクの寝かされているベンチに近寄った。
「マ、マルク、私よ――ソフィ。アンヌとヨハンもいるわ」
三人でマルクの枕もとを囲む。
血のにじんだ包帯の隙間から、何かしゃべろうとしているけれど、ヒューヒューと苦し気な呼吸音がもれるだけだ。
私は泣くまいとして、歯を食いしばった。
アンヌに杯に水を汲んで来てもらい、その中に痛み止めの粉末を入れて溶かした。
ハンカチに浸してから、マルクの口に含ませる。
「痛み止めよ、飲んで。楽になるから」
マルクは微かに口を開き、ハンカチから薬液を弱弱しく吸った。
「あんたぁ、死なないで――」
知らせを受けたマルクの妻が子供を連れて、待合室に飛び込んで来た。 マルクにすがりつくようにして、泣く。
私たちは彼女に場所を譲って、脇に退いた。
ただ見ているだけで、何もしてあげられない無力感に、じりじりと苛まれる。
警備隊の若い隊員も遅れてやって来て、事故当時の状況をマルクの妻に伝えた。
「隊長は、救出活動の陣頭指揮を執っていました。
救出中に、隊員が二度目の崩落に巻き込まれそうになったのを、隊長が庇ってこんなことに……」
「サミュエル先生は?! 先生は何でウチの人を、こんな場所に放って置くんですか! 早く、早くウチの人を診てくださいっ」
マルクの妻は、通りかかった看護士の腕を掴んで、必死に訴えた。
「奥さん、先生はもう隊長にはできる限りの手は尽くされたんです。今は他の重傷者の治療をしています。
後はもう、教会にお願いするしかないと思います」
看護士の腕を掴んだ手が、ぱたりと落ちる。そのマルクの妻に修道女オレリアが、寄り添うよう隣に座った。
「間もなく、司祭様がこちらにいらっしゃいます。それまで、一緒に祈りましょう」
修道女の言った通り、司祭が他の僧侶を引き連れて待合室に入って来た。
その場にいた私たちは、固唾を飲んで見守る。
仮設ベッドの側に立つと、司祭はマルクのために祈りを捧げた。
それからマルクの妻に告げた。
「喜びなさい、女神ヘルはマルクに秘蹟を授けて下さいます。今宵、日付の変わる刻に蘇生の儀式を行いましょう」
「司祭様、対価は。蘇生の対価はあたしですか?」
震える声でマルクの妻が問いかけた。
「いや、対価はマルクの息子、ジョス」
司祭がジョスの名前を口にすると、マルクの妻は「ひっ」と小さく叫び声を上げ、横に顔を振った。
皆の視線は、母親の隣にいる父親と同じ砂色の髪の十歳位の男の子に集中した、
本人は、急に自分の名前が出て来たので、キョトンとしている。
「ジョスはまだ子供です。あたしが対価になります」
「女神さまからの御神託は、絶対だ。他の者では代わりになりません」
「……」
蘇生の儀式には、対価が必要とされる。
それは蘇生に、触媒として貴族の血を使うからだと言われている。
儀式を受ける者は、神託のあったもっとも近しい存在をその血を贖うために『使徒』に捧げなければならない。
そして蘇生は必ずしも成功するとは限らない。
儀式を受けても亡くなる者もいる。また、対価となった者も命を落とすこともまれにだがあった。
さらに成功した場合、対価となった者は返礼として血を提供することも含め、その『使徒』に一定の期間仕えることになっている。
話を聞いていたマルクが、首を微かに横に振った。
小さな子供が対価だと言われて、親として受け入れられないのだろう。
でも。それじゃ、マルクは――。
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