642 / 891
七章 ガロウの雷鳴
646.雷の結界
しおりを挟む
午前の陽が街を包みはじめる頃、リゼの案内で私たちはアウリンの街を歩いていた。
高台に築かれたこの都市は、白い石畳がどこまでも続き、空には常に淡い雷光が漂っている。
街の人々は皆、穏やかな笑みを浮かべ、商人たちは店先で声を張り上げていた。
焼きたてのパンの香り、鐘の音、子どもたちの笑い声――一見すれば、どこにでもある平和な都市の朝だ。
けれど、何かが違う。
まるでこの街全体が、見えない何かに包まれているような――そんな息苦しさを感じた。
「リゼ様、この雷・・・ずっと鳴ってるんですか?」
ノエルが見上げた空には、雲一つないのに、遠くで低い音が響いていた。
「ええ。アウリンに限らず、ガロウでは自然魔力が強い場所ではいつも雷が鳴っている。この雷こそ、この国が“雷の国”たる由縁」
リゼの声は柔らかいが、どこか張りつめていた。
街の上空には、薄く広がる光の膜があった――それがこの街を守る結界なのだと、彼女は言った。
見上げると、透明な波紋がゆっくりと揺れ、時折稲妻が走る。
「なんだか、綺麗です・・・」
サラが小さく呟いた。
その表情は、どこか不安に近いものだった。
少し歩くと、広場に出た。
中央にある噴水の奥には、正面に何かの紋章が刻まれた塔・・・昨日私たちが泊まった塔が立っており、そこから淡い光が街全体に流れ出している。
人々はその周囲を通り過ぎるたび、自然と胸に手を当てていた。まるで祈りのように。
「みんな笑ってる・・・でも、なんか怖いです」
サラの声はかすかだったが、私の耳にははっきり届いた。
母は、それに振り返らずに答えた。
「・・・笑顔って不思議ね。人を和ませるものなのに、人を驚かせる何かを隠すためにも使われる」
その言葉の奥に、確信のような響きがあった。
リゼは少しだけ歩を緩め、笑顔を作る。
「みんな、この街を誇りに思ってるの。・・・守られているって、信じているのね」
だが、その笑みの下にかすかな影が走った。
私は、それを見逃さなかった。
街の外れにある高台から見下ろすと、結界の縁が見えた。
雷光が地上へ流れ込み、地を這うように光っている。
まるで、街全体が一つの巨大な“生きた装置”のようだった。
「リゼ、この結界は一体どんな仕組みで維持されてるの?」
母の問いに、リゼは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「・・・古代から伝わる術式よ。この街の魔法使いの力を集め、雷の核石に注ぎ込むの。それで、結界が保たれてる」
その声は静かだったが、どこか無理に整えているように感じられた。
「でもそれって、街の魔法使いの人たちにすごい負担がかかりますよね?その魔力は、一体どこから・・・?」
ノエルが首をかしげると、リゼは穏やかに微笑んだ。
「人々の“祈り”よ」
祈り――その言葉を聞いた瞬間、私の背中を冷たいものが走った。
昨夜、塔の上で聞いた声。
“代償が大きすぎる”というあの言葉が、再び胸の奥でざらついた。
遠くの空で雷が光る。
その音が、なぜか悲鳴のように響いた。
「・・・ねぇ、母さん」
私は小さく呟いた。
「もし結界を維持してるのが、“祈り”じゃなくて別のものだったら・・・どうする?」
母は答えなかった。
ただ、真っすぐに結界の光を見つめていた。
その横顔は、静かな怒りを孕んでいるようにも見えた。
リゼの背に、淡い雷の光が揺れる。
――この街を守る力の正体に、私はまだ気づいていなかった。
だが、その“見えない圧”は、確かに息づいていた。
高台に築かれたこの都市は、白い石畳がどこまでも続き、空には常に淡い雷光が漂っている。
街の人々は皆、穏やかな笑みを浮かべ、商人たちは店先で声を張り上げていた。
焼きたてのパンの香り、鐘の音、子どもたちの笑い声――一見すれば、どこにでもある平和な都市の朝だ。
けれど、何かが違う。
まるでこの街全体が、見えない何かに包まれているような――そんな息苦しさを感じた。
「リゼ様、この雷・・・ずっと鳴ってるんですか?」
ノエルが見上げた空には、雲一つないのに、遠くで低い音が響いていた。
「ええ。アウリンに限らず、ガロウでは自然魔力が強い場所ではいつも雷が鳴っている。この雷こそ、この国が“雷の国”たる由縁」
リゼの声は柔らかいが、どこか張りつめていた。
街の上空には、薄く広がる光の膜があった――それがこの街を守る結界なのだと、彼女は言った。
見上げると、透明な波紋がゆっくりと揺れ、時折稲妻が走る。
「なんだか、綺麗です・・・」
サラが小さく呟いた。
その表情は、どこか不安に近いものだった。
少し歩くと、広場に出た。
中央にある噴水の奥には、正面に何かの紋章が刻まれた塔・・・昨日私たちが泊まった塔が立っており、そこから淡い光が街全体に流れ出している。
人々はその周囲を通り過ぎるたび、自然と胸に手を当てていた。まるで祈りのように。
「みんな笑ってる・・・でも、なんか怖いです」
サラの声はかすかだったが、私の耳にははっきり届いた。
母は、それに振り返らずに答えた。
「・・・笑顔って不思議ね。人を和ませるものなのに、人を驚かせる何かを隠すためにも使われる」
その言葉の奥に、確信のような響きがあった。
リゼは少しだけ歩を緩め、笑顔を作る。
「みんな、この街を誇りに思ってるの。・・・守られているって、信じているのね」
だが、その笑みの下にかすかな影が走った。
私は、それを見逃さなかった。
街の外れにある高台から見下ろすと、結界の縁が見えた。
雷光が地上へ流れ込み、地を這うように光っている。
まるで、街全体が一つの巨大な“生きた装置”のようだった。
「リゼ、この結界は一体どんな仕組みで維持されてるの?」
母の問いに、リゼは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「・・・古代から伝わる術式よ。この街の魔法使いの力を集め、雷の核石に注ぎ込むの。それで、結界が保たれてる」
その声は静かだったが、どこか無理に整えているように感じられた。
「でもそれって、街の魔法使いの人たちにすごい負担がかかりますよね?その魔力は、一体どこから・・・?」
ノエルが首をかしげると、リゼは穏やかに微笑んだ。
「人々の“祈り”よ」
祈り――その言葉を聞いた瞬間、私の背中を冷たいものが走った。
昨夜、塔の上で聞いた声。
“代償が大きすぎる”というあの言葉が、再び胸の奥でざらついた。
遠くの空で雷が光る。
その音が、なぜか悲鳴のように響いた。
「・・・ねぇ、母さん」
私は小さく呟いた。
「もし結界を維持してるのが、“祈り”じゃなくて別のものだったら・・・どうする?」
母は答えなかった。
ただ、真っすぐに結界の光を見つめていた。
その横顔は、静かな怒りを孕んでいるようにも見えた。
リゼの背に、淡い雷の光が揺れる。
――この街を守る力の正体に、私はまだ気づいていなかった。
だが、その“見えない圧”は、確かに息づいていた。
0
あなたにおすすめの小説
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界での異生活 ~騎士団長の憂鬱~
なにがし
ファンタジー
成人年齢15歳、結婚適齢期40~60歳、平均寿命200歳の異世界。その世界での小さな国の小さな街の話。
40歳で父の跡を継いで騎士団長に就任した女性、マチルダ・ダ・クロムウェル。若くして団長になった彼女に、部下達はその実力を疑っていた。彼女は団長としての任務をこなそうと、頑張るがなかなか思うようにいかず、憂鬱な日々を送る羽目に。
そんな彼女の憂鬱な日々のお話です。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる