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運命の日へ6
しおりを挟む次に聖女は、アロイスに目を向け手招きした。
「――我らが妖精王に、神々の祝福が豊かにありますように」
アロイスが屈んで聖女に顔を寄せると、彼女は震える指先で印を結び祝福を与える。
「死は新たな旅立ち、世界樹さまが迎えて下さるんだよ」
それから集まった村人たちは、聖女に最後の別れの挨拶をした。
聖女が亡くなり荼毘に付されると、アロイスはひとりで丘を巡る川に歩いて行った。
ポケットからサシャ王に渡された黒玉を取り出し、陽に透かして見る。
陽に当てると、黒玉は血のごとく紅く輝く。
アロイスは、今まで大事に持ち続けていた黒玉を川に向かって高く投げ入れた。
陽の光に煌めく水面に、黒玉は水しぶきをあげて吸い込まれ、すぐに見えなくなる。
彼は一度も振り返らず、村へ戻った。
しかしその晩、アロイスは再び怖ろしい明晰夢を見る。
焦土と化した村の跡地に、ひとりで佇んでいる。
破壊された家々から、黒い煙が立ち上っていた。そこら中で血を流し、倒れている村の人々。
その中にアロイスの父親と継母、異母弟の姿もあった。重なり合い、幼い弟を庇うようにして、息絶えた二人の姿。
アロイスは、血を吐くような叫び声を上げ、生存者を捜して辺りを探し回る。
瓦礫の中を進み、ようやく広場に辿り着くと、大樹は根元から折れて火に燻っていた。
倒れた大樹の周りには小さな子供たち、そして私が横たわっているのが彼の目に入った。
恐る恐る私に近づき、うつ伏せになった私の焼け焦げた服、火に炙られて縮れた金髪、べっとりと着いた血に触れる。
彼が呆然として座り込んでいると、突然景色が変わる。
空は菫色に染まって星々が瞬き、辺りは薄暗く夜の帳が降り始めていた。
前方には、静かに川が流れている。
昼間、黒玉を投げ入れたその場所だ。
川の向こう側に広がる闇の中には、途方もなく怖ろしい存在が降臨していた。
「これを使わなかったのか、アロイス」
天鵞絨のように滑らかな声、真紅に光る瞳。そして、血のように紅く豊かに渦巻く髪。
長身の不死者の王は、いつの間にか川を超え、アロイスを見下ろしていた。
射干玉の黒絹の外套の中から、大きな宝石の指輪がいくつも嵌った指で黒玉を取り出して見せる。
恐怖に目を見開くアロイスの手を取り、再び黒玉を握らせる。
サシャ王は、漆黒に塗られた長い親指の爪で自らの人差し指の先を刺すと、小さな血の玉を作った。
アロイスの顎を長い指先で持ち上向かせると、一滴だけ、恐るべき王の血を少年の桜色のふっくらとした唇に落とした。
アロイスは固く口を結び、血の侵入を拒む。
それを見て、サシャ王は目を細め薄く笑う。愛玩動物のつれない態度を楽しむかのように。
「この玉は、余の血で出来ている。肌身離さず持っていた月日が、其方と余をすでに結び付けている」
アロイスの手から、黒玉が滑り落ちた。
「其方の血を味わう日が、待ち遠しい――」
彼は小さく叫び声を上げ、腕を振り払う。
がばっと起き上がり目を覚ませば、そこは住み慣れた自室のベッドの上だ。
心臓の鼓動は激しく打ち、全身に汗をびっしょりと掻いていた。
「ただの、夢、だ」
荒い呼吸を落ち着かせるように、ゆっくりと息をする。
そして、手に握りしめている黒玉に気づきギョッとなった。
「どうして――昼間、川に捨てたのに」
ギリギリと歯を食いしばり、黒玉を部屋の片隅に投げつけようとしてやめ、呟いた。
「村を、災厄から守らないと……!」
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