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第二部 砂の異種族
第36章 その瞳が揺れる時 ☆
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ナジャのぬくもりがまだ肌に残っている気がした。彼女が静かに立ち去ったあと、寝台に仰向けになったまま、僕はしばし天井を見上げていた。
香の匂いはまだ漂っている。けれどそれは、さっきまでとは微妙に違う香りだった。甘さが少し和らぎ、どこか凛とした気配が混じっている。
やがて、また扉がゆっくりと開いた。
現れたのは、すらりと背の高い女性だった。冷たい空気を纏ったかのようなその存在感に、思わず僕は体を起こす。
彼女は無言で歩みを進め、僕の前に立つ。
ゆらりと揺れる、肩まで届く髪は、綺麗な青色をしていた。
正直、他のサーラと比べると異質だ…肌も、ちょっと色が淡いし。
でも、こちらを真っ直ぐに射抜く琥珀色の瞳と、セクシーな服装は、確かにサーラだ。
「海斗さんですね。私は、シェリアと申します」
その声は澄んでいて、けれど温度を感じさせなかった。
「この身体には、まだ誰の命も宿ったことがありません。しかし、これより…あなたの命が宿ります」
彼女…シェリアはそう告げると、部屋の中央に静かに立ち、まるで空気が変わるのを待つように目を閉じた。
シェリアが目を閉じた瞬間、部屋の空気が少しだけ重くなった気がした。香の匂いに紛れて、どこか乾いた空気――砂の気配のようなものが混じり始める。
彼女の気配は冷たい。けれど、不快じゃない。ただ、どこか寂しげで、ひどく遠い。
僕は立ち上がると、ゆっくりと彼女に近づいた。
「……緊張してる?」
その問いかけに、シェリアは目を開いた。琥珀の瞳が静かに揺れる。だが、彼女は首を横に振った。
「いいえ。ただ……自分が、どう“在るべきか”を、考えていただけです」
その言葉には、どこか自嘲めいた響きがあった。
しばしの沈黙ののち、彼女は小さな声で言った。
「…私は、特別な”変化視”を持っています。ですが、それをあなたに伝えることは、私の役割ではありません」
「役割、か」
その言葉の冷たさに、僕は少しだけ苦笑する。だけど――
「だったら、シェリア自身はどう思ってるんだ?」
僕の言葉に、彼女はわずかに目を見開いた。
心の奥が揺らいだような気がした…たぶん、それは僕じゃなくても“見える”くらいの変化だった。
「……わかりません」
ぽつりと、彼女が答える。
「私はこれまで、誰かに“選ばれる”ことも、“触れられる”こともありませんでした。だから……自分の“気持ち”というものが、どういうものか……まだ、わからないのです」
その言葉は、あまりにまっすぐで、あまりに悲しかった。
だから僕は、そっと手を伸ばして、彼女の肩に触れた。
その瞬間――
彼女の瞳が、わずかに震えた。
肌はほんのりと温かく、でもどこか張りつめていた。緊張ではない。もっと根の深い、心の壁のようなもの。
「だったら、これから一緒に、知っていこう。君が、何を望んでるのか。僕が、君に何を感じてるのか――」
僕がそう言い終える前に、彼女の身体が、わずかに寄り添ってきた。
「……海斗さん。お願いがあります」
耳元で、静かな声がささやいた。
「今日は、“儀式”ではなく……“あなたとわたし”として、ひとつになってください」
その言葉には、彼女自身の感情が滲んでいた。
心の底から震えるような、彼女自身の、願いが。
僕の胸は少しだけ熱を帯びた。
儀式でも義務でもない。彼女自身の意志で、僕を受け入れようとしてくれている――そのことが、何よりも嬉しかった。
「……ありがとう、シェリア」
囁くように言うと、彼女は小さくうなずいた。
そしてゆっくりと距離を詰めてきて、僕の胸元に額を預ける。彼女の髪がふわりと揺れ、香がかすかに鼻をかすめた。
「海斗さんの“変化”…少しずつ、見え始めています。それが、私の内側にも、響いているのがわかります」
そう言いながら、彼女は僕の胸にそっと手を添えた。
その指先から伝わる温もりが、どこかおそるおそるで――でも、たしかに求めているようだった。
僕はゆっくりと彼女の顎に手を添え、顔を上げさせる。
琥珀の瞳が、真っすぐに僕を見つめ返してきた。
「……キスしてもいい?」
「はい。私の“最初”を……あなたに」
その瞬間、僕らの唇は触れ合った。
ふれるだけの、静かなキス。それだけで、シェリアの身体がほんの少し震えた。
やがて彼女は、自分から唇を重ね返してきた。
ぎこちなくも真剣で――どこか、純粋すぎるほどに。
唇が離れたあとも、彼女は僕から目を逸らさずに言った。
「……もっと、知りたいです。あなたの温もりを。そして、私の内側に生まれる、この“揺れ”を」
彼女の手が、そっと自らの服にかかる。
一枚、また一枚と、静かに脱がれていく布――
そのたびに、夜の空気が肌を撫で、淡い褐色の肌があらわになっていった。
腰まで届く青い髪が、背中を流れるように落ちていく。
胸元を覆っていた布が外れると、柔らかくも張りつめた曲線が、静かに輝いた。
シェリアの視線は、一度だけ僕の身体を見て、またそっと目を伏せた。
「…あたたかいんですね、こういうのって」
彼女の言葉に、僕は静かに頷く。
「うん。あたたかくて、優しくて――だから、怖くなくていいよ」
シェリアの細い指が、僕の胸元を撫でたかと思えば、次の瞬間、そっと僕に身体を預けてくる。
そのぬくもりを抱きしめながら、僕らは、互いの体温を確かめ合うように、静かに肌を重ねていった。
シェリアの体温が、ゆっくりと僕の胸へと溶けていく。
その肌は、触れた瞬間はひんやりとしていたのに、今では僕の熱に応えるように、じわりと温かさを帯び始めていた。
彼女の細い腕が、ぎこちなく僕の背にまわる。
そして、自分の全てを預けるように――そっと、脚を絡めてきた。
「……怖くは、ありません。だけど……すこし、震えてしまいます」
その小さな声に、僕は軽く頷きながら、彼女の背中をなぞる。
肩甲骨のラインから腰のくびれへ。柔らかさの奥に、しなやかな緊張があって――
どこまでも繊細な、処女の体だった。
「大丈夫。ゆっくりいこう、シェリア」
そう言って、僕は彼女の鎖骨へ唇を落とした。
吐息を落とすたび、彼女の身体が小さく跳ねる。
耳朶をそっと甘噛みすれば、ひくりと震え、爪が僕の背にかすかに食い込む。
「……んっ、ぁ……っ」
声を漏らすことに慣れていないのか、シェリアはそのたびに唇をかみ、僕の肩に額を押しつけた。
でも、身体の奥は嘘をつかない。
僕の指先が、彼女の太腿の内側をなぞると、敏感に反応するように身を揺らした。
「……感じてる?」
「はい……っ。でも、こんな風になるなんて……思ってもいませんでした……」
恥ずかしそうに告げるその声が、かえって僕を深く揺さぶる。
そして、そっと彼女の中心に触れた瞬間――
指先が、すでに湿っていたことを教えてくれる。
「シェリア……もう、充分……」
「……来てください。私の、はじめてを……海斗さんに」
目を閉じ、少しだけ首を傾げて差し出された唇。
その奥に、震えと共に眠る熱――
僕は彼女の腰を抱き、ゆっくりと自身を重ねていった。
はじめは、ごく浅く。
入り口に触れるだけで、シェリアは大きく息を飲んだ。
「……あっ……っ……く、ぅ……っ」
眉を寄せ、爪先がピンと伸びる。
それでも、彼女は逃げずに受け止めてくれた。
「……もう少しだけ、頑張れる?」
「……はい。大丈夫、です。海斗さんが、優しいから……」
その言葉に背中を押され、僕はさらに深く、ゆっくりと彼女の奥へと沈んでいった。
熱い壁が僕を受け入れ、ぴたりと吸いつくように締めつけてくる。
シェリアの息が乱れ、腕が僕の背をしっかりと抱きしめた。
「……苦しい?」
「……いいえ。苦しいのに、嬉しいです……どうしてでしょう……?」
涙のような声で、彼女はそう呟いた。
それは痛みではなく――ようやく触れられた、誰かの心の温度に震える声だった。
僕はそっと唇を重ねながら、ゆるやかに腰を動かし始める。
繰り返すごとに、彼女の身体は少しずつ馴染み、熱を帯び、喘ぎ声に似た吐息を漏らすようになっていった。
「……海斗さん……私、今……生きてる、って感じがします……」
その声に、僕の胸も熱くなる。
肌が重なり、呼吸が重なり、魂ごと溶け合うような――
そんなひとときが、ゆっくりと深まっていく。
そして、彼女の奥へと、僕はゆっくりと触れていった。
最初は、まるで凍った湖面に指を差し入れるような感触だった。けれど、触れているうちに、それは少しずつ溶けていく。
閉ざされていた扉が、僕の存在に応えて、静かに開かれていくのがわかった。
「……あっ、ん……う、く……っ」
か細い声が、彼女の喉から漏れる。唇を噛んで我慢していても、その瞳の奥には明らかな「感覚」が滲んでいた。
僕は焦らず、彼女の反応を確かめながら、少しずつ動きを深めていく。まるで楽器の調律のように、丁寧に、慎重に。
やがて――
「…あっ……だめ……です……これ、もう……っ」
シェリアの指が、僕の腕をぎゅっと掴む。身体を寄せ合うたびに、彼女の鼓動が、熱が、息遣いが、全部こちらに伝わってくる。
目を逸らしがちだった琥珀の瞳が、ふいに僕をしっかりと見つめた。
「わたし……あなたに、“変えられて”ます……」
その言葉は、告白のようでもあり、呪文のようでもあった。
そして次の瞬間、彼女の全身が僕に預けられ、僕らは、確かに――一つになった。
最初はぎこちなく、彼女の身体は何度も震えた。 でも、僕が何度も「大丈夫だよ」と囁くたびに、少しずつその震えは柔らかいものへと変わっていった。
まるで、長く凍てついていた泉が、陽だまりの下で溶けていくみたいに。
互いの肌が熱を分け合い、声が、吐息が、想いが交わる。
やがて、すべてが静かになったあと。
彼女はそっと僕に抱かれながら、目を閉じたまま、呟いた。
「……これが、女として、“生きる”ということなんですね……」
僕は彼女の髪を撫でながら、優しく答えた。
「ああ。――君は、ちゃんと“生きてる”よ」
シェリアの頬を、一筋の涙が伝った。
香の匂いはまだ漂っている。けれどそれは、さっきまでとは微妙に違う香りだった。甘さが少し和らぎ、どこか凛とした気配が混じっている。
やがて、また扉がゆっくりと開いた。
現れたのは、すらりと背の高い女性だった。冷たい空気を纏ったかのようなその存在感に、思わず僕は体を起こす。
彼女は無言で歩みを進め、僕の前に立つ。
ゆらりと揺れる、肩まで届く髪は、綺麗な青色をしていた。
正直、他のサーラと比べると異質だ…肌も、ちょっと色が淡いし。
でも、こちらを真っ直ぐに射抜く琥珀色の瞳と、セクシーな服装は、確かにサーラだ。
「海斗さんですね。私は、シェリアと申します」
その声は澄んでいて、けれど温度を感じさせなかった。
「この身体には、まだ誰の命も宿ったことがありません。しかし、これより…あなたの命が宿ります」
彼女…シェリアはそう告げると、部屋の中央に静かに立ち、まるで空気が変わるのを待つように目を閉じた。
シェリアが目を閉じた瞬間、部屋の空気が少しだけ重くなった気がした。香の匂いに紛れて、どこか乾いた空気――砂の気配のようなものが混じり始める。
彼女の気配は冷たい。けれど、不快じゃない。ただ、どこか寂しげで、ひどく遠い。
僕は立ち上がると、ゆっくりと彼女に近づいた。
「……緊張してる?」
その問いかけに、シェリアは目を開いた。琥珀の瞳が静かに揺れる。だが、彼女は首を横に振った。
「いいえ。ただ……自分が、どう“在るべきか”を、考えていただけです」
その言葉には、どこか自嘲めいた響きがあった。
しばしの沈黙ののち、彼女は小さな声で言った。
「…私は、特別な”変化視”を持っています。ですが、それをあなたに伝えることは、私の役割ではありません」
「役割、か」
その言葉の冷たさに、僕は少しだけ苦笑する。だけど――
「だったら、シェリア自身はどう思ってるんだ?」
僕の言葉に、彼女はわずかに目を見開いた。
心の奥が揺らいだような気がした…たぶん、それは僕じゃなくても“見える”くらいの変化だった。
「……わかりません」
ぽつりと、彼女が答える。
「私はこれまで、誰かに“選ばれる”ことも、“触れられる”こともありませんでした。だから……自分の“気持ち”というものが、どういうものか……まだ、わからないのです」
その言葉は、あまりにまっすぐで、あまりに悲しかった。
だから僕は、そっと手を伸ばして、彼女の肩に触れた。
その瞬間――
彼女の瞳が、わずかに震えた。
肌はほんのりと温かく、でもどこか張りつめていた。緊張ではない。もっと根の深い、心の壁のようなもの。
「だったら、これから一緒に、知っていこう。君が、何を望んでるのか。僕が、君に何を感じてるのか――」
僕がそう言い終える前に、彼女の身体が、わずかに寄り添ってきた。
「……海斗さん。お願いがあります」
耳元で、静かな声がささやいた。
「今日は、“儀式”ではなく……“あなたとわたし”として、ひとつになってください」
その言葉には、彼女自身の感情が滲んでいた。
心の底から震えるような、彼女自身の、願いが。
僕の胸は少しだけ熱を帯びた。
儀式でも義務でもない。彼女自身の意志で、僕を受け入れようとしてくれている――そのことが、何よりも嬉しかった。
「……ありがとう、シェリア」
囁くように言うと、彼女は小さくうなずいた。
そしてゆっくりと距離を詰めてきて、僕の胸元に額を預ける。彼女の髪がふわりと揺れ、香がかすかに鼻をかすめた。
「海斗さんの“変化”…少しずつ、見え始めています。それが、私の内側にも、響いているのがわかります」
そう言いながら、彼女は僕の胸にそっと手を添えた。
その指先から伝わる温もりが、どこかおそるおそるで――でも、たしかに求めているようだった。
僕はゆっくりと彼女の顎に手を添え、顔を上げさせる。
琥珀の瞳が、真っすぐに僕を見つめ返してきた。
「……キスしてもいい?」
「はい。私の“最初”を……あなたに」
その瞬間、僕らの唇は触れ合った。
ふれるだけの、静かなキス。それだけで、シェリアの身体がほんの少し震えた。
やがて彼女は、自分から唇を重ね返してきた。
ぎこちなくも真剣で――どこか、純粋すぎるほどに。
唇が離れたあとも、彼女は僕から目を逸らさずに言った。
「……もっと、知りたいです。あなたの温もりを。そして、私の内側に生まれる、この“揺れ”を」
彼女の手が、そっと自らの服にかかる。
一枚、また一枚と、静かに脱がれていく布――
そのたびに、夜の空気が肌を撫で、淡い褐色の肌があらわになっていった。
腰まで届く青い髪が、背中を流れるように落ちていく。
胸元を覆っていた布が外れると、柔らかくも張りつめた曲線が、静かに輝いた。
シェリアの視線は、一度だけ僕の身体を見て、またそっと目を伏せた。
「…あたたかいんですね、こういうのって」
彼女の言葉に、僕は静かに頷く。
「うん。あたたかくて、優しくて――だから、怖くなくていいよ」
シェリアの細い指が、僕の胸元を撫でたかと思えば、次の瞬間、そっと僕に身体を預けてくる。
そのぬくもりを抱きしめながら、僕らは、互いの体温を確かめ合うように、静かに肌を重ねていった。
シェリアの体温が、ゆっくりと僕の胸へと溶けていく。
その肌は、触れた瞬間はひんやりとしていたのに、今では僕の熱に応えるように、じわりと温かさを帯び始めていた。
彼女の細い腕が、ぎこちなく僕の背にまわる。
そして、自分の全てを預けるように――そっと、脚を絡めてきた。
「……怖くは、ありません。だけど……すこし、震えてしまいます」
その小さな声に、僕は軽く頷きながら、彼女の背中をなぞる。
肩甲骨のラインから腰のくびれへ。柔らかさの奥に、しなやかな緊張があって――
どこまでも繊細な、処女の体だった。
「大丈夫。ゆっくりいこう、シェリア」
そう言って、僕は彼女の鎖骨へ唇を落とした。
吐息を落とすたび、彼女の身体が小さく跳ねる。
耳朶をそっと甘噛みすれば、ひくりと震え、爪が僕の背にかすかに食い込む。
「……んっ、ぁ……っ」
声を漏らすことに慣れていないのか、シェリアはそのたびに唇をかみ、僕の肩に額を押しつけた。
でも、身体の奥は嘘をつかない。
僕の指先が、彼女の太腿の内側をなぞると、敏感に反応するように身を揺らした。
「……感じてる?」
「はい……っ。でも、こんな風になるなんて……思ってもいませんでした……」
恥ずかしそうに告げるその声が、かえって僕を深く揺さぶる。
そして、そっと彼女の中心に触れた瞬間――
指先が、すでに湿っていたことを教えてくれる。
「シェリア……もう、充分……」
「……来てください。私の、はじめてを……海斗さんに」
目を閉じ、少しだけ首を傾げて差し出された唇。
その奥に、震えと共に眠る熱――
僕は彼女の腰を抱き、ゆっくりと自身を重ねていった。
はじめは、ごく浅く。
入り口に触れるだけで、シェリアは大きく息を飲んだ。
「……あっ……っ……く、ぅ……っ」
眉を寄せ、爪先がピンと伸びる。
それでも、彼女は逃げずに受け止めてくれた。
「……もう少しだけ、頑張れる?」
「……はい。大丈夫、です。海斗さんが、優しいから……」
その言葉に背中を押され、僕はさらに深く、ゆっくりと彼女の奥へと沈んでいった。
熱い壁が僕を受け入れ、ぴたりと吸いつくように締めつけてくる。
シェリアの息が乱れ、腕が僕の背をしっかりと抱きしめた。
「……苦しい?」
「……いいえ。苦しいのに、嬉しいです……どうしてでしょう……?」
涙のような声で、彼女はそう呟いた。
それは痛みではなく――ようやく触れられた、誰かの心の温度に震える声だった。
僕はそっと唇を重ねながら、ゆるやかに腰を動かし始める。
繰り返すごとに、彼女の身体は少しずつ馴染み、熱を帯び、喘ぎ声に似た吐息を漏らすようになっていった。
「……海斗さん……私、今……生きてる、って感じがします……」
その声に、僕の胸も熱くなる。
肌が重なり、呼吸が重なり、魂ごと溶け合うような――
そんなひとときが、ゆっくりと深まっていく。
そして、彼女の奥へと、僕はゆっくりと触れていった。
最初は、まるで凍った湖面に指を差し入れるような感触だった。けれど、触れているうちに、それは少しずつ溶けていく。
閉ざされていた扉が、僕の存在に応えて、静かに開かれていくのがわかった。
「……あっ、ん……う、く……っ」
か細い声が、彼女の喉から漏れる。唇を噛んで我慢していても、その瞳の奥には明らかな「感覚」が滲んでいた。
僕は焦らず、彼女の反応を確かめながら、少しずつ動きを深めていく。まるで楽器の調律のように、丁寧に、慎重に。
やがて――
「…あっ……だめ……です……これ、もう……っ」
シェリアの指が、僕の腕をぎゅっと掴む。身体を寄せ合うたびに、彼女の鼓動が、熱が、息遣いが、全部こちらに伝わってくる。
目を逸らしがちだった琥珀の瞳が、ふいに僕をしっかりと見つめた。
「わたし……あなたに、“変えられて”ます……」
その言葉は、告白のようでもあり、呪文のようでもあった。
そして次の瞬間、彼女の全身が僕に預けられ、僕らは、確かに――一つになった。
最初はぎこちなく、彼女の身体は何度も震えた。 でも、僕が何度も「大丈夫だよ」と囁くたびに、少しずつその震えは柔らかいものへと変わっていった。
まるで、長く凍てついていた泉が、陽だまりの下で溶けていくみたいに。
互いの肌が熱を分け合い、声が、吐息が、想いが交わる。
やがて、すべてが静かになったあと。
彼女はそっと僕に抱かれながら、目を閉じたまま、呟いた。
「……これが、女として、“生きる”ということなんですね……」
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「ああ。――君は、ちゃんと“生きてる”よ」
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