【R18】真紅の薔薇城―不死者の支配する世界で聖女と呼ばれ―

雪月華

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儀式2

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 城から城下町の教会へ向かう馬車の中で、私とアンヌの向かいの席に女騎士リゼットが座っていた。

 リゼットは窓から夜の街を眺めていたが、こちらに視線を戻した。

「警備隊長は、伯爵と同郷と聞いたが」

「ええ。私もヴィーザル村の出身です」

「ヴィーザル村の悲劇は、私も聞いている。気の毒だった」

「……ありがとうございます」

 に従わなかったヴィーザル村のことを、リゼットからこんな風に言ってもらえるなんて……。


 教会には深夜にもかかわらず、大勢の人々がマルクのために集まっていた。
 マルクの知人以外に、神秘的な女神の御業をこの目で見たいという人々もたくさんいた。

 私たちは、礼拝堂の入口で係の者から蝋燭を受け取り、地上階の礼拝堂椅子に座ったが、リゼットだけは決まりだからと上階の貴族席へ行くように促された。
 リゼットから「帰るときは教会の外に出ず、入口で待つように」と念を押された。

 クレモン城下町一の大教会の聖堂は、城の礼拝堂よりずっと大きい。

 天井はドーム型で空間に広がりがあり、正面の奥の壇上は聖域サンクチュアリと呼ばれ、祭壇と二重の円からなる魔法陣が設置されている。
 内陣障壁には冥界の女神ヘルの像が安置され、その周りを飾るように真紅の薔薇ブラッディ・ローズのつるが囲い花を咲かせていた。

 薄暗い聖堂内で、人々の持つ蝋燭の炎が揺らめいている。
 
 こうして神に祈りを捧げるときには、魔石ランタンではなく、蝋燭が使われる。
 人の手によってじっくり時間をかけて作られた蝋燭の灯りは、女神の憐憫を誘い、祈りを聞き届けてもらいやすいと信じられている。

 零の刻になり、聖堂の鐘が鳴り響いた。
 中二階の聖歌隊の厳かな歌声が上から降り注ぐ中、壇上の明かりが灯された。

 魔法陣の上には、マルクが寝かされており、僧侶たちがその周りに膝をついて祈りを捧げている。

 人間の司祭が講壇に上がり、聖句を読み上げる。
 そして集まった人々に向かって、女神とサシャ王にマルクの蘇生リザレクションの儀式が成就するよう、祈りを捧げるように促した。

 私は水晶の数珠を握りしめ、マルクの蘇生とその子供ジョスがどうか無事で成功して終わりますようにと、すべての神々に祈った。

 壇上に、漆黒と真紅の金糸に彩られた祭服を来た司教マチアスが、ジョスを伴って現れた。

 マチアスが いにしえの言葉で何かを唱えると、魔法陣を中心にして真紅の薔薇ブラッディ・ローズのつるが放射線状に伸びて行く。

 さらに柄に女神ヘルの象徴、三日月に薔薇をあしらった装飾の短剣で、マチアスは自らの手首を切った。
 滴り落ちる血が、魔法陣を刻んだ御影石の窪みに流れると、床の二重の軌跡を描いた円に沿って筒のように青白い光が天井に向かって立ち昇った。

 血濡れた手で天を指せば、真紅の薔薇ブラッディ・ローズのつるが聖堂のドーム型の高い天井と、私たちの座っている床まで押し寄せて、真紅の花を次々に咲かせた。

 聖堂の中に真紅の薔薇ブラッディ・ローズの花吹雪が舞い、聖歌隊は冥界の女神とサシャ王へ救済を請い願う叫びの声に変化する。

 による集団幻惑。これは、幻だと知っている。アロイスから教えられていたから。

 壇上に目を凝らせば、長身のマチアスが小さなジョスの首筋に牙を立て、その血を貪っているのがぼんやりと見えた。
 周囲を見回せば、人々はこの光景に没頭し、すっかり魅了されている様子だった。

 青ざめたジョスが、音もなく壇上の司教の足元に崩れ落ちるのに、気にする者は居ない。

 次に司教は、冥界の女神ヘルの像へ向き、手を指し述べた。先程短剣で付けた傷は、すでに跡形もなく消えている。

 司教の片眼鏡モノクルがきらりと光ると、内陣障壁に安置された女神の石像が、ゆっくりと手を広げ、閉じられていた目が見開かれた。

 人々のどよめきが沸き起こった。
 椅子から降りて、床にひれ伏す者、泣きながら聖句を唱えるもの、立ち上がって呆然と女神像を見上げる者、中には訳の分からない言葉を叫び壇上に上がろうとして、僧侶たちに止められる者も居た。
 人々の熱狂は、最高潮に達しようとしていた。

 ここまでは、以前にも参列した蘇生リザレクションの儀式とほぼ同じだった。

 もうすぐ、もうすぐ終わる。人々の信仰心を掻き立てるためのが。
 それでもマルクたちさえ、助かればいい……あと少し。

 
 ――と、その時。地の底から這い出るような咆哮が、聖堂内に鳴り響いた。

 不気味な黒い影が、床から染み出している。それはまるで怪物の影絵。大きな口にはギザギザのノコギリのような鋭い歯が並び、二本の角は蛇のような長い首に沿うように後ろに伸びている。巨大な蝙蝠のような翼、尖った鉤爪……。


 未知との遭遇に、人々は戦慄してその場に凍り付いた。


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