灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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二章 学院生活・前半

56.眠れる扉

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 三ヶ月という時間は、時に残酷なほど早く過ぎていく。
ジオルとの決闘事件から、それだけの月日が経った。

冬の風がゼスメリアを吹き抜け、雪が校庭を銀白に染め上げる頃には、あの騒動を話題にする生徒も、すっかり減っていた。
けれど、私の中ではまだ終わっていない。

 ジオルは私に一方的に襲われたと訴えたが、私は『エルパトラス・フィドル』──時間を巻き戻し、過去を映像として映し出す魔法で、決闘の真実を皆に示した。

結果、学園側は「両者の同意による正当な決闘」として処理した。ゼスメリアでは、授業外であっても同意のある決闘は許されているのだ。

 その後、ジオルの両親は私の前に一切姿を見せなくなった。そしてジオル自身も、あれからはずっと静かだった。私とすれ違っても、目すら合わせない。

私は彼に勝った。でも、それだけで終わるとは、思っていない。



 年が明け、私は二年生として最後の学期を迎えていた。

教室の窓から見える中庭は、まるで真っ白なキャンバスだ。昨日の夜から降った雪は、誰の足跡も許さず静かに広がっていた。

空気は冷たく澄んでいて、吐く息が白く染まるのを見ると、妙に現実味があった。

「・・・寒い」

 肩をすくめながら制服のマントを羽織り、私は食堂へ向かった。
普段ならシルフィンやライドと一緒に向かうのだけど、今日は私が一番早かったらしい。

席に着くと、隣のテーブルからひそひそと声が聞こえた。

「ねぇ、あれがあのときの・・・」

「そうそう、炎の大魔女の娘・・・アリア・ベルナード」

「セリエナの娘ってだけじゃなくて、闇魔法使う奴相手に勝ったんだよね・・・?」

 その声に、私はスプーンを止めた。

もう慣れた、と思っていたけれど、やっぱり胸の奥がざらつく。
私のことを話しているのに、そこに“私”はいないような、そんな気持ちになる。

(セリエナの娘、ね・・・)

 どうも、いつだって“誰かの娘”としてしか見られてない気がする。
私が誰であるかよりも、“何の血を引いているか”ばかりが重要視される。

そんな風潮には、もううんざりだった。

 だけど──あの一件以来、少しだけ変わったこともある。
私をただの“偉大な魔女の娘”ではなく、“自分の意思で戦った魔女”として見てくれる生徒も、少しずつ増えてきている。

特に・・・実はあの時、隠れて決闘を見ていた同学年の子が数人いたのだが、その中には私に直接「すごかった」と声をかけてくれた子もいた。

 それが嬉しくないわけじゃない。だけど、その評価の裏にある「期待」や「希望」が、私を押し潰そうとする。

母のように強くなれ、と。
母のように特別であれ、と。

 ──でも、私は母じゃない。

私はアリア。アリア・ベルナード。
それ以上でも、それ以下でもない。

そう言い切れるようになるには、まだもう少し時間が必要だった。




「さて、話を始める前に・・・残り三ヶ月、悔いのないように過ごすことだ」

 午後の授業で、担任のレシウス先生がそう言って教室を見渡す。
長く伸びた赤い髪と赤い目。それは、相変わらず独特な存在感を放っている。

「来月、最終実技試験を行う。内容は“合同模擬戦”だ。──三人一組、もしくは四人一組のチームで、実践形式の魔法戦を行う」

教室が一気にざわめいた。
模擬戦自体は毎年恒例の行事らしいのだが、今年は内容が違う。

「今年は、例年よりも高度な試験になる。形式上は模擬だけど、学外の監査官も見学に来る。詳しいことは言えないが、優秀な成績を収めた者にはいい話もある。・・・みんな、期待しているぞ」

 いい話、というのはなんだか気になるが、そうでなくても、よい成果は出したい。
私は、隣の席のシルフィンと目を合わせた。

「また組めるといいね」

「だね。私たち四人なら、なんとかなるよ」

今回は、というか今回も、か。シルフィン、ライド、マシュルとチームを組むことにした。

いつも一緒に学び、訓練している気心の知れた仲間たち。
何気に属性のバランスも良く、連携にも自信がある。

 ・・・そのはずだった。

なのに私は・・・ここ最近、妙な“違和感”に悩まされていた。

 それは、最初はほんの小さなものだった。

魔力の流れがわずかに淀むような、呼吸が浅くなるような、霧の中にいるような感覚。
訓練中にも集中が続かず、魔法陣の発動にわずかなタイムラグが生じることがあった。

 異常、とまでは言えない。
けれど、自分の魔力を誰よりも理解している私には、それが「いつもと違う」と分かった。

「アリア、大丈夫か?最近、なんか元気ないっていうか・・・集中してないっていうか・・・ 」

放課後の訓練で、マシュルが心配そうに眉をひそめる。蒼い目が揺れていた。

「うん・・・ちょっと、変な夢を見るようになって・・・眠りが浅いのかも」

「夢?」

「うん・・・内容はよく思い出せないんだけど。ずっと、誰かが呼んでる気がして・・・でも、いつもはっきりとは聞き取れないの」

それは、冬の始まりとともに現れた夢だった。

 目を閉じると、炎のように揺れる赤い空。荒廃した石畳。足元に伸びる無数の影。そして、どこからともなく聞こえてくる“声”。

──まもなく、開く。
──扉が、開く。

ただそれだけの言葉が、ぼんやりと耳に響いてくる。

 でも、何の扉なのかは分からない。
開いてしまったら、何が起きるのかも。

なのに、その言葉を聞くたびに、私は理由もなく、ぞっとしていた。

「・・・まあ、大丈夫だよ。いつも、訓練とか授業にはちゃんと出てるんだし、迷惑はかけてないでしょ?」

 そう答えると、マシュルは納得いかないような顔をしつつも、それ以上は深く追及しなかった。

けれど、それは“迷惑かけてない”のではなく、“まだ何も起きていない”だけだった。



 その夜、私はまた夢を見た。

焼け爛れたような赤い空。黒く染まる大地。
耳の奥で、遠く鐘の音のような響きが鳴り続けている。

 足元に、なにかが落ちている。
──それは、「首」だった。

誰のものかは分からない。けれど、見覚えのある赤い髪。よく知る顔。

(・・・シルフィン・・・?)

 そう認識した瞬間、胸が締めつけられるような痛みに襲われた。

声をあげようとしたけど、喉が凍ったように動かない。

 ──扉が、開く。

声が響く。
あの声だ。夢の中で、何度も聞いた声。

だけど今日は、その声の主が“誰か”分かった気がした。

 それは、かつての私。
前世、まだ“鈴木三春”だった頃の、私自身の声だった。

(・・・なんで・・・)

言葉が出ないまま、視界が崩れ、夢が終わった。




 朝、私は冷や汗をかいて、ベッドの中で目を覚ました。
額に貼りついた髪を払いながら、浅く息を吸う。

夢の内容はすぐに薄れていく。なのに、胸のざわつきだけが強く残った。

(なんなの、この感覚・・・)

 あの夢に出てきた「扉」は、ただの幻ではない。そう感じる自分がいる。
──何かが、近づいている。

直感的に、そう思った。


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