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バンド組もうよ
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「ねえ、けーじ。部活っぽい部活といえば何かな?」
「え? あ、ああ。たとえば……軽音部とか」
「よし、じゃあそれにしましょう」
瀬奈の発案で、日替部は突如バンドを結成することになった。
なおバンド名は、「ザ・マネー」「○ンボマスター」「エキノコックス」「秩父困民党」などの意見に折り合いがつかず、今のところ保留となっている。
「じゃあ各自楽器を用意してくることお」
リーダーのまのか部長から指示を受け、部員たちが集った。
「沙妃先輩のそれは……尺八?」
「ああ、だってエロいだろ」
「いや、そこを基準にする必要はないです」
「何言ってんだ。この固いモノを口に含みながらぺろぺろぺろぺろと――」
「だーーーっ! もういいですから!」
節くれだった棒をしなやかな指で握りしめ、何度も執拗に口でねぶり回しながら迫ってくる沙妃先輩を押しのけ、啓示は次に向かう。
「匡先輩は……鍵盤ハーモニカですか」
「うむ」
「うむって、小学生じゃないんですから」
「何だ、神野けーじ。君は鍵盤ハーモニカを愚弄する気か」
匡先輩の眼光がきらんと鋭さを増した。まずい。
「確かに鍵盤ハーモニカは小学生や幼稚園児といった低年齢の子供が使うものだがこれほど高機能かつ味わい深い楽器は類を見ないといってよくプロの音楽家なども多々取り入れている。よってその人を小馬鹿にした指摘は現実を認識しない愚かな人間の戯言と断言するよりほかない。まあそれはともかくこの幼稚園児コスプレによく似合っているから全然問題はないだろう」
「長々喋っといて最後それですか!」
思わずツッコんでしまった。何て酷いオチだ。
「それだけではない。本来ならこの幼稚園の制服にも色々と語るべきことが――」
「はい! はい! 分かりました! もう分かりました! 次!」
強引に話を打ち切って、匡先輩の前を離れる。
「ではリーダー、まのか部長は……ってえええっ?」
啓示はぎょっと目を見開いた。
いつの間にか敷かれた青畳に、雅やかな和服姿のまのか部長がちんまりと座っている。何だか等身大の日本人形みたいだ。
「あらあ、何を驚いているのお? けーじくうん」
「いや、そりゃあもう、色々と……」
「色々じゃ分かりませえん」
「じゃ、じゃあ……まず、その和服に驚きました」
「だってお琴を弾くのにヘビメタみたいな格好はおかしいじゃなあい」
「ま、まあ、そうですけど……」
それはそれでちょっと見てみたいと思ったが、口には出さない。
「では、なぜ琴を?」
「だってえ、日本人ならお琴でしょうがあ」
「は、はあ」
「お琴でしょうがああ」
「え、ええ。そうですね。でも……」
啓示はまのか部長の足元に目を落とすと、言いにくそうに頬をかいた。
「琴は琴でも大正琴……ですよね? それ」
「!」
まのか部長の柳眉が、ぴくんと跳ねる。
「そ、れ、が、な、に、かあ?」
「……」
「な、に、かああああ?」
唇をかすかに震わせながら、凍てついた目でじいっと啓示を見据えた。
「……いえ、何でもありません」
啓示はすごすごと撤退する。言えるわけがなかった。「本物の琴は弾けないってことですよね、つまり」だなんて。
「そ、それで、瀬奈はどんな楽器を持ってきたんだ?」
「よくぞ聞いてくれました!」
どこで用意したのか、背中にでっかく〈雛見沢俊彦〉と書かれたTシャツを着た瀬奈が、テンション高めにふふんと手を出す。
「ん?」
啓示の顔に、巨大な疑問符が浮かんだ。
小さな掌に乗っていたのは、薄いゴム膜で作られた袋。どう見てもおもちゃ屋に置いているおなじみのあれである。
「えーと、これは……」
瀬奈の顔と掌の物体を交互に見比べた。
「なに、けーじ。もしかしてこれが何か分からないの?」
疑わしげな上目遣いで問いかけられる。
「い、いや。風船……だな」
「ええ、そうよ」
「だ、だよな」
当たり前のことを答えただけなのに、なぜか少しほっとしてしまった。
「音を出す時はこんな感じね」
瀬奈は風船に息を詰めると、つまんだ吹き込み口をひょいと離す。
ぶーーーーー
気の抜けた音が響いて、生ぬるい風が啓示の頬をなでた。張り詰めていたゴムの膜はみるみるしぼんで、また元の小さな袋へと帰る。
「……あのな、瀬奈」
「なによ、けーじ」
「これ、楽器か?」
「そうよ。私の中では」
「ああ……」
啓示は静かに天を仰いだ。またもや俺の常識が通用しないパターン。アーメン。
「む。何よ、その態度」
かちんときたのか、瀬奈が両手を腰に当てて詰め寄ってくる。
「じゃあけーじは何持ってきたっていうの? 見せなさいよ」
「ん? ああ、俺か」
それまでとは一転、啓示は自信ありげに胸を張った。今日の俺は一味違うのだ。
「当方、もちろんヴォーカルでございます」
言い切って、びしっと一つポーズを決める。雰囲気的にはビジュアル系。まずは目指せ武道館。何ならワールドツアーもやっちゃうよ。
「「「「……あ?」」」」
自称ヴォーカリスト以外が綺麗にハモった。
「……しゅうごおおう」
リーダーの号令で、ざざっと円陣が組まれる。不穏な空気が室内に広がった。
「はあい、じゃあそういうことでえ」
円陣が解けると、四人は自分が持ち寄った楽器をそれぞれ手に取る。
「では……さん、はい!」
瀬奈が、オーケストラの指揮者のように合図を送った。
ぶぼぉろろろろおおおーーーーーーん!!
とんでもない不協和音の波が襲ってくる。
「う、うわわっ!」
啓示は耳を塞いでしゃがみこんだ。
(な……何!? 何これ!?…………何!?)
これがブーイングだと気づくまでには、もう少し時間が必要だった。
「え? あ、ああ。たとえば……軽音部とか」
「よし、じゃあそれにしましょう」
瀬奈の発案で、日替部は突如バンドを結成することになった。
なおバンド名は、「ザ・マネー」「○ンボマスター」「エキノコックス」「秩父困民党」などの意見に折り合いがつかず、今のところ保留となっている。
「じゃあ各自楽器を用意してくることお」
リーダーのまのか部長から指示を受け、部員たちが集った。
「沙妃先輩のそれは……尺八?」
「ああ、だってエロいだろ」
「いや、そこを基準にする必要はないです」
「何言ってんだ。この固いモノを口に含みながらぺろぺろぺろぺろと――」
「だーーーっ! もういいですから!」
節くれだった棒をしなやかな指で握りしめ、何度も執拗に口でねぶり回しながら迫ってくる沙妃先輩を押しのけ、啓示は次に向かう。
「匡先輩は……鍵盤ハーモニカですか」
「うむ」
「うむって、小学生じゃないんですから」
「何だ、神野けーじ。君は鍵盤ハーモニカを愚弄する気か」
匡先輩の眼光がきらんと鋭さを増した。まずい。
「確かに鍵盤ハーモニカは小学生や幼稚園児といった低年齢の子供が使うものだがこれほど高機能かつ味わい深い楽器は類を見ないといってよくプロの音楽家なども多々取り入れている。よってその人を小馬鹿にした指摘は現実を認識しない愚かな人間の戯言と断言するよりほかない。まあそれはともかくこの幼稚園児コスプレによく似合っているから全然問題はないだろう」
「長々喋っといて最後それですか!」
思わずツッコんでしまった。何て酷いオチだ。
「それだけではない。本来ならこの幼稚園の制服にも色々と語るべきことが――」
「はい! はい! 分かりました! もう分かりました! 次!」
強引に話を打ち切って、匡先輩の前を離れる。
「ではリーダー、まのか部長は……ってえええっ?」
啓示はぎょっと目を見開いた。
いつの間にか敷かれた青畳に、雅やかな和服姿のまのか部長がちんまりと座っている。何だか等身大の日本人形みたいだ。
「あらあ、何を驚いているのお? けーじくうん」
「いや、そりゃあもう、色々と……」
「色々じゃ分かりませえん」
「じゃ、じゃあ……まず、その和服に驚きました」
「だってお琴を弾くのにヘビメタみたいな格好はおかしいじゃなあい」
「ま、まあ、そうですけど……」
それはそれでちょっと見てみたいと思ったが、口には出さない。
「では、なぜ琴を?」
「だってえ、日本人ならお琴でしょうがあ」
「は、はあ」
「お琴でしょうがああ」
「え、ええ。そうですね。でも……」
啓示はまのか部長の足元に目を落とすと、言いにくそうに頬をかいた。
「琴は琴でも大正琴……ですよね? それ」
「!」
まのか部長の柳眉が、ぴくんと跳ねる。
「そ、れ、が、な、に、かあ?」
「……」
「な、に、かああああ?」
唇をかすかに震わせながら、凍てついた目でじいっと啓示を見据えた。
「……いえ、何でもありません」
啓示はすごすごと撤退する。言えるわけがなかった。「本物の琴は弾けないってことですよね、つまり」だなんて。
「そ、それで、瀬奈はどんな楽器を持ってきたんだ?」
「よくぞ聞いてくれました!」
どこで用意したのか、背中にでっかく〈雛見沢俊彦〉と書かれたTシャツを着た瀬奈が、テンション高めにふふんと手を出す。
「ん?」
啓示の顔に、巨大な疑問符が浮かんだ。
小さな掌に乗っていたのは、薄いゴム膜で作られた袋。どう見てもおもちゃ屋に置いているおなじみのあれである。
「えーと、これは……」
瀬奈の顔と掌の物体を交互に見比べた。
「なに、けーじ。もしかしてこれが何か分からないの?」
疑わしげな上目遣いで問いかけられる。
「い、いや。風船……だな」
「ええ、そうよ」
「だ、だよな」
当たり前のことを答えただけなのに、なぜか少しほっとしてしまった。
「音を出す時はこんな感じね」
瀬奈は風船に息を詰めると、つまんだ吹き込み口をひょいと離す。
ぶーーーーー
気の抜けた音が響いて、生ぬるい風が啓示の頬をなでた。張り詰めていたゴムの膜はみるみるしぼんで、また元の小さな袋へと帰る。
「……あのな、瀬奈」
「なによ、けーじ」
「これ、楽器か?」
「そうよ。私の中では」
「ああ……」
啓示は静かに天を仰いだ。またもや俺の常識が通用しないパターン。アーメン。
「む。何よ、その態度」
かちんときたのか、瀬奈が両手を腰に当てて詰め寄ってくる。
「じゃあけーじは何持ってきたっていうの? 見せなさいよ」
「ん? ああ、俺か」
それまでとは一転、啓示は自信ありげに胸を張った。今日の俺は一味違うのだ。
「当方、もちろんヴォーカルでございます」
言い切って、びしっと一つポーズを決める。雰囲気的にはビジュアル系。まずは目指せ武道館。何ならワールドツアーもやっちゃうよ。
「「「「……あ?」」」」
自称ヴォーカリスト以外が綺麗にハモった。
「……しゅうごおおう」
リーダーの号令で、ざざっと円陣が組まれる。不穏な空気が室内に広がった。
「はあい、じゃあそういうことでえ」
円陣が解けると、四人は自分が持ち寄った楽器をそれぞれ手に取る。
「では……さん、はい!」
瀬奈が、オーケストラの指揮者のように合図を送った。
ぶぼぉろろろろおおおーーーーーーん!!
とんでもない不協和音の波が襲ってくる。
「う、うわわっ!」
啓示は耳を塞いでしゃがみこんだ。
(な……何!? 何これ!?…………何!?)
これがブーイングだと気づくまでには、もう少し時間が必要だった。
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