転生薬師は癒しを掲げて、かつて私を焼いた世界を救う-焼かれた元魔女、処刑された恨みは薬で返します-

銀鏡。

文字の大きさ
5 / 12

第4話 氷の少女と小さな奇跡

しおりを挟む
あれから三日。アニマは旅支度を整えて、小さな村を離れた。

目的地は北東の交易路沿いにある中継の町・ミルエ。次の薬草採取地として目星をつけていた場所でもある。

リュカと共に、薬師としての次の一歩を踏み出すことを胸に決めていた。

 だが、その途中――

「……あれ?」

 森の外れで、冷たい空気が肌を刺した。初夏だというのに、草葉が白く霜を帯びている。
季節外れの冷気の中で、アニマはひとりの少女を見つけた。

――銀色の髪。淡い青の瞳。
膝を抱えて震えていた少女は、まるで氷の像のようだった。

「大丈夫? どうしたの……?」

 アニマの問いに、少女は警戒した目を向けるだけで答えない。だが、ひと目でわかった。彼女は――病んでいた。

「身体が冷えすぎてる……!」

アニマは鞄から薬湯を取り出し、手早く火を起こして少女に差し出す。だが、少女は受け取らない。

「……あたしに関わると、みんな……凍るよ」

「……それでも、私は癒すわ。凍っても、命の火は残せるから」

 まっすぐに、アニマは言った。少女の目が、わずかに揺れた。

やがて、薬湯を一口すすると、頬にほんのりと赤みが差した。

「……不思議。あったかいのに、冷たくならない」

「それは“命の温度”よ。凍てつく魔力を包み込んで、溶かす薬……調合に三年かかった自信作」

くすりと微笑むアニマに、少女は初めて名乗った。

「……ラピス。凍結の異能を持って、生まれたの」

「私はアニマ。癒しの旅をしてる、ただの薬師よ」

 冷たい風の中で、ふたりの少女は静かに見つめ合う。
ラピスは言った。

「ねえ……あたし、あんたについて行ってもいい?」

その声には、迷いと、微かな希望が混じっていた。

アニマは頷いた。

「もちろん。あなたを癒した薬は、まだ完成じゃない。これから一緒に、仕上げていきましょう?」

 氷の少女が、小さく笑った。

その瞬間、凍てつく木々の枝に、白い花がひとつだけ咲いた。



 ミルエの町の宿屋――朝靄のなか、アニマは暖かいミルクティーを煮出しながら、ラピスの寝顔を見つめていた。

銀髪の少女は昨夜、ベッドに潜ってきたと思えば、アニマの隣で丸くなって眠ってしまったのだ。

「……油断してるわね、ほんと」

言葉とは裏腹に、その声音はどこか柔らかい。

 暖かさに包まれていたのは、ラピスだけではない。冷たい世界で、ずっと孤独に凍えていたのは、自分も同じだったのかもしれない。そう思った。

「朝から甘い雰囲気だね」

扉の向こうからリュカが入ってくる。手には地図と、荷を括った布袋。

「次は“オルド”だ。……鉱毒が拡がって、半ば廃市と化した街さ」

「知ってる。毒の源は、鉱石に混じった呪いの微粒子よ。対抗手段は――魔法植物との調和」

「やっぱり、君は只者じゃないね。……いや、わかってはいたけど」

 リュカは笑って言ったが、その目には探るような光もある。まだ彼は、アニマという存在を測っている。

ラピスが起き上がって、二人の会話に混ざった。

「その街、凍らせれば毒も止まる?」

「……発想は悪くないけど、人も凍るわよ?」

 くすくすと笑い合う三人。

不思議だった。出会ったばかりの者たちが、こんなにも自然に、ひとつの旅路にいる。

「よし、出発しましょう。鉱毒も、街の絶望も……私たちの癒しで、変えてみせる」

 アニマが立ち上がると、リュカが口角を上げた。

「薬師アニマの冒険記、第二章の始まりというわけだな」

「始まりじゃないわ。“癒しの旅”は、いつも続いてるの」

そう言った瞬間、アニマの胸の奥で、小さな鼓動が強く脈打った気がした。

“わたし”はまだ生まれたばかり。けれどこの歩みが、誰かの希望になれるなら――

「行こう。鉱毒の街へ。癒しが必要な場所へ」

 新たな仲間を加えた“癒しの旅”は、静かに再始動した。








 旅立ちは、雨上がりの朝だった。

湿った風に小さな薬包が揺れ、アニマはそれを鞄の中で押さえながら歩いていた。
隣にはリュカ、そして数歩後ろを、薄青の髪を風に揺らすラピスが歩いている。

「次はオルドって町なんでしょ?鉱山の毒で住民が苦しんでるって聞いたよ」

ラピスの声は明るいが、どこか緊張を含んでいた。

「ええ。古い鉱脈に含まれる魔鉱石――“黒銀鉱”が原因。触れるだけで神経が侵され、症状は重度の発熱や幻聴……」

「病というより、“呪い”に近い」

 リュカが静かに補足した。すでに何人もの記録者がその地を調査したが、全滅も多かったという。

「でもね、それでも誰かが“癒し”を持っていかなきゃ。私は、そうありたいの」

アニマの言葉に、ラピスが小さく頷いた。


 数日後、オルドの町に入った一行は、すぐに異常に気づく。

空気が重い。呼吸するたびに胸が苦しくなり、通りすがる人々はみな顔色が悪い。
特に子どもたちの咳き込みはひどく、目の奥が虚ろだった。

「この町……本当に“死にかけてる”」

ラピスがぽつりと呟いた。


 アニマは町の診療所に協力を申し出、即座に仮設の調薬所を設けた。
ラピスは魔力を流し込む作業、リュカは調査と記録。三人は見事な連携で、わずか数日で仮初の対処薬を完成させた。

だが、それは“延命”にすぎない。

「根本的な“毒”を中和するには、この町に眠る魔法植物との調合が必要。でも……その植物は幻とまで言われている」

「幻を見つけるのが、癒しの魔女の仕事だろう?」

 リュカの言葉に、アニマは微笑み返した。

そして翌日、三人は鉱山跡へと足を踏み入れる――。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

ダラダラ異世界転生

ゆぃ♫
ファンタジー
平和な主婦異世界に行く。1からの人生人を頼ってのんびり暮らす。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...