灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

文字の大きさ
617 / 891
七章 ガロウの雷鳴

621.里は再び息づく

しおりを挟む
 夜が明けた。
淡い光が山の端から差し込み、灰と煙に覆われた里をゆっくりと照らしていく。
風は冷たく、けれど昨夜よりも柔らかかった。

焦げた木々の間を、細い陽光が縫うように差し込み、壊れた屋根の隙間を通って地面に落ちる。

 私は毛布を肩にかけたまま、焚き火の跡に腰を下ろした。
炎はもう消えていたが、わずかに残った炭が白く燻っている。
そこから立ちのぼる煙の匂いが、夜の記憶を少しだけ引きずっていた。

──朝は来る。どんな夜のあとにも。



 遠くで、誰かの声がした。
家の骨組みを立て直す音。荷車の軋む音。
それらが少しずつ重なって、まるで里全体が再び息を吹き返すようだった。

「おはよう、アリア」

振り向くと、母が立っていた。
夜の疲れを少し残した顔に、それでも穏やかな笑みを浮かべている。

「おはよう、母さん。・・・みんな、もう動いてるね」

「ええ、夜が明けるのを待ってたみたい。倒れた建物の片づけと、水路の確認をしてるわ」

 母は空を仰いだ。
その瞳に映るのは、薄く霞む朝の光。
先日の兵士たちの魔法、そして私が放った炎の痕跡はまだそこかしこに残っているが、優しく吹く風の匂いはもう“破壊”ではなく“始まり”のそれだった。

「例の結界、少し見直しておくわ」

「結界?」

「ええ。あの時張って維持してたのは、応急処置のようなものだったから。今のうちに、もっと強くて長く保つ結界に張り直しておきたいの」

 母の言葉に、私は頷いた。
「じゃあ、私も手伝うよ。魔力もだいぶ戻ったし」

「それは頼もしいわね。でも、焦らないで。結界を張るには、十分な魔力の他に集中が必要だもの。少しでも無理をすれば、また倒れてしまうかもしれないわよ」

「それは、わかってる。・・・でも、私もこの里を守りたいの」

 母は微笑み、私の額にそっと手を置いた。
その掌の温かさが、夜の名残を溶かすようだった。

「大丈夫。あなたの炎は、怖れに飲まれるようなことはない・・・あの火が、それを改めて教えてくれたわ」

私は静かに息を吸い込み、空を見上げた。
雲の向こうに、陽が昇る。
光が焦げた大地を照らし、煙の中に金の筋を描いた。

 その瞬間、私は確かに感じた。
この里は、まだ生きている。
そして、私たちの炎も──まだ消えていない。




「・・・よもや、ここにも北の兵士たちが来るとは。今までは、この里は平和だったのですが・・・」

 里長の老婆は、そう言って項垂れた。

「彼らが来たのは、今回が初めてなんですか?」

「はい。このカリンの里は、南ガロウでは数少ない攻撃を受けたことのない都市でした。故に、あちこちの都市から逃げてきた者たちがおったのですが・・・」

老婆は目を伏せた。

「こうして攻撃を受けては、もはや安全とは言えませぬな。家々も壊れてしまったし、直すのにもどれだけ時間がかかるか・・・」

「どんなに時間がかかっても、必ず立て直すのよ。何があっても、戦火に屈してはいけないわ!」
母が、力強く言った。

「私たちも、可能な限り手伝います。だからどうか、希望を持って。諦めなければ、いつか必ず復興できるわ。・・・神魔戦役じんませんえきの時も、焼け跡から立ち上がったじゃない」

 その言葉に、私ははっとした。

「・・・そうですな。どんな戦争も、わしらの絆と精神までは焼けん。そのこと、思い知らせてやりましょう」

「その意気よ。それに・・・あなたに諦められては、私も悲しいわ。あなたは、私にとっても恩人ですもの」

「えっ?」

驚く私を尻目に、老婆はかすかに笑った。

「ほほ・・・かつての教え子に、励まされる時が来るとはの。昔と立場が逆転してしまったな、セリエナ」

「ええ・・・不思議なものね。剣の腕は、あなたのほうが上ですのに。ジェマ師匠」

 母と老婆は、そう言って笑い合った。
年老いた里長の背筋には、かつて優れた剣士だった者の名残があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界での異生活 ~騎士団長の憂鬱~

なにがし
ファンタジー
成人年齢15歳、結婚適齢期40~60歳、平均寿命200歳の異世界。その世界での小さな国の小さな街の話。 40歳で父の跡を継いで騎士団長に就任した女性、マチルダ・ダ・クロムウェル。若くして団長になった彼女に、部下達はその実力を疑っていた。彼女は団長としての任務をこなそうと、頑張るがなかなか思うようにいかず、憂鬱な日々を送る羽目に。 そんな彼女の憂鬱な日々のお話です。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

処理中です...