灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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三章 学院生活・後半

137.手紙がつなぐもの

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 朝の陽光がカーテンの隙間から差し込み、枕元に金の線を描いていた。
私はゆっくりとまぶたを開け、目覚めの気だるさを振り払うように上体を起こす。

微かに鼻をくすぐるのは、母が淹れているハーブティーの香りだろう。

 ──静かな朝だった。何かが、始まるような予感のする。

 

「アリア、手紙が来てるわよ」

 母の声がした。手紙?誰からだろう。

私は簡単に髪を結わえ、キッチンに向かうと、食卓の上に白い封筒が一枚置かれていた。真っ白で少し厚みがあり、丁寧に閉じられている。差出人の名を見て、思わず息が止まった。

 
──ユエ・フェルシュタイン。

 指先が、自然と震えていた。


 私は椅子に腰掛け、そっと封を切る。
中から出てきた便箋は、やわらかな水色。筆跡は丁寧で、まるで雪のように静かに、けれど確かに存在する言葉が綴られていた。


「 アリアさん、お元気でしょうか。

アルフィーネでも季節が少しだけ先に進み、朝の冷たい空気に夏の気配が混じり始めました。
といっても、まだまだ寒いですけど。

久しぶりに、あなたのことを思い出しました。いえ、忘れた日はありません。

私もあなたと同じ、六年生になりました。
あなたがこの世界に来てから、どれほどの歩みを重ねてきたのか、少し怖くて、でも知りたくて、筆を取りました。

もしよろしければ、今度の日曜日、そちらに伺ってもいいでしょうか。
直接、お会いして話がしたいのです。

あなたが、私を覚えていてくれたら・・・それだけで、救われます。

ユエ・フェルシュタインより  」



 

 読み終わったとき、私はすぐに答えを出していた。

「・・・覚えてるに、決まってるじゃない」

小さく、笑っていた。

 忘れるわけがなかった。
前の世界で、ある意味最期に私のそばにいた人。
私がいなくなった後、きっと地獄のような時間を生き抜いたであろう彼女。

そして、もうひとつの名──芽依。


 私は手紙を抱きしめた。

過去が、痛みを持ってこちらを振り返ったわけじゃない。
これは、“いま”の彼女が、私の手を取ろうとしてくれている証だ。

 
 ハーブティーの香りが、また優しく鼻をくすぐった。

「母さん、日曜・・・少し出かけるかも」

「あら。来客?」

私が手紙を掲げると、母はちらりと目を通し、ふっと微笑んだ。

「・・・大切な子なのね」

「うん。とっても」

 あの日の階段の記憶。
私の死のあとに続いてしまった、もうひとつの痛み。

でも今、もう一度出会える。
“私たち”として──三春と芽依として。
 
そう思ったら、日曜が少しだけ楽しみになった。



 日曜日の朝は、少しだけ肌寒かった。
夏の匂いが混じりはじめた風は、まだ冬の名残を抱いていて、カーテンの向こうで柔らかに揺れている。

私は何度も時計を見た。落ち着かないのは、自分でも分かっていた。
それでも、うまく呼吸ができないくらい緊張していた。

カップに注がれたハーブティーは、もう三杯目だった。

「アリア、そんなに緊張しなくてもいいのに」

 母がくすりと笑う。

「・・・してないよ」

「顔に全部出てるわよ。まるで初恋の子を待ってるみたい」

「ち、違うし・・・!」

 私は真っ赤になって声を荒げたけれど、どこかそれすら懐かしい感情だった。
“あの頃”とは違うけれど、それでも私はまた、誰かに会いたくてそわそわしている自分を、少しだけ可笑しく思った。

 


 やがて、母は出かけていった。
予定があると言っていたが、私のことを思って席を外してくれたのかもしれない。


 ──そして、玄関からドアを叩く音が響いた。

鼓動が一瞬止まり、私は反射的に立ち上がる。
靴音を気にしながら廊下を抜け、玄関の扉の前で深く息を吸った。

 そして、そっと扉を開ける。

 

「・・・アリア」

 そこに立っていたのは、記憶の中の姿と、ほんの少し違っていた。
水色の髪が風にそよぎ、同じく淡い水色の瞳が、まっすぐに私を見つめていた。

制服ではなく、柔らかなニットとロングスカートという私服姿。凍るような静けさをまといながらも、その中に確かな“今”があった。

「・・・久しぶり」

「・・・うん。久しぶり、芽依」

 私がそう呼ぶと、彼女の目がわずかに揺れた。

そして、ふっと微笑む。

「・・・ありがとう、三春」

ほんの一瞬、時が止まった気がした。


 懐かしい名前。
ずっと、忘れたくなかった名前。
けれど、口にするにはあまりに重たくて、苦しくて──でも今は。

「上がって。母さん、今日は出かけてる」

「うん。お邪魔します」

 彼女はゆっくりと靴を脱ぎ、まるで記憶をなぞるように、玄関を一歩ずつ上がってくる。

リビングに入り、私は彼女をソファに案内する。
さっきまで私が緊張で座っていた場所。
そして、今は──目の前に、本当に彼女がいる。

 
「・・・ねえ」

 私は言葉を探しながら、彼女の隣に腰を下ろす。

「本当に、来てくれたんだね」

「うん。・・・迷ったけど、来てよかった。三春が、ちゃんと覚えていてくれたから」

「忘れるわけないよ。・・・あのとき、私とあなたは同じ苦しみを分かち合ったんだから」

「・・・そうだったね。あなたが死んだあとのこと・・・私、ずっと後悔してたの。助けられなかったことも、その後も、何もかも」

 言葉が、途中で震えていた。
私の手が、そっと彼女の手に重なる。

「・・・もういいよ。私たち、生きてる。こうして、会えた」

「・・・うん」

言葉の代わりに、ただそっと手を握りあう。
時間が、静かに流れていく。

 私は、この再会を一生忘れないだろう。
前世で守れなかったもの。手放したもの。
でも今は、手を取ることができる。

私が生きると決めたから。
彼女も、生き抜いたから。

 

「──お茶、淹れてくるね。芽依、ミントティー好きだったよね?」

「うん。・・・覚えててくれて、嬉しい」

その笑顔が、凍りついていたあの瞳が、ほんの少しだけ溶けた気がした。

 
 日差しが、差し込んでいた。
私たちの間に、やわらかな春の終わりの光が──何年越しかの“はじまり”を祝福するように。


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