灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

文字の大きさ
254 / 891
四章 ミフィアの青と水音

259.静かなる出陣

しおりを挟む
 夜も更けてきた。
宿屋はいよいよ賑わい始め、エントランスはさながら酒場のような雰囲気になってきた。

私は部屋を出てすぐの廊下に立っていたが、ふと隣の部屋に目を向けた。
そこは、母とシェルとミラ女王が使っている部屋だ。

 扉は半ば開いていて、そこから微かに魔力の気配が漏れてくる。
気になって、そっと覗いてみると──部屋の中央に、母がいた。

シェルと女王は、席を外していた。
どこにいったのかわからないが、おそらく見回りか、二人での打ち合わせか──どちらにせよ、今は問いただす気にはなれなかった。

 母はというと、古びた木の椅子に腰かけ、一本の杖を手にしている。
私のリーヴァより少し長めの、見慣れた黒銀の杖。神魔戦役の時から使っているという、母愛用の一本だ。

だが、今その表面には赤い魔紋が淡く浮かび上がり、まるで心臓の鼓動のように脈打っている。
それが他の似た杖との違いであり、母が「炎の大魔女」であることを示す証でもある。

 母は静かに、布で杖を磨いていた。
その手つきは、私より遥かに落ち着いていて──それでいて、普段とは違うほど慎重で、どこか、決意のようなものを帯びていた。

そして、その傍らの机には一冊の本が置かれていた。
おそらく魔導書・・・なのだろうが、その古びた青色の皮表紙には、今まで一度も見たことのない、奇妙な紋章が刻まれていた。

(もしかしてあれ・・・母さんの専属魔導書?)

 私は思わず、息を呑んだ。
母は、一度も私に自分の専属魔導書を見せてくれたことがない。
その名前すら、私は知らない。

炎の大魔女としての母は、正直私からすると遠い存在だったはずなのに──今、その背中はとても近く、けれどどこか、決して越えられない壁のように感じた。

 母は私の視線に気づいたのか、ふっと目を上げた。

「あら、アリア。・・・どうかした?」

声は、いつもと変わらぬ柔らかさだった。
私は、慌てて首を振る。

「ううん。・・・ちょっと」

 母は微笑んで、そっと魔導書の表紙に手を置いた。

「昔からね──本当に危険な時だけ、これを開くって決めてるの」

それ以上、母は何も言わなかった。


 私は頷き、そっと扉を閉めた。

母は、母なりの覚悟を決めている。
私も、私のすべきことをせねばならない。
そう思い直し、自室へと戻った。



 夜が深まり、宿の中も次第に静けさを取り戻し始めた頃──
私たちは、一階の裏口に集まっていた。

「皆さん、準備はよろしいですね?」

女王が、低く声をかける。
その声は、威厳ある女王のものではなく、まるで戦場に向かう仲間へ向けた呼びかけのようだった。

「問題ないわ」

 シェルが短く答える。
腰には剣を、背には細身の杖を背負っている。

「私も、大丈夫です」

ノエルが頷く。
彼女もまた、杖と短剣を装備していた。

「・・・はい」

 サラも、小さな声で返事をする。
その手には、彼女にしては珍しく魔導具が握られていた。
おそらくは、防御用の結界符だろう。

母は何も言わず、私たちの後ろに立ち、静かに杖を握っている。
その表情には、どこか淡々とした冷静さと、芯に燃えるような気迫が宿っていた。

 そして──私も、リーヴァをしっかりと手にし、剣を腰に下げる。

「・・・では、行きましょう」

 女王が静かに告げた。

私たちは、一言も発さず、裏口を開けて夜の町へと足を踏み出した。

月は雲に隠れ、通りは深い闇に沈んでいる。
けれど、私たちの足取りは迷いがなかった。

 これが、この町を守るための戦いの始まり──
私は、そう強く心に刻みながら、歩みを進めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界での異生活 ~騎士団長の憂鬱~

なにがし
ファンタジー
成人年齢15歳、結婚適齢期40~60歳、平均寿命200歳の異世界。その世界での小さな国の小さな街の話。 40歳で父の跡を継いで騎士団長に就任した女性、マチルダ・ダ・クロムウェル。若くして団長になった彼女に、部下達はその実力を疑っていた。彼女は団長としての任務をこなそうと、頑張るがなかなか思うようにいかず、憂鬱な日々を送る羽目に。 そんな彼女の憂鬱な日々のお話です。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

処理中です...