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聖女
しおりを挟む「ソフィ、マルク隊長はどうした?」
「マルクは……」
厳しい眼差しで、私を見つめるローラン。
彼が敵なのか味方なのか分からないのに、アロイスが私を助けようとして、マルクを滅ぼしてしまったことを伝えるわけには……。
私はどう話したらいいのか迷い、口を噤んだ。
「死んだのか?」
黙ったまま頷くと、ローランは一瞬視線を下にして、崩壊して灰になったリゼットを見、身を震わせた。
「俺たちは、マルク隊長がルニエ商会の屋敷に居るのを知って、私兵に紛れて監視していた。
君やアロイスが来て、こんな騒ぎになるとは思っていなかったけど」
ローラン達は騒ぎに乗じて、今までどうしても入れなかったルニエ商会の屋敷の地下を捜索し、そこでマルクの着ていた警備隊の制服と灰の残骸を見つけたと言った。
「その後、お前たちが巡察官に捕らえられたのを見て、衛兵とすり替わった」
「私とアロイスを、助けてくれるの?」
ローランは皮肉に笑った。
「サシャ王の代理人、巡察官を相手に、俺たち人間が勝てると思うか?」
「じゃあ、どうしてあなたは危険を冒してここに居るの」
疑問を口にすると、ローランは真剣な表情に変わった。
「アロイスを救いたければ、奇跡を起こすんだ。聖女ソフィ」
ローランが何を言っているのかよく分からず、思わずぱちぱちと瞬きをする。
彼は荒縄で拘束されている私の手首から、飾り輪を外した。
「ヴィーザルの民は、かつて世界樹の森に住んでいた。世界樹が枯れてしまうと、俺たちの先祖はその地を去り、このノワールの地に辿り着いた。
そして現地の人々と共に、魔物や魔獣の嫌う草木を植えて村を守り、中央広場に世界樹の苗を植樹して育てて来た」
「そんなお伽噺をしている場合じゃ……」
馬車は、真紅の薔薇城へ向かっている。
ユー・シュエンは、私たちをどうするつもりなのだろう。
「村は滅びたけど、俺たちは生き残った。
君は再び世界樹の苗を城で育てている。
ヴィーザル村では、金髪緑瞳は先祖返りだと言われて、アロイスと君は『将来の長』『聖女候補』として大切にされていただろう?」
「ローラン、私に何か期待しているみたいだけど、子供の頃に薬師だった母から、薬草の育て方や薬の作り方を習っただけなの。村の広場の大樹は、ただのトネリコだし……。
その飾り輪を返して。アロイスから貰った、大事なものだから」
「いいや、世界樹で間違いない。ベックがそう言っていた」
アロイスから貰った飾り輪の代わりに、ローランはリゼットの命を奪った銀の柳葉飛刀を私の手に握らせた。
彼の意図が全く分からないまま、馬車は城の門を潜っていく。
馬車は本館の前で止まり、扉が開いて降ろされる。
先に着いたユー・シュエンとアロイスもそこに居て、迎えに出た騎士と使用人たちが拘束された私たちを見て戸惑っている。
「女騎士は死んだのか。これだから、下級騎士は」
私の乗っていた馬車でリゼットが灰燼に帰したのを見て、ユー・シュエンが吐き捨てるように言う。
アロイスをかばって銀の柳葉飛刀を受けたリゼットの死を知り、アロイスは顔色を失くした。
その場にいた騎士たちも、主であるアロイスを拘束され、同じ騎士団の騎士を亡くしさらに下級騎士の身分を貶められたとあっては、心底口惜しそうに顔を歪めた。
エタン村方面に討伐に出て、パトリスを始めとするノワール騎士団の精鋭達は留守にしている。
今、城に残っているのは下級騎士たちばかりで、事情が分からずとも自分たちの主人が捕らえられていることに屈辱を感じて拳を握り締め、歯噛みをしている者も居る。それでも、王の代理人に逆らう事は出来ないようだ。
「伯爵は、サシャ王陛下への反逆罪に問われている。これより王の代理人、巡察官は被疑者と共に最高審議の間で審議に入る。お前たちは、すべてが終わるまで大人しく待機するように」
ユー・シュエンが城の者たちに宣言すると、アロイスが昂然と頭を上げた。
「 女神に誓って、僕は無実だ。何の言いがかりか知らないが、疑いは必ず晴れるだろう。お前たちは、通常通り任務を遂行するように」
そうして私たちは、最高審議の間に連れて行かれた。
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