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六章 トーア、冷たき国
549.二人の夜話
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湖畔に焚き火を囲んだ私たちは、交代で見張りを立てることにした。
今日、私たちがここに泊まることは観測所に報告してあるが、この前のように密売組織や悪人が夜に悪さをしないとは限らない。
それに、この辺りはあくまで「人がいない」というだけなので、深夜に魔物が出てくるかもしれない。
・・・まあつまるところ、警戒しておくに越したことはないという考えあってのことである。
最初の番は私。火のそばに腰を下ろし、炎の揺らめきを見つめる。
夜の湖は静まり返っており、ほとんど何の音も聞こえない。
ときおり水鳥の声が遠くに響くが、それすらも一瞬で闇に飲まれてしまう。
耳を澄ませば、自分の心臓の鼓動まで聞こえる気がした。
ワイレーン荒原。人が寄りつかず、冷たい雪と風が唸るだけの場所。
その向こうに、トーアの敵が巣食っている。
考えるだけで、体の奥が冷たくなる。
火に手をかざしながら、ふと前世の記憶がよぎった。
教室の窓際、ひとり机に伏せていたあの時。
周りに人はいたはずなのに、声をかける人は誰もいなかった。
孤独に取り残される感覚──今にして思うと、あれは今向かおうとしている荒原と似ているような気がした。
不思議なものだ。まだ、行ったことがないというのに。
「・・・いつか、また一人になっちゃうのかな」
胸の奥からこぼれた言葉を、炎の音がさらっていく。
けれど、すぐに私は顔を上げた。
私には、火の向こうで眠る仲間たちがいる。
ノエルの穏やかな寝息、サラのかすかな寝返りの音。そして、私を信じてくれているフィアやヴァルナ、母も。
「もう、あの頃の私とは違う」
そう自分に言い聞かせると、不思議と胸のざわめきは少し収まった。
湖面に映る月が、こちらを見下ろしている。
荒原の向こうに待つものは、きっと恐ろしいものだ。けれど、私はひとりじゃない。
私は、炎を操る魔女。多くの仲間と共に進む、この世界の転生魔女だ。
焚き火に薪を足し、私は深く息を吐いた。
赤々と燃える火が、まるで私の決意を照らすように夜を明るくしていた。
突如、背後で布の擦れる小さな音がした。
振り向くと、サラが上体を起こしてこちらを見ていた。
「・・・アリアさん?」
「あっ・・・ごめん、起こしちゃった?」
「いえ・・・少し、夢を見ていたんです。怖い夢でしたから・・・」
彼女の声は、湖の夜気のようにかすかに震えていた。
私は場所を空けて、焚き火のそばに座るよう促す。サラは遠慮がちに腰を下ろし、炎をじっと見つめた。
「・・・夢の中で、誰もいなくなってしまうんです。気がついたら、私だけが取り残されていて」
「・・・」
「それで・・・泣いているところで目が覚めました。ごめんなさい、こんな話をしてしまって」
俯くサラの肩が、細かく震えていた。
私は何も言えずにいたけど、気づけば自然と口が動いていた。
「サラ。それは、前に私が見てた夢と似てるかもしれない」
「え・・・?」
「私も昔、ずっと一人だと思ってた。でも今は違う。こうしてみんなと一緒にいる。だから・・・あなたも一人になんてさせないよ」
サラは驚いたようにこちらを見つめ、それから小さく微笑んだ。
炎に照らされるその笑顔は、ほんのわずかに安心を取り戻したように見えた。
「・・・ありがとうございます、アリアさん」
「うん。さ、もう一度休んで。荒原に着いたら、きっと大変だから」
「はい・・・おやすみなさい」
サラは小さく頭を下げ、再び寝床へ戻っていった。
彼女の背を見送りながら、私は焚き火の炎に視線を戻す。
──孤独も、不安も、みんなと分け合えば、きっと耐えられる。
夜風に吹かれながら、私は改めてそう感じていた。
今日、私たちがここに泊まることは観測所に報告してあるが、この前のように密売組織や悪人が夜に悪さをしないとは限らない。
それに、この辺りはあくまで「人がいない」というだけなので、深夜に魔物が出てくるかもしれない。
・・・まあつまるところ、警戒しておくに越したことはないという考えあってのことである。
最初の番は私。火のそばに腰を下ろし、炎の揺らめきを見つめる。
夜の湖は静まり返っており、ほとんど何の音も聞こえない。
ときおり水鳥の声が遠くに響くが、それすらも一瞬で闇に飲まれてしまう。
耳を澄ませば、自分の心臓の鼓動まで聞こえる気がした。
ワイレーン荒原。人が寄りつかず、冷たい雪と風が唸るだけの場所。
その向こうに、トーアの敵が巣食っている。
考えるだけで、体の奥が冷たくなる。
火に手をかざしながら、ふと前世の記憶がよぎった。
教室の窓際、ひとり机に伏せていたあの時。
周りに人はいたはずなのに、声をかける人は誰もいなかった。
孤独に取り残される感覚──今にして思うと、あれは今向かおうとしている荒原と似ているような気がした。
不思議なものだ。まだ、行ったことがないというのに。
「・・・いつか、また一人になっちゃうのかな」
胸の奥からこぼれた言葉を、炎の音がさらっていく。
けれど、すぐに私は顔を上げた。
私には、火の向こうで眠る仲間たちがいる。
ノエルの穏やかな寝息、サラのかすかな寝返りの音。そして、私を信じてくれているフィアやヴァルナ、母も。
「もう、あの頃の私とは違う」
そう自分に言い聞かせると、不思議と胸のざわめきは少し収まった。
湖面に映る月が、こちらを見下ろしている。
荒原の向こうに待つものは、きっと恐ろしいものだ。けれど、私はひとりじゃない。
私は、炎を操る魔女。多くの仲間と共に進む、この世界の転生魔女だ。
焚き火に薪を足し、私は深く息を吐いた。
赤々と燃える火が、まるで私の決意を照らすように夜を明るくしていた。
突如、背後で布の擦れる小さな音がした。
振り向くと、サラが上体を起こしてこちらを見ていた。
「・・・アリアさん?」
「あっ・・・ごめん、起こしちゃった?」
「いえ・・・少し、夢を見ていたんです。怖い夢でしたから・・・」
彼女の声は、湖の夜気のようにかすかに震えていた。
私は場所を空けて、焚き火のそばに座るよう促す。サラは遠慮がちに腰を下ろし、炎をじっと見つめた。
「・・・夢の中で、誰もいなくなってしまうんです。気がついたら、私だけが取り残されていて」
「・・・」
「それで・・・泣いているところで目が覚めました。ごめんなさい、こんな話をしてしまって」
俯くサラの肩が、細かく震えていた。
私は何も言えずにいたけど、気づけば自然と口が動いていた。
「サラ。それは、前に私が見てた夢と似てるかもしれない」
「え・・・?」
「私も昔、ずっと一人だと思ってた。でも今は違う。こうしてみんなと一緒にいる。だから・・・あなたも一人になんてさせないよ」
サラは驚いたようにこちらを見つめ、それから小さく微笑んだ。
炎に照らされるその笑顔は、ほんのわずかに安心を取り戻したように見えた。
「・・・ありがとうございます、アリアさん」
「うん。さ、もう一度休んで。荒原に着いたら、きっと大変だから」
「はい・・・おやすみなさい」
サラは小さく頭を下げ、再び寝床へ戻っていった。
彼女の背を見送りながら、私は焚き火の炎に視線を戻す。
──孤独も、不安も、みんなと分け合えば、きっと耐えられる。
夜風に吹かれながら、私は改めてそう感じていた。
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