奇をもって貴しとなす日替部

山野 凌

文字の大きさ
9 / 23

バンド組もうよ

しおりを挟む
「ねえ、けーじ。部活っぽい部活といえば何かな?」
「え? あ、ああ。たとえば……軽音部とか」
「よし、じゃあそれにしましょう」

 瀬奈の発案で、日替部は突如バンドを結成することになった。

 なおバンド名は、「ザ・マネー」「○ンボマスター」「エキノコックス」「秩父困民党」などの意見に折り合いがつかず、今のところ保留となっている。

「じゃあ各自楽器を用意してくることお」

 リーダーのまのか部長から指示を受け、部員たちが集った。

「沙妃先輩のそれは……尺八?」
「ああ、だってエロいだろ」
「いや、そこを基準にする必要はないです」
「何言ってんだ。この固いモノを口に含みながらぺろぺろぺろぺろと――」
「だーーーっ! もういいですから!」

 節くれだった棒をしなやかな指で握りしめ、何度も執拗に口でねぶり回しながら迫ってくる沙妃先輩を押しのけ、啓示は次に向かう。

「匡先輩は……鍵盤ハーモニカですか」
「うむ」
「うむって、小学生じゃないんですから」
「何だ、神野けーじ。君は鍵盤ハーモニカを愚弄する気か」

 匡先輩の眼光がきらんと鋭さを増した。まずい。

「確かに鍵盤ハーモニカは小学生や幼稚園児といった低年齢の子供が使うものだがこれほど高機能かつ味わい深い楽器は類を見ないといってよくプロの音楽家なども多々取り入れている。よってその人を小馬鹿にした指摘は現実を認識しない愚かな人間の戯言と断言するよりほかない。まあそれはともかくこの幼稚園児コスプレによく似合っているから全然問題はないだろう」
「長々喋っといて最後それですか!」

 思わずツッコんでしまった。何て酷いオチだ。

「それだけではない。本来ならこの幼稚園の制服にも色々と語るべきことが――」
「はい! はい! 分かりました! もう分かりました! 次!」

 強引に話を打ち切って、匡先輩の前を離れる。

「ではリーダー、まのか部長は……ってえええっ?」

 啓示はぎょっと目を見開いた。

 いつの間にか敷かれた青畳に、雅やかな和服姿のまのか部長がちんまりと座っている。何だか等身大の日本人形みたいだ。

「あらあ、何を驚いているのお? けーじくうん」
「いや、そりゃあもう、色々と……」
「色々じゃ分かりませえん」
「じゃ、じゃあ……まず、その和服に驚きました」
「だってお琴を弾くのにヘビメタみたいな格好はおかしいじゃなあい」
「ま、まあ、そうですけど……」

 それはそれでちょっと見てみたいと思ったが、口には出さない。

「では、なぜ琴を?」
「だってえ、日本人ならお琴でしょうがあ」
「は、はあ」
「お琴でしょうがああ」
「え、ええ。そうですね。でも……」

 啓示はまのか部長の足元に目を落とすと、言いにくそうに頬をかいた。

「琴は琴でも大正琴……ですよね? それ」
「!」

 まのか部長の柳眉が、ぴくんと跳ねる。

「そ、れ、が、な、に、かあ?」
「……」
「な、に、かああああ?」

 唇をかすかに震わせながら、凍てついた目でじいっと啓示を見据えた。

「……いえ、何でもありません」

 啓示はすごすごと撤退する。言えるわけがなかった。「本物の琴は弾けないってことですよね、つまり」だなんて。

「そ、それで、瀬奈はどんな楽器を持ってきたんだ?」
「よくぞ聞いてくれました!」

 どこで用意したのか、背中にでっかく〈雛見沢俊彦〉と書かれたTシャツを着た瀬奈が、テンション高めにふふんと手を出す。

「ん?」

 啓示の顔に、巨大な疑問符が浮かんだ。

 小さな掌に乗っていたのは、薄いゴム膜で作られた袋。どう見てもおもちゃ屋に置いているおなじみのあれである。

「えーと、これは……」

 瀬奈の顔と掌の物体を交互に見比べた。

「なに、けーじ。もしかしてこれが何か分からないの?」

 疑わしげな上目遣いで問いかけられる。

「い、いや。風船……だな」
「ええ、そうよ」
「だ、だよな」

 当たり前のことを答えただけなのに、なぜか少しほっとしてしまった。

「音を出す時はこんな感じね」

 瀬奈は風船に息を詰めると、つまんだ吹き込み口をひょいと離す。


 ぶーーーーー


 気の抜けた音が響いて、生ぬるい風が啓示の頬をなでた。張り詰めていたゴムの膜はみるみるしぼんで、また元の小さな袋へと帰る。

「……あのな、瀬奈」
「なによ、けーじ」
「これ、楽器か?」
「そうよ。私の中では」
「ああ……」

 啓示は静かに天を仰いだ。またもや俺の常識が通用しないパターン。アーメン。

「む。何よ、その態度」

 かちんときたのか、瀬奈が両手を腰に当てて詰め寄ってくる。

「じゃあけーじは何持ってきたっていうの? 見せなさいよ」
「ん? ああ、俺か」

 それまでとは一転、啓示は自信ありげに胸を張った。今日の俺は一味違うのだ。

「当方、もちろんヴォーカルでございます」

 言い切って、びしっと一つポーズを決める。雰囲気的にはビジュアル系。まずは目指せ武道館。何ならワールドツアーもやっちゃうよ。

「「「「……あ?」」」」

 自称ヴォーカリスト以外が綺麗にハモった。

「……しゅうごおおう」

 リーダーの号令で、ざざっと円陣が組まれる。不穏な空気が室内に広がった。

「はあい、じゃあそういうことでえ」

 円陣が解けると、四人は自分が持ち寄った楽器をそれぞれ手に取る。

「では……さん、はい!」

 瀬奈が、オーケストラの指揮者のように合図を送った。


 ぶぼぉろろろろおおおーーーーーーん!!


 とんでもない不協和音の波が襲ってくる。

「う、うわわっ!」

 啓示は耳を塞いでしゃがみこんだ。

(な……何!? 何これ!?…………何!?)

 これがブーイングだと気づくまでには、もう少し時間が必要だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...