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人生死亡遊戯
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五人の男女が、真剣な顔でテーブルを囲んでいる。
上座におわすのはまのか部長。その両脇を沙妃先輩と匡先輩が固め、それぞれの隣に瀬奈と啓示が座るという構図だ。
行われているのは、(株)外崎トイズが絶賛開発中の双六〈さよなら人生〉。
今後のために感想を聞かせてほしいということで、本日はモニター部として活動している。
「新入部員の歓迎会も兼ねているのよお」
まのか部長は微笑みながらそう言ってくれた。中学では帰宅部でこういうことに縁がなかったのでちょっと嬉しい。
「では」
短く言うと、啓示はサイコロを振った。
小さな六面体がちんちろりんとテーブルを転がり、はす向かいにいる沙妃先輩の元にたどり着く。
「五だな」
「はい」
手を伸ばし、自らの駒を五マス進めた。
「えーと」
書かれた内容を読み上げる。
「就職活動。面接に挑むも失敗ばかり。多忙で恋人ともすれ違いがちに。そんな中田舎の母から欠かさず送られていた仕送りが突然止まって――」
「はーい。じゃあここで人生の選択う」
進行役も兼ねるまのか部長が、別紙を取り出して広げた。
一・二・三・四・五→特に気にせず放置していたら母が急死。五回休み。
六→母が過労で体調を崩していたことを知る。急遽田舎に帰って地元で就職。
「ぐぇ……」
啓示はうめいた。何この超絶ハードモード展開。
「あ、あの、まのか部長?」
「なあにい?」
「も、もうちょっとましな選択肢はないもんでしょうか」
「なんでえ? 現実には六の選択肢なんてなかったのよお?」
「うっ……」
背筋がぞくっと震えた。おっとりと優しい口調なのが逆に怖い。
「それにい、こんなのはまだまだ序の口い。何せこの〈さよなら人生〉はわが外崎グループが総力を挙げて愚庶民の悲哀イベントを厳選したものなんだからあ」
「そ、そんな……」
戦慄が走った。正直、全く聞きたくない情報だ。何というか、精神衛生上とてもよろしくない。ていうか愚庶民の悲哀って。酷い。
「悲哀イベント……勇気を出して露出したのに相手が無反応だったとか?」
「いやいや、そのすね毛剃れよとネットで誹謗中傷されたとかだろう」
沙妃先輩と匡先輩が意見を出し合っている。こっちはこっちで色々と酷い。
「ほらけーじ、サイコロ振って」
瀬奈が促してきた。大きな目がキラキラ輝いて、妙に楽しそうだ。
「いや、だから俺、けいし……」
「さあ、早く早く」
「……」
そして、今日も人の話に耳を貸す気配はまるっきりない。
「いけいけゴーゴー、人生の選択う」
「む、むむむ……」
そう言われるとちょっと自分の人生みたいである。あと、小ネタにしてもそれは苦しいだろう。主に語呂的な意味で。
「い、いきます」
とにかく、サイコロをつかむ。目指すは六。六あるのみ。
「はっ!」
ちんちろりーん。
『……』
全員が固唾を呑んだ。
ころころ、ぴた。
十本の視線が、小さな立方体に刺さる。
『……!』
総員一斉に、瞠目。
「よっしゃあああ! 六出たあああああ! 母ちゃん無事いいいいい!」
啓示は拳を突き上げた。よくやった俺。われ人生の選択に勝利せり。
「うふふう、やるわねえ。参ったわあ」
全然そうは見えない様子で言うと、まのか部長は手元の別紙を裏返した。
「六の場合い、田舎での仕事を決める選択う。はい、もう一度お」
「はいはい、もう一度」
啓示はろくに選択肢も見ず、ひょいとサイコロを振った。母の無事に、すっかり気が大きくなっていた。
「……あらあ?」
まのか部長の笑みに、ほの暗い期待感がにじむ。
「IT関係に就職するもブラック企業。入社三か月でワープア状態に陥るう」
細い糸目を妖しく光らせながら、高らかにそう読み上げた。
「ワー、プア?」
「正式にはワーキングプア。直訳すれば働く貧乏人だな」
「う……」
匡先輩の一言で、啓示のテンションは一気にガタ落ちになる。
「プレイヤーはあ、ベートーベンの第九を歌いながら部屋中を行進することお」
「ぶっ!」
続くまのか部長のお言葉には、思わずむせてしまった。
「い、いや、何でですか! 何で俺がそんなことしなきゃならないんですか!」
「お金を稼ぐって大変よねえ。うふふう」
「え、えぇえ……」
何だろう、この行き場のない感じ。
「いーなー。見られまくりの大チャンスじゃねーか。うーらやーましぃー」
「ふむ、これはあくまで合意に基づいて行われる遊戯の進行上必要不可欠な事柄であるわけだし、やらないと言い張る方がかえって不自然であろうな」
二年生コンビも好き勝手なことを言っている。当然、止める気はゼロだ。
「はい、けーじ。手ぶらも何だからこれ持って」
そう言って瀬奈が渡してきたのは、短めの竹槍。
「余計な心遣い、どうもありがとう……」
「いえいえ、どういたしまして。はい、つったかたーつったかたー」
じと目で睨みつける啓示を、愉快なメロディーでせかした。
『つったかたーつったかたー、つったかたったった、はい!』
啓示を除く全員から、手拍子が起こる。
「う、うう……」
もう、やるしかない。
「はーれーたーるーあーおーぞーらー」
重たい足を引きずりながら、啓示はマーチングバンドよろしく行進を始めた。
「声が小さぁい!」
いきなり沙妃先輩に一喝される。やですねー、こういう体育会系のノリって。
「たっ……たーだーよーうーくーーもよー!」
それでも足を直角に曲げ、竹槍を上下させながら部室を歩いた。負けない、投げ出さない、逃げ出さない、信じ抜く。やれ、やるんだ、啓示。
――それから、数分。
「ひーびーくーはーわーれーらーのーよーろーこーびーのーうたー! へい!」
鳴りやまぬ手拍子の中、啓示は死の行進を見事にやり遂げてみせた。
「あっ……ふぅんっ……」
歌い終えたその瞬間、身体がとろけるような気分になった。
上座におわすのはまのか部長。その両脇を沙妃先輩と匡先輩が固め、それぞれの隣に瀬奈と啓示が座るという構図だ。
行われているのは、(株)外崎トイズが絶賛開発中の双六〈さよなら人生〉。
今後のために感想を聞かせてほしいということで、本日はモニター部として活動している。
「新入部員の歓迎会も兼ねているのよお」
まのか部長は微笑みながらそう言ってくれた。中学では帰宅部でこういうことに縁がなかったのでちょっと嬉しい。
「では」
短く言うと、啓示はサイコロを振った。
小さな六面体がちんちろりんとテーブルを転がり、はす向かいにいる沙妃先輩の元にたどり着く。
「五だな」
「はい」
手を伸ばし、自らの駒を五マス進めた。
「えーと」
書かれた内容を読み上げる。
「就職活動。面接に挑むも失敗ばかり。多忙で恋人ともすれ違いがちに。そんな中田舎の母から欠かさず送られていた仕送りが突然止まって――」
「はーい。じゃあここで人生の選択う」
進行役も兼ねるまのか部長が、別紙を取り出して広げた。
一・二・三・四・五→特に気にせず放置していたら母が急死。五回休み。
六→母が過労で体調を崩していたことを知る。急遽田舎に帰って地元で就職。
「ぐぇ……」
啓示はうめいた。何この超絶ハードモード展開。
「あ、あの、まのか部長?」
「なあにい?」
「も、もうちょっとましな選択肢はないもんでしょうか」
「なんでえ? 現実には六の選択肢なんてなかったのよお?」
「うっ……」
背筋がぞくっと震えた。おっとりと優しい口調なのが逆に怖い。
「それにい、こんなのはまだまだ序の口い。何せこの〈さよなら人生〉はわが外崎グループが総力を挙げて愚庶民の悲哀イベントを厳選したものなんだからあ」
「そ、そんな……」
戦慄が走った。正直、全く聞きたくない情報だ。何というか、精神衛生上とてもよろしくない。ていうか愚庶民の悲哀って。酷い。
「悲哀イベント……勇気を出して露出したのに相手が無反応だったとか?」
「いやいや、そのすね毛剃れよとネットで誹謗中傷されたとかだろう」
沙妃先輩と匡先輩が意見を出し合っている。こっちはこっちで色々と酷い。
「ほらけーじ、サイコロ振って」
瀬奈が促してきた。大きな目がキラキラ輝いて、妙に楽しそうだ。
「いや、だから俺、けいし……」
「さあ、早く早く」
「……」
そして、今日も人の話に耳を貸す気配はまるっきりない。
「いけいけゴーゴー、人生の選択う」
「む、むむむ……」
そう言われるとちょっと自分の人生みたいである。あと、小ネタにしてもそれは苦しいだろう。主に語呂的な意味で。
「い、いきます」
とにかく、サイコロをつかむ。目指すは六。六あるのみ。
「はっ!」
ちんちろりーん。
『……』
全員が固唾を呑んだ。
ころころ、ぴた。
十本の視線が、小さな立方体に刺さる。
『……!』
総員一斉に、瞠目。
「よっしゃあああ! 六出たあああああ! 母ちゃん無事いいいいい!」
啓示は拳を突き上げた。よくやった俺。われ人生の選択に勝利せり。
「うふふう、やるわねえ。参ったわあ」
全然そうは見えない様子で言うと、まのか部長は手元の別紙を裏返した。
「六の場合い、田舎での仕事を決める選択う。はい、もう一度お」
「はいはい、もう一度」
啓示はろくに選択肢も見ず、ひょいとサイコロを振った。母の無事に、すっかり気が大きくなっていた。
「……あらあ?」
まのか部長の笑みに、ほの暗い期待感がにじむ。
「IT関係に就職するもブラック企業。入社三か月でワープア状態に陥るう」
細い糸目を妖しく光らせながら、高らかにそう読み上げた。
「ワー、プア?」
「正式にはワーキングプア。直訳すれば働く貧乏人だな」
「う……」
匡先輩の一言で、啓示のテンションは一気にガタ落ちになる。
「プレイヤーはあ、ベートーベンの第九を歌いながら部屋中を行進することお」
「ぶっ!」
続くまのか部長のお言葉には、思わずむせてしまった。
「い、いや、何でですか! 何で俺がそんなことしなきゃならないんですか!」
「お金を稼ぐって大変よねえ。うふふう」
「え、えぇえ……」
何だろう、この行き場のない感じ。
「いーなー。見られまくりの大チャンスじゃねーか。うーらやーましぃー」
「ふむ、これはあくまで合意に基づいて行われる遊戯の進行上必要不可欠な事柄であるわけだし、やらないと言い張る方がかえって不自然であろうな」
二年生コンビも好き勝手なことを言っている。当然、止める気はゼロだ。
「はい、けーじ。手ぶらも何だからこれ持って」
そう言って瀬奈が渡してきたのは、短めの竹槍。
「余計な心遣い、どうもありがとう……」
「いえいえ、どういたしまして。はい、つったかたーつったかたー」
じと目で睨みつける啓示を、愉快なメロディーでせかした。
『つったかたーつったかたー、つったかたったった、はい!』
啓示を除く全員から、手拍子が起こる。
「う、うう……」
もう、やるしかない。
「はーれーたーるーあーおーぞーらー」
重たい足を引きずりながら、啓示はマーチングバンドよろしく行進を始めた。
「声が小さぁい!」
いきなり沙妃先輩に一喝される。やですねー、こういう体育会系のノリって。
「たっ……たーだーよーうーくーーもよー!」
それでも足を直角に曲げ、竹槍を上下させながら部室を歩いた。負けない、投げ出さない、逃げ出さない、信じ抜く。やれ、やるんだ、啓示。
――それから、数分。
「ひーびーくーはーわーれーらーのーよーろーこーびーのーうたー! へい!」
鳴りやまぬ手拍子の中、啓示は死の行進を見事にやり遂げてみせた。
「あっ……ふぅんっ……」
歌い終えたその瞬間、身体がとろけるような気分になった。
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