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三章 学院生活・後半
101.忘れられた場所
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昼休み、学院の裏庭に集まったのは、私、ノエル、ライド、シルフィンの四人だけだった。
「マシュルは今日は休みだって。ちょっと熱が出てるらしいよ」
そう言ったのはライド。食堂から持ってきたらしいサンドイッチの袋をぶら下げたまま、肩をすくめていた。
「どうしたんだろう?昨日の訓練で、無理しすぎたのかな・・・」
シルフィンが心配そうに言いながら、私の顔をじっと見る。
「それで、アリア。朝からずっと落ち着かない顔してたけど、なにかあったの?」
私は、小さく息を吸い込んでから、言葉を選ぶように話し始めた。
「・・・夢を見たの。多分、ただの夢じゃない。あの“マティア”に似た存在が、私の中に“記憶の扉”を開いた」
ノエルの表情がわずかに強張る。
「“選ばれなかったもの”って、言ってた。闇の魔女として・・・忘れられた誰か」
「それ、本気で言ってるのか?」
ライドが目を丸くする。けれど私の目を見て、冗談じゃないとすぐに悟ったらしい。
彼は深く息を吐いた。
「じゃあ・・・その“気配”、追ってみよう。アリア、どこか心当たりは?」
私は一度だけ目を閉じ、胸の奥に残っている“あの感覚”を探る。
──冷たくて、深く沈んだ気配。
それは、森のほうではない。むしろ学院の中・・・もっと古い場所に、眠っている。
「・・・旧礼拝堂。もう使われていないけど、地下に魔力遮断結界が張られてるって、聞いたことがある」
「そこって・・・魔法考古学の先生が出入りしてる場所だよね?普通の生徒は立ち入り禁止なんじゃ──」
「今さらそれくらいで止まると思って?」
私の言葉に、ノエルがふっと笑った。
「じゃあ、決まりね。さっさと行きましょう。マシュルがいない分、私たちで何とかしなきゃ」
「よっしゃ・・・探検隊ってやつだな。出発だー!」
ライドがいつもの調子で言いながら、歩き出す。私たちもそれに続いた。
旧礼拝堂は、学院の一階南西にある。
普段から掃除もろくにされず、埃に覆われた、ほとんど忘れられた場所。けれど、近づくにつれて──空気が変わった。
冷たい。まるで“何か”が、呼吸をひそめているような気配。
「・・・感じる」
ノエルが、小さく呟く。
重い扉を開けると、中は埃にまみれたまま、時間が止まったように静まり返っていた。
古びた木の床、ひび割れた石の柱。そして、奥へと続く階段──
闇に沈んだ地下への入り口が、ぽっかりと口を開けていた。
「・・・行こう」
私たちは、足音をひそめて階段を降りていく。
一段降りるごとに、空気が重くなっていくのがわかる。
「ここ、魔力が吸われてる・・・?」
シルフィンが驚いたように呟いた。
地下の空間には、まるで結界が溶けかけているような、不安定な魔力の渦が漂っていた。
そしてその奥──
石壁の裂け目。そこから、黒い瘴気のようなものが、わずかに滲み出ている。
「・・・ここだ。あの夢の気配と同じ」
私は手を伸ばそうとした。けれど──
「待って、アリア。・・・その中、“見てる”」
ノエルの低い声に、全員が動きを止める。
─影。
裂け目の奥に、たしかに“何か”がいる。
姿は見えない。けれど“意思”だけが、確かにこちらを凝視していた。
「戻ろう。今はまだ、深入りすべきじゃない」
私たちは静かにその場を離れた。
けれど、その“影”の視線は──最後まで、私たちの背に、付きまとっていた。
外に出た時、木々の間から差し込む陽の光が目に刺さった。
夕日でもないのに、やけに赤く見えたのは、気のせいだろうか。
「・・・あの闇、“ただの残滓”じゃない。呼ばれてる気がした」
私が言うと、ノエルも小さく頷いた。
「だからこそ、油断しないで。アリア、今のあなたにとって、“向こう”は近すぎる」
私はその言葉を胸に刻みながら、空を見上げた。
「マシュルは今日は休みだって。ちょっと熱が出てるらしいよ」
そう言ったのはライド。食堂から持ってきたらしいサンドイッチの袋をぶら下げたまま、肩をすくめていた。
「どうしたんだろう?昨日の訓練で、無理しすぎたのかな・・・」
シルフィンが心配そうに言いながら、私の顔をじっと見る。
「それで、アリア。朝からずっと落ち着かない顔してたけど、なにかあったの?」
私は、小さく息を吸い込んでから、言葉を選ぶように話し始めた。
「・・・夢を見たの。多分、ただの夢じゃない。あの“マティア”に似た存在が、私の中に“記憶の扉”を開いた」
ノエルの表情がわずかに強張る。
「“選ばれなかったもの”って、言ってた。闇の魔女として・・・忘れられた誰か」
「それ、本気で言ってるのか?」
ライドが目を丸くする。けれど私の目を見て、冗談じゃないとすぐに悟ったらしい。
彼は深く息を吐いた。
「じゃあ・・・その“気配”、追ってみよう。アリア、どこか心当たりは?」
私は一度だけ目を閉じ、胸の奥に残っている“あの感覚”を探る。
──冷たくて、深く沈んだ気配。
それは、森のほうではない。むしろ学院の中・・・もっと古い場所に、眠っている。
「・・・旧礼拝堂。もう使われていないけど、地下に魔力遮断結界が張られてるって、聞いたことがある」
「そこって・・・魔法考古学の先生が出入りしてる場所だよね?普通の生徒は立ち入り禁止なんじゃ──」
「今さらそれくらいで止まると思って?」
私の言葉に、ノエルがふっと笑った。
「じゃあ、決まりね。さっさと行きましょう。マシュルがいない分、私たちで何とかしなきゃ」
「よっしゃ・・・探検隊ってやつだな。出発だー!」
ライドがいつもの調子で言いながら、歩き出す。私たちもそれに続いた。
旧礼拝堂は、学院の一階南西にある。
普段から掃除もろくにされず、埃に覆われた、ほとんど忘れられた場所。けれど、近づくにつれて──空気が変わった。
冷たい。まるで“何か”が、呼吸をひそめているような気配。
「・・・感じる」
ノエルが、小さく呟く。
重い扉を開けると、中は埃にまみれたまま、時間が止まったように静まり返っていた。
古びた木の床、ひび割れた石の柱。そして、奥へと続く階段──
闇に沈んだ地下への入り口が、ぽっかりと口を開けていた。
「・・・行こう」
私たちは、足音をひそめて階段を降りていく。
一段降りるごとに、空気が重くなっていくのがわかる。
「ここ、魔力が吸われてる・・・?」
シルフィンが驚いたように呟いた。
地下の空間には、まるで結界が溶けかけているような、不安定な魔力の渦が漂っていた。
そしてその奥──
石壁の裂け目。そこから、黒い瘴気のようなものが、わずかに滲み出ている。
「・・・ここだ。あの夢の気配と同じ」
私は手を伸ばそうとした。けれど──
「待って、アリア。・・・その中、“見てる”」
ノエルの低い声に、全員が動きを止める。
─影。
裂け目の奥に、たしかに“何か”がいる。
姿は見えない。けれど“意思”だけが、確かにこちらを凝視していた。
「戻ろう。今はまだ、深入りすべきじゃない」
私たちは静かにその場を離れた。
けれど、その“影”の視線は──最後まで、私たちの背に、付きまとっていた。
外に出た時、木々の間から差し込む陽の光が目に刺さった。
夕日でもないのに、やけに赤く見えたのは、気のせいだろうか。
「・・・あの闇、“ただの残滓”じゃない。呼ばれてる気がした」
私が言うと、ノエルも小さく頷いた。
「だからこそ、油断しないで。アリア、今のあなたにとって、“向こう”は近すぎる」
私はその言葉を胸に刻みながら、空を見上げた。
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