2 / 7
第一章
プロローグ
しおりを挟む
(チッ!こんな時に…)
心の中で悪態を吐く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時は遡る。
「今日は『軌跡のダンジョン』の20階層のボス倒しにいくか…」
俺はしがないDランク冒険者だ。
普通、冒険者は『経験値』を貯め、スキルを顕現させる。でも稀に、生まれた時からスキルを得ている者も居る。そいつらは冒険者に限らず、どの分野でも活躍しているやつが多い。俺も、生まれた時からスキルを得ていたのだが…『回帰』というどのような効果があるのかスキルだった。
鑑定もしてもらったが、結局どのような効果があるかは分からずじまいだった。
そんな俺が冒険者になったのは、憧れだ。何の計画性も無く、無謀だと思う。でも、一度きりの人生、夢を追い求めても良いだろう。
「早く現実世界に戻ってさっさとダンジョンで素材取ってきてください」
「あっ、すまん」
かなり辛口な彼女の名はミリー。冒険者ギルドの職員だ。冒険者ギルドとは国の運営する機関で、ダンジョンから得た素材はここが適正価格で買いとってくれる。直接冒険者から買い取ろうとする商人もいるにはいるが、やはり冒険者ギルドに売らないとランクは上がらないので、中々商人に売るやつは少ない。
「聞いてましたか?さっさと素材を売りにきて、私を儲けさせてください、ニクロスさん」
「は、はーい」
金の亡者め…。
「今日は『軌跡のダンジョン』の20階層のボスを倒しに行くつもりだ」
「分かりました。ではそのようにボードに書いておきますね。1週間連絡が付かなければ高確率で死亡と判断されますので、それまでに一度冒険者ギルドに立ち寄ることをおすすめしておきます」
「分かった。行ってくる」
「たくさん素材を持ち帰ってくださいね」
「ははは…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はぁ…はぁ…はぁ…
ようやく20階層への階段に着いたぞ…とりあえずここで体力を回復させるか。ボス部屋に入ったら出れないからな。
まず剣の血を拭いて……よし。
装備は……壊れてないな。
アイテムボックスに入ってる獲物の血抜きは……全部済んでいるな。
体力もOKだ。
ボス部屋に入る前にボスの情報を確認しようか。
ボスは大剣を持ったホブゴブリン。討伐推奨ランクはD。
主な攻撃は大剣の振り下ろしと突進。
周囲にはゴブ達と、ゴブリンアーチャーとゴブリンメイジ。
気をつけるべきはアーチャーとメイジだけだな。よっしゃ凸るぞ!
ボス部屋に入った瞬間分かった。そこは、空気が違った。
(いくらホブでもデカすぎる!こいつ、特殊個体か!)
ゴブリン達の死骸が散乱している。配下のゴブリン達の魔石を喰らって強くなったんだろう。よくよく見れば、人の死体もある。こいつに、やられたやつだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ギギッ!」
振り下ろしを間一髪のところで避けてファイアーボールを放つ…が、現時点では有効打とはなり得ない。有効打を与えるには近づいて斬るしか無いが…
(そもそも近づけねぇ!)
というかこいつ、頭が良い。俺の使える魔法がこいつに効かなかった時点で、俺には接近戦しか無いことを理解して、近づかれないようにやがる。
(絶対こいつの討伐推奨ランクC以上だろ…)
「って、うおっ!」
振り下ろしからの横薙ぎは初見だぞ!今しゃがまなかったら首落ちてたぞ…。
一回状況を整理しよう。
今の俺の目標は生き延びること。そして俺がこいつから生き延びる方法は2つある。
①他の冒険者がここに入るまで逃げ切る。
②コイツを倒す。
だけど…
「獲物の横取りは御法度。ボスと戦っていることはボス部屋手前で分かるから、救助は求められねぇ。それに、入ってきたらそいつは横取りを狙うロクでもねぇやつだから①はまず無い。せめてボス部屋の扉が防音じゃ無かったらなぁ……」
「あっ…ぶねぇ!」
袈裟斬りを後ろに飛び退いて躱す…が、少し斬られた。
「クソッタレっ!②も無理だろ!コイツをどうやって倒せば良いんだよ!」
(ジリ貧だな…。ここで死にたくはねぇぞ!)
「!!」
(チッ!こんな時に…)
心の中で悪態を吐く。
アーチャーとメイジがリスポーンしてきたのだ。
(アーチャーとメイジは無視して、無理にでもさっさと勝負を付けにいくしかねぇ!振り下ろしからの横薙ぎ、構え直して振り下ろしの体勢に…今だ!)
ボスの振り下ろしを左に跳んで避け、ボスに突進する。
(横薙ぎが来るまでに出来る限り近づかねぇと…)
だが、ボスは横薙ぎをせず、大剣を構え直す。
「流石は特殊個体と言ったところかなぁ!」
ファイアーボールをボスの醜悪な顔面へと放つ。
「ギギッ」
「ああ、流石に反応するよな!顔は弱点の一つだからな!」
ここから剣を振れば、ボスの足を斬れる…はずだった。剣を振る手を止めなければ。
「ガァッ!」
背中を焼けるような痛みが襲う。
いや、実際に焼けた。ゴブリンメイジのファイアーボールが背中に当たったのだから。
「こんな時にっ!」
ニクロスにボスの振り下ろしが迫る。
すんでのところで顔面真っ二つは避けたものの、右手が地に落ちる。
「っ!はぁ…はぁ…。ゔっ…。はぁ…」
もちろんそれで動きを止めたニクロスを逃すはずもなく、ボスがニクロスを袈裟斬りにする。
「アガッ!」
誰の目にも明らかだ。もうニクロスは助からない。ニクロスはここで、短い人生を終える。もうすぐ、その生を終える。
(ああ、ここで死ぬのか…)
死を自覚した人間は、2種類の反応を示す。
諦めるか、醜く足掻くか。
ニクロスは前者のようだった。
冒険者という職業柄、死んでいく人たちを見てきたから、なのかもしれない。
とうとう、ボスがその大剣を振り下ろす。
ニクロスの頭はグシャグシャに潰れ、呆気なく、その生涯を閉じた………
はずだった。
心の中で悪態を吐く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時は遡る。
「今日は『軌跡のダンジョン』の20階層のボス倒しにいくか…」
俺はしがないDランク冒険者だ。
普通、冒険者は『経験値』を貯め、スキルを顕現させる。でも稀に、生まれた時からスキルを得ている者も居る。そいつらは冒険者に限らず、どの分野でも活躍しているやつが多い。俺も、生まれた時からスキルを得ていたのだが…『回帰』というどのような効果があるのかスキルだった。
鑑定もしてもらったが、結局どのような効果があるかは分からずじまいだった。
そんな俺が冒険者になったのは、憧れだ。何の計画性も無く、無謀だと思う。でも、一度きりの人生、夢を追い求めても良いだろう。
「早く現実世界に戻ってさっさとダンジョンで素材取ってきてください」
「あっ、すまん」
かなり辛口な彼女の名はミリー。冒険者ギルドの職員だ。冒険者ギルドとは国の運営する機関で、ダンジョンから得た素材はここが適正価格で買いとってくれる。直接冒険者から買い取ろうとする商人もいるにはいるが、やはり冒険者ギルドに売らないとランクは上がらないので、中々商人に売るやつは少ない。
「聞いてましたか?さっさと素材を売りにきて、私を儲けさせてください、ニクロスさん」
「は、はーい」
金の亡者め…。
「今日は『軌跡のダンジョン』の20階層のボスを倒しに行くつもりだ」
「分かりました。ではそのようにボードに書いておきますね。1週間連絡が付かなければ高確率で死亡と判断されますので、それまでに一度冒険者ギルドに立ち寄ることをおすすめしておきます」
「分かった。行ってくる」
「たくさん素材を持ち帰ってくださいね」
「ははは…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はぁ…はぁ…はぁ…
ようやく20階層への階段に着いたぞ…とりあえずここで体力を回復させるか。ボス部屋に入ったら出れないからな。
まず剣の血を拭いて……よし。
装備は……壊れてないな。
アイテムボックスに入ってる獲物の血抜きは……全部済んでいるな。
体力もOKだ。
ボス部屋に入る前にボスの情報を確認しようか。
ボスは大剣を持ったホブゴブリン。討伐推奨ランクはD。
主な攻撃は大剣の振り下ろしと突進。
周囲にはゴブ達と、ゴブリンアーチャーとゴブリンメイジ。
気をつけるべきはアーチャーとメイジだけだな。よっしゃ凸るぞ!
ボス部屋に入った瞬間分かった。そこは、空気が違った。
(いくらホブでもデカすぎる!こいつ、特殊個体か!)
ゴブリン達の死骸が散乱している。配下のゴブリン達の魔石を喰らって強くなったんだろう。よくよく見れば、人の死体もある。こいつに、やられたやつだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ギギッ!」
振り下ろしを間一髪のところで避けてファイアーボールを放つ…が、現時点では有効打とはなり得ない。有効打を与えるには近づいて斬るしか無いが…
(そもそも近づけねぇ!)
というかこいつ、頭が良い。俺の使える魔法がこいつに効かなかった時点で、俺には接近戦しか無いことを理解して、近づかれないようにやがる。
(絶対こいつの討伐推奨ランクC以上だろ…)
「って、うおっ!」
振り下ろしからの横薙ぎは初見だぞ!今しゃがまなかったら首落ちてたぞ…。
一回状況を整理しよう。
今の俺の目標は生き延びること。そして俺がこいつから生き延びる方法は2つある。
①他の冒険者がここに入るまで逃げ切る。
②コイツを倒す。
だけど…
「獲物の横取りは御法度。ボスと戦っていることはボス部屋手前で分かるから、救助は求められねぇ。それに、入ってきたらそいつは横取りを狙うロクでもねぇやつだから①はまず無い。せめてボス部屋の扉が防音じゃ無かったらなぁ……」
「あっ…ぶねぇ!」
袈裟斬りを後ろに飛び退いて躱す…が、少し斬られた。
「クソッタレっ!②も無理だろ!コイツをどうやって倒せば良いんだよ!」
(ジリ貧だな…。ここで死にたくはねぇぞ!)
「!!」
(チッ!こんな時に…)
心の中で悪態を吐く。
アーチャーとメイジがリスポーンしてきたのだ。
(アーチャーとメイジは無視して、無理にでもさっさと勝負を付けにいくしかねぇ!振り下ろしからの横薙ぎ、構え直して振り下ろしの体勢に…今だ!)
ボスの振り下ろしを左に跳んで避け、ボスに突進する。
(横薙ぎが来るまでに出来る限り近づかねぇと…)
だが、ボスは横薙ぎをせず、大剣を構え直す。
「流石は特殊個体と言ったところかなぁ!」
ファイアーボールをボスの醜悪な顔面へと放つ。
「ギギッ」
「ああ、流石に反応するよな!顔は弱点の一つだからな!」
ここから剣を振れば、ボスの足を斬れる…はずだった。剣を振る手を止めなければ。
「ガァッ!」
背中を焼けるような痛みが襲う。
いや、実際に焼けた。ゴブリンメイジのファイアーボールが背中に当たったのだから。
「こんな時にっ!」
ニクロスにボスの振り下ろしが迫る。
すんでのところで顔面真っ二つは避けたものの、右手が地に落ちる。
「っ!はぁ…はぁ…。ゔっ…。はぁ…」
もちろんそれで動きを止めたニクロスを逃すはずもなく、ボスがニクロスを袈裟斬りにする。
「アガッ!」
誰の目にも明らかだ。もうニクロスは助からない。ニクロスはここで、短い人生を終える。もうすぐ、その生を終える。
(ああ、ここで死ぬのか…)
死を自覚した人間は、2種類の反応を示す。
諦めるか、醜く足掻くか。
ニクロスは前者のようだった。
冒険者という職業柄、死んでいく人たちを見てきたから、なのかもしれない。
とうとう、ボスがその大剣を振り下ろす。
ニクロスの頭はグシャグシャに潰れ、呆気なく、その生涯を閉じた………
はずだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる