灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

文字の大きさ
726 / 891
七章 ガロウの雷鳴

728.静かな古井戸へ

しおりを挟む
 街の奥へ歩くにつれて、人影はどんどん薄くなっていった。
家の並びは同じなのに、まるで住人が全員消えたみたいな静けさがある。

ノエルが小声で言った。

「・・・本当に、誰もいないね。さっきよりも、もっと・・・」

「この先は、街の人でもあまり近づかない場所なのかもしれませんね」

サラの言葉はひそめた声だったが、この場の空気には十分に響いた。

 そして──古井戸は、突然視界の先に現れた。

広場というほど広くはない、ひっそりとした空間の中央に石造りの井戸がぽつんと立っている。

周囲の家々は窓を閉め切り、ひとつとして灯りがない。
誰かがここを避けているのが、ひしひしと伝わってくる。

「・・・ここ、ね」
私は息を整えて、井戸へ近づいた。

 だが──話に聞いていたはずの役人の姿はどこにもなかった。

辺りには、誰もいない。
風の音だけが、空っぽの広場を撫でるように通り過ぎる。

リゼが周囲を見渡しながら言った。

「情報だと、たまに役人が来る・・・ってことだったはずよね?」

「ええ・・・あくまで“たまに”ですけど。今がその時だとは、限らないかと」

 リゼとノエルの会話を聞きながら、私は妙な違和感を覚えていた。
――この静けさは、ただの人気のなさじゃない。

まるで、ここだけ空気が濃く、重く沈んでいるような・・・誰かが息を潜めて、井戸を見張っているような・・・そんな息苦しさがあった。

 母が井戸の縁に近づいて、中を覗いた。
「・・・何も見えないわね。水があるかどうかも分からないほど、暗い・・・」

「明かりを落としましょうか?」

「だめだよ、サラ。下手なことしたら、私たちがここに来たってバレるかもしれない」
ノエルが慌てて止める。

 その時――どこからともなく、きぃ・・・と古い木の軋む音がした。

「っ・・・!」

みんなが一斉に振り向く。
だが、そこには誰の姿もない。
扉も動いていないし、窓の影にも変化はなかった。

「・・・気のせい、じゃないよね?」

「ええ、違うわ・・・たぶん」

 母の声は低く、覚悟のようなものを帯びていた。
「このあたり・・・誰かが私たちを見てる」

背筋に冷たいものが走る。

視線の正体は分からない。
だけど、何かが私たちの動向をうかがっているのはほぼ確実だった。

「役人、というより・・・“監視人”かもしれない」
リゼの言葉を、誰も否定できなかった。

 そこで気がついたが、役人がたまにここに来る・・・というのは、“この井戸には、何か隠しているものがある”という意味でもあるだろう。

静まり返った井戸の前で、私は息を呑んだ。

「・・・中を調べなきゃ。でも、絶対に慎重に行こう」
みんなが頷く。

 この古井戸は、ただの古い井戸なんかじゃない。
この国の狂気の中心にある――何かを隠している。
そんな気がした。

風が一度だけ強く吹き、井戸の底からかすかに冷たい空気が上がってきた。
まるで、誰かが下から吐息を漏らしたみたいに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界での異生活 ~騎士団長の憂鬱~

なにがし
ファンタジー
成人年齢15歳、結婚適齢期40~60歳、平均寿命200歳の異世界。その世界での小さな国の小さな街の話。 40歳で父の跡を継いで騎士団長に就任した女性、マチルダ・ダ・クロムウェル。若くして団長になった彼女に、部下達はその実力を疑っていた。彼女は団長としての任務をこなそうと、頑張るがなかなか思うようにいかず、憂鬱な日々を送る羽目に。 そんな彼女の憂鬱な日々のお話です。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

処理中です...