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お嬢さまの世界
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放課後の部室。
「よし、と」
啓示はバイト用の履歴書を書き終えると、テーブルに札束ピラミッドを造る財閥令嬢に目を向けた。ちなみにこのお金、全部本物らしい。目がくらむ。
「そういえばまのか部長って趣味とかあるんですか?」
「嫌がらせえ」
即答である。
「じゃあ特技は?」
「カネにものをいわせた力業あ」
あまりにも即答である。
「免許、資格など」
「ハラスメント検定一級でえす」
何その資格。ひょっとして実技試験とかあるのだろうか。怖い。
「希望する職種は?」
「人に嫌な思いをさせる仕事お」
何と絶望的な希望でしょう。
「最後に自己PRを」
「札束で相手のほほを叩く技術には自信がありまあす。よろしくう」
そう言って微笑むと、まのか部長は手持ちの札束をくいっと振った。スナップがしっかり効いている。なるほど、確かにやり慣れてますね。
「え、えーと……と、とりあえず、もっと一般的な趣味はないんですか?」
恐怖を振り払うように啓示が尋ねる。
「一般的い?」
まのか部長はきょとんと首を傾げた。
「愚庶民界の一般的がどんなものかよく分からないけどお……たとえばあ?」
隅々まで手入れの行き届いた黒髪を揺らして質問を返す。
「そ、そうですね……あ、テニスとか」「ペニス」
啓示は思いついたことをそのまま言ってみた。お嬢さまといえばテニス。これは鉄板だろう。間違いない。
「テニス……うわ、ベタベタ」「ペニス」
人を小馬鹿にしたような半笑いで、瀬奈が口を挟んだ。
「だめよけーじ。確かに基本は大事だけど、想像の翼をはばたかせるのはより大事なんだから。もっと独創性を発揮しないと死ぬわよ、人として」
「え、えぇえーーー……?」
勝手に殺されてしまった。仕方ないじゃないか。何せこっちは生まれてこのかたずーっと平々凡々。セレブとも独創性とも無縁の環境で育ってきたんだから。
「と、とにかく、テニスとかどうですか? まのか部長」「ペニス」
「そうねえ。わたしの周りにも結構テニス好きはいるわねえ」「ペニス」
「ほ、ほら、やっぱり」
啓示はどや顔で瀬奈を見やる。お嬢さま、テニスやるってよ。へへん。
「でもそういう人って大体ただの成金よお。元々愚庶民なものだからどうも発想が貧しくてえ」
「ぐふぇっ!」
返す刀で思いきり叩っ斬られた。痛恨の一撃に精神の血ヘドがどーばどば。何と申しまょうか、まのか部長は特技の欄に「にっこり笑って人を斬る」を加えた方がよいと思われます。
「……ところで沙妃い」
人斬り部長が窓際の痴女に声をかける。
「あなたさっきからぺにぺにうるさいわよお。まるでインチキ儲け話にたかる五流芸能人みたいい」
おっとりと、だが辛辣に言い放った。
『…………』
部室の空気が、ぴーんと張る。
『(じいーーー……)』
非難がましい視線が、自然と沙妃先輩に集中した。
「な、何だよ! テニスをペニスと言い換えるのは痴女の世界じゃ常識だぞ!」
「いや、どんな常識ですか……」
啓示は冷静にツッコむ。痴女の常識、世間の非常識。覚えましょう。
「ざんねーん。私はそういう自称常識人がこの世で三番目くらいに嫌あい。だってわたしが決定に携わっていない常識なんて常識とは呼べないでしょお」
すさまじい理屈をぶち上げると、まのか部長はパチンと一つ指を鳴らした。
「……はっ」
それまでひたすらネイル磨きに勤しんでいた匡先輩が立ち上がって、つかつかと沙妃先輩に迫る。
「沙妃、十五分たいじょーう」
まのか部長が、にっこりと宣告した。
「さあ、来るんだ」
匡先輩は沙妃先輩を拘束すると、まるで引っ越しの荷物でも扱うようにずるずる外へ運び始める。
「ぬ、ぬあっ! て、てめ! 匡! 離せこのやろ! んがっ! ふんがーっ!」
必死にあがく沙妃先輩だが、振りほどくことはできない。
「お……おおーー」
啓示はうなった。運動能力高すぎの沙妃先輩がああなるということは、それだけ匡先輩の抑え方が的確なのだろう。
(そういえば……)
よく見ると匡先輩の肉体は結構鍛えられている。今まで奇抜な服に目を取られて気づかなかったが、あれはいわゆる細マッチョというやつだ。侮れん。
「おい匡! 何やったお前! 魔法か!」
「何を言っているんだ、沙妃くん。確かに今日の僕はロリ魔王をコンセプトにした服を着ているが、だからといって本当に魔法が使えるわけではない」
「何がロリ魔王だ! ざけんな! いいからさっさと離せ! 離せってんだよ! こんちくしょーーーーーっ!」
「うふふう。まあせいぜい反省なさあい」
哀れな子牛のようにドナドナ引きずられていく沙妃先輩を、まのか部長は満面の笑みで見送った。
「でえ、まあテニスをするのはあ、同じお嬢さまでも箱入り系かしらあ」
何ごともなかったかのように話を戻す。
「は、箱入り系?」
ダンボールに詰められたお嬢さまが啓示の脳裏に浮かんだ。多分、違う。
「ええ。わたしは平和ボケした小娘どもがのほほんと安穏な日々を過ごす間に命を削るようなぎりぎりの修羅場を幾度となく経験してきたからあ、まあ実戦系とでも呼ぶべきお嬢さまかしらねえ」
「じ、実戦系お嬢さま……」
なんか無茶苦茶に強そうだ。そしてとんでもなく業が深そうだ。
「ち、ちなみに、これまではどのような戦績を――」
「聞きたいい?」
啓示の質問を、まのか部長が遮った。
「人類はおろかあ、世界のあらゆる生物に絶望してしまいかねない内容でえ、並の精神力だと三分で闇に呑み込まれると思うんだけどお、それでも聞くう?」
「……いえ、結構です」
即時、撤退。
「うわ、よわ」
「るさい」
瀬奈の一言もあっさり跳ね返した。へたれ野郎と笑わば笑え。危険なところにはそもそも首を突っ込まない。これがケガをしない一番のコツなのであります。
「うふふう。そうねえ。それが正解よねえ」
糸のような目をさらに細めて、まのか部長が笑う。
「……聞いたら幻滅しちゃうものねえ。絶対い」
ぽつりとささやかれた一言が、啓示の耳に届くことはなかった。
「よし、と」
啓示はバイト用の履歴書を書き終えると、テーブルに札束ピラミッドを造る財閥令嬢に目を向けた。ちなみにこのお金、全部本物らしい。目がくらむ。
「そういえばまのか部長って趣味とかあるんですか?」
「嫌がらせえ」
即答である。
「じゃあ特技は?」
「カネにものをいわせた力業あ」
あまりにも即答である。
「免許、資格など」
「ハラスメント検定一級でえす」
何その資格。ひょっとして実技試験とかあるのだろうか。怖い。
「希望する職種は?」
「人に嫌な思いをさせる仕事お」
何と絶望的な希望でしょう。
「最後に自己PRを」
「札束で相手のほほを叩く技術には自信がありまあす。よろしくう」
そう言って微笑むと、まのか部長は手持ちの札束をくいっと振った。スナップがしっかり効いている。なるほど、確かにやり慣れてますね。
「え、えーと……と、とりあえず、もっと一般的な趣味はないんですか?」
恐怖を振り払うように啓示が尋ねる。
「一般的い?」
まのか部長はきょとんと首を傾げた。
「愚庶民界の一般的がどんなものかよく分からないけどお……たとえばあ?」
隅々まで手入れの行き届いた黒髪を揺らして質問を返す。
「そ、そうですね……あ、テニスとか」「ペニス」
啓示は思いついたことをそのまま言ってみた。お嬢さまといえばテニス。これは鉄板だろう。間違いない。
「テニス……うわ、ベタベタ」「ペニス」
人を小馬鹿にしたような半笑いで、瀬奈が口を挟んだ。
「だめよけーじ。確かに基本は大事だけど、想像の翼をはばたかせるのはより大事なんだから。もっと独創性を発揮しないと死ぬわよ、人として」
「え、えぇえーーー……?」
勝手に殺されてしまった。仕方ないじゃないか。何せこっちは生まれてこのかたずーっと平々凡々。セレブとも独創性とも無縁の環境で育ってきたんだから。
「と、とにかく、テニスとかどうですか? まのか部長」「ペニス」
「そうねえ。わたしの周りにも結構テニス好きはいるわねえ」「ペニス」
「ほ、ほら、やっぱり」
啓示はどや顔で瀬奈を見やる。お嬢さま、テニスやるってよ。へへん。
「でもそういう人って大体ただの成金よお。元々愚庶民なものだからどうも発想が貧しくてえ」
「ぐふぇっ!」
返す刀で思いきり叩っ斬られた。痛恨の一撃に精神の血ヘドがどーばどば。何と申しまょうか、まのか部長は特技の欄に「にっこり笑って人を斬る」を加えた方がよいと思われます。
「……ところで沙妃い」
人斬り部長が窓際の痴女に声をかける。
「あなたさっきからぺにぺにうるさいわよお。まるでインチキ儲け話にたかる五流芸能人みたいい」
おっとりと、だが辛辣に言い放った。
『…………』
部室の空気が、ぴーんと張る。
『(じいーーー……)』
非難がましい視線が、自然と沙妃先輩に集中した。
「な、何だよ! テニスをペニスと言い換えるのは痴女の世界じゃ常識だぞ!」
「いや、どんな常識ですか……」
啓示は冷静にツッコむ。痴女の常識、世間の非常識。覚えましょう。
「ざんねーん。私はそういう自称常識人がこの世で三番目くらいに嫌あい。だってわたしが決定に携わっていない常識なんて常識とは呼べないでしょお」
すさまじい理屈をぶち上げると、まのか部長はパチンと一つ指を鳴らした。
「……はっ」
それまでひたすらネイル磨きに勤しんでいた匡先輩が立ち上がって、つかつかと沙妃先輩に迫る。
「沙妃、十五分たいじょーう」
まのか部長が、にっこりと宣告した。
「さあ、来るんだ」
匡先輩は沙妃先輩を拘束すると、まるで引っ越しの荷物でも扱うようにずるずる外へ運び始める。
「ぬ、ぬあっ! て、てめ! 匡! 離せこのやろ! んがっ! ふんがーっ!」
必死にあがく沙妃先輩だが、振りほどくことはできない。
「お……おおーー」
啓示はうなった。運動能力高すぎの沙妃先輩がああなるということは、それだけ匡先輩の抑え方が的確なのだろう。
(そういえば……)
よく見ると匡先輩の肉体は結構鍛えられている。今まで奇抜な服に目を取られて気づかなかったが、あれはいわゆる細マッチョというやつだ。侮れん。
「おい匡! 何やったお前! 魔法か!」
「何を言っているんだ、沙妃くん。確かに今日の僕はロリ魔王をコンセプトにした服を着ているが、だからといって本当に魔法が使えるわけではない」
「何がロリ魔王だ! ざけんな! いいからさっさと離せ! 離せってんだよ! こんちくしょーーーーーっ!」
「うふふう。まあせいぜい反省なさあい」
哀れな子牛のようにドナドナ引きずられていく沙妃先輩を、まのか部長は満面の笑みで見送った。
「でえ、まあテニスをするのはあ、同じお嬢さまでも箱入り系かしらあ」
何ごともなかったかのように話を戻す。
「は、箱入り系?」
ダンボールに詰められたお嬢さまが啓示の脳裏に浮かんだ。多分、違う。
「ええ。わたしは平和ボケした小娘どもがのほほんと安穏な日々を過ごす間に命を削るようなぎりぎりの修羅場を幾度となく経験してきたからあ、まあ実戦系とでも呼ぶべきお嬢さまかしらねえ」
「じ、実戦系お嬢さま……」
なんか無茶苦茶に強そうだ。そしてとんでもなく業が深そうだ。
「ち、ちなみに、これまではどのような戦績を――」
「聞きたいい?」
啓示の質問を、まのか部長が遮った。
「人類はおろかあ、世界のあらゆる生物に絶望してしまいかねない内容でえ、並の精神力だと三分で闇に呑み込まれると思うんだけどお、それでも聞くう?」
「……いえ、結構です」
即時、撤退。
「うわ、よわ」
「るさい」
瀬奈の一言もあっさり跳ね返した。へたれ野郎と笑わば笑え。危険なところにはそもそも首を突っ込まない。これがケガをしない一番のコツなのであります。
「うふふう。そうねえ。それが正解よねえ」
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